桑田佳祐の最新ライブ映像作品『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』が6日にリリース。本作の発売を記念して、完全生産限定盤同梱のボーナスディスクに収録される、約70分に及ぶドキュメンタリーフィルム「Documentary of BIG MOUTH, NO GUTS!!」が、全国5都市の映画館で2日、プレミア上映された。

ツアーの裏側を克明に記録

『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』ジャケ写

 桑田は、昨年9月15日にリリースしたEP(ミニアルバム)『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』を携え、リリース直後から大晦日にかけて全国10箇所20公演の有観客アリーナツアー『桑田佳祐 LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」supported by SOMPOグループ』を開催した。

 ドキュメンタリーフィルムは、東日本大震災から半年後に行なった「宮城ライブ〜明日へのマーチ!!〜」から丁度10年となる2021年9月に宮城から始まり、コロナ禍という激動の世の中に寄り添うように、日々変化していくライブの様子、ミュージシャン、スタッフへのインタビューも交え、浮かび上がる知られざるツアーの裏側をまとめている。その内容は、誰もが立ちすくんだコロナ禍という現象の最中での新たなエンタメの創造性と実現の詳細とも言えるものだ。

 公演の裏側で桑田とメンバーとスタッフの様々な挑戦があったこと、演出の緻密な調整、ツアー中のセットリスト変更、色とりどりのアレンジの変化、状況を見て、終演後の桑田の手書きメッセージの文言も変えていたこと、各地での桑田の想いやプライベートな一面なども、あらゆる要素が網羅されている。

歴史的状況下での創造性と実現

『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』(撮影=西槇太一)

 プレミア上映会では、桑田が示した“コロナ禍におけるエンタメの在り方”の記録が映し出された。それは、桑田を始め、メンバーやスタッフ、関係者の思いと絆が、息遣いまでも感じるかのごとく生々しく伝わってくるものだ。

「これが始まりなのかな、という気がします」

 という桑田の言葉が、映像の冒頭とラストで伝えられた。その言葉からは、新たなエンタメのかたちを作り上げ、成功させたという意味合い、有事におけるライブ開催への対応、従来とは異なるお客さんとのやりとりの作り方の提示など、様々な希望を感じさせてくれる。

 コロナ禍でのライブ開催にあたり、ミュージシャンや演者、関係者は苦しい状況に向き合うこととなってしまった中、無観客ライブやオンラインライブなど、数々の制限下で人々の心を満たす活動を行なった。また、コロナ禍となった2020年、2021年と、有観客でのライブ開催は決して容易なものではなかった。

 ドキュメンタリーフィルムでは、それらの葛藤と、果敢な挑戦と、復興の狼煙と、新たなエンタメの在り方の構築と、新型コロナウィルスとの戦いのもようがリアルに収められている。大成功をおさめた20公演の有観客アリーナツアーの「知られざる舞台裏とそれぞれの想い」にプラスして、「歴史的状況下での桑田の創造性と実現」が収録されていると言えるのではないだろうか。

覚悟を決めて矢面に立った桑田がもたらした社会的影響

『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』(撮影=西槇太一)

 「お客さんは声が出せなくて、拍手だから――」という状況を鑑み、桑田が、お客さんとのコール&レスポンスを手拍子に置き換えるアイディアを生み出し、メンバーと微調整をするやりとりが印象的だった。映像では、お客さんの気持ちに寄り添った桑田の深く温かい思いやりが、様々な部分で見られる。

 桑田は「ウィズコロナでエンタメをするヒントになった」とも述べる。それは、反応が拍手だけという点について、「すごく独特で、今まで経験したことのない、温かいコミュニケーション。泣きたくなった」と桑田が語る部分からも、新たな好感触が得られたことがうかがえる。桑田が述べた“ヒント”は、ツアーで具現化され、ウィズコロナにおいて、また、今後の音楽シーンに対し、多大な影響をもたらすのではないだろうか。

 そして、「全員マスク装着は初」ということで、桑田は何より先に、お客さんの不自由さを気遣っていた。その中で、何をすれば、より楽しめるかと、次々と桑田はメンバーとスタッフに、ありとあらゆるアイディアを提案していた。その舞台裏でのやりとりの各場面では、桑田が常にお客さんと周囲の関係者全員に、愛情深い心を持って接する様子が克明に映し出されている。

 また、宮城公演の場面では、厄疫退散と復興と鎮魂の想いをこめた花火が打ち上がるシーンもとらえられている。覚悟を決めて矢面に立った桑田の表情や言葉、ライブ、公演以外の場面など、あらゆる面から、震災の復興やコロナ禍での人々への想いなど、社会的な面に対しての桑田のエンタメの影響力の強大さを感じ取ることができる。

宮城公演花火( 撮影=三上こうへい)

 12月30日、横浜アリーナ公演を現地で目の当たりにし、桑田とメンバー、スタッフ総勢で放たれるライブ公演、音楽の力を、全身で受け止めることができた。当日感じたことは、桑田からもらった多大なエネルギーと、愛と、ねぎらいの心の大きさと深さだった。桑田が行なったライブは、昨年、あらゆる人が感じた様々な心境に深く寄り添い、会場でライブを楽しむ全ての人たちを輝かせてくれた。その時の現場の空気と、目に見えない感情の輝きは記憶に新しく、心と魂に深く刻み込まれている。

 ツアーは、横浜アリーナのファイナル公演まで感染予防対策に手を緩めず徹底し、大成功をおさめた。その成功の裏には、桑田を始めとするメンバー、スタッフ、関係者の多大なる熱意と挑戦があった。「ウィズコロナでの有観客アリーナツアー完走」という事実は、日本のエンタメ界の中心にいる桑田と、関わる全ての人たちが「コロナ禍に打ち勝った」と感じることもできるのではないだろうか。

 「これが始まりなのかな、という気がします」という桑田の言葉は、新たな時代、未来の幕開けと感じるきっかけをくれる。

 桑田は、どんな状況下であっても、晴れ渡る空のような気分の時も、悲しい気持ちの時も、胸いっぱいの愛と情熱をもってして、粋なおはからいとねぎらいの気持ちを我々に提供してくれる。今作のドキュメンタリーフィルムでは、その詳細と舞台裏までもが、十分に味わえるのではないだろうか。【平吉賢治】

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