ミュージカル界の至宝と謳われる海宝直人率いるCYANOTYPE(シアノタイプ)が、約2年ぶりとなるMini Album『PORTRAITS』をリリースした。エモーショナルなロックと、時にシアトリカルなボーカルが印象的なCYANOTYPEは2012年に結成され、2013年に本格的始動。2018年1月に1st.シングル「光」でメジャーデビュー。2019年10月に1st.アルバム「MONTAGE」をリリースしている。
今作『PORTRAITS』は4名のサウンドプロデューサーらと共同制作を行い完成した、新たな進化を垣間見れる1枚。サウンドプロデューサーには石塚知生、宮野弦士、賀佐泰洋(SUPA LOVE)、長谷川大介(SUPA LOVE)を招き、シティポップ/ロック/アコースティック/シンフォニックバラード等幾多にも渡るジャンルを横断するアルバムに仕上がった。インタビューでは、タイトルの『PORTRAITS』に込めた想いや、各楽曲の聴きどころや新たな挑戦、彼らが目指すバンド像など話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
それぞれの表情が見えるようなアルバムになったら
――4名のサウンドプロデューサーが入ってカラフルな1枚になりましたね。石塚知生さん、宮野弦士さん、賀佐泰洋さん、長谷川大介さんという4名にお願いした経緯は?
西間木陽 曲がどんな風になるのか試してみたい、見てみたいという気持ちがありました。「紬 -tsumugi-」という楽曲が収録されているのですが、この曲はバンドサウンドというより、オーケストラのようなイメージで作曲しました。そこに必要になってくるのが弦楽器だったり、バンドサウンドよりももっと大きな意味でスケール感を広げた楽曲にしたくて。この曲は賀佐さんがアレンジしてくださったんですけど、僕が思っていた以上に良い感じにアレンジしてくださいました。それならば今回収録されている他の曲もいろんなアレンジャーさんに頼んでみようとなって。
――「紬 -tsumugi-」のMVはすごく壮大で映画みたいです。
海宝直人 MVはシネマティックなものになりました。そういう作品にしたいと思っていて。アレンジも今までの僕らにはないサウンドになったと思いますし、歌もすごくこだわっていて、ディレクションにも力が入ってました。
――海宝さんはどんな1枚になったと感じていますか。
海宝直人 西間木くんが持っている世界観がより強く出てきたと思いました。急ピッチで制作したミニアルバムなのですが、今までとは違うCYANOTYPEの可能性を探りたい、僕の歌の表現も含めて新しいものを見せたいというところから始まりました。自分自身もそれに刺激を受けて、ボーカルディレクションもお願いして、新しい表現を探りながらレコーディングしていったのですが、結果出来上がったものはCYANOTYPEらしいけれど、新しい一面を見せることができたアルバムになったと思います。やってみたかったことが形にできた1枚になりました。
――小山さんは?
小山将平 前作『MONTAGE』はロック色が強いアルバムでしたが、サウンドとしてはディストーションを踏んだ音作りで、結構歪ませたギターソロが多かったんです。今作も歪んだギターソロは入っていますけど、クリーンサウンドの割合が多くて。その中でも特に気に入っているのが「キャラメル・シティ」というシティポップ系の曲で、ソロはかなり考えて弾きました。僕のルーツにはベンチャーズやカントリー系があるんですけど、人とは違うフレーズというのをやりたいという思いがあり、カントリー系のフレーズをオシャレな感じで弾いたらどうなるのか、というのテーマに弾きました。
――細かいニュアンスへのこだわりを感じました。これをコピーするのは相当難しいんじゃないかなと。
小山将平 そう言っていただけて嬉しいです。僕はジプシージャズも好きなんですけど、ジャンゴ・ラインハルトのようなニュアンスも入れたいと思っていて。いろんなジャンルの要素を少しずつ入れたソロになりましたね。でも、ソロが浮かないように楽曲に合わせてキラキラ感も取り入れているのがポイントです。前作はロック色が強かったのでカントリーやジプシージャズの要素はあまり出さなかったんですけど、今作では前作よりも自分のフェイバリットなものを出せたかなと思っています。
――音もすごく良いですが、レコーディングにもこだわりも?
小山将平 「キャラメル・シティ」は宮野さんのスタジオで録ったものです。宮野さんはギターサウンドにめちゃくちゃこだわる方で、「キャラメル・シティ」はアンプではなくてライン録音でアンプシミュレーターを使ったのですが、その音がすごく良くて。もちろんアンプでマイクを立てて録った曲もあります。
――違いがもう分からないですよね。
小山将平 宮野さんの力がすごく大きいです。生々しく録れだと思います。
――海宝さんは歌としての新しい試みが詰まっている曲は?
海宝直人 「キャラメル・シティ」です。これはキーも高いし、最初はこの曲をどのように届ければ良いのか悩みました。もともと西間木くんはキーを下げる前提で作っていたみたいなんですけど、やっぱりこのキーが一番気持ち良くて。半音下げただけでも雰囲気が変わってしまうんですよ。なので、大変かもしれないけどこのキーで行くことになって、自分の中で新しい“高音表現”が出来たのではないかなと思っています。
――西間木さんは作詞、作曲、ベースと担当されていますが、今回どんなコンセプトで作ろうと思いましたか。
西間木陽 別れをテーマに作ろうと思い、それをテーマとした楽曲が多く入っています。今回6曲中5曲が別れをテーマにしていて、それらは前に進むための別れだったり、突然訪れた無慈悲な別れだったり色々あるのですが、5通りの別れの表現を海宝だったら出来ると思ったからなんです。でも、それだけだと暗くなり過ぎてしまうということで、海宝からリクエストを受けて作ったのが「キャラメル・シティ」でした。
――バランスを考えられて。
西間木陽 実はもっと暗い曲も候補にはあったんですけど、今の世の中の現状を考えて、前向きに音楽を楽しめるように、という気持ちを込めたかったんです。
――そもそも別れをテーマにしようと思った経緯は?
西間木陽 コロナ禍で会えなくなってしまった人、それは距離的なものもそうですけど、人の死だったり...。僕もそれを経験してこの気持ちの時にしか作れない楽曲があると思いました。どういう楽曲を作るかという以前にこの気持ちをどう掬い取るか、というのを大事にしていました。
――アルバムタイトルは『PORTRAITS』ですが、これは海宝さんが提案されて。
海宝直人 最後の最後に出てきた言葉でした。一旦、打ち合わせを終了して、それぞれ考えてこようと話している中で、僕がトイレに行った時にパッと思いついて。“西間木ワールド”の特徴として、人の想いを掬い取る、それがすごく見えてくるなと思いました。それぞれの表情が見えるようなアルバムになったら良いなと思い、肖像という意味を持つポートレートがいいよねとなって。そこから発展してPORTRAITに“S”を加えた『PORTRAITS』という複数形の言葉になりました。
CYANOTYPEはカオスなエンターテインメントバンド!?
――今作でここを聴いて欲しいというポイントは?
小山将平 全曲それぞれ細かくあるのですが、個人的に気に入っているのが「After the Rain」で、海宝くんの出だしの歌い方が僕の中ですごく新しくてすごく好きなんです。おそらく僕らの10年間を知っている人は「こんなのもあるんだ!」と思ってもらえるんじゃないかなと。あと、「間違傘」のベースラインもすごくカッコいいです。6曲の中だと一番攻めているベースだなと。すごくこだわって作っていたよね?
西間木陽 確かに一番攻めています。「間違傘」は6曲並べた時にロック色が欲しいなと思いました。前作『MONTAGE』と繋ぐような曲になっていると思っています。『MONTAGE』で見せたようなスタイルを捨てたつもりは全くなくて、続いて行く中で変化したアルバムにしたかったというのもありました。また『MONTAGE』のような雰囲気の作品も作りたいし、新しいものにもどんどん挑戦していきたいと思っています。
小山将平 あと、「届かないラブレター」もすごく良くて。女性のコーラスが入ったのも初めてでした。
西間木陽 女性コーラスはアレンジをしてくださった石塚さんのアイデアでした。「届かないラブレター」は男女を描いた曲だったので曲ともリンクしていて。
海宝直人 昔からある曲でシンプルに訥々とやってきた曲だったんです。今回新たにアレンジしていただいて、また違った角度から「届かないラブレター」の魅力を伝えられたのではと思います。
西間木陽 昔からといえば、「運命の環」は今作の中では一番昔からある楽曲です。『MONTAGE』の頃には出来ていたんですけど、そこには入らなかった曲で。今回、アレンジャーの長谷川さんに新しい「運命の環」を見てみたいとリクエストさせていただいたんですけど、中間で登場するギターのフレーズは当時のままで、良いバランスで過去の僕らと今の僕らがミックスされたアレンジになっていて。その時に(小山)将平と話していたのは、不思議な混ざり具合の曲になったよねと。ジャンルで言ったら“リゾートロック”かなみたいな(笑)。
小山将平 その中間で聴けるギターが松原正樹さんのような南国を感じさせるフレーズになっていて、ギターソロは高中正義さんみたいな雰囲気もあって。曲としても混ざり具合が一番カオスな感じがあって。
海宝直人 ある意味この曲が一番CYANOTYPEなのかもしれないですね。
――海宝さんのここを聴いて欲しいポイントは?
海宝直人 「キャラメル・シティ」の<流れる星たちにも見向きもしないで>のセクションです。そこの空気感と言いますか、最後の歌詞をどうするか西間木くんが悩んでいたんですけど、結果的にこの歌詞に落ち着きました。オクターブで歌っているんですけど、コーラスもすごく気持ち良くて、注目して欲しいポイントの一つです。
小山将平 僕も知らない間にそのパートをよく口ずさんでます。
――お気に入りなんですね。最後にどんな姿をファンの皆さんに見せたいですか。意気込みをお願いします!
西間木陽 結成からの10年間で色んな楽曲を作ってきました。それがCYANOTYPEらしさだと思っているので、ここからもどんどん曲を作っていきたいです。その中で違った形で新しいものを見せることができたらと思っています。その楽曲が発表になった時に、あの時に言っていたのはこのことだったのかと思ってもらえるんじゃないかなと思っています。
海宝直人 今回のレコーディングを通してまだまだ可能性はあるんだなと感じましたし、自分たちらしさのあるものを打ち出せていけたら、それが唯一無二のものになるんじゃないかなと思っています。それぞれの表現を追求していったものが、CYANOTYPEで集まった時に化学変化が起きてどんどん枝分かれしていく、もっと追いかけて聴いてみたくなるバンドになって、常にサプライズで楽しませ続けられるバンドでありたいなと思います。
小山将平 10年というのは一つの区切りになると思うんですけど、バンドが長く続けていく秘訣に人間性や音楽性など色々あると思うんです。僕はこの2人の人間性も大好きですし、バンドはこの先も続いていくと思います。続けていく中で、顔に僕たちはライブのMCで衣装も用意してコントをやったことがあるんですけど、それをもっとブラッシュアップして『キングオブコント』も目標にしたくて。
――えっ!そうなんですか!?
小山将平 僕の中で第2の夢がお笑い芸人になることだったので、もしかしたらCYANOTYPEだったら、音楽とお笑いの夢、その両方叶えられるんじゃないかなと思ったり(笑)。カオスなエンターテインメントバンドなので20周年に向けて頑張っていきたいです!
(おわり)