ジャズやR&B、ヒップホップといったあらゆる音楽ジャンルを内包し、ブラック・ミュージックを体現し、再定義し続けるミュージシャン、ロバート・グラスパー。これまでに、オルタナティヴな姿勢を崩さず、常に挑戦的な音楽をリリースしてきた。2012年に発表されたアルバム『Black Radio』は、その挑戦が最高の形で結実した作品とも言える。ジャズ・ピアニストとして評価を受けてきたグラスパーだが、エリカ・バドゥやレデシーらR&Bシンガーを多くフィーチャーしたこのアルバムでは、グラミー賞において最優秀R&Bアルバム部門を受賞した。このことからも、彼の音楽がいかにクロスオーヴァー的に評価されてきたかが分かるだろう。2013年には『Black Radio 2』がリリースされ、この時もグラスパーはアルバムに収録された「Jesus Children of America」でグラミー賞の最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス部門のトロフィーを勝ち取った。そこから約8年半の時を経て、いよいよ更なる続編『Black Radio III』が発表されることとなった。『Black Radio』から数えると、まる10年が経過している。

 「あっという間すぎて、10年も経ったなんて気がつかなかったくらい。まさか『Black Radio』がアルバム三枚ものシリーズになるなんて全く想像していなかった。『Black Radio 2』を作るときも、続編をやろうなんて考えはなくて、周りの人たちから”2はないの?”と聞かれるようになったから、”オーケー”ってノリで応えたんだ」

 グラスパーを更なる続編へと駆り立てたものの一つに、”時間”がある。

 「(新型コロナ・ウイルスによる)パンデミックのおかげで、時間はたっぷりできた。それで、”今の人々には『Black Radio』が必要なんじゃないか?と思うようになって。それで、友人たちに”今、新しいアルバムを作っているんだけど参加してくれないか?”とメールを送りながら、新作の制作がスタートしたんだ」。

 そうして、プロジェクトが再始動していった。「参加しているアーティストには、自分から大体のイメージを伝えて、それから歌詞を書いてもらった。『Black Radio』は、僕と他のアーティストたちによるコラボレーション・プロジェクト。だから、アーティストたちに”こういうことを歌詞にしろ”とか”こう歌え”とか、アレコレと細かく指示することはしない。全て一緒に作っていくのが好きなんだ」とグラスパーが語る通り、収録されている楽曲はどれも、グラスパートアーティストらの間に生まれるシンパシーのような温かさと芯の強さを感じさせるものだ。

 『Black Radio III』から最初にお披露目された楽曲は、現代のR&Bシーンを代表するアイコニックなシンガー、H.E.R.、そして、これまで幾度となくグラスパー作品にも参加してきたミシェル・ンデゲオチェロが参加した「ベター・ザン・アイ・イマジンド」だ。H.E.R.のアンニュイな声で”想像していたよりはマシ”と歌うこの曲は、一聴するとビターな恋愛ソングにも聴こえる。しかし、”想像していたよりはマシ”と表現しているものは、現実のアメリカ社会でもある。グラスパーは本曲をリリースした際に、「本曲はシステミック・レイシズム(構造的に仕組まれた人種差別)に目を向けたもの」とのコメントを発表していた。D・スモークとティファニー・グーシェを迎え、本作からの2ndシングルとして発表した「シャイン」もまた、この世を地獄のようだと形容しつつも、戦い続けること、その先に安息の地があることをラップしている。グラスパーの伝えたいメッセージは一貫している。続くシングル、「ブラック・スーパーヒーロー」は、シンガーのBJ・ザ・シカゴ・キッド、そしてラッパーのキラー・マイクとビッグ・クリットが参加し、”どの街にもブラック・スーパーヒーローを”と歌う。

『Black Radio III』ジャケ写

  「このアルバムを通して伝えたいメッセージは、我々、黒人はこれまでに多くのことを経てきた。そして、今こそ団結しなければならない、ということだ」と、グラスパーははっきりと語る。「それに…」と続け、「自分のことを愛さなきゃならない。自分のことを信じて、自分の足で力強く立たねばならない。今、世界中ではたくさんのことが起こっている。だからこそ、人々にはこの作品を聴いて、感動してほしいと思ったんだ。分かるかな?」

 グラスパーの奏でるピアノの音色はいつも流麗に響きつつも、そこにはディープなメッセージが一緒に流れている。今回、参加した数多のミュージシャン、シンガー、ラッパー、そして詩人たちが、グラスパーの意図を汲み、それに共感し、それぞれのやり方で『Black Radio III』を完成させた。ため息が出るほどの美しさに浸ると同時に、投げかけられた必死のメッセージに目頭が熱くなり、怒りに震えるような感情に襲われる。まさに、グラスパーによって心を揺り動かされているような”体験”だ。

 そんなメッセージが詰まった『Black Radio III』を携えて、2022年5月、グラスパーは久しぶりの来日を果たす予定だ。ちなみに、グラスパーといえば「Robert Glasper Residency」と称し、ニューヨークのブルーノートで約1ヶ月のロングラン公演を行うことが毎年の恒例行事ともなっている。コロナのため、2020年の公演は見送られたが、2021年は、33日間66公演にわたるショウをやってのけた。「友達をたくさん連れて、公園で遊んでいるような気分なんだ。常にアーティスティックでいられるし、とにかく最高。メジャーなスターたちが飛び入り参加してくれることもある。普段だったらあり得ないようなことも、ブルーノートという場所がそれを可能にしてくれるんだ」

ロバート・グラスパー(C)Mancy Gant

 コロナ禍を経て、オーディエンスたちもこれまで以上に生のステージを待ち侘びている。それは、グラスパー自身も実際に感じるところだと言う。「客席から、”ずっと音楽を欲していた!”というパワーを感じるんだ。ステージの上に立つと、ありありと伝わってくる。僕たちはお互いのことを必要としていたんんだなあ、と実感するよ。これまでにいくつもの配信ライブをやってきたけど…最悪だったね。オーディエンスからのエネルギーを感じることが出来ないなんて。日本でのパフォーマンスは、まだどんなものになるか分からないけれど、絶対にみんなのことを楽しませることは確実だ。日本は大好きだからね」【取材=渡辺志保】

作品情報

Robert Glasper / BLACK RADIO III
ロバート・グラスパー 『ブラック・レディオ 3』
2月25日世界同時リリース
日本盤SHM-CD 品番:UCCO-1234
税込価格:2,860円
https://Robert-Glasper.lnk.to/BlackRadio3PR

▽収録曲

01. イン・チューン ft. アミール・スレイマン / In Tune ft. Amir Sulaiman
02. ブラック・スーパーヒーロー ft. キラー・マイク + BJ・ザ・シカゴ・キッド + ビッグ・クリット / Black Superhero ft. Killer Mike + BJ The Chicago Kid + Big K.R.I.T
03. シャイン ft. Dスモーク + ティファニー・グーシェ / Shine ft. D Smoke + Tiffany Gouche
04. ホワイ・ウィ・スピーク ft. Qティップ + エスペランサ / Why We Speak ft. Q-Tip + Esperanza Spalding
05. オーヴァー ft. イェバ / Over ft. Yebba
06. ベター・ザン・アイ・イマジンド ft. H.E.R. + ミシェル・ンデゲオチェロ / Better Than I Imagined ft. H.E.R. + Meshell Ndgeocello
07. ルール・ザ・ワールド ft. レイラ・ハサウェイ + コモン / Everybody Wants To Rule the World ft. Lalah Hathaway + Common
08. エヴリバディ・ラヴ ft. ミュージック・ソウルチャイルド + ポスドゥヌス / Everybody Love ft. Musiq Soulchild + Posdnous
09. イット・ドント・マター ft. グレゴリー・ポーター + レデシー / It Don't Matter ft. Gregory Porter + Ledisi
10. ヘヴンズ・ヒア ft. アント・クレモンズ / Heaven's Here ft. Ant Clemons
11. アウト・オブ・マイ・ハンズ ft. ジェニファー・ハドソン / Out of My Hands ft Jennifer Hudson
12. フォーエヴァー ft. PJモートン + インディア・アリー / Forever ft. PJ Morton + India.Arie
13. ブライド・ライツ (ウィズ・タイ・ダラー・サイン) / Bright Lights (with Ty Dolla $ign)
14. ベター・ザン・アイ・イマジンド (インストゥルメンタル) / Better Than I Imagined (instrumental)*
15. イージー・トゥ・シー / Easy To See*

*日本盤ボーナス・トラック

来日情報

『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022』
日程: 2022年5月14日(土)、5月15日(日)11:00 開場 / 12:00 開演(予定)
出演:5月14日(土)
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
/ SERGIO MENDES… and more!!!
:5月15日(日)
ROBERT GLASPER / SOIL&”PIMP”SESSIONS… and more!!!

会場: 埼玉県・秩父ミューズパーク(https://www.muse-park.com/guide/facility03)
詳しくはWEB:https://lovesupremefestival.jp

この記事の写真

記事タグ


コメントを書く(ユーザー登録不要)