岩崎琢、映画『シン・仮面ライダー』劇伴制作の舞台裏に迫る
INTERVIEW

岩崎琢

映画『シン・仮面ライダー』劇伴制作の舞台裏に迫る


記者:村上順一

撮影:©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員

掲載:23年04月17日

読了時間:約7分

 4月12日に『シン・仮面ライダー音楽集』がリリース。同作は全国公開中の庵野秀明監督が手掛けた映画『シン・仮面ライダー』の劇判音楽集で、本編を彩る楽曲を集めた2枚組CD全44曲を収録。音楽を手掛けたのは、『R.O.D』『ヨルムンガンド』『天元突破グレンラガン』『黒執事』『魔法科高校の劣等生』『文豪ストレイドッグス』などを手掛けた作曲・編曲家の岩崎琢氏。(「琢」は、「王」と「豕」に点がついた旧字体)MusicVoiceでは岩崎氏に映画『シン・仮面ライダー』の劇判制作の舞台裏から、気鋭の作曲家がいま追求していきたいことを聞いた。

なぜ僕に?

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員

――どのような経緯でオファーを受けたのでしょうか。

 庵野監督の作品で『シン・仮面ライダー』であるということも、明かされずにオファーをいただきました。しばらくして、今回の作品は『シン・仮面ライダー』ですという話で、こんなこともあるんだねという。庵野監督とは今まで接点がなかったので、なんでいきなりそんな話が来たのか不思議でした。大きなタイトルの場合、何か明かさないで来るということはままあることではありますけど。なぜ僕に?って(笑)。

――岩崎さんは庵野監督にどのようなイメージを持たれていますか。

 これまで接点がないかたで、まさか今後も関わることはないだろう、というくらいの認識しかなかったので、特に既存のイメージはなかったですね。

――岩崎さんはアニメの劇判のイメージが強いんですけども、特撮という形態となると意識的に変わるところはありましたか。

 こういった作品はほとんどやったことがないですから。これが例えば今テレビでやってるような『仮面ライダー』シリーズだったら、ちょっと僕はやりづらいなと思ったかもしれません。基本的に子供向けとされる作品じゃないですか。僕はいわゆる今テレビでやってる特撮の音楽を作ってきたわけではないので、子供でもわかるようなものを作ってほしいと言われたら、ちょっと難しかったんじゃないかなと思います。でも、『シン・仮面ライダー』というある意味特殊な作品だったので、そこはやりやすかったです。

――庵野監督と、打ち合わせとかされたのでしょうか?

 ほぼ打ち合わせらしい打ち合わせはしていなくて、そのまま流れで制作に入った感じでした。でも、お任せというわけでもなくて。とりあえず曲を作って監督に気に入ってもらえれば、それが次のラッシュ(撮影終了後の編集途中のもの)映像に音楽がついているといった感じでした。僕は聴いてくれた人に何かを与えようとは一切考えてなくて。とにかく庵野監督が満足すればそれが一番良いことだと考えて作っていましたから。

――1番最初に作った曲はどの曲からでしたか。

 本当に1番最初に作った曲は使われていなくて。特報映像に使われている曲、サントラの2曲目「AUG I」は割と最初の方に作ったものでした。とはいえ、当初は、特報映像のために作った曲ではなかったんですけど。

――あまりリクエストがない中、何をガイドに制作されたのでしょうか。

 完成に近いラッシュが上がってきた時に、ガイドになるような音楽がついていたので、その雰囲気を参考にして作っていきました。

――一般的なフィルムスコアリング(できあがった映像に対して音楽をつけていく方法)とはちょっと違うんですね。

 最初のラッシュが来て、最終形態に至るまでに尺も変わるし、映像のパートも変わるので、フィルムスコアリングのやりようがなかった(笑)。映像が完璧にできてない状態であることは当たり前として、音楽を同時進行で作っているので、そういう意味ではテレビシリーズにちょっと近いやり方だったと感じています。

――岩崎さんはどちらの方がやりやすいんですか。

 映像があるんだったら完璧にあった方がいいし、なければ全くない方が僕はやりやすいかな。今回ちょっと映像があるぐらいだったのでかなり大変で、僕の中では一番やりにくいパターン(笑)。尺も変わるし、曲が使われる部分も変わる。例えばAというパートのために作ったはずなのに、いつの間にかBに貼られていて、しかもそのパートの尺が変わったり。

セリフをしっかり聞かせることができて良かった

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員

――イレギュラーなことが起きるんですね。庵野監督から変わったリクエストというのはありましたか。

 僕の曲に関してはなかったかな。しいていえば楽曲「レッツゴー!!ライダーキック」のアレンジもしたのですが、「レッツゴー!!ライダーキック」を現代の音楽として通用するには、どこまで調整をすればいいのかということに関して、監督はけっこう悩まれていたみたいです。最終的には「あえて印象を大きく変えてみてほしい」みたいな感じのリクエストで、いまの最終形が出来上がりました。

――「レッツゴー!!ライダーキック」リアレンジされたバージョン、すごくかっこいいなと思ったんですけど、「レッツゴー!!ライダーキックDouble Kick ver.」いうのもすごく斬新なアレンジですよね。これはどんな気持ちで作られたのでしょうか。

 サックスなどのブラスであったり、割とオリジナルを踏襲したアレンジのもの、それを全部大幅に変更したものと2種類あるんだけど、「レッツゴー!!ライダーキックDouble Kick ver.」は、さすがにこれは採用されないだろうなと、かなり飛び道具のようなイメージで提出しました。意外にも監督は「これがいい」という話になって、これは参ったなと思いました(笑)。

――ちなみに、岩崎さんご自身の中でテンション上がった曲は?

 曲というわけではないんですけど、映画の最後、本郷と一文字隼人の重要なシーン、 そこに2曲音楽をつけました。曲と曲の間に一文字が絶叫するシーンがあって、僕はそのセリフを聞かせたいがために、ちょっとゆったりとした曲を作ったという経緯があります。音楽よりもそのセリフを聞かせたかった。映像に音をあてながら調整している段階で、絶叫してるところにも曲が流れているパターンもあったけど、最終的には僕がイメージしていた通りに、1曲終わってから一文字隼人のセリフがあって、次の曲が始まるという流れになったんです。そのセリフをしっかり聞かせることができて良かったです。

――「perdao」(aはチルダ付き)という曲と「sucessao」(aはチルダ付き)という曲ですよね。なぜ、タイトルはポルトガル語にされたんですか。

 正直、ポルトガル語にすることでちょっと逃げちゃった(笑)。

――(笑)。でも、タイトルをつけるのは大変ですよね。曲数も多いですし...。

 うん。だから考えたり、考えなかったり様々です。

――ちなみにサントラの3曲目に収録されている「N.U.T. I」はどういう意味なんですか。

 これはNon Used Track(ノンユーズトラック)の頭文字を取ったタイトルで、要するに映画の中では使われなかった、ダビング時にカットになってしまった曲です。

――ある意味貴重ですね。今回新しい機材を使われたりとかされてるんですか。

 いつも機材は入れ替えていて、使ったり使わなかったりはするので、特定するのは難しいなあ。

――では、いまお気に入りの機材は?

 今は「Studio Electronics Code」というシンセを気に入ってよく使っていて、日本で使ってる人はたぶんそんなにいないと思います。2000年代ぐらいのアナログシンセで、まだ現行品として作られているんですけど、“生きた化石”みたいなシンセです。『シン・仮面ライダー』では、目立つところでという感じではないけれど、けっこう使ってますね。

――岩崎さんが今回の制作を通して、音楽的に気づいたことや発見したことはありますか。

 うーん、今回特別に、発見というのはなかったかな。というのも割と手持ちのカードを色々切って作っていった感じでした。まあ、そこで勝負せざるをえなかったというのもあるのですが。

――岩崎さんがこれから追求していきたい、探求していきたいことはありますか。

 AIとの共存方法かな。これから音楽家というのは新しいテクノロジーであるAIといかに共存するか、そしてAIに食いつぶされないかということを考えなければいけない時代になってきました。おそらく5年以内によりそうなっていくんだろうと思っていて、自分が生き残っていくための1つの課題でもあります。

――AIの活用方法としては、どんなこと考えられてるんですか。

 まずは今AIは何ができるのか? 何をやっているのか? というところからです。何をどういう風に解析して、それをアウトプットしていくのか、ということを僕が学習しないといけませんね。

(おわり)

『シン・仮面ライダー』音楽集 発売中
https://www.shin-kamen-rider.jp/music.html

岩崎琢プロフィール

 1968年1月21日生まれ、東京都出身の作曲家/編曲家。 東京芸術大学作曲科卒業。大学卒業後に音楽活動を開始。
99年の『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』より本格的にアニメ作品の音楽を手掛ける。
主な作品『R.O.D』『ヨルムンガンド』『天元突破グレンラガン』『黒執事』『魔法科高校の劣等生』『文豪ストレイドッグス』の劇伴など。※岩崎たくの「琢」は、「王」と「豕」に点がついた旧字体

この記事の写真
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事