川崎鷹也「どんどん変化していきたい」演技初挑戦で生まれた更なる意欲
INTERVIEW

川崎鷹也

「どんどん変化していきたい」演技初挑戦で生まれた更なる意欲


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年06月23日

読了時間:約8分

 シンガーソングライターの川崎鷹也が、現在公開中の映画『魔女の香水』の主題歌を担当し、同作で演技に初挑戦した。川崎は、桜井日奈子演じる若林恵麻を見守る優しい会社の先輩・河原優也を演じる。映画『魔女の香水』は、仕事が上手くいかない若林恵麻が、黒木瞳演じる魔女さん=白石弥生に出会い、新たな夢に向かって奮闘していく物語。インタビューでは、主題歌「オレンジ」の制作背景から、お芝居を経験し感じたこと、映画『魔女の香水』のみどころについて、話を聞いた。

恵麻を見ていなければ書けてなかった

Ⓒ2023映画『魔女の香水』製作委員会

――俳優デビュー作になりましたが、どのような経緯で出演が決まったのでしょうか。

 元々主題歌を書かせていただくことが決まっていました。その流れで「演技に興味はありますか?」と監督から尋ねていただいたので、「チャレンジできる機会があれば、ぜひやってみたいです」とお返事をしたところ、出演が決まりました。ただ、僕の中ではオフィスの清掃員とかのチョイ役で、「あれ、よく見たら主題歌を歌ってる人じゃない?」みたいな感じだと予想していたんですけど、たくさんセリフがある役でビックリしました。

――脚本を読まれていかがでしたか。

 河原という役をいただいてから脚本を読んだので、小説や物語を読むという感じではなかったです。「あっ、このセリフは僕が言うんだ」とか、未知の世界への不安、演技に対する不透明な部分がすごく多かったので、純粋に脚本の物語を頭に入れるというよりは、頭の中がぐちゃぐちゃしている状態で読んでました。

――今回、俳優も担当されたことによって、楽曲の書き方も変わりましたか。

 変わりました。出演が決まって主題歌に関しては現場で書こうと決めていたんです。家に篭って作るより、現場の雰囲気、例えば桜井さんが笑っているところなどイメージしながら書いた方が、より作品と曲が繋がるなと思ったので楽屋で書いてました。そんな桜井さんの表情、演技を目の当たりにして体感したことが反映されています。

――タイトルの「オレンジ」、このタイトルにはどのような思いを込められたのでしょうか。

 映画の中に金木犀というワードがたくさん出てくるので、それをイメージしたタイトルなんです。自分が過ごしてきた地元栃木の金木犀は割とオレンジ色のイメージが僕の中にありました。大人になって東京で見た金木犀はかなり黄色だなと思ったんですけど(笑)。たぶんこの曲を聴いて金木犀を連想する人はほとんどいないと思うのですが、僕の中の金木犀のイメージがオレンジ色だったので、このタイトルになりました。

――歌詞で伝わったら嬉しいところは?

 河原目線で恵麻の成長を絶妙な距離感で見守っているという曲なんです。歌詞は匂いや髪がなびくなど抽象的な表現ではあるんですけど、映画のワンシーンを切り取って歌詞として落とし込んでいるので、そういったディテールが伝わったら嬉しいです。映像と共に曲を聴いてもらえると、より雰囲気や世界観が伝わるのかなと思います。

――「オレンジ」の歌詞で、今回の経験がなければ書けなかったと思うワードはありますか。

 「オレンジ」はほとんどがそれで、今回の経験、現場での雰囲気がなければ生まれなかったと思います。サビの頭の<柔らかな風に揺れる>とか<髪がなびく音がする>というのは、恵麻を見ていなければ書けてなかったと思います。そして、<オレンジの香りで思い浮かぶ 鮮明な記憶を持つこの残り香>というのも、脚本を読んで、皆さんの演技を見て、物語が進んでいく中で初めて得られた感覚でした。お芝居に参加していなければ、香りをモチーフにした、恵麻が主人公の楽曲になっていたと思います。もしくは黒木さん、魔女目線の可能性もあったと思います。

――さて、『魔女の香水』は人生が変わっていくストーリーでもありますが、川崎さんが人生の転機になった出来事はありますか?

 様々なシーンでいろんな人と出会って、僕はここまで来ました。決して自分 1人の力でここまで来たわけではなくて、僕はこの人とやることに意味があると思いながら仕事をしています。きっと今の事務所の社長じゃなかったら「魔法の絨毯」が入ったアルバムはリリースしていなかったと思いますし、レーベルの方と出会ってなかったら、僕はインディーズでもいいと思っていたので、メジャーデビューすらしていなかったと思います。

音楽との違いは正解を僕が持ってない

Ⓒ2023映画『魔女の香水』製作委員会

――ミュージシャンも役者も表現するという部分では同じだと思うのですが、体験してみて違いはありましたか。

 違いはたくさんありました。音楽との違いは正解を誰が持っているのかというところだと思います。音楽は100%僕が正解を持っていて、でも、お芝居は基本相手がいて、監督さんや演出家さん、照明さんなどがいる。ですので、正解を僕が持ってないというところが大きな違いだと思いました。だからこそ1人よがりではなく相手の表情だったり、監督の意図や何を伝えたいのか、というところまで考える。そういったことを考えながらできるのが、俳優さんの素晴らしいところでもあるなと思いました。

――ご自身の演技、点数を付けるとしたら何点をつけますか。

 満足度で言ったら 80点ぐらいだと思います。もちろん演技の内容だったりセリフの言い方や表情など、お芝居のスキル部分で言ったら2 点ぐらいなんですけど。でも、その時できる自分のマックスは出せたなと思っています。僕は3日間ほど撮影したのですが、3 日目ぐらいになると、初日の演技に不満みたいなものが出てくるんです。ですので、残りの 20点というのは初日の部分に対してです。もちろんその時は全力でやってるので、初日の時点では後悔はしてないんです。2 日目、3 日目を経験して初めて初日の後悔になるので、そういう意味では全力で心込めてがむしゃらにできたと思います。

――共演者の方と一緒に撮影して、どんなところに凄みを感じました?

 演技をする上で緊張している姿というのは見せてはならないと思っていて、おそらく桜井さんも黒木さんもある程度緊張はされてると思うんですけど、全くそれが表に出ないんです。とても自然体な姿で演技をされるのですごいなと思いました。あと、バミリを見なくてもスッと立ち止まれたり、それってどういう感覚なんだろうと思いました。僕はチラッと見ないと無理でしたから。

現状維持は衰退

村上順一

川崎鷹也

――本作は恵麻の成長物語でもありますが、川崎さんが思う成長に必要なものは何だと思いますか?

 向上心だと思います。現状維持は衰退だと僕は思っているので、常に昨日の自分を超えられるか、ということしか僕は考えていないので、それはきっと向上心だと思っています。その向上心に繋がるものにはいろんなものがあって、家族の存在や誰かに認められたい承認欲求など、色々あるのですが、ざっくりしたところで言うと、向上心がないと何も生まれないと思います。恵麻は向上心の塊のような人なので、自分が自分を誇れるかどうか、それが大切な気がしています。

――黒木さん演じる白石弥生のセリフがすごく格言のようで、刺さるものがありました。川崎さんは自身に響いたセリフや言葉はありました?

 「仕 事 は 舞 台 。 あ な た は 女 優 よ 」、といったニュアンスのセリフがあったと思うんですけど、それは僕にも当てはまることだなと思いました。常に見られている立場で、それはプライベートやステージでも一緒で、例えばコンビニで買い物してる時も常に見られている、という意識を持ってるかどうかで表情は変わっていくなと、改めてこの映画を通して本当にそうだなと思いました。

――香りや匂いと聞いて思い出すことはありますか。

 香水はこの映画に出演が決まる前から好きで、僕はプライベートと仕事で使う香水を変えてます。音楽の現場やこういう取材だったりとか、仕事の時の香水は決まっていて、それが僕の1 つのスイッチにもなるので、プライベートではつけないときもあります。

――特にどんな香りを好まれてますか。

 香水にはトップノート、ミドルノートとか色々あるんですけど、甘くなくて、匂いが残りすぎない香水をつけています。爽やかな香が好きなので、僕が使う香水は基本的に柑橘系です。

――川崎さんが、いま追求していきたいことはありますか。

 言葉の言い回しだったり歌詞のワードのチョイスは、今後どんどん変化していきたいですし、追求していきたいと思っています。この映画の脚本を読んだ時に、僕が使わないような言い回しや表現がたくさんありました。今回の経験を経て歌詞の作り方だったり、着眼点をどんどん変化させて、進化していきたいと思いました。

――川崎さんが思う『魔女の香水』の見どころを教えてください。

 この作品は悩みだったり、歯がゆい思いなど、上手くいっていない部分を自分と照らし合わせることができる映画だなと思います。自分が経験してないようなことを映画を通して感じて、刺激になる作品というよりは、自分の悩みや思いを恵麻に投影させながら見られる作品だと思うんです。恵麻の成長が見どころだと思いますし、恵麻にとっての魔女さんみたいな存在に、皆さんも出会えたらいいなって。この映画を通して明日からまた頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいなと思います。

――いま悩みはありますか?

 悩みという悩みは僕はあまりないです。むしろ悩みがないことが悩みかも(笑)。その日あった嫌なこととか、次の日に絶対持ち越さないので、ストレスもあまり感じないんです。ただ、この前まで全国ツアーをしていて、撮影もしていたので、喉を潰してしまったことがあったのですが、知らず知らずのうちに体にガタが来て、自覚していない疲れみたいなものはあるんだなと感じています。

――最後に映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 まずは僕の拙い演技をどういう風に捉えていただけるか楽しみです。そして、観てくださったみなさんが、自分を鼓舞するような映画になっていたらいいなと思いますし、自分のスイッチを入れるきっかけみたいなものを、見つけてくれたら嬉しいです。

(おわり)

ヘアメイク:髙徳洋史(LYON)

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村上順一
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