緑黄色社会が、9月16・17日の2日間にわたって日本武道館で『緑黄色社会×日本武道館 “20122022”』開催した。

 「みんな、ここが武道館だよ。連れてきてくれてありがとう! 今日は、私たちの音と、みんなの気持ちで、この武道館をいっぱいにしたい。何にも心配しなくていいよ。私たちに全部預けて、心の底からこの空間を楽しんでね!」

 「Alice」「merry-go-round」「Bitter」と序盤から熱いクラップの輪を描き出したところで、長屋晴子(Vocal & Guitar)はそんなふうに満場のオーディエンスに呼びかけていた。そして、続く「始まりの歌」では場内のライトが目映く点灯して、歓喜に沸き返る日本武道館を鮮やかに照らし出していった――。

 2012年のバンド結成から10周年を迎えた今年・2022年、緑黄色社会が9月16・17日の2日間にわたって日本武道館で開催した単独公演「緑黄色社会×日本武道館 “20122022”」。自身初の武道館ワンマンとなる今回のライブは両日ソールドアウト。各日8,000人・トータル16,000人の観客とともに作り上げた今回のステージは、武道館という大舞台からさらに「その先」を志すバンドの冒険心を克明に伝えるものだった。

(撮影=安藤未優)

 今回の武道館公演では、「陽はまた昇るから」や「Shout Baby」、「sabotage」などシングルナンバーはもちろんのこと、「始まりの歌」「Re」といったインディーズ時代からの重要曲、さらには高校時代の4人が名古屋・大須のスタジオで初めて音を合わせて生まれた楽曲「マイルストーンの種」まで、10年間の歩みが2日間のセットリストの形へと結実していた。

 溌剌としたバンドアンサンブルが弾ける「始まりの歌」や「あのころ見た光」、晴れやかな包容力に満ちた「愛のかたち」、ミステリアスなドラマ性が滲む「LITMUS」(9/16)、ピアノバラードからシューゲイザー的な荘厳な音像へと展開する「Re」、2020年代を代表するポップナンバーとなった「キャラクター」や「Mela!」……。4人全員が作曲を手掛け、類稀なる演奏力・表現力でジャンルの垣根を無効化してきた緑黄色社会。だが、今回の武道館公演から浮かび上がってきたのは、「自分たちだから作れる音楽」「どこにもない未知の音楽」「誰にでも届く音楽」という命題をひとつひとつ形にしてきた、4人の創造性と才気のスケールだった。

 《流行りは廃る/花は枯れる/全て終わってゆくのにな/どうして逆らいたいんだろう/果てる景色を愛したい》という真摯な歌詞を通して、不確かな時代に「確かなもの」を音楽で追求する意志を綴った「時のいたずら」。《流れた滴に/生まれた理由の味がした/ダメになってここからだ/位置につけ"Re"スタート》と不屈の挑戦精神をパンキッシュに突き上げた「S.T.U.D」。コロナ禍によって2ndアルバム『SINGALONG』CD盤発売延期とツアー中止を余儀なくされた2020年、CDに先駆けて配信リリースされた『SINGALONG』から国民的ナンバーとして日本全国で愛されることとなった「Mela!」。緊急事態宣言下で制作され、困難に屈することなく前進し続けた緑黄色社会の象徴として『SINGALONG』に加えられた「夏を生きる」(9/17)……。激動の時代の真っ只中にあった緑黄色社会の10年史を、4人が自分たちの力でひとつひとつ栄光の歴史へと塗り替えてきた――という事実を、今回のライブは改めて明確に指し示していた。

(撮影=安藤未優)

 2022年、今回の武道館2日間公演を目前に控えた8月下旬には、長屋の新型コロナウイルス感染がアナウンスされるという状況もあったものの、どこまでも伸びやかな歌を響かせた長屋をはじめメンバー全員が、多くのアーティストが名演を刻んできた武道館のステージで至上のアクトを繰り広げてみせた。今なお不安材料が山積する時代の中で、ひたむきに前進することで道を切り開いてきた4人の姿は、武道館という最高の場所で希望として映った。

 客席にはまだ歓声もシンガロングも鳴り渡ることはなかったが、ライブ全編で巻き起こっていた会場一面のクラップは、オーディエンスの「魂の合唱」そのものだった。

 「高校生の時にこのメンバーに出会って、緑黄色社会のひとりとして音楽をスタートしました。それが、死ぬまで私の誇りで、唯一の人生の転機だと思っています」と、peppe(Keyboard)はバンドへの想いをまっすぐに語っていた。

 「ビートルズとか、神々のようなミュージシャンと同じステージに立てて、しびれるほど嬉しいですけど、『ここをゴールだと1mmも思わない、むしろスタートだと思おう』と心に決めていた」という言葉に、穴見真吾(Bass)は音楽家としての闘志をたぎらせていた。

 「3年前だったら武道館を埋められなかった」「何の意味もないバンド名に、みんなが大きな意味をくれた」という感慨越しに、小林壱誓(Guitar)はファンとともに成長してきた10年史を振り返っていた。

 そして、「今日ここに立ってみてわかりました。武道館って『決意の場所』なんだって」と初武道館の実感を語っていた長屋は、「私たちはバンドを組んだ頃から『国民的な存在になりたい』ってずっと言ってきました。こうやって武道館の日の丸の下でライブができたことで、その夢にまた近づけた気がします」と“夢の途中”のリアルな視線を伝えていた。

 《憧れていた自分になれたかな》――ライブ後半に披露された「あのころ見た光」では、メンバー4人のこれまでの数々のライブ映像が、武道館に立つ“今”の姿とともにLEDスクリーンに映し出されていた。“あのころ”の情熱や衝動を抱きしめたまま、自らの夢へと一歩一歩踏み出している緑黄色社会の在り方が、そんな場面にも凝縮されていた。《今見えてるあの光が/誰かが放ったものなら/ねぇ 僕らが飛び込むその時/誰かの光になれるかな/照らし出すよ 君を》というフレーズが、夢を糧に夢を追う4人の現在地が重なって、抑え難く胸が震えた。

 「私たちが初めて東京でライブをした日――まだみんな高校生だったんだけど、ある大会の決勝戦で、日比谷の野音のステージで歌いました。私、そこで言ったの。『私たちを、《ここでライブをしたバンド》で終わらせないでください』って。大口叩いてさ、笑っちゃうじゃん? でも、今でもね、すごいカッコいいこと言ったなって思う。そして今、あの時のまったく同じことを思ってる。『私たちを《武道館に出たバンド》、それだけで終わらせないでください』って。頼もしい、大好きなメンバーと、いつもあたたかい、愛おしいみんなと、もっともっと先に行きたい」

 焦燥の中から決然と意志を掲げた高校時代の思い出を、長屋は「今」と地続きのものとして語っていた。結成10周年記念日・7月4日に配信リリースされた最新楽曲「ブレス」の《諦めたい夢なんかなくて/手に触れて確かめたい》というラインが、この上なく切実なメッセージとして胸に響いた。

 1日目のライブ中にはバンド主催の自主企画ライブ「緑黄色夜祭vol.11」の開催が発表され、2日目の開演直前には新曲「ミチヲユケ」が日本テレビの10月期ドラマ『ファーストペンギン!』の主題歌に決定したことがアナウンスされ……といった具合に、武道館2日間の間にも新たな情報が次々に飛び出していた。そのたびに、「もっともっと先の景色が見たい」という長屋の言葉が、よりいっそう説得力をもって迫ってきた。

 「10年もあるとさ、いろんな決断をすることがあるよね。10年前――もうちょっと前だけど、メンバーに出会って、連絡したり、声をかけたり……『自分がしてきた決断は間違いじゃないよ』って、もちろん今までも何度も思ってきたけど、ここに2日間立って、改めて自信を持って、『間違いじゃなかったよ』って思えました」……武道館の歴史に新たな足跡を残した2日間を振り返って、長屋はそんなふうに語っていた。満場の観客とともに「緑黄色社会の10年史」を総括し祝福すると同時に、バンドの「これから」へ向けての新たなスタートラインでもある、金字塔的な名演だった。【文:高橋智樹】

(撮影=安藤未優)

[セットリスト|9/16]

01.Alice
02.merry-go-round
03.Bitter
04.始まりの歌
05.真夜中ドライブ
06.陽はまた昇るから
07.愛のかたち
08.inori
09.LITMUS
10.LADYBUG
11.Shout Baby
12.マイルストーンの種
13.時のいたずら
14.Re
15.SINGALONG
16.sabotage
17.S.T.U.D
18.あのころ見た光
19.キャラクター
20.Mela!
21.ブレス

▼BONUS STAGE

01.またね
02.これからのこと、それからのこと

[セットリスト|9/17]

01.Alice
02.merry-go-round
03.Bitter
04.始まりの歌
05.アウトサイダー
06.陽はまた昇るから
07.愛のかたち
08.inori
09.想い人
10.夏を生きる
11.Shout Baby
12.マイルストーンの種
13.時のいたずら
14.Re
15.Actor
16.キャラクター
17.S.T.U.D
18.あのころ見た光
19.sabotage
20.Mela!
21.ブレス

▼BONUS STAGE

01.またね
02.これからのこと、それからのこと

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