BONNIE PINK「再デビューの感覚」11年ぶりオリジナルアルバム、子の誕生で変わった意識
INTERVIEW

BONNIE PINK

「再デビューの感覚」11年ぶりオリジナルアルバム、子の誕生で変わった意識


記者:木村武雄

撮影:木村武雄

掲載:23年10月03日

読了時間:約21分

 BONNIE PINKが実に11年ぶりとなるオリジナルアルバム『Infinity』を発売した。出産を機に子育ての時間を大切にしたいと音楽活動をセーブしてきた。彼女の艶やかな歌声はそのままに、哀愁漂う世界観は更に奥行きが広がっている。全楽曲の作詞、作曲だけでなく楽曲の細部までこだわり抜いた。今回は「A Perfect Sky」などのヒットソングで知られるスウェーデンのプロデューサーチームのBurning Chickenとタッグを組んだ楽曲も収録。更に、鈴木正人や高桑圭、Shingo Suzuki、八橋義幸、西田修大がサウンドプロデュース&アレンジに参加。爽快でダンサブルな楽曲から、切ない恋心を歌ったラブソング、子供への愛を歌う楽曲、平和への祈りを込めたメッセージなど全13曲を収録した。どのような思いで制作してきたのか、インタビューを行った。11年の歳月で生まれた変化や、それが形となって表れた本作を紐解くには5000文字では足らなかった。よって約1万1000字で届ける。【取材・撮影=木村武雄】

変化の兆し:コラム

 2019年4月6日・月曜日、TOKYO DOME CITY HALL。FM局が主催する「母なる地球」をテーマにしたコンサートが開かれた。花柄模様をあしらった爽やかなイエローの衣装に身を包んだ彼女は、アコースティックギターを肩から引っ提げ超満員の客席を見渡していた。割れんばかりの歓声に表情を緩ませ、そしてこう語った。

 「2年前に母の仲間入りをしました。新米母ちゃんです。“母は強し”と言うけれど、子を持ってこの先の未来をたくましく生きていきたいと思った。地球もたくましく。今日が社会や地球を考えるきっかけになれば。良い音楽、楽しい音楽を通じて希望が湧いたら嬉しい。月曜日だからって関係ない。惜しみなく届けていきます。母なる地球のために!」

 BONNIE PINKは2017年4月に第一子となる女児を出産した。

 企業などでは活動周期を黎明期、成長期、成熟期と表現することがある。1995年に発売したアルバム『Blue Jam』でデビューしてから今年で28年となる彼女にとっては、2017年からの数年前から新たな周期に入っていたとも言える。劇的な変化は子供の誕生だが、その前後、そして以降は小波を打つように小さな変化の繰り返しだ。それが歳月を経て大きなうねりとなる。何年か後に振り返ってようやく変化に気付くものだ。

 今年9月に発売した13枚目のオリジナルフルアルバム『Infinity』は、実に11年ぶりのアルバムであり、変化の過程が著しく反映された作品とも言える。親になって変わった景色、そして心情。歌声の艶やかさは変わらないが、そこに込める思いは深層的に音楽へと影響を与える。「自分を表現する」ことから「子に伝えたいこと」、そしてその先にある「子供達の未来」への願い。

 音楽の捉え方は人それぞれだが、『Infinity』は一人の女性の成長を描いたようにも感じられる。それは今のBONNIE PINKが幼少期から青春期、大人になっていく自身の姿を思い返しているようにも見えるし、我が子の成長を見守っているようにも見える。共通して言えるのは「奥深い愛情をもった温かい母親目線」が随所に感じられることだ。

 それを歌声、メロディー、サウンドをもって物語として作り上げる。まさに映画のような物語性と規模感がそこにはある。心情の変化だけでなく、シングル「So Wonderful」などにも参加したBurning Chickenや、彼女をよく知る鈴木正人、更に今回新たに参加した西田修大ら様々な音楽家が制作に加わったこと、そして彼女自身の趣向性も、「音楽の変化」として表れている。その「移ろい」も感じられる奥行きのある作品だ。

 と、この作品を聴きながら彼女の歴史を追って感じた小生だが、本人はどういう思いでこの作品に臨んできたのか。その真意を確かめた。ここからは一問一答。

『Infinity』

再デビューの感覚

――インタビューを受けると新たな発見や考えがまとまりますか?

 オリジナルアルバムをリリースするのも11年ぶりで、アルバムのことを語る取材もすごく久しぶりなので、喋りながら整理している感じです。昔、作っていたアルバムとは時代が違いますし、割とアルバムのトータリティとかを強く意識している部分もあったんですけど、今作は間も空きましたし、制作期間、作曲から考えると十何年もやっていたような感じもあったので、一回フラットになって再デビューみたいな感覚で取り組みました。だから素直にお話するしかないなと(笑)。コンセプトを強く設けた感じではないんですけど、作品としては、お休みをしていた間のあらゆるフェーズがキュッと入ってるので、この10年どう過ごしてたかみたいなのがそのままアルバムになったのかなと思います。

――98年にリフレッシュするために渡米した頃の感覚とはまた違うんですよね?

 そうですね。あれはデビューして凄く忙しくなりすぎて、自分が本当に好きなものとか、ペースが分からなくなくなってしまったので、一旦止めてニューヨークに行かせてもらいました。半年ぐらい何もしないでブラブラしていたら自然とまた作曲したい欲求が湧いてきて、わりとすぐ復活したんです。今回は出産があって子育てを経てのものなので、今も子育ての真っ最中なんですけど、それが一番自分の人生で新たにできた目標というか、新たにエネルギーをもらった出来事だったので、産後に書いた曲には結構色濃く反映されてると思います。でも半分ぐらいは産休に入る前に書いていた曲なので、どれがいつ書いたのか、というのを聴いて探ってもらうのもよし、でも歌詞を見ているとまあまあ分かるかもしれないですね。

序章

――収録曲の流れ的に「Spin Big」から3曲は過去の自分が未来を見ていて、徐々に過去に遡って何か自分自身を振り返っているような気もします。その女性が恋愛とか色々と経験を積んで大人になっていく。最終的に「Silent Film」で一つ区切りをつけて、「HANABI Delight」から新しいフェーズに入いる。そこから何か前向きになっていくんです。「エレジー」は戦争と平和を歌った曲で、嫌なことも音楽というプラスのエネルギーにしていこうという力が漲っていて。そして「Infinity」はお子さんのことを歌ったのかなと。

 だいたい合っています。最初3曲で話をすると、実は1曲目の「Spin Big」は昔書いた曲なんですけど、2曲目「世界」と3曲目「Like a Tattoo」はこの3年以内に書いた曲なので、目線として昔の自分が未来を見て書いたというものではないけど、流れとしては幕開けっぽい感じの曲を「Spin Big」だったり、「世界」にはこれから新しい時代が始まるんだ!ではないけど、軽やかにスタートを切るようなアルバムにしたくて、最初はこの2曲にしました。

 その後、結構いろんなタイプの曲が入ってきて、「Silent Film」は昔の曲で、一見暗い印象の曲でもありますが、人生を諦めているような歌ではなくて、誰しも人生の途中で立ち止まる時期とかフェーズってあると思うんですけど、そんな時もあったなっていうことを振り返って歌っていて、「Silent Film」はモノクロ映画のことを言ってるんですけど、一瞬色味がなくて、時が止まったようなフェーズがあったんだけれども、それを乗り越えて今がある、というようなことを歌っていて、一旦区切りを付けてここから未来が始まるじゃないですけど、そうおっしゃっているのも合点がいきますし、捉え方は人それぞれあると思うんですけど、曲順はかなり吟味して7パターン、8パターンぐらい考えて、これに収まったんです。

 バラバラの時代に書いたものですけれども、一つのアルバムとしての起承転結というか、最後には足どりが軽くなっているような着地になってるといいなと思って、この曲順にしたので、未来に向かっていく感じで終わっているっておっしゃっていただけたのは良かったなって思います。

BONNIE PINK

生と死

――先程、コンセプトを決めたわけではない、という趣旨をおっしゃいましたが、最終的に一人の女性が大人になっていく過程。始めは恋を描いているのかなと思ったんですけど、「エレジー」からの「Infinity」に流れた時に、この作品はもしかしたらお子さんの成長が描かれているのかもしれないと思ったんです。2019年のコンサート『TOKYO FM&JFN present EARTH×HEART LIVE 2019』で「この先の未来をたくましく生きたいって思った」とおっしゃっていて、お子さんが生まれた2017年。そのあたりでご自身の生きるテーマ性がガラリと変わったのかもしれないと。

 そうですね。子供ができて、自分の人生は自分が生きている間が全てではないというのをすごく強く実感して。娘が生まれる直前に父を亡くしたんですが、2週間後に娘が生まれたんです。そんなこともあって、悲しんでいる暇もなく次の物語がスタートしたというか。父という一人の人間の人生は終わったんですけど、その父の遺志を受け継いだ私が、今度その父が辿ってきたであろう子育てというフェーズに突入して、新たに始まったっていうのが、何か父からバトンをもらったような感覚で。

 娘はもちろん、祖父のことを知らないんですけれども、不思議と共通項があったり、何か繋がってるなって感じることがあるんですね。だからこうやって受け継がれて続いていくんだって思ったら、すごく私自身も力が湧いてきたし、自分の人生は自分の生きている間だけで終わりっていう発想じゃなくなって、その先にも残っていくようなものを見据えて物作りをしたり、子育てもですけど、自分の代で精一杯できることをやるけど、その先も見ながら取り組んでいく。そういう力の使い方が新たに自分の中で始まった感覚があって。この2、3年に書いた曲は割とそういうことにフォーカスを当てて書いている歌詞が多いんです。

 タイトルを「Infinity」にしたのも、リミットを自分で作るんじゃなくて、リミットを取り払っていけば、世界はどこまででも広げていける、というのを子供を見ていて感じるんです。子供は「これ以上しちゃダメ」というリミットを親が言わない限りないじゃないですか。だからどこまででも広げようとする。その自由さがすごくいいなと思って。私はこれだけの経験値を積んできて、自分で自分に拘束着を着せていたんだなと思うようになったので、今一度子供と一緒に裸になるじゃないんですけれども、何か色んな細かいことを取っ払ってもう一度楽しいことに全力で取り組むとか、もっと可能性あるんじゃないかな、というのを一緒にチャレンジしていくようなそういう力を娘からもらった気がして。

 父はもういないけど、父からそれを「続きを頼んだぞ」って言われたような…勝手にそんな気がしていて。だからその2019年のコンサートで何を言ってたのか全然覚えてないんですけど、確実に育児は凄いエネルギー使うのでしんどいんですけど、それをも凌駕する喜びとか発見があって。だからやっとアルバムを作れる気にもなったし、またここから始めていけるかなって思えたので、時間はかかったんですけど、またスタートを切れて良かったなって思ってます。

音楽家としての存在意義

――「宝さがし」がテレビで流れてきた時に、娘さんが喜んだそうですね。

 「これママの歌でしょう」って一緒になって歌ってくれたりして。それは本当にやってきて良かったなって思いました。

――その言葉や笑顔をきっかけに今回のアルバムを作ろうって思ったわけではないですよね?

 そうですね。もうアルバム制作を始めてはいたんですけど、アルバムに収めるつもりで書いた「宝さがし」という曲を5、6歳で色々なことが分かるようになってきた娘が初めてお母さんは歌を歌う仕事をしてるんだって多分認識し始めたんだと思うんです。

 小さい頃からコンサートとかに来ていたけど、やっと「お母さんの歌だ」と気付けるようになってきて、ライブを観に来て感想を教えてくれたりとか、家で撮影の服を選んでたら「ママそれ衣装?その靴いいじゃん!」って言ってくれるようになって面白いんです。本人は背伸びした感じで頑張ってると思うんですけど、こういう話を共有できるようになってきたのも嬉しいし、今までちょっと休んでいましたけど、一番のファンが身近にいてくれるみたいな気にもなっていて。

 だから娘のために頑張りたいなって思ったし、まだまだ終わりにするには早すぎるというか。娘の脳裏に刻めるぐらい私のミュージシャンとしての活動をもう一度復活させて、音楽って楽しいっていうのを娘にも身をもって教えていきたいなって。アルバムとしては久々の作品ですけど、また次も少しずつ作っては出すっていう風にペースを取り戻していけたらいいなって思ってます。

――音楽家としての終わりも考えたことがあったんですか?

 終わりを明確に考えたわけではないんですけど、この時代に私にしかできないことってあるのかなっていうのはわりとずっと考えているかもしれないですね。私じゃなきゃできないこととか、私がやるから意味があるみたいなことって何があるんだろうっていうのは、もう永遠のテーマみたいな感じです。

 やっぱり世の中の音楽は溢れているし、11年も休んでいると、山ほど新しい世代が出てきて、音楽の形態もだいぶ変わって、ネットやテクノロジーの進化で音楽との距離が近くなった分、音楽との付き合い方が浅く広くなっているような印象もちょっと受けたりする中で、どういうものづくりをすれば、残してもらえるかなっていうのは、昔以上に気になっています。

 でも、結局狙ってできたことは今まで何もないので。だからあんまり深く考えないでやるのが今の時代に一番フィットするのかもと思って、最近はあまり考えすぎずに思ったことをその時、その時でこなしていくっていう感じでやっていこうと思ってます。

BONNIE PINK

アレンジャー選び

――音作りとかも変わってきていますか。

 今までのアルバムには登場していなかったShingo Suzukiさんと西田修大さんは、このアルバムで初めて共演させてもらったので、新たな出会いも臆することなく、ちょっとずつ広げていきたいなとは思ってます。どこにどんなケミストリーが隠れてるか分からないですし、私から動かないことには出会いもないので、少しずつでもリサーチしながら、また新たな出会いを求めていきたいなって思います。

――音と歌詞は一緒に作っていくスタイルのようですが、アレンジしてもらう時はどう要望されているんですか?

 まず私が作ったデモテープを聴いてもらって、どういう印象を持ったか最初ちょっとだけディスカッションはするようにしています。デモテープを作った時点で私の中に構想があるものに関しては最大限伝えて「これはこういう意図でこういう風に入れてます」とか、もしくは「何も入れていないので自由にお願いします」とか、そういう曲もあるので、アレンジャーさんを選ぶ段階で、この曲にきっとこの人はフィットするだろうなという人を見極めてお願いするようにしています。「いざやりましょう」ってなった時にここは譲れないところがあれば、最初にお伝えして。でもまずはファーストインプレッションを大事にアレンジを一回進めてもらって、大枠が見えた時点で、自分がまた聴いてここ素敵だなとか、これはなくてもいいかなとかそういう取捨選択をさせてもらって、またフィードバックしてっていうキャッチボールをしながら作っていました。

――これまでの作品以上に凄く音がシンプルなんですけど、ご自身の中でシンプルにしたいと思ったんですか。

 コロナ渦っていうのもあったので、たくさんのミュージシャンを呼んでセッションをしながらアレンジするというのは非現実的でもあったし、お休みする前からスウェーデンのミュージシャン仲間ともリモートで作ったりしていたので、作り方はある種手慣れていたというのもあって。シンプルとおっしゃったのがもし音数のことを指しているのであれば、一人のプロデューサーにお願いして、その方が家の中でできる最大限で作ってできたものがほとんどなので、それ以外のサポートミュージシャンを交えたのは結構少ないんです。

 なので、私ともう1つの頭脳でほとんど作っていたので、要らないものが結構削ぎ落とされていったっていうのもあるかもしれないですね。

 ただ、必ずしも音数が少ない曲だけではないので、結構モリモリに入っている曲もあるんです。もしダウンサイズしたような印象を感じられているとするならば、関わった人数が少ないというのは一つあるかもしれないですね。

 色んな人が関わると色々なアイデアを盛れるので、わりとぐっちゃりしやすいんですけど、意見する人が少なくなればなるだけすっきりはするかなと思います。あと、年齢的な嗜好もあるかもしれない。ずっと押せ押せの音楽に対して食傷気味になってきますし、それも反映されてるかもしれないです。でも、曲によりけりかな。曲にとって一番いいと思われる音圧だったり、音数だったり、奥行きとかを意識して、それを各アレンジャーさんと相談しながら作ったっていう感じですね。

バーチキ、スウェーデン音楽

――Burning Chickenさんとは過去にやられていて、ただ過去のものと比べるとサウンド的に少し趣が異なるかなと思いました。

 今回、Burning Chickenは「Spin Big」、「Bittersweet」、「HANABI Delight」に参加してもらいました。「HANABI Delight」は実はトラック自体は2015年にもうできていたんです。歌は「Spin Big」以外の曲はこの2、3年で録ったものばかりなんですけど、「HANABI Delight」はトラック自体は古いんですよ。

 どっちかっていうと、昔のBurning Chicken(バーチキ)らしさが出ている曲かなと思うので、音数も多めではありますし。曲自体わりと落ち着いて横揺れみたいな感じの曲なんですけど、ドカンとくる派手さがある。うまく言えないけど、あれは本当にバーチキの魅力だと思っていて。ヘビーなシンセの音とか、「Bittersweet」もそうですけれども、ビートが立っているというか。

 ただ、バーチキとの新たな収録曲は「Bittersweet」だけなんです。「Spin Big」も昔録った曲ですし、「HANABI Delight」も昔にトラックを作っているので。「Bittersweet」は去年くらいにトラック制作したので、バーチキの中で変化があるとして、それが反映されているとしたら、この「Bittersweet」は少し変化はあるかもしれないですけど、音数は昔のものに比べたらよりそぎ落とされているかもしれない。

――バーチキさんは今2人体制なんですよね?

 最初は3人だったんですけど、その後ずっと2人でやって、今や1人です。お兄ちゃんのヤンスという人がほとんど1人でやってくれているんですけど、弟のペッテルは定職に就いていてほとんど音楽をやっていないです。でもボニーが復活するっていうので、また一緒にやろうよっていう感じで、仕事は続けながら参加もしてくれました。

 一番最初に3人でやってた一人は脳外科へ進んで。すごい不器用なのにできるのかっていう感じだったんですけど(笑)。子育てしながら医大に通って、本当に医者になっちゃって。最初みんな冗談半分で笑ってたんですよ、メスとかお腹の中に忘れないかな?って。でも夢を叶えて。だから、人間限界はないなって。リミットかけたら損だよって。

 Burning Chickenという名前を付けたのも軽いノリだったんです。昼食のテイクアウトで鶏の丸焼きをよく食べてて。それを「バーニングチキン」と私たちは呼んでいて。プロデューサーチーム名がなかったから、じゃあバーニングチキン=Burning Chickenでいいんじゃないって。だからバーニングチキンというのは、BONNIE PINKの現場でのみ通用するプロデューサーチーム名なんです(笑)。ホームページで探しても出てこないんです。

 でもスウェーデンって昔から良質なポップスをたくさん生んでいる国だと思っていて、古くABBAとかカーディガンズとか。やっぱり同じ琴線を感じるっていうか。イギリスとかアメリカとも全然違うんです。ちょっと影があるんだけど、切ないポップスとかを上手に作る人が多い印象で、そこに私はシンパシーを感じて、割と初期からスウェーデンのプロデューサーと仕事をして、たくさん曲を一緒に作ってきているんですけど、スウェーデンって本当にいいプロデューサ一がたくさんいて、Kポップの曲とかもスウェーデンの作曲家さんが提供されてる曲とかもたくさんあるんですよ。

 だから決して表舞台に出てくる人ばかりじゃないけど、すごく良質のミュージシャンというかソングライターやシンガーがたくさんいる国っていうイメージがあるので、それを自分の音楽を介して日本の人に知ってもらいたかったので、ずっと付かず離れずの付き合いを続けてきました。ここ何年もスウェーデンには行けてないんですけど、いずれ娘も連れてスウェーデンは行きたいなって強く思っているんです。

 「A Perfect Sky」も彼らの手腕なので、BONNIE PINKの全てではないですけれども、確実にBONNIE PINKの一時代を大きく作ってくれたのがスウェーデンのミュージシャンだと思っています。この付き合いは向こうがもういいやって言うまでは続けたいなって思っています。

歌声に憑依

――「Like a Tattoo」は鈴木正人さんに「とりあえず作ってみてください」って言った曲なんですよね。「Bittersweet」の<好きになんなきゃよかった>という言葉とは裏腹に溢れる愛とか、相反する気持ちがBONNIE PINKさんの歌声に表れているなと思ってて、歌う時にその曲に対して意識とか変えたりされているんですか?

 そうですね。極力その曲の歌詞の中の主人公の気持ちに寄り添いながら歌うようにはしています。でも、必ずしも全ての曲が実体験ではないので、ちょっとキャラクターを憑依させて歌っている感じかもしれないですね。歌声から「好きになんなきゃよかった」っていう風に感じてもらえなかったら失敗じゃないですか。ボーカロイド風になっちゃうと失敗だと思うから、少なからず情感を込めて歌うようにしているし、メロディーとかコード進行自体にその言葉がしっくりいくような物を割り当てるようにしています。「Bittersweet」という曲だから、酸いも甘いも入っているっていうか、すごくハッピーなメジャーコードだけで構成された曲でもなければ、マイナーコードだけでもない。ちょっと中庸な感じというか、それが歌詞と相まって、より世界として定着したらいいなという思いで、いつも曲作りから曲と詩のマッチングは気にしています。

――「宝さがし」の最初のイントロってあれは逆再生なんですか。

 それは、ちがいます。でも映画のラストシーンを最初に見せてから物語が始まるイメージって高桑さんはおっしゃってました。高桑さんのアイデアです。

――私の中では逆再生に聴こえて、それでその「宝さがし」の4曲目から深く過去に遡っていくという感じに受け取りました。

 なるほど!タイムトラベルみたいな。面白いですね。人によって「こういう意図だろうな」と想像して、聴き手の人生に重なる部分とかを見つけながら掘り下げて一緒に世界に入ってもらえるというのは、私としては最高の喜びなので、そうやってイメージを膨らませて聴いてもらえるのは本当に嬉しいです。

BONNIE PINK

「Control」

――「Control」は元々こういう曲調だったんですか。

 八橋義幸さんにプロデュースしてもらったんですけど、八橋さんのギタープレーが私は大好きですし、ライブツアーする時も長年お世話になってるんですけど、いつも私の曲の感想を言ってくれる人で、彼自身ソロプロジェクトをやってらっしゃって、ソングライターでもあり、プレーヤーでもあり、プロデューサーでもあるので、八橋さんの意見というのは私にとって重要で、今回アルバムを作り始める前にいろいろ相談に乗ってもらったんです。今あるデモテープの感想が欲しいとお願いして。そうしたら色んな意見をくださって「この曲いいね」とか「この曲こういう人とやったらいいかもね」とか色々助言してくださったんです。

 私が再び動き出す大事なタイミングに八橋さんがいてくれたので、すごく感謝もしていて、八橋さんのギターの泣ける要素を発揮してもらえる曲を是非やりたいなと思っていたので、ギターで書いた「Control」と「Silent Film」を選びました。

――どれも情景浮かぶんですけれど、特に「Control」に関しては細かくその背景とか音で作っているような感じがしました。やっぱりそれもねらってなんですね。

 第一段階として、歌詞を考える時に情景が思い浮かぶようなワードを入れるよう心掛けていて、トラックメイキングの時に曲の物語のバイオリズムをアレンジャーさんと結構具体的に共有するようにしています。そうしないとここで盛り上がってほしいという時に、音数がすごい少なかったり、逆にそこが山場になってなかったりすると、アレンジがちぐはぐになってしまうので「ここは助走だよ」とか、「ここでテイクオフ感が欲しいんだよ」とか、「ここは余韻に浸っているところだよ」というようなバイオリズムを共有する時間を大事にしています。

 この曲ダイナミクスが激しい曲でもあるし、「Silent Film」もそうなんですけど、物語にぐっと入っていけるような曲を八橋さんは上手に作ってくださると思ったので、一緒に作って良かったですし、同じ情景を思い浮かべながら、トラックも一緒に作れたんじゃないかなと思います。

「Waiting 4 U」

――遊び心もありつつ奥行きも深くて。「Waiting 4 U」はどうですか。西田修大さんがプロデュースしています。

 これも古い曲で、前の作品まで一緒に音作りしてもらってたディレクターさんがいて、そのディレクターさんが西田修大さんというアレンジャーさんを紹介してくださって、「きっとボニーの曲と合うと思う」って推してくださったので、お願いしたのが何年前か分かんないんですけど、実際アレンジしてもらったらとても良かったので、いずれアルバムを作ったらアルバムに収めたいねっていう話までして、ちょっとそこで止めてたんです。

 今回やっとアルバム作りを始めたので、「Waiting 4 U」も入れたいということで、もう一度西田さんとコンタクトをとりまして、西田さんなりに年数も経ているので、もうちょっとブラッシュアップしたいとおっしゃって、大枠は変わらずですけど、音色とか今の西田さん的にフィットする音像に作り直してもらって、そこに今年歌を入れてできた曲なので、構想にしたら長いスパンがかかっているんですけど、これをきっかけに「Infinity」も西田さんと作らせてもらえたので、そういうきっかけの曲です。

 最初にアレンジがきたのが2020年。もっと前にお願いしていたけど、育児専念中だったので締め切りは設けずゆっくり作ってもらいました。一回トライしてもらえますか?という発注で。で結局そこからさらにブラッシュアップして作り直してもらったのは去年とか今年の話です。

歌声

――歌声的にはどうですか。

 ライブはちょこちょこやっていたので完全休業でもなかったんですけど、アルバム作りとしては随分間が空いたので、声が昔の曲を歌う時に曲を書いた当時と同じ声が出るのかという不安はあったんですけど、やってみたらまあまあ大丈夫でした(笑)。むしろ今の方が自分の声をコントロールしやすくなっていて、作った当時よりも上手に今の方が歌えるかもしれないと思ったりして、そういう風に前向きに考えるようにしています。

――艶やかな歌声というのは相変わらずで、むしろさらにブラッシュアップされているような感覚もあって。

 ありがとうございます。

――ちなみに13枚目のアルバムだから13曲なんですか?

 たまたま13曲になったんです(笑)。西洋ではあまり良しとされない数字なので、どうしようか迷ったんですけど、そのために1曲削るのもなって思っていた時に、このアルバム13枚目だと気づいて。だったらそれでいいかって、落ち着きました。

――前作が12だったから、12を超えていこうという意気込みかなと。

 そうです!そういうことで(笑)

――過去作品には15曲入りとかも結構あって。音楽業界的に、入れられるだけ入れるみたいな時期もありましたよね。

 さっき別の取材で伺ったら、今8曲とか10曲とか普通になってるって聞いて、頑張りすぎたって(笑)。11年お待たせした分、極力出せる限り出していきたいなと思いますし、ファンの方はじっくり何年もかけて聴いてくださるだろうから。

(おわり)

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木村武雄

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