環境問題や災害支援など、さまざまなテーマを掲げて2005年から開催してきた野外音楽フェス「ap bank fes」。今年は「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」と題し、初の無観客で10月3日に生配信された。ゲストにはKAN、Salyu、MISIA、宮本浩次、miletを迎え、自分以外の誰かのためを想う=「to U」をテーマに、千葉県にあるKURKKU FIELDSの野外ステージからライブを届けた。また、10月10日~17日まで配信している「特別版」(見逃し配信)では、Bank Bandのライブアーカイブに、Mr.Childrenによるスペシャルライブを追加。日本を代表するアーティストが参加した「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」特別版の模様を以下にレポートする。【村上順一】

何かが届いていると信じてやりたい

KURKKU FIELDS(photo by ap bank)

 上空から緑が広がる美しいKURKKU FIELDSの景色が映し出されるオープニングは、これから始まるライブへの期待感を高めてくれる。晴れ渡る空の下、ステージにはBank Bandのメンバーがスタンバイ。小田和正のカバー「緑の街」で『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』はスタートした。穏やかな演奏に癒されながら、櫻井和寿の情感豊かな歌声がKURKKU FIELDSに響きわたる。2曲目のキリンジのカバー「Drifter」を歌い終わり、この日最初のMCで櫻井は「カメラの向こうにたくさんの人がニコニコ、笑顔でいるイメージで、何かがしっかり届いていると信じてやりたいと思います。僕らは繋がっているので、最後まで楽しんでいってください」と、このライブに臨む姿勢を伝え、中島みゆきの「糸」を丁寧に歌唱し、ゲストコーナーへと繋げた。
 
 小林武史は「彼女の才能を感じる中で稀有な存在だと思っています」と紹介した1人目のゲストのmiletがステージに。唯一無二の歌声で昨年は『紅白歌合戦』に出場、今年は『東京2020オリンピック』閉会式でも歌唱し、令和を代表するシンガーに成長した。そんな彼女が届けたのは、miletの突き抜けるような高音、倍音豊かな低音という個性と世界観を堪能できるデビュー曲「inside you」、そして、ファンを想って書いた最新曲「Ordinary days」の2曲をKURKKU FIELDSの大空に響かせた。

milet(photo by ap bank)

 続いては「皆勤賞をもらえるんじゃないか」と、小林が紹介した『ap bank fes』に欠かせないシンガーのSalyuが登場。美しいピアノとストリングスの旋律に乗って伸びやかな歌声を披露した「風に乗る船」。そして、「こんな時世の中で行き先がわからないかもしれない、その中で私は歌っていきたい、進んでいきたい願いを込めた歌です」と紹介した「THE RAIN」を披露。小林のピアノに乗って徐々に熱を帯びていくSalyu。明けない夜はないと希望を感じさせる力強い歌声で存在感を放っていた。

Salyu(photo by ap bank)

 続いて登場したKANはMCで「少しオシャレしてきました」と、サンバカーニバルを彷彿とさせるド派手な衣装で登場。その姿で「何の変哲もないLove Song」と、大ヒット曲「愛は勝つ」を熱唱。そして、櫻井もKANと同様の大きな羽を身につけステージに登場し、KANが昨年リリースしたアルバム『23歳』から、このコロナ禍で今一番歌いたい曲と紹介した「君のマスクをはずしたい」を披露。KANと櫻井のハーモニーで楽しませ、楽曲の最後はKANの持っていたエレキギターが真っ二つになるというギミックで驚かせた。そして、2006年に結成されたKANと櫻井のユニット、パイロットとスチュワーデスから「弾かな語り」を歌唱。当時の楽曲制作エピソードを交え、まさにタイトルの如く2人のアカペラで聴かせる1曲で締めくくった。

KAN(photo by ap bank)

 そして、この特別版のみで見ることができるMr.Childrenが登場。櫻井は「戻ってきました!」と力強い声を上げ、この特別版の配信を見ているリスナーに「おかえりなさい」と投げかけ、「何が何でもこの曲をap bank fesでMr.Childrenとして1曲目にやりたかった」という「彩り」を披露。その想いが強く乗っている歌は、きっと画面の向こう側で見ているリスナーにも届いたはずだ。そして、「観ている皆さんを幸せにしたいと思います」と話し、儚さと美しさを描いた「HANABI」、アコギのアルペジオが切なく響き渡った「I’ll be」と続けて披露。「I'll be」では、エンディングに向かうにつれ鬼気迫る迫真の演奏へと変化していく様は圧巻だった。そして、櫻井が「この空気、風にぴったりの曲を」と、Mr.Childrenのステージとして最後に届けたのは「口笛」。櫻井はハンドマイクで穏やかな歌声を届け、彼らの魅力をギュッと凝縮したような約30分だった。

いろんな想いとともに旅を続けていけることを願って

小林武史(photo by ap bank)

 フェスは後半戦へ。Bank Bandの演奏で宮本浩次が「異邦人」を歌唱。昨年リリースされたカバーアルバム『ROMANCE』からの選曲だ。自由奔放な宮本はステージを降りてカメラの前でおどけて見せる場面も。そして、リスナーに向けて「素敵な時間を」と告げ、「風に吹かれて」、そして、アップチューンの「ハレルヤ」へと紡がれる。感情をそのままぶつけるような歌唱スタイル、ロックスピリットあふれるパフォーマンスで楽しませた。続いて「悲しみの果て」、美しい夕焼けをバックに昨年リリースされたシングル「P.S. I love you」と、迫真の歌声を堪能できるミディアムナンバーで締めくくった。最後の最後までこのフィールド全体がステージといった全力のパフォーマンスで魅了した。

宮本浩次(photo by ap bank)

 小林は「圧倒的な歌唱力を聴いていると透明になるというか、浮遊していくような感覚になる」と、歌声の印象を語ったMISIAが登場。空をイメージさせる青の衣装で身を包んだMISIAが1曲目に届けたのは「アイノカタチ」。この空間に溶け込んでいくような芳醇な歌声が画面越しからでも十分に伝わってくる。言葉によって流動的に変化していく歌の表情は聴くものの琴線に触れ、涙を誘う力がある。そして、MISIAは自身が初めて参加した2016年のap bank fesを振り返りながら、最後に歌う曲について「(さだまさしさんが)歌を歌うことはどういうことなのか表現し、私たちが音楽からもらう力そのものを歌にしてくださった」と、さだまさしが作詞作曲した「歌を歌おう」を届けた。同曲は『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ)のチャリティーソングとして制作されたもので、美しいメロディにわかりやすい言葉で綴られている歌詞、生命力に満ちたMISIAの歌声が見事に融合し、“歌の力”を見せてくれた。

MISIA(photo by ap bank)

 再び櫻井がステージに登場。深い赤色のグレッチのギターでフジファブリックの「若者のすべて」を歌唱。日が落ちていく空のなか、力強く響き渡る櫻井の歌声。続いて、「みんなの前で歌えるというこの上ない喜びを、充実をいただけて感謝しています」と感謝の言葉を告げ、「みんなと集う意味が紡がれている曲です」と紹介し「奏逢 ~Bank Bandのテーマ~」をパフォーマンス。櫻井はハンドマイクでステージを自由に動き、楽しみながら歌っている姿が印象的だった。この日は無観客ライブではあったが、スタッフが観客としてこのライブを見守っていた。櫻井は座っていたスタッフを煽ってスタンディングに導き、手拍子をリクエストするなど、無観客ではあるが一体感が生まれた瞬間だった。櫻井も手応えを感じたようで「ありがとう!」とガッツポーズ。

 哀愁を感じさせるバイオリンの旋律が流れる中、Salyuがステージに合流。届けられたのは「to U」の続編というテーマで制作された「MESSAGE -メッセージ-」だ。個性溢れる櫻井とSalyu、この2人ならではの心地よいハーモニーを堪能。続いて宮本浩次が登場し、「こういう場所に呼んでもらうのは久しぶりなのでワクワクしています」と楽しそうに櫻井に話しかけ、9月29日に発売されたBank Bandのベストアルバム『沿志奏逢 4』と、10月13日にリリースされたばかりの宮本のソロアルバム『縦横無尽』にも収録された「東京協奏曲」を披露。東京という街を舞台に、切なさや痛みを抱え、それでも前を向いて生きていく人々の美しさと力強さを描いた1曲。櫻井と宮本、スタイルの違う2人が歌うことで新しい響きが生まれていることを感じさせてくれた。

宮本浩次×櫻井和寿(photo by ap bank)

 Syrup 16gのカバー「Reborn」を櫻井が歌唱し、MISIAが再びステージに登場。披露されたのは2021年3月11日に放送されたTBS音楽特番『音楽の日』で初披露された櫻井とMISIAとのデュエット曲の「forgive」。音源では、石巻好文館高等学校音楽部と石巻メンネルコールも参加したコーラスも印象的な壮大な楽曲。“次世代へ繋いでいく”をテーマに並々ならぬ想いが込められたこの楽曲は、櫻井とMISIAという類稀なる歌声を持つシンガーの共演によって、何倍ものエネルギーを放っていた。

 ラストを飾ったのはBank Bandが2005年にリリースした記念すべき1曲目のオリジナル曲「to U」。例年は多くのゲストともにライブの最後に歌われていた同曲だが、櫻井は「今回は原点に帰って、あえてオリジナルでやらせていただきたい」と話し、小林は「まだ大変なことも辛いこともきっと起こるんでしょうけど、その時にまたこの曲が寄り添い、いろんな想いとともに旅を続けていけることを願って――」と想いを述べた。櫻井はSalyuとともに全身全霊の歌を届け、『ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS』は大団円を迎えた。

櫻井和寿×Salyu(photo by ap bank)

セットリスト

ap bank fes '21 online in KURKKU FIELDS

緑の街/Bank Band
Drifter/Bank Band
糸/Bank Band

inside you/milet
Ordinary days/milet

風に乗る船/Salyu
THE RAIN/Salyu

何の変哲もないLove Song/KAN
愛は勝つ/KAN
君のマスクをはずしたい/KAN with 櫻井和寿
弾かな語り/KAN with 櫻井和寿

彩り/Mr.Children
HANABI/Mr.Children
I'll be/Mr.Children
口笛/Mr.Children

異邦人/宮本浩次
風に吹かれて/宮本浩次
ハレルヤ/宮本浩次
悲しみの果て/宮本浩次
P.S. I love you/宮本浩次

アイノカタチ/MISIA
歌を歌おう/MISIA

若者のすべて/Bank Band
奏逢 ~Bank Bandのテーマ~/Bank Band
MESSAGE -メッセージ-/Bank Band with Salyu
東京協奏曲/宮本浩次 × 櫻井和寿 organized by ap bank
Reborn/Bank Band
forgive/Bank Band feat. MISIA
to U/Bank Band with Salyu

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