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LUNA SEAのギタリスト・INORANが10月20日、ニューアルバム『ANY DAY NOW』をリリース。2020年、コロナ禍でINORANが全曲1人で作曲して創った2枚のアルバム『Libertine Dreams』と『Between The World And Me』の2作がリリースされ、2021年10月、その完結編と位置づけされる『ANY DAY NOW』が完成。前の2作はかつてない世の中の状況を反映して、重くシリアスな面も強く感じさせたが、今作『ANY DAY NOW』はそこから一つ抜けて、光に満ちた、明るく軽やかなエネルギーが流れている作品という印象が強い。コロナ禍を経験してINORANが得た心境、『ANY DAY NOW』に込めた想いを語ってもらった。
『ANY DAY NOW』はスピンオフ的な位置づけの作品
――最新アルバム『ANY DAY NOW』は、1曲目の『See the Light』から希望の光にあふれ、続くアルバムのリード曲『Wherever,Whenever』もさわやかな風と踊るような、心沸き立つナンバーとなっています。2020年のアルバム『Libertine Dreams』『Between The World And Me』に続く最終作だそうですが、2作とはだいぶ違う色の作品で、制作にあたって以前とどのような心境の変化がありましたか?
コロナ禍になってから2年目となりましたが、やはり最初の1年とまったく違いますよね。何か伏し目がちにならないように過ごしていた1年目よりも、今年の方が「このままは嫌だ。このままじゃいけない」となって。
去年2枚作っていた時は、なんだかんだいって、まだ「元に戻ればいいな」という気持ちが強かったと思うんです。でも今年は「良くなると思ったけれど、決してこれは元に戻らないな」と分かって。だからこそ次の目標であったり、希望といったものだったりをパワーに使おうと変化していったから、音楽観も変わっていったんです。
――確かに、今年は戻らないことの現実を受け入れる年だったかもしれません。
もちろんほとんどの人が不安だっただろうし、急に無くなったものや欠けてしまったものに対して、パニクったわけじゃないですか。だけど失ったもの、無くなったもの、消されたものがあった一方で、自分の容量の中でいくつか残ったものがあると思うんですよ。
たとえば家族であったり友だちだったり、人を思いやる気持ちだったり。遠く離れていても、支えられてたものがあったり、とか。もしくは周りの人に対して、自分の存在がどんなものだったか、とか。そういうことに気付かせてくれたということで、まんざらではないというか。
自分だけの明るい未来ではなく、自分を愛してくれる、愛する人に対しての未来を想う。今年はそういうポジティブなものに変換するいい機会でもあるのかな、と。ちょっと理想論かもしれないけど、そういうふうにしていきたいよね、と思うんです。
――最近、いろいろな人にインタビューしていて、コロナ禍の時に「うちの会社って何を大事にしていたのか?」「私たちのグループの真の部分は何か?」といったことを、とことん話し合った、という話をよく聞きます。
犠牲も払った経験だったけど、コロナに断捨離された、“ときめかないもの”を全部持ち去られたわけですよ。でも、いいじゃない? 絶対“ときめくもの”だけ残っているわけだから。全部を捨てられたわけじゃないから、ということなんですよ。
――まさにそうですよね。そしてアルバムのタイトルは『ANY DAY NOW』ですが、このタイトルはどういったところから名付けられたのでしょうか?
これは前作の『Between The World And Me』と一緒なんですけれど、映画の中からインスピレーションをもらった言葉ですね。
――アルバムのジャケットも、鳥が描かれた前作2作と違って、ハグしてキスをしているイラストになっています。3部作として、特に一貫性を持たせようとはされなかったのでしょうか?
正確に言うと、『ANY DAY NOW』は位置づけが2作と違っていて。『Libertine Dreams』と『Between The World And Me』は同時に作ったので、リアルに2部作なんですよ。ただ、終わらないコロナ禍の中で、また緊急事態宣言がきたから、作らなくては、と思って。3部作というより『ANY DAY NOW』は2つの物語の続編で、主人公は同じだけれど、感覚的にはスピンオフみたいな感じです。
――そういうことだったのですね。このジャケットはとてもインパクトがあるので、印象に残る方も多いのではないかと思います。
最初からこういうイメージがあったんですよ。自分のパブリックイメージを含めて、強いメッセージにしたかったというか。近くに大切なものがあったりとか、近くに行きたい、とか、そういうのをイメージできるようにしたかったんです。
――今はこのイラストのようなキスはできないですけど、これからへの願いを込めて。
そう。人によっては、恋人とキスしたいという人もいるだろうし。人によっては無くなったものを整理して、新しいところに行くかもしれないし、2年ぶりにおじいちゃん、おばあちゃんに会いたい人もいるだろうし。根本はみんな幸せになりたい、幸せになるために生きているわけじゃないですか。そういうものをイメージして一番分かりやすいのは、こうやって人の温度を感じるものなのかな、と思って。それを思うのが、今、『ANY DAY NOW』なんです。
アルバムはオーガニックなものが出せたと思う
――アーティスト写真は海で撮影されたんですね。
これは開放的な夏に撮りました。スチールカメラマンもミュージック・ビデオの監督も、このアルバムを聴いて、「ビルの中じゃないよね」とか「こっち行こうよ」という感じで撮影してもらいました。今回LPサイズ盤もあるんですけれど、それはたくさん写真が入っているので、そちらもいいと思いますよ(笑)。
――ぜひ完全生産限定盤-LP SIZE BOX-も要チェックですね(笑)。確かに9曲目『flavor』(インストゥルメンタル曲)のように、水の音が入って、南の島の感じをほうふつとさせるメロディのナンバーもあります。今回、そういうものの要素が入ったのは、なぜでしょうか?
ざっくり言ってしまうと「どこか行きたいな」といった感じかな。行けなかったからとかではなくて、そういうことも、軽くあるかもしれないかな、と。
――前2作は心の旅をしていて、地球のどこというより、精神的なイメージがわくような作品だった気がします。でも『ANY DAY NOW』は、もっと景色が思い浮かぶ、現実的な旅を思わせます。
そう、もっとリアルな感じですね。決して空想の中の一人旅ではない。実際に「行きたい」という希望を持って生きることが、どれだけ輝けるかということですね。
――もしかしたらコロナ前よりも、旅に行きたい、という気持ちが増えたかもしれません。
だから尊いものが本当に尊い、と感じられるようになったこともありますよね。
――ちなみに先ほど話題に出た9曲目『flavor』の楽器は、何を使っているのですか?
これはギターを鍵盤で弾いてます。今回は、ギターは一音も弾いていないです。
――え! リード曲「Wherever,Whenever」のイントロもですか?
入れてないです。鍵盤です。
――完全に生だと思っていました。それは何かこだわりがあったのでしょうか?
作り始めてから途中で、「あ、俺、ギター弾いてないわ」と気づいたんですけれど、逆にこれは面白いなと思ったんです。あとは同時並行でLUNA SEAをやっていて、コロナの影響でツアーの延期などいろいろあって。ギターはLUNA SEAで弾く。だからソロは今回、ギターは無しでいきます、と思ったのかもしれないです。
――最終的にコロナ禍において、INORANさんお一人で制作された3枚のアルバムを発表されましたが、この作品たちを制作した経験は、INORANさんにとってどのようなものだったでしょうか?
これはこれで、非常に楽しい作業で、とてもいいものを作り上げられたとは思います。でもこの間の9月にライブを行った(ソロの)バンドサイドもあるし、LUNA SEAもあるし、あとビルボードでのライブみたいなアコースティックもあるし、全部がつながっていて誇れるもので。
何か不幸中の幸いじゃないけれど、バンドのメンバーに会えない時間がある時に、たまたまこういう音楽性で作ったものがどんどんブラッシュアップしていった、という感じはありますね。
――コロナがなければできなかった3部作で、ある意味INORANさんがご自身に向き合ってできた作品と言えますよね。
向き合うまではいってないかな。あまりこねくり回さないようにというか。歌で分かるような、オーガニックなものが出せたかな、と思いますね。
――7曲目に収録されている『Count Me In』なども、まっすぐ音が紡がれていて、包み込むような優しい曲で、まさにオーガニックな感じが出ていますよね。そしてINORANさんは、いつも自然体でフラットという印象です。
俺はそれしか特技がないですから(笑)。
――特技になるんですか(笑)。
うん。でも本当にまんざら嘘でもなく、それが俺のキャラクターなので。あとは音楽を愛する気持ち、好きな気持ちというものは、誰にも負ける気がしない。他には負けることはたくさんあるけれど。
音楽界での僕の存在意義って、音楽を愛する気持ちを伝えるとか、そういうものを音に落とし込む。大きい小さいにかかわらず、そういうものを共有して絆を強くする。それが自分の役割だと思っています。
――あと、1つのところには留まらず、つねに変化している印象があります。
作ったものを捨てるわけではないけれど、僕はやっぱり旅好きなので、同じところにはいられないんですよ。半年経つとトレンドが変わってくるし。でも本当にいろいろな旅ができて幸せだし、それは嘘偽りなく作品に落とし込むことができればいいな、と思いますね。
――半年というサイクルは早いですね。
それくらいのサイクルで作らないと、曲がオーガニックな感じがしなくなるんですよね。それは自分で分かっているんです。どんなに変な曲でも、これまでバンドとかいろいろ経験しているから、こねくり回せばなんとかなっちゃうんですよ。でも、そうじゃないんです。生まれたその子をこねくり回して、その子の良さをマスキングしちゃうようではダメだ、ということで。そうすると、曲をためるとかじゃなくて、作った時の気持ちを完成形に持っていかなきゃいけないんです。
――どちらかというと、日記みたいな感覚ですか?
そうですね。
――なるほど。先ほど今回はギターを弾かなかったというお話がありましたが、他に新しいチャレンジはありましたか?
「雨の日は作業しない」とかかな。
――それはなぜでしょう?
天候に影響されてしまうから。だから雨の日に晴れの曲は作りません。僕の中で妄想の時代は去年、前作で終わったので。だからそういう意味で、雨の日は嫌だと思ってやらなかったという。ただこれは今回からではなく、『BEAUTIFUL NOW』(2015年8月リリースの10枚目のアルバム)からそうなんですけれど。
――そういえば、INORANさんは朝が早いと伺ったのですが、制作では何時くらいがピークというのはありますか?
9時とか10時ぐらいがいいんじゃないかな。
――昔は夜型だったそうですが、朝型に変わって、曲の作り方も変わられましたか?
やはり音楽性は多少変わりますね。あとは自分の思考性が変わったというか。昔、夜型の時は、自分のクリエイティブと制作の時間を紐づけると、夜中の2時とか動いている人が少なくなって、街も静寂で。4時くらいになったら日が昇って、あの紫の時間が、今日なのか明日なのか分からない……、みたいなことを、若い頃は言ってみたりしたけれど(笑)。
1日を過ごして、その日に蓄積してきた気持ちやできごとを、寝てリセットしたりするわけじゃないですか。もちろんすべてリセットできるとは思わないけれど、最近は、1回リセットして、朝フレッシュなうちにクリエイトしたいというか。夜になっていくと、昼に何があった、夕方何があったと、制作物に余計なものが入ってくるんですよね。
――朝の9時とか、もっとも人の気がわさわさと動いている時間帯ですけれど、そのあたりの制作だと、また別の気の影響を受けそうですが。
世の中と分離されているように考えるか、されていないように考えるか、じゃないかな。最近は人が動いている時間に自分は何を考えているかの方が、やはりリアルな感じがするんです。
――かつての夜型から朝型には強制的に変えていったのでしょうか? それとも徐々に?
徐々にかな。海外のミュージシャンの自伝を読んだり、「朝、作業するのがいいんだよ」といった話をいろいろな人から聞いたりして。それは若い頃は分からなくて、「何でなんだろう?」と思ったけれど、経験や歳を重ねるごとに「ああ、分かる」という感じになってきたと思います。
動かされている気持ちは、たぶん最初と一緒
――『ANY DAY NOW』の最後のナンバーは、次の時代へと向かう人の心を力強く押し出してくれる『Dancin’ in the Moonlight』です。今回ダンサブルな曲が多いのは、力強く未来に向かうためには、心をわきたたせるものが必要だ、という思いもありますか?
そうだね。心も体も動いて。体に血を通わせたいわけじゃないですか。情熱でもなんでもいいんですけど。そういうふうにしたいよね、と。
――またこのアルバムでは3曲目の『Feel It In The Air』で“新しい物語が始まる”と歌っていたり、8曲目の『No Way But Up』のように“もう上しかない、僕らは始まったばかり”と未来を強く意識させてくれます。それで“未来を見据える”ということで思い出すのが、2019年にリリースされたアルバム『2019』で。このアルバムのインタビューの際、INORANさんは“未来に対しての明るさを感じている”とお話をされていましたけれど、それは今、『ANY DAY NOW』で感じている明るさとは違いますよね?
それは全然違うね。『2019』の時は、オリンピックも普通にやってて、みたいに思っていたし。想像通り行かないっていうのは、まさにこのことだよね。人生と一緒じゃないですか。描いた通りにはいかない。しょうがないですよ。月並みですけれど、ポジティブに毎日を過ごした方が絶対いいと、歳を重ねてきて特に思います。「こうすればよかった」とか、若い頃の後悔って時々蘇ってくるけど、たとえば少年時代のミニINORANがいたとして、こいつを許すか許さないか、とか陥る時もあるんだけれど、たぶんそれをやっていたらダメなんですよね。
――そうですね。
それは描いた通りではなかった、ということであって。そこにパーソナル的にいろいろあったのが去年みたいな時期だったと思うんです。だけども断捨離していって、明るい未来を見ていって。
それプラス、やっぱり人と共有することが大事なんだと思います。それができるできないじゃなくて、できるはずなんだ、と信じる。それは距離じゃなくて、思いやりであったりとか。そういったものを落とした作品を作ることができたというのは、幸せなことであって。それは『2019』の時とはまったく違いますね。
――「四十にして惑わず」と言われますが、後悔というのは一生続く面もありますよね。
紐づけの紐がすごくいっぱいになってくるからね。絡んできてしまう時もあるし。
――その分、経験や知恵が助けてくれる。
それもあるし、やっぱり人という財産が助けてくれる。家族、友だち、パートナー、知り合い、社会もってこと。だから自分が存在していることを否定するのは、なくなってくるね。たまに引きずられそうになるけれど、そのパラドックスからそろそろ抜け出せるというか。それは多分死生観とか、ゴールが見え始めているからという部分もあるだろうし。
――INORANさんからの言葉は、後輩世代の人たちにとって希望になります。
そんな大それたことじゃないけれど(笑)。何回も見る映画ってそんなにないじゃないですか。本も、その時はすごくいいなと感じて付箋を貼ってみたけれど、何年後かに見返して「なんでこれを貼っていたんだろう?」と思ったり。でも好きなことは事実であって、たぶん指向性も一緒なんですけれど、細かにディティールを見ると、やっぱり響くところが違う。その時、その人のバイオリズムで、音楽ってそういうものだと思うんです。
――INORANさんの場合、そのタームも早い?
だからいろいろな景色を見たいんでしょうね。この時期の人生の中で、まだ見ぬ景色、それは実際の景色もそうだし、見えないものを見ようとしたい。でも時間が足りないから悔しい、という部分もあるし。まだまだ学んで形成していきたい。自分がいいな、と思ったものは、「いい」と言いたいというか、「いい」をみんなと共有したいんです。
食べ物に例えたら、一緒に食べる人が違っても、1人で食べていても、その時出されたものを、味だけじゃなくて、作ってくれた人、おもてなしだったりも含めて、本当においしいと思ったら、「おいしい」と言いたいんです。ただそれだけ。音楽の旅も、そういうものじゃないかと思います。
――97年からソロ活動をスタートされて、もう間もなく25年。これまでずっと音楽の旅を続けていらっしゃるわけですが、今、改めて最初のソロアルバム『想』(1997年)について振り返ってみると、どう感じられますか?
やっていることというか、動かされている気持ちはたぶん一緒なんだな、と改めて思います。『想』も他の人がリリックを書いて歌ってくれたりしているんですけれど、同じ時代を生きている人のものの見方は、人それぞれ違う。だからこそ、思いやりを持って尊重する。それで大きなものができたり、強いものができたりする、と思うんです。
「これじゃなきゃ嫌だ」とかは、もう何か違うというか。もちろん主張することは主張しなきゃいけない部分はあるけれど、同じ時代を生きているということに関しては、特にこの2年は、たぶん強いものを感じたと思うし。みんなが歩幅を合わせた、こんな時代は今までなかったわけだから、この先というのはすごく楽しみです。【キャベトンコ】
(おわり)
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