海蔵亮太、3rdアルバム『コトダマ』で見せた変化とは
INTERVIEW

海蔵亮太

3rdアルバム『コトダマ』で見せた変化とは


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:22年03月28日

読了時間:約8分

 海蔵亮太(かいぞうりょうた)が2月23日、3rdアルバム『コトダマ』をリリースした。カラオケ世界大会「KWC」で2016年に男性部門、翌年にはデュエット部門で2連覇を達成し、2018年6月にシングル「愛のカタチ」でメジャーデビューした海蔵亮太。今作は全11曲中7曲を作詞作曲、1曲を作詞を担当し、シンガーソングライターとしての一面が強く出た1枚に仕上がった。インタビューでは、この作品のコンセプトなど制作の背景に迫りつつ、楽曲に込めた海蔵の想いを聞いた。【取材=村上順一】

僕の周りには「いい人しかいない!」

村上順一

海蔵亮太

――3rdアルバム『コトダマ』がリリースされましたが、反響はいかがですか。

 今回は今までとはちょっと違った挑戦をたくさんさせていただいて、それが吉と出るか凶とでるかと不安な部分もあったのですが、プラスな意見が多くて、今ホッとしています。

――シンガーソングライターの一面が強く出た、もはや変化しかないアルバムです。

 今回から制作チームがガラッと変わったので、そのタイミングに合わせて作詞作曲やサウンド面などいろいろと挑戦できることが結果として形になったのが、今回の作品のような気がします。打ち合わせ段階では僕が作った曲が数曲入っていたらいいよね、みたいな雰囲気でした。それで、出来た曲を送っていたんですけど、聴いてくれたチームの皆さんが「いいじゃない」と言っていただけて。

――嬉しい誤算ですね!

 以前もそうだったんですけど、僕の周りの人はすごく褒めるの上手な人が多くて。僕はコンスタントに曲を作れるわけではないので、基本時間が掛かるのですが、それでもすごく肯定していただけるのが嬉しくて。たぶん僕の知らないところで時間、締め切りとの戦いとかあって、周りの人が調整してくれていたんだろうなと思います。本当に僕の周りには「いい人しかいない!」と思いました。

――そもそも作曲というのは昔からやっていたんですか。

 カラオケで歌うときに自分だったらこう歌いたい、というのがあるんです。でも、ちょっとオリジナルと違うメロディで歌うと、「そこ違うよ」と指摘されることもありました(笑)。ただ、カラオケの世界大会で海外に行った時に、例えば「ウィ・アー・ザ・ワールド」のような、誰もが知ってる曲でも各々歌いたいように歌うんです。

 リズムも結果的に合えばオッケーで、アレンジもすごい自由に歌ったりとか、そこに僕は共感して、「解放されてる」といった感覚があったので、僕もそういうふうに歌いたい!という思いが、自然に自分なりのメロディーラインができていたんだろうと思っています。

――メロディーをひねり出すぞ、という感じではなくて、自然と出てきた鼻歌をうまく紡いでいく感じでできて。

 本当にそうです。曲を作る時はスマホを風呂場に持っていって録ったり、タクシーの中でも録ったりするので運転手さんとの会話も入っていたり(笑)。

――今回すごくバラエティーに富んでいて、他の作家さんの曲がまたいいアクセントになってますよね。

 それも新しい発見というか。やっぱり自分で曲を作るのも好きだし、クリエイティブな人が作ったものを歌うこともすごい好きなんです。

――今回の作家さんの人選というのはの海蔵さんがリクエストされたんですか?

 そこはあえてチームの皆さんにお任せしました。なぜかというと、僕がリクエストしてしまうと、もしかしたら前と変わらなくなってしまうかもしれないと思って。ガラッと変えるんだったら、お任せした方が絶対面白いものができそうだなと思いました。

――こんなにも多く楽曲制作をして、気づきもあったのでは?

 改めて自分の中身もよく知れたと思っていて。自分は前向きな性格だなと思っていたんですけど、いざ文字にしたり、メロディーを付けたりしたときは少しだけ内向的と言いますか、内向きな自分がけっこう前面に出ることも多かったんです。いろんな性質を持ってる人間なんだというのは、歌ってるだけだったら、おそらくわからなかったことだなと思いました。

恋愛の歌は台本を書いているような感覚

――自分の内面が一番強く出た曲はどれなんですか。

 「ここには」です。昨年「サイコパスのうた」を作ったんですけど、あの時は僕について色々話している人達に対して、「もう勝手にして」みたいな感じで作った曲ではあったんですけど、そのおかげで還元、消化できた部分もあって。ただそれを出したと同時に、もし自分がシンガーではない生活をしていて、SNSなどで覚えのないことを知らない人から言われたら、どうやって対処すればいいんだろう、みたいなことを考えました。

 見えない人達の言葉よりも自分のそばにいる人や家族、支えてくれる人達の優しさに気づいた方が心が豊かになるなと思いました。その気持ちを形にしたのが「ここには」で、優しさはすぐそばにあったんだって。ちょっと傷ついたとしても、自分の近くにある優しさに改めて気づける瞬間でもあるんじゃないかなと思いました。

――「サイコパスのうた」のアンサーソングみたいな一面もあるんですね。ところで、ラブソング的な曲もありますが、これらは実体験ですか。

 実体験は少ないですね。人から話を聴いて、そういう恋愛の仕方あるんだとか、恋心って素敵、みたいな感覚というのがありました。いろんな人から聞いた言葉を形にしたというのが多かったんです。恋愛って一人の人間では限界があるから、僕はすごく書きやすかったです。人から聞いた話だと余白部分がすごくたくさんあるので、そこを自分が脚色できるんです。自分の恋愛だと、もうリアルしかないので選べる言葉がどんどん狭まってしまうというのがあって。他の人のエピソードの方がワクワクもできましたし、台本を書いているような感覚がありました。

――「待ちぼうけ」という曲は実体験なのかなと思いました。

 実体験なんですけど、内容がちょっと違うんです。友達との待ち合わせで全然集合できなかったことがあって。僕は数年前から東京に住むようになって、友達と渋谷駅で待ち合わせをしたんですけど、全然出会えなくて(笑)。友達同士だったらちょっとした笑い話になるけど、カップルとかだったら下手したらケンカになるかもしれないし、付き合いたてのカップルだったら、そんな待ってる時間もちょっとしたデートみたいな感じで捉えられたりもするんだろうなって。

彼のことを書いた音楽を残したい

――立ち位置によって変わりますよね。「会いたい会えない」は友人の死というのが関係しているとお聞きしていますが、どんな経験が反映されているのでしょうか。

 亡くなってしまった子とは小学生の頃から家族ぐるみで仲が良くて。その友人が中学校に上がるタイミングで、ご両親の仕事の関係で海外に行くことになってしまって「お互い頑張ろうね」、みたいな感じでさよならをしたんですけど、そのあと彼が病気にかかってしまい、闘病期間もほとんどなく亡くなってしまって…。

 その時、自分はまだ13歳くらいだったので身近で知ってる人が亡くなったっという事実にちょっと耐えられなくて、けっこう泣いてしまいました。悲しい気持ちと、もっと連絡しておけば良かったなとか、後悔がすごく残って。ずっと何かことあるごとにそれを思い出すことが多くて。

 今も人が新型コロナに感染して病状が悪くなって亡くなってしまったというニュースを聞くと、脳裏にその彼のことがチラつくことがあって、今回、作詞作曲に挑戦するという話になった時に、彼のことを書いた音楽を残したいなという想いがあって、「会いたい会えない」を作りました。その経験もあって、元気なうちに何か伝えられるものは伝える、会える時に会っておくということはしていかなきゃいけないなと思います。

――歌詞で<いつか 僕も君の元 行くから>とあります。この言葉に込めた想いは?

 彼は絶対いい人だったので天国行きは確定なんです。きっと天国でめちゃくちゃ楽しんでると思うから、そこに僕もいつか会いに行けたらいいな、という想いを込めました。

――今の歌手活動も報告したいですね。

 そうですね。彼が亡くなったときに思ったのが、彼の分も生きなきゃみたいな、そんな使命感があって。彼は大人になったら経験することを出来ずに終わってしまったので、僕が彼の代わりにいろんな経験をして、「こんな経験したよ」と、伝えにいきたいです。

――それがずっと今も続いているわけで。

 自分が生きて経験してきたことを最後に報告しに行こうというゴール地点があるからこそ、何があっても頑張ろうと思えています。

――「コトダマ」というタイトルもそういうところに繋がっていて。

 それもあります。僕自身、何かやりたいこととか行動したいことは結構言えないタイプなんですけど、今回の作詞も作曲もしたっていう意味だと、自分の言葉、口から出たものっていう意味で「コトダマ」がタイトルとして、いいんじゃないかなって。

――カタカナというのもなんかかわいい感じでいいですね。

 漢字はちょっと重くなってしまうし、目に入ってくる情報量がすごすぎて。平仮名だと僕の中でイメージが違ったんです。

『コトダマ』は没入感がコンセプト

村上順一

海蔵亮太

――先日、MVも公開された「旅立つ僕らに」はズバリ卒業ソング?

 純粋な卒業ソングにしたいというよりは、卒業式が出来なかった人たちが、この曲でちょっと報われたらいいなと思って。自分の周りでも今年卒業式を迎える子がいるんですけど、卒業式自体がちゃんと行えるのか、保護者の人数制限や、オンラインの可能性もあるというのを聞いて、それがちょっと寂しいなと感じてしまって...。通常の卒業式が出来ないことで学生の皆さんからしたら、自分たちの青春時代とは何だったんだろうと思ってしまうんじゃないかなと思いました。

――今の時代の曲ですね。

 卒業ソングは基本、出会いと別れがあって、新しい一歩踏み出す、フライアウェイみたいな明るいイメージがあるんですけど、この曲はどちらかというと、内向きではあるけど、内向きなりの一歩踏み出したよね、みたいな。大きな一歩じゃなくても、ちょっとだけでも前に進んでいけたらいいなみたいな気持ちをこの曲には込めました。

――「誰そ彼-2022-」はミックス違いとかではなく、しっかり違うバージョンでこの雰囲気もまた違っていいですね。

 すごく狭い空間で録ってる感じの世界観にしたかったんです。僕が耳元で歌ってるみたいな、ミックスもそういうイメージで作ってもらっていて。今回のアルバムは没入感をコンセプトにしていました。皆さんがイヤホンとかで聴いたときに、このアルバムの世界により入りこんでほしいという思いで、アレンジや曲の世界観もそれを重視したものになっています。広い音楽というよりは、良い意味で狭い音楽の作品ができたと思うので、是非皆さん聴いてみて下さい。

(おわり)

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村上順一
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