INTERVIEW

花總まり

「新しい私をお見せできたら」独創的な世界観を持つ作品に臨む姿勢:『銀行強盗にあって 妻が縮んでしまった事件』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:24年03月30日

読了時間:約9分

 元宝塚歌劇団宙組・雪組トップ娘役の花總まりが、4月1日から日本青年館ホールで上演される舞台『銀行強盗にあって 妻が縮んでしまった事件』に出演。奇妙な銀行強盗に“魂の 51%”を奪われた13人の被害者の1人、ステイシーを演じる。本作は、2010年(日本では 2013年)に出版されるやかつて無い独創的な世界観が大きな話題となったカナダの小説。一見、突飛に思える“妻が縮む”や“夫が雪だるまになる”“老いた母が98人に分裂する”などのファンタスティックな設定が、現実社会の様々な事象のメタファ(暗喩)となっており、読み解こうとすればする程さまざまな解釈を生んだ話題作。“舞台化不可能”とも言えるファンタジー小説を、演劇界の名匠G2が10年の構想を経て世界初の舞台化。主演は日本のミュージカル界のトップ・花總まりと俳優のみならず司会としても支持を得る谷原章介が初共演する。インタビューでは、背が縮んでいくという難役をどのように捉えているのか、本作からどのようなメッセージを受け取っているのか、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

「章ちゃん」「花ちゃん」と呼び合っています

村上順一

花總まり

――原作、脚本を読まれてどのようなことを感じましたか。

 出演のお話をいただいてから原作を読んだのですが、こんな発想をされる方がいらっしゃるんだとびっくりしました。エピソード全てが奇想天外で、私が演じるステイシーの身長が縮むというのも驚きました。強盗事件が起こり被害者13人のエピソードがそれぞれ違う表現をされていて、私は1回読んだだけでは、なぜそういう現象が起きて、魂の51%を持っていかれてしまうのか、それが何を意図しているのかわかりませんでした。衝撃を受けながらも、読み終わった後に何か大切なもの、心がほっこりするようなものが残りました。それが具体的に言葉にはできないのですが、何かを学べたようなすごく奥深い作品だと思いました。

――花總さん演じるステイシーはどんな人物だと思いましたか。

 ステイシーは数学を愛してやまない、芯がしっかりした女性です。数学者ではないのですが、何かというと計算をして物事を測るクセがあります。

――夫役の谷原章介さん。稽古をご一緒されていて意外な一面や新しい気づきはありましたか。

 谷原さんはテレビドラマなどで俳優としてお見かけしていたので、その印象もありますし、最近はテレビで司会者をしている姿をほぼ毎日のように見ていたので、実際お会いした時はイメージ通りの方だなと思いました。そして、お話していくと改めて声がとても素敵だなと思いました。いまはちょっとずついろいろなお話をして、谷原さんの裏の一面を探っている段階です(笑)。

――稽古場の雰囲気はいかがですか。

 私と谷原さんは同学年なので、夫婦役を演じるにあたって距離が縮まったような感じがしています。また、最初のお稽古で皆さんのことをあだ名で呼びあおうとなり、谷原さんは「章ちゃん」、私は「花ちゃん」と呼び合っています。

――背が縮む、98人に分裂など舞台での再現度が気になっているのですが、どのような仕上がりでしょうか。

 演出家のG2さんもお稽古初日に、どうやるの? とすごく聞かれるとおっしゃっていました。稽古をしている中で、「こうやって表現するんだ。面白い!」と感じるところがありました。まだ、そのシーンはやっていないのですが、演出のG2さんの中でイメージが明確にあるので、きっと見事な場面が出来上がるんじゃないかと思っています。今回やってみて、もちろん演者である私たちも頑張りますが、振付の方や音楽の方、照明さんなどカンパニー全体が一丸となって総合芸術として見せていくことがすごく重要な舞台になっていくと感じています。G2さんは舞台だからこそできる見せ方、お客様と一緒の空間で、この作品の世界に引き込んでいくことを大事にしたいとおっしゃっていました。私たちができる“舞台マジック”を大切にしていきたいですし、皆さんと一緒に共有して、お客様が満足してもらえる日々を送りたいなと思っています。

――花總さんから見たG2さんの印象はいかがですか。

 頭の中でいろいろな計算をして、それが上手くいくかどうか、おそらくドキドキしていらっしゃると思います。1つの場面が出来上がるたびに「良かった!」ととても喜んでいらっしゃいます。G2さんは思っていることをきちんと表に出してくださるので、私たち演者が不安になることがないお稽古場です。うまくいかなかったら「見えてこない」、見えたら「見えた!」と的確におっしゃってくださるので、とてもやりやすいです。

――ステイシーを演じるにあたりG2さんから、こういうふうに演じてほしいといったリクエストはありましたか。

 ステイシーと夫、2人の関係ということに関してリクエストがありました。G2さんは夫とステイシーの関係をきちんと作って、お客様に感じていただきたいとおっしゃっていました。

――花總さんと谷原さんの中で、どんなことを大事に夫婦関係を作り上げようとされていますか。

 2人は決定的に仲が悪いわけではないんです。ちょっとギクシャクしているみたいなところから始まっているので、普通に受け答えをしていると、仲の良いじゃれ合いに見えてしまうので、そこはちょっと工夫しています。

――ステイシーという人物に対してどのようにアプローチしようと考えていますか。

 意外と難しいなと思っています。よくありそうな家庭といいますか、子どもがまだ小さくてついつい子育てで手いっぱいになってしまう。気づいたら夫のことをおざなりにしてしまっていたという、現実でもよくありそうな夫婦です。

 ステイシーはどちらかというと困難に立ち向かっていく女性だと思います。決して弱気になることなく、数学の力で解き明かしていくのですが、とにかく負けない強さがあります。絶望はしないですし、小さくなったからこそできることをしたり、どこかそれ自体を楽しんでいるところがあったり、そういった描写が台本の中にもあります。

――特にどんなところに難しさを感じていますか。

 演じていく中で、背が縮んでいくことが唯一想像できないことです。今までの舞台だったらいろいろ想像して、自分の引き出し、経験してきたことを実感として落とし込んでいくのですが、演じていく中で、自分は縮むことはできないので、自分の中でまだ実態としてなかなか掴みづらくて、すごく難しい役だなと感じています。でも、逆に新しい私をお見せできたらいいなと思っています。

――花總さん自身は、ステイシーのように計算されるタイプでしょうか?

 計算はしないんですけど、先日お稽古場でG2さんとお話している中で、例えばステイシーはここからここまでの距離をちゃんと測る。何かを買う時もここから何cm 何mmと測ったりするような女性、という説明をしていただいたんですね。私がそれに対して「うんうん」とうなずいていたら、G2さんから「あなたもそうなの? 」と聞かれて。シンデレラフィットという言葉がありますけど、ある場所にカラーボックスを入れたいとなったら、私はそこにきっちりはまらないと嫌だからちゃんと測ります、とお話しました。そこはステイシーと共感できる部分でした。

自分なりの答えを見つけてもらえたら

村上順一

花總まり

――身長が縮んでいくというのは、何かのメタファだと思うのですが、花總さんは、どんな意味を持っていると思いますか。

 今はまだわかっていないです。電卓を選択してそれを強盗に渡したことで、身長が縮んでいきますが、違うパターンもあったと思ったり。稽古をやっていくうちに、もしかしてこういうことだったのか、と自分なりの解釈ができる日が来るのかなと思っています。自分がどう捉えるのか楽しみでもあります。

――舞台を観られた方それぞれ違うことを感じるかもしれないですよね。

 そうなんです。これまで公演を観ていただいたお客様からお手紙をいただくのですが、「こういう風に捉えていたんだ。読みが深い!」と逆に教えられる事も多いので、今回はよりそれがあるんじゃないかなと思っています。

――最も思い入れのあるものを、強盗に差し出すというのがありますが、花總さんご自身だったら何を渡しますか。

 日常持っている物って意外とそこまで思い入れがあるものはないと思いました。お稽古中だったら、音を確認するためのキーボードがあって、それは先輩から頂いたもので、すごく思い入れがあるものなんですけど、そうではなく普段私が持っていて、思い入れがあるものは何だろうと考えました。考えた結果、長年持っている小さい薬袋を渡すと思います(笑)。

――本作は奇妙な出来事がメインとなるお話しですが、花總さんが体験した奇妙な出来事はありますか?

 奇妙なことではないかもしれませんが、よくデジャブはあります。それこそ、この前お稽古場でG2さんが喋っている時に、前にも同じようなことがあったなと思いました。

――さて、13人は魂の51%を盗られてしまいます。半分以上を盗られてしまうことについてどう思われましたか。

 ご一緒するキャストの方が話していたことがとても印象に残っていて、魂を半分以上持っていかれてしまい大変だと思うかもしれませんが、たった2%頑張れば半分以上を取り戻せるので、 一見すごく大変そうだけど、ほんのちょっとしたことで人生っていい方向に変えられる、といったメッセージがあるのでは、とお話していたのがとても印象的でした。

――近年、花總さんはストレートプレイの舞台出演が増えていますが、どのように感じていますか。

 ミュージカルは曲の力が多くを占めていますが、ストレートプレイはそれがないので、よりセリフの面白さや相手とのやりとり、圧倒的にセリフの量が違うので、そこはよりお芝居として楽しめています。歌も難しいんですけど、セリフも難しいなと思っていて、普段喋っているような感じではいけないですし、セリフがもつ力というのを自分が感じて、それを皆さまにお届けしなければと思っています。歌には歌の力がありますが、セリフにはセリフの力があるので、そこを大事にしたいです。

――この舞台を観ていただく方に、どのようなことが伝わったら嬉しいですか。

 想像力を豊かにして観ていただきたい作品です。ファンタジー要素も強い作品で若い方に観ていただいても面白い世界観だと思いますし、すべての年代の方に響くと思います。いろいろな方に観ていただいて、自分なりの答えを見つけてもらえたらと思います。

(おわり)

ヘアメイク:野田智子
スタイリスト:戸野塚かおる

作品情報

舞台『銀行強盗にあって 妻が縮んでしまった事件』

【CAST】

花總まり 谷原章介
平埜生成 入山法子 栗原英雄
中山祐一朗 吉本菜穂子 幸田尚子 楢木和也 西山友貴 吉﨑裕哉 山口将太朗 山根海音 黒田勇 須﨑汐理

【STAFF】

原作 アンドリュー・カウフマン
脚本 / 演出 G2
音楽 かみむら周平 振付 山田うん 美術 乘峯雅寛 照明 高見和義
音響 井上正弘 映像 ムーチョ村松 衣裳 伊藤佐智子 ヘアメイク 稲垣亮弍
演出助手 福原麻衣 舞台監督 広瀬泰久 プロデューサー 篠﨑勇己 清宮之禎
製作 TBS

東京公演 2024年4月1日(月)~14日(日) 日本青年館ホール
大阪公演 2024年4月20日(土)〜21日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール
名古屋公演 2024年4月26日(金)〜28日(日) 御園座

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