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海宝直人が、6月9日より大ヒット公開中の映画『リトル・マーメイド』プレミアム吹替版に出演。ジョナ・ハウアー=キングが演じるエリックの吹替を担当した。映画『リトル・マーメイド』は、創立100周年を迎えるディズニーが、1991年に公開(US は1989年に公開)され、後に『アラジン』『美女と野獣』の誕生へ続くきっかけとなった名作アニメーションを実写映画化。ストーリーはもちろんのこと、圧巻の映像クオリティと音楽で魅せる作品に仕上がっている。インタビューでは、映画『リトル・マーメイド』に触れて感じたことやアフレコの舞台裏、エリックがアリエルに一目惚れならぬ“一聴き惚れ”したように、海宝が“一聴き惚れ”した人物を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
2人の愛が育まれていく過程が素敵な作品
――今回どのような経緯で吹替を担当することになったのでしょうか。
オーディションのお話をいただいたのがきっかけです。僕は「ぜひ受けたいです!」と受けさせていただいて、決まりました。
――吹替を担当するにあたって、特別なことはやられました?
洋画の吹替を幼い頃にやったことはありますが、ここまでセリフを喋って歌ってというのは初めてでした。スタッフさんが「現場でリードしていきますので、全然大丈夫ですよ」とおっしゃってくださって、実際にディレクションしてくださる方たちに導いていただいて、一緒にエリックを作っていきました。
――これまでとはどんな違いを感じましたか。
過去にやった作品と違うのは、今回収録が全部1人だったことです。僕が経験したアフレコには声優さんが8人くらいいて、自分の番がきてマイクが回ってくるみたいな感じだったんです。今回は独りぼっちでの収録で、すごく新鮮でした。アリエルは中盤では喋らないので、一方的にエリックが喋る時間が長いというのもあって、それも面白い経験になりました。
――“セリフの一方通行”ってなかなかないですよね。
そうなんです。でも、言葉はないのにアリエルの気持ちが豊かで鮮やかに伝わってくるというのはすごいなと思いました。おそらくエリックもそんな彼女に惚れ込んでいったんだろうなと思いました。
――さて、エリック役のジョナ・ハウアー=キングさんは、海宝さんから見て、どのように映っていますか。
滲み出る朴訥(ぼくとつ)とした優しさとピュアさが、エリックというキャラクターをより魅力的に見せているなと思いました。飾らない魅力みたいなものなのですが、それを実際役者が出すのは意外と難しいことだろうなと思います。
――『リトル・マーメイド』の作品としての印象は?
アニメーションと劇団四季が演じたミュージカルも観たことがあります。『リトル・マーメイド』はどちらかというと女性にすごく人気な作品、という印象が僕の中にありました。もちろん僕は好きな作品で、作中で流れる音楽も大好きなのですが、今回実写化されたことで、男性が見てもより楽しめる作品になったのではないかなと思います。
――確かに男性よりも女性の支持が高い作品だと思います。
実写版でエリックという人物像がより深まったことによって、男性からより共感できるキャラクターになったというのが大きいと思います。もちろんアニメーション版でも力強さはありましたが、本作でより身近になり共感を得るキャラクターになっているなと感じました。
――エリックの人間性が深掘りされていますよね。
前半の恋に落ちるまでの描写がアニメーションは結構スピーディーじゃないですか? それは当時のディズニー・アニメーションとしてはすごく魅力的な展開だったけれど、実写化されてより丁寧に描かれています。なぜアリエルはエリックに惹かれるのか。それはエリックが自分はこういう王になりたいんだ、という意思をアリエルは海からずっと見ていて、そのエリックのまっすぐさや情熱、自分と同じ魂を持った人なんだ、というところに気づき惹かれていったのだと思います。
それはエリックの描写が増えたからこそ感じる点と言いますか、エリックもアリエルとお父さんの関係と同じように、エリックと義理のお母さんとの間ですごく自分のアイデンティティに苦しんでいて。「外の世界、海へ出たい」というエリックと、「海の世界から陸の世界に行きたい」というアリエルの思い、魂の部分で共感し合える2人の関係性の書き込みがより深まったことによって、よりドラマチックになったと思います。
――そんな海宝さんが特にお気に入りのシーンは?
エリックとアリエルの2人の愛が育まれていく過程、楽曲「キス・ザ・ガール」が流れるまでのシーンが本当に素晴らしいなと思います。あと、アースラがヴァネッサに変身して、ペンダントに閉じ込められているアリエルの歌声が、アースラのメロディーになっていく瞬間もすごく好きです。
――マニアックですね!
ヴァネッサを演じるジェシカ・アレクサンダーさんの表情が、すごく好きなんです。
――ところで海宝さんは、本作で作曲を担当されているアラン・メンケンさんのファンなんですよね?
もう神です。ディズニー作品には“I Wantソング”や“I wishソング”というものがあって、物語の序盤でキャラクター自身の想いを歌います。『リトル・マーメイド』でいえば「パート・オブ・ユア・ワールド」がそれにあたります。そして、新曲の「まだ見ぬ世界へ 」がエリックにとってのI Wantソングになっています。ダイナミックでドラマチック、エリックの葛藤や想いを詰め込んだ1曲になっていて、エネルギーに溢れた新曲だと思いました。
――その新曲「まだ見ぬ世界へ 」は作中でどのような意味を持っていると思いますか。
ディズニーの実写版ではたくさん素晴らしい楽曲があり、新曲もそれぞれに入っています。例えば、『アラジン』の「スピーチレス〜心の声」のように、比較的現代の価値観を表現するためのモダンなメッセージソングで、それは素晴らしい機能を果たしていたと思います。ただ、今回の「まだ見ぬ世界へ 」に関してはすごくまっすぐで、I Wantソングとしての真正面を描いてると思います。現代的なアレンジというわけではないのですが、オーケストレーションも豪華で、初代のアニメーション映画に入っていても違和感のない王道の楽曲という印象があります。僕はこの曲に込めたであろう演劇的なパワーみたいなものをしっかり表現できたらいいなと思いました。そのエネルギーをアフレコでも出すことができるのか、ということは僕にとってのチャレンジでした。
――歌の表現方法はご自身で考えられたのか、もしくはディレクターの方のリクエストからですか。
お互いに話し合いながらです。ディレクターさんがいろんな意見をくださったので、それを参考にしながら組み立てていきました。
――トライ&エラーなんですね。
はい。いろんなパターンをレコーディングして今の形になりました。
海宝直人が“一聴き惚れ”した人物とは?
――6月6日に行われたイベント『“リトル・マーメイド”フェス』のトークコーナーで、エリックがアリエルの歌声に惚れる、というのは一目惚れならぬ“一聴き惚れ”とおっしゃっていましたが、海宝さんはそういう経験はありますか。
最近だとシンガーのヒグチアイさんの声がすごく好きです。「悲しい歌がある理由」という曲をたまたま聴いたのですが、そこから好きになって、声と表現が本当に素晴らしいなと思いました。もう聴いた瞬間から「やられた」という感じです。
――さて、常にプレッシャーもあると思うのですが、海宝さん流の打ち勝つ方法などはありますか。
それは逆に教えてほしいです(笑)。毎回プレッシャーと戦いながらやってるという感じで、そこがなくなることはないだろうなと思っています。若い頃は勢いとか経験がないからこそ突っ走ることができましたが、キャリアを重ねれば重ねるほど「これはできて当たり前だよね」みたいなことが増えてくるんです。それに応えながらも、さらにその上を提示していかなければいけない、そのプレッシャーは年々増えていくものだと思っていて、それは宿命だなと思います。
――そんな海宝さんがいま追求されてることは?
音楽の中での芝居表現というのは一生追求していくことだと思っています。どうしたら歌を言葉として、セリフとして届けることができるのか、それを生涯追求していくことになるだろうなと。実際にチャレンジしてみて、そこで発見したことを今後の活動に活かしていきたいです。
(おわり)
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