the pulloversが11月25日、下北沢251で『the pullovers pre.「ある結末について」』を開催した。このライブは先日リリースしたthe pullovers 3rd ZINE「君なんていらないわたしになった」のリリースと、3rd ZINEに収録の楽曲『結末』のYouTube短編映画の公開記念を兼ねたイベントで、3rd ZINE 収録楽曲の全曲ライブ披露と、短編映画上映、監督やキャストを交えたトークショーなど通常のライブとは異なるユニークなイベントとなった。

 会場に入ると場内の壁面にはドライフラワーが吊るされ、佐々木(Gt.)により撮影された写真が飾られていた。ステージに目を向けるとスクリーンが下されており、フロアには席が用意され、ライブハウスとは思えないまるで映画館のような光景が広がる。

 時間になると会場アナウンスが流れ始め、いよいよ始まるという高揚感に包まれる中プロジェクターには今回の「結末」の短編映画が上映され始めた。ライブハウスで映画を観るという機会はもちろん初めてだったが、サウンドの迫力も合わさって世界観に没頭できる素敵な空間に心惹き付けられる。

 短編映画は”誘拐”をテーマに物語が繰り広げられていく中、誘拐された女性が口にしたある言葉により意外な展開を迎えていく主人公のある生活を描いた作品だった。楽曲を元に作られた短編映画というだけあり、『結末』の歌詞にも登場する「ハッピーでもバッドでもない」生活の結末が切り出されていた。

 短編映画は終盤、遠くからなる車の長いクラクションの音が途切れると、画面には「結末」の文字が浮かび映画は終了する。間髪なくスクリーンの裏側からギターのハウリングの音が聴こえてくる。そしてスクリーンが上げられるとthe pulloversにより『結末』の演奏が始まった。なんと粋な演出だろうと息を呑んだ。映画のエンドロールが生演奏されるという贅沢な体験にただただ胸を打たれる。

 この日はドラムにも電飾が施され、いつも以上に世界観の作りこまれたライブセットだ。

 演奏が終わりMCでCettia(Vo. Ba.)が開口一番に発したのは「言葉が出ません」の一言。音源のリリースをZINEという形態にこだわるほど小説が好きな彼女にはエンドロールを生演奏できる今日の体験がそれほど特別なものだったのだろう。

the pullovers(撮影=エドソウタ)

 しばらくしていつものthe pulloversらしくゆるりとした雰囲気のMCが始まる。まずはイベント開催のお礼を伝えると、「全部観たかったなあ」と準備があったため短編映画を最後まで観れなかった悔しさを口にする。続けて「いつもプルオーバーズってライブをしているけど物語の一部になった感覚」と告げる。

 「ここからはthe pulloversに戻ります」と気持ちを入れ替えると、3rd ZINEの1曲目収録『fallen baby』が1234とカウントの合図と共にスタートする。ファズの効いたオルタナティブで音圧のある佐々木のギターサウンドにCettiaの透き通る声の歌が乗り、実にthe pulloversらしい楽曲だと改めて感じさせる。

 『fallen baby』が終盤アウトロに差し掛かると突然『meteorologist』のイントロが鳴り始める。シームレスに両曲が繋げられたグルーブ感満載の展開だ。

 『meteorologist』が終了すると暗転、「今日はトークショーもあるじゃん」など簡単なMCを挟むと、音源よりも少々速めのライブ感のあるBPMで『戯言』を披露。「ぜんぶ終わってしまえばいいのにな」など心の奥の本心が並べられたこの曲では、感情を爆発させたかのようにかき鳴らされ歌い上げられ観客を圧倒していく。

the pullovers(撮影=エドソウタ)

 ギターの余韻を残したままチューニングを終えると、『だめおんなぶるーす』のイントロ、ギターのアルペジオが鳴り始める。人気の高いこの曲が歌われるのを待ち望んでいたファンも多いだろう。

 柔らかくピンクにも近い照明の中「ちゅーもしないしぎゅーもしないよ」の歌い上げ方に胸を締め付けられる。the pulloversは人のダメな部分を上手く歌詞に載せ心の深いところにその歌声を響かせるのが本当に上手い。

 ずっとこの音に揺られていたいと思いながらも演奏が終わり暗転、本日3回目のMCに入ると、「映画にしていただいてありがたい。曲の持つ力のようなものを映画にしていただいた。」と改めて感謝を伝えつつ、「プルオーバーズにしてはストレートな歌が多い」と先日発売となった3rd ZINEについてを語ると、「最後の曲。自分史上1番明るく恥ずかしい歌詞を書いてしまったなという曲を」という言葉と共に『雪解けのうた』を披露。

 3rd ZINE収録楽曲6曲の演奏が全て終わりライブパートは終演。もっと聴きたかったという感情を残しつつトークパートへ。

 ステージ上に椅子が並べられ、この日トークパートに登壇したのは、短編映画の監督・小嶋貴之、短編映画内でキャストを務める卯ノ原圭吾、芽衣子、そしてthe pullovers(サポートDr.含む)の計6名。

 先ほど披露された3rd ZINEの楽曲がBGMで流れる中、Cettiaの口から『結末』という曲について「とことんリアルを突き詰めてやるぞという気持ちで書いた」と語られたり、小嶋監督より「PVを作ろうといって打ち合わせをしたら、短編映画を作りましょうという話になった」、「今回の物語以外に前に付き合ってた人が死んでしまったという別パターンの案もあった」という短編映画についての制作秘話が次々に語られていく。約30分間トークが繰り広げられると、最後は盛大な拍手とともにステージを降りる。

the pullovers(撮影=エドソウタ)

 ライブハウスで映画とライブを観れるという素敵な体験をくれたthe pulloversに感謝すると共に、カルチャーを巻き込み自己表現を行う彼らの今後に期待を感じた夜だった。【代田恒輝】

セットリスト

the pullovers pre.「ある結末について」
2021.11.25(Thu)下北沢251

01.結末
02.fallen baby
03.meteorologist
04.戯言
05.だめおんなぶるーす
06.雪解けのうた

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)