INTERVIEW

吉田美月喜

意識した「心の距離感」 映画『パラダイス/半島』で主人公の姪役


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:23年07月25日

読了時間:約9分

 吉田美月喜が、染谷俊之主演の映画『パラダイス/半島』(稲葉雄介監督、公開中)でヒロインを務めている。世間から少し離れた半島で、有名俳優とその姪、逃亡犯によるひと夏を描く。吉田が演じる山下夕起は、主人公で俳優の日吉真英(染谷)の姪。暇を持て余し訪れた真英の休暇先で偶然会った鈴木竜(立川かしめ)と意気投合するも実は逃亡犯。それを知らずに3人による奇妙な共同生活が始まる――。ドラマ『沼る。港区女子高生』ではこれまでと一線を画すキャラクターを演じた吉田。静岡県伊東市で全編ロケした本作では「叔父」と「逃亡犯」というそれぞれの人物に対する、異なる心の距離感を「絶妙な間」で表現してみせている。自身はどう意識して臨んだのか。【取材・撮影=木村武雄】

素朴さが魅力?

――まずは、ドラマ『沼る。港区女子高生』についてお伺いします。演じられた斎藤麻里香は、主人公の倉石えな(桜田ひより)の親友で、あか抜けた感じもあり、これまで演じてきたものとは異なりました。

 同世代の共演者が多く現場は和気あいあいとしていました。麻里香は、誰からも好かれる元気いっぱいの性格で、えなを引っ張っていくようなタイプ。私にないテンション感だったからこそ振り切って楽しく演じることが出来ました。

――桜田さんとは『鬼ガール!!』(2020年)で共演されていましたね。

 ひよりちゃんは同い歳ですが、小さい頃から演技をされていますし、ひよりちゃんの持っている美しくて儚い雰囲気がすごく素敵です。私も唯一無二の魅力を見つけ出せたらいいなって思いました。

――その魅力の片鱗は見えていますか?

 まだ見えていないです。ただ、いろんな方から『あつい胸騒ぎ』(2023年)のお芝居が「すごく良かった!」と言って下さって、素朴な感じがきっと私には合っているのかなって思います。

――吉田さんの内に秘める、含みを持たせた演技が素晴らしいと思っています。

 ありがとうございます!でも、やっぱりひよりちゃんが持っているミステリアスさは魅力的です。私は全部さらけ出してしまうので(笑)

――でもそれが役に活かされることもあって、それが顕著に出ていたのは舞台『エゴ・サーチ』(2022年)ですよね。

 確かにそうですね!今回の作品の取材で、稲葉監督が私の印象を「大ざっぱで良く言えば大らか」と言って下さっていて、夕起というキャラクターの大ざっぱな部分は稲葉監督が台本を書かれるにあたって出してくださった部分なのかなって思います。

吉田美月喜

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演じやすかった

――ということはほぼ当て書きのような感じだったんですか?

 イメージして書いて下さったみたいです。稲葉監督が最初に観て下さったのは「シロクロ」(日本テレビ系『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う』2020年)で、それをきっかけにいろんな映像作品や舞台も観に来て下さって。それで今回、声をかけて下さいました。

――では演じやすかったですか?

 夕起ちゃんとは年齢も近かったですし、私の周りにも就活で同じような境遇の子がたくさんいます。夕起ちゃんは将来の不安を抱えたまま何をしていいか分からずあの場所に流れついた感じで、私もこのお仕事をしていなかったら夕起ちゃんのようになっていたのかも、と思いました。

――キャラクターの骨格はどうやって作ったんですか?

 一番難しかったのは「真英の姪」という立場でした。稲葉監督にはきっと姪にした意図がちゃんとあるんだろうと思いつつ、姪という立ち位置での真英との距離感というのは意識しました。実は、染谷さんに初めてお会いする時は身構えていたんですけど、すごくフランクに話しかけて下さって嬉しかったです。真英が(一時的に)住んでいる家は稲葉監督が実際に住まわれている家で、待機中もみんなでご飯食べたり、かしめさんとも話したり、染谷さんが少し離れたお兄さんというイメージでしたので役作りという点でも良い環境でした。

――染谷さんとは「真英の姪」の距離感を申し合わせたんですか。

 特に「こうしよう」とは話していないですが、私が接しやすいように染谷さんが積極的に話しかけて下さいました。

――あぐらをかいて真英と向いあうシーンは稲葉監督の演出ですか?あそこに「真英の姪」として距離感が象徴されているような気がして良かったです。

 ありがとうございます!ただ「あぐらで…」というのは台本にもなかったです。夕起ちゃんの性格ならあぐらをかくだろうし、あのテンション感ならきっと向かい合うだろうなと。全く意識せず自然と取った行動なので、こうして指摘されるといい感じで出来たなと思います(笑)

吉田美月喜

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物理的な距離感で心の距離感を表現

――やっぱり今回は「距離感」が一つのテーマになっていて、人との距離感で心を開きぐらいを表現されているように感じました。

 かしめさん演じる竜と初めて会った時は「変な人だな」と怪しく思っていたものが、徐々に竜の出す不思議な柔らかい力によって、だんだんと「かわいく見えてくる」。その距離感は順撮りだったからこそ、実際にもだんだんと仲良くなっていくという過程が、心が近づいていく表現としてはしやすかったですし、大切なポイントになっていると思います。

――海岸のところでのシーン。竜に興味が沸いてきた感じが出ていていいですよね。

 あのシーンはシンプルに楽しかったです。のんびりしていて本当にこういう会話してそうだなって。名前の由来とか聞いたりして、リアルといいますか、話はしているんだけどわざとらしい緩急がないところが演じていて楽しかったです。始めに稲葉監督と話していたのは、夕起ちゃんにとって竜はラブ的な好きではなくて、母性的な守ってあげたい存在にしたいということでした。そこは大切に演じました。

――立川さんの雰囲気が良いですね。

 かしめさんの緩い雰囲気が自然とリラックスさせてくれました。それは意識されてなのか、もともと持っていらっしゃるものなのかは分からないんですけど、かしめさんの放つ雰囲気はすごくあのシーンに効いてきていると思います。かしめさんは演技が初めてらしいんですが、全然そんなことないというか、かしめさんの優しいんだけどちょっと闇がありそうな目。それが竜というキャラクターに活きていて面白かったです。

吉田美月喜

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少しの変化

――それと夕起の喋り方は抑揚のない感じがあってそれはご自身が考えて?

 作品全体が起伏を押さえられていますので、そう感じられたのかもしれないです。この作品は、あえて明確に描かない所もあって「こうだからこう感じてください」というものではなく、観てくださる方々の考えに委ねられている部分が多いと思っていて、それは稲葉監督もそうされたいと話されていました。何気ない動きに見える所にもちゃんと意図があり、例えば夕起ちゃんが布団を畳むシーンが3回ありますが、同じような動きをしているけど少し変わっている。それはなぜかという事を観て下さる皆さんと一緒に考えられたらいいなと思い演じていました。

――布団の畳み方は気づきませんでしたが、何回か出てくる歯磨きのシーンはちょっとずつ違うというのは分かりました。あれは意識して?

 意識しました。ただ布団のシーンは撮影初日の初めの方に撮ったので、まだ全体の流れが掴めていない状態でした。基本的には順撮りですが、あのシーンだけはまとめて撮ったのでテンション感や変化は稲葉監督のOK頼りでした。

――リアルって何だろうと考えた時、日本では抑揚のない言い回しがリアルに近いのではないかと思えました。

 私もそう思います。普段話している時は抑揚はあまりないですよね。それは動きもそうで、目線をずらして考えているような表情のお芝居をすれば、観てくださる方は「どうしたんだろう?」と感じ取れますが、今回の作品はそれがあえて抑えられている。そこが映画の魅力ですし、この作品ならではの表現なのかなと思います。

――引きも多いですし。

 長回しも多いんです。撮影自体は一週間ちょっとくらいで短かったんですが、すごく余裕がありました。長回しで撮るシーンが多くリアルに撮って頂きましたし、撮影自体も巻いて焦っている感じもなく、自然に囲まれ天候にも恵まれまて、皆がのびのびとリラックスして臨んでいましたのでより集中することが出来ました。その雰囲気が画にも出ていると思います。そう言えば泊ったホテルに温泉があって露天風呂をゆっくり浸かりました(笑)撮影が終わった後は地元のボウリング場に行ったりして楽しみました!

――ホテルにいる時は役について考えたりはしなかったですか?

 伊東に泊まりっぱなしでしたので、あえて考えることはせずに自然体で過ごしました。『あつい胸さわぎ』で演じた千夏も私そのものだと思いましたが、何でこんなにも共感できるんだろうと考えた時に、役作りする時にまずは自分の共通点から探っているから全部似てくるんだろうと思いました。今回も自分としているような感覚がありました。

――では『沼る。港区女子高生』は特別だったんですね。

 『沼る。――』もそうですし、『クライムファミリー』の夢役も新しい自分を知るきっかけになりました。共通点がないからこそ「こうなるとこういう考え方になるんだ」という新しい感覚、発見にも繋がりました。

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目の前の作品を

――先ほど起伏が抑えられた作品というのがありましたが、ゆったりと時間は流れていますし、事件は起きますがアクション的な派手な事は起きない。だからこそ役者の演技力が試されると思います。2、3年前の自分だったら演じられたと思いますか?

 出来ていないかもしれないです。やっぱり舞台と違って映画やドラマは、共演者同士の距離を縮める期間が短くて、スタートがかかった瞬間にぐっと近しい距離で演じるというのは正直私には難しくて、遠慮してしまう部分もあります。私が見てきたお芝居が上手な方はそれが出来ているのでそれではダメだと最近は特に思っています。お芝居に入ったら例え失礼な事をしてもそれが演技として素晴らしかったら、作品として必要な事なら、相手の方も許して下さる、そういうスタンスでいようと思っています。

――今回は学びも多かった?

 多かったです。染谷さんの動きは一つ一つが細かくて、かしめさんとも話していたんですけど、台本には書かれていませんが繊細で意味のある動きをされていて、それが的確なんです。すごいと思いました。

――今後はどうですか。

 私は少し焦りがちなので、一回立ち止まってゆっくり周りの人に話を聞いてみることも大切だと思っています。そこから何か見つけられることもあると思いますし、二十歳になりましたし…(笑)

――焦っているんですか?楽しんでいるイメージですけど(笑)

 基本、楽しいです(笑)。ただ『あつい胸さわぎ』の反響が大きくて「良かった」と言われれば言われるほど自分の中で「超えなきゃ」という焦りが勝手に生まれてしまって。色んな方に話を聞いたら『あつい胸さわぎ』の千夏というキャラクターはあの場で生まれたものだから、他の作品はその作品の為にどうすればいいかを考えた方がいいと。自分の演技が上手い下手とか、上手く見せようと思うんじゃなくて、その作品のためにどうすればいいかを考えたらその焦りは出てこないはずと。それを聞いた時にハッとしました。なので、一つ一つの作品に全力で向き合っていきたいです。

――二十歳で気付けてすごいですね。

 悩んでいた時にその話を聞いて発見がありました。そもそも話を聞いてくださる方がいるだけで恵まれているなと感じます!

(おわり)

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