クミコ「広い河の岸辺」ヒットの背景に被災経験、日台の架け橋へ 台湾で広める動きも
木山善豪さんによるクミコ(写真右)への取材の様子
NHKの連続テレビ小説『花子とアン』や『マッサン』で主人公が口ずさんだ原曲を歌ったクミコの「広い河の岸辺」が異例のヒットを続けている。その要因の一つに、東日本大震災におけるクミコの被災経験があるという。そして今、この楽曲を台湾にも広めようとする動きがある。
同曲は、NHKの連続テレビ小説『花子とアン』や『マッサン』で主人公が口ずさんだスコットランド民謡「The Water Is Wide」を、ケーナ奏者のやぎりんが自身の経験をもとに日本語詞を付けたもの。絶望のふちに立ちながらも、かすかな希望を見つけて1歩踏み出そうという思いが込められている。
日本では、40代や50代の中高年層を中心に支持を集め、オリコン演歌・歌謡曲チャートでは22週(5カ月)連続トップ50入りを記録、そして昨年12月29日付で1位となった。レコード会社の担当者によれば、CDは再入荷してもすぐに売り切れてしまう現象が起きたという。
注目を集めるきっかけとなったのは前記のドラマであるが、この楽曲がヒットした背景には東日本大震災におけるクミコの被災経験があると、日台で情報サイトを運営するASIAエンタテイメントのメディアプロデューサーである木山善豪さんは分析する。
木山善豪さんは「なぜ300年以上も前からあるスコットランド民謡が今、日本の中高年に共感され、勇気づけているのか」と疑問に思いクミコに取材を実施。そこで浮かび上がってきたのは同曲に懸けるクミコの想い入れの強さだった。
クミコは東日本大震災が起きた2011年3月11日は、被害が大きかった地域の一つ宮城県石巻市でコンサートに向けたリハーサルを行っていた。地震発生とともに地元住民と高台に避難した経験があり、復旧復興への願いをこの楽曲に重ねているという。
「『広い河の岸辺』という曲を初めて聴いた時、『河は広く、渡れない』という歌詞が『元北上川』を連想させ、復興への道のりがまだまだ遠い事を感じてしまいました。しかし、絶望の中にも希望は必ずあるのだということを、この歌は教えてくれます」(クミコ)
クミコの思いを知った木山さんは、自身の情報サイト「Bimajin」(台湾版)などでこれを紹介。更に「いま様々な問題を抱える台湾でもこの歌を広めることが出来たら」と、知人の台湾歌手・寒雲(かんうん)に「広い河の岸辺」の中国語訳詞を依頼した。
依頼を受けた寒雲は「クミコさんの歌声、八木さん(やぎりん)の訳詞は素晴らしい。この『広い河の岸辺』という名曲に出会えた瞬間から、歌詞の世界観に共感しました。台湾でも広めたいと素直に思ったので、中国語訳詞をさせていただけることは心から嬉しく、そして使命とも感じております」と感動し、何度も楽曲を聴き返したという。
台湾は、被災地に200億円を超える義援金を寄せたことでも知られている。クミコは「どれだけ多くの被災者、いえ、日本人が励まされたかしれません。震災でご恩のある台湾の方が、この『広い河の岸辺』に関心を持ち、中国語訳詞をつけて台湾でも伝えたいと言ってくださったことは、本当に嬉しいことでした。こんな喜びはありません。広い海を隔てた日本と台湾。そこをツナぐ希望の舟に、この歌がなれればいいなあと思っています」と述べている。
また、木山さんも「八木さんとクミコさんが日本各地へこの曲を届けたように、私たちも『広い河の岸辺』を中国語で唄い広めることで、台湾の方々にも勇気と希望を与える事が出来るかもしれないと思うと今からとても心が躍る思いです」とし、寒雲も「国や習性、思想などが違っても、人間の根本的の『心』はほぼ同じですね」と語っている。
340年以上歌い継がれているスコットランド民謡が、日本でヒットしている背景には、こうした作者、歌い手の深い思いがある。