INTERVIEW

熊谷彩春

「100%捧げたい」ミュージカルへの想いと情熱


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年11月28日

読了時間:約7分

 女優の熊谷彩春(22)が、11月27日より東京建物 Brillia HALLを皮切りに上演されるミュージカル『東京ラブストーリー』に出演。永尾完治と三上健一の高校の同級生で、東京の保育園で働く関口さとみを演じる。

 熊谷は『レ・ミゼラブル』オーディションで史上最年少の16歳でコゼットに抜擢され、19年21年公演に出演。他にも『天保十二年のシェイクスピア』『笑う男』など数々の作品に出演し、今年は日生劇場みんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』主演ノノ役をつとめている。

 『東京ラブストーリー』は漫画家・柴門ふみによる原作で、東京を舞台に若者たちの恋の葛藤を描いた群像劇だ。1991年に放送されたドラマ版は社会現象になり、2020年にはキャストを変更し、リメイク版が配信された。そして、2022年にミュージカルとして同作が蘇る。

 ミュージカルは空キャストと海キャストのダブルキャストで公演が行われる。熊谷は永尾完治役の濱田龍臣、赤名リカ役の唯月ふうか、三上健一役の増子敦貴(GENIC) ら20代で構成された海キャストに出演。音楽はブロードウェイの第一線で活躍し、グラミー賞を受賞している音楽家のジェイソン・ハウランドが担当。登場人物やストーリーに寄り添った音楽で舞台を彩る。

 インタビューでは、当時魔性の女と言われた関口さとみをどのように演じようと考えているのか、舞台に上がる時に心掛けていること、ミュージカルの魅力など熊谷に話を聞いた。

さとみの行動はすごく理解できる

村上順一

熊谷彩春

――10月に『リトル・ゾンビガール』が千秋楽を迎えましたが、いかがでした?

 子どもを対象にした公演というのは初めての経験でした。全国各地を回らせていただいて、ミュージカルに普段触れたことがない子どもたちも、学校の行事で観にいらしていました。子どもたちは初めての観劇ということもあり、「ノノがいる!」とか思ったことを声に出しちゃうんですよね(笑)。私もこんな風にダイレクトに伝わる公演は初めてだったので、やりがいを感じました。

 終演後にコンビニに行ったのですが、小学生の子たちがバスを待っている列があって、そこでカーテンコールで披露したダンスを踊ってくれていたんです。こんなにもみんなの心に響いたんだと感動して、私も勇気をもらいました。

――どんな気持ちで舞台に立っていたのでしょうか。

 私は小さい頃に観たミュージカルが原点となっていて、いま舞台をやっているので、この『リトル・ゾンビガール』を観てくれた子どもたちが、昔の私と同じように感じてくれたら嬉しいなと思いながらやっていました。

――そして、今回『東京ラブストーリー』に出演されます。出演が決まった時の心境は?

 ドラマを観たことはなかったのですが、タイトルは知っていました。出演することを母に伝えたら、母は世代なので、「ミュージカルになるの!」とすごく驚いてました。さとみ役に決まったことを話したら、「あのさとみをやるの?(当時)すごく嫌いだった!」と爆笑されました。

――すごい展開でしたから(笑)。

 私はさとみに感情移入している分、さとみの行動はすごく理解できるんです。特に原作を読むとすごく頑張っている女の子というのが伝わってきます。原作とドラマを観たのですが、もがき苦しみながらも東京で必死に生きていく姿を描いた群像劇のようなところもあるなと思いました。ミュージカルでは、そこも表現できたらと思っていますし、原作、平成版、令和版でもそれぞれ違ったさとみがいたので、私もミュージカル版で新しい「さとみ像」を作っていきたいです。

――関口さとみは保育士なのですが、熊谷さんも実際に保育士を体験されたみたいですね。

 はい。友人が保育士をやっているので、まずは話を聞かせてもらいました。その時に「体験してみる?」と言ってもらえたので、私も「やりたい!」と返事をして、1日保育士体験させてもらいました。もう、本当にヘトヘトになってしまって、経験してみないとわからない苦労も沢山ありましたし、逆に幸せも感じることができて、体験してみて本当に良かったです。

――リアル体験が演技に生かされて、より立体的になりそうですね。その中で難しさを感じている部分も?

 どの登場人物もそうなんですけど、表で見えていることと、心の中で思っていることが違います。そのぶつかり合いで物語が進んでいくのですが、それを上手く表現していくのが難しいなと感じています。見えているものが全てじゃないというのをどう表現したらいいか、悩みながらも頑張っているところです。

――共演者の皆さんとはどんなコミニュケーションを?

 濱田龍臣くんと増子敦貴くんは同年代で、唯月ふうかちゃんは昔から良くしてくださっている仲良しの先輩であり、友人なので本当に居心地が良い現場です。私、同い年とお仕事するのがこの舞台が初めてなので、すごく新鮮なんです。ちょっとみんなぶっ飛んでいて、天然のキャラが多いなと感じています(笑)。稽古の帰り道はみんなでワイワイ話したり、お芝居の話をしたりするんですけど、すごく楽しいです。

――お芝居のお話はどんなことを?

 例えば、このシーンってこの前にどんなことがあってここに繋がっているんだろうね?とか、セリフの意図などについて話したりしています。あと、濱田くんは子役からやっているので、芸歴が20年くらいあるんですけど、彼が出演した映画の撮影エピソードだったり、色々お話してくれるので、すごく勉強になります。

――いい環境なんですね。ところで、ご自身と関口さとみの共通点を探したりもされました?

 はい。さとみは自分探しをしている途中で、そこが私とすごく重なりました。私は「本当の自分って何なんだろう?」と考えることがあるのですが、それがわからないことで背伸びをしてしまったり、自分が不本意なことも受け入れてしまったりするんですけど、そこも理解できるなと思いました。

――役者さんは色んな人物になるので、自分自身というのは見失ってしまいそうですね。

 それもありますよね。私の場合、その役をやっている時は食べたいものまで変わってしまうことがあります。和の作品の時はオニギリが食べたくなったり、海外作品だったら、その国のものを食べたくなったり、影響はすごく受けてしまいます。それもあって面白い職業だなと思っています。

ミュージカルに100%捧げたい

村上順一

熊谷彩春

――さて、今回作曲/編曲はグラミー賞受賞作曲家のジェイソン・ハウランドさんが担当されていますが、ジェイソンさんの曲を歌ってみていかがでした。

 登場人物の心情に寄り添って作曲をされている方なんだなと思いました。ジェイソンさんも『東京ラブストーリー』の原作を読まれたり、作品について深く考えたみたいで、群像劇として描きたいということでした。それぞれの心情に寄り添った曲なので、すごく私たちも曲に入り込みやすくて、そのまま喋るような感覚で歌えてしまうんです。ミュージカルの魅力は、それぞれが全く違う心情を同じ曲で歌うところにあると感じていて、それはミュージカルでしか表現できないことだなと思っています。

――ジェイソンさんと会話も?

 ワークショップの時にお話しさせていただいたのですが、すごく気さくな方で、休憩のたびに話しかけてくださいました。ワークショップが終わってからもDMでやりとりしていて、「君たちが素敵な歌を歌ってくれたおかげで制作発表会はすごく良かったよ」とメッセージを下さいました。壮大な曲からポップな曲まで幅広い音楽がこのミュージカルで聴けるので、ぜひ注目してほしいです。

――楽しみです。熊谷さんが舞台に立つにあたって心掛けていることは?

 100%やり切るというのはこだわっていることです。役作りもそうですし、演じるために自分が体験できることは全部やろうという意気込みでやっています。努力をしたからそれが報われるかといったら、そうではないかもしれないんですけど、努力することで成功する確率を増やしていけるならば、命を削ってでも何でもやりたいと思っています。

――それは後悔をしたくないから、というのもありますか。

 後悔というよりも、私がミュージカルを崇めてしまっているからかもしれないです(笑)。私がそんな神聖なミュージカルを汚してはいけない、といった感覚かもしれません。もうミュージカルに100%捧げたいと思ってしまいます。このお仕事ができて本当に幸せです。

――そういうものが幼い頃から見つかったことは幸運ですね。

 本当にそう思います。色んなものに触れさせてくれた両親に感謝しています。私がやりたいと言ったものは全部やらせてくれて、そこで大好きなミュージカルに出会うことができたので、色んな経験をすることは大事だなと改めて思います。

(おわり)

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