ロックバンドの神はサイコロを振らない(神サイ)が9月17日、自身第2弾となるコラボレーション楽曲「愛のけだもの」をデジタルリリースした。今回はヨルシカのサポートベース、別名義でのボカロPとしての活動など、ジャンル・シーンを越境して活躍するシンガーソングライターのキタニタツヤを迎え制作された。リズミックでグルーヴィーなギターリフから始まり、柳田周作のオリジナリティのある独特の歌い回しで、キタニタツヤと“神サイのカラーに包まれる、コラボならではの世界観を堪能できる一曲に仕上がった。インタビューでは、神サイの4人にキタニタツヤとの制作の過程を語ってもらった。【取材=村上順一】
会うまではちょっと構えていたところもあった
――キタニさんとの出会いはどんな感じだったんですか。
吉田喜一 キタニのことは数年前から僕と同い年でベースもめちゃくちゃ上手くて、ミックスダウンもバリバリできると、友達から聞いていました。それで、とある誕生日会で会って挨拶したのが最初でした。でも、出会った時のことはお酒を飲んでいたこともあってあまり覚えていないんです(笑)。その後にまた会う機会があって、コラボしてみたいよねという話になって。
――皆さんが初めてキタニさんと会った時の印象は?
黒川亮介 キタニ君のサポートメンバーとしてドラムを叩いているマットくんという、僕の友達でもある共通の知人がいるんですけど、そのマットくんの家でキタニくんと初めて会いました。最初からすごくフレンドリーな感じで音楽の話をずっとしていたのを覚えています。
桐木岳貢 すごくクールでフランク、どこか外国人のような印象ありました。キタニ君のことは写真や動画でしかみたことがなかったので、会ってみてガラッと印象が変わったのを覚えています。
柳田周作 最初に会った時はいい意味でぶっ飛んでるなと思いました。そんな彼と見事に波長が合いまして(笑)。東大卒と学歴もあるし、楽曲も聴いていたので、実は会うまではちょっと構えていたところもあったんです。僕がこれまでに会ったことがない人種だなと思っていて。考え方とかもぶっ飛んでいるんですけど、根は真面目なんじゃないかなと思ったり。
吉田喜一 僕も頭がいいんだろうなと思いました。すごく空気も読めるし、砕けた中にも仕事の話はしっかりするみたいな。物事の進め方が上手い人だなと思いました。 最初は、ファミレスで打ち合わせをしたんですけど、そこでもテンポよく話がうまく進んで。
――神サイとキタニさんがファミレスにいるんですね!
柳田周作 僕らは結構ファミレスで打ち合わせをすることが多いです。テーブルも広いから色々資料を広げられるし、お腹が空いたらご飯も食べられるので、すごくいいんですよ(笑)。
――間違いないです。あと気になることがありまして、キタニさんのコメントに“全裸でセッション”というのがあるんですけど、これは?
柳田周作 割と僕が脱ぐ癖がありまして(笑)。今回キタニもそれに共鳴して、僕の家で全裸でセッションをしたという話ですね(笑)。どんな曲にしようか色んな参考曲を聴いていて、今回もいつの間にか脱いでいました。
黒川亮介 柳田はリハでも脱ぐことがありますから(笑)。
――ロックですね(笑)。さて、キタニさんとはどんなテーマで話し合って制作していったのでしょうか。
柳田周作 エロくて、キャッチーでノレる曲というのがありました。そこからリファレンスとなる曲を探したりして。キタニは一緒にやると決まってから曲を既に作ってくれていて。2曲あってその中の一つが今回の「愛のけだもの」の原型となった曲で。もう一曲はミディアムな感じでこれもまたカッコよくて。どっちでも良いというくらいでしたが、ライブでより盛り上がれそうな、この曲を選びました。
黒川亮介 レコーディング前にみんなでスタジオに集まってアレンジして行ったんですけど、キタニ君は自由にやろうよ!というスタンスがあって。それもあって、神サイのグルーヴ感もしっかり出せたんじゃないかなと思います。
「愛のけだもの」それぞれのこだわりを聞く
――それぞれこだわったところは?
黒川亮介 今回、ファンキーなグルーヴを出すことにこだわりました。海外のミュージシャンにネイト・スミスさんというドラマーがいるんですけど、その人の動画をたくさんを観て、体の動き方を真似してみたり研究しました。海外の方はリズムが表の時に頭が右に動くんですよ。僕はこれまで逆だったので、そういうところを真似してみたり。それによって結構グルーヴ感が変わりました。研究して良かったです。
――スネアの渇いた音がすごく気持ち良いですね!
黒川亮介 スネアのミュートに、使わなくなったスネアのリングを切り取って被せました。なので、叩ける範囲がすごく狭くなってしまったんですけど、すごくタイトなサウンドになって。タムもミュートをガッツリして、同じくタイトな音にしました。
――吉田さんがギターでこだわったところは?
吉田喜一 16ビートのノリについてキタニと話し合ったんですけど、ギターソロに関してはちょっと跳ねた感じ、さらに細かくビートを感じて弾いて欲しい、というのがありました。キタニもディレクションや自分の歌録りも控えている中で、ギターソロをレコーディング当日の夜中の3時くらいまで、一緒に詰めてくれました。
――ギターはかなり複雑に絡み合ってますよね?
吉田喜一 一番重なっているところは4本くらい入っていると思います。あと、コードが凄く複雑でキタニこだわりのコードボイシング(コードの構成音の重ね方)があったので、すごく大変でした。
――イントロ真ん中でなっているカッティングも難しそうですね。
吉田喜一 あそこは僕が弾いたのではなくて、キタニが弾いていて、その後ろで半音づつ下がっていくパートを僕が弾いています。
――そうだったんですね。ギターはアンプで鳴らしてレコーディングを?
吉田喜一 バッキングとイントロでなっている片方のギターはフェンダーのトーンマスターというアンプを使っていて、メインのカッティングはキタニのこだわりで、AmpliTubeというソフトウェアのアンプシミュレーターで音作りしていました。確かその中でMarshallのアンプタイプを使っていて、そこにフランジャー(うねりを生み出すエフェクト)を少しかけていたと思います。その空間系のかけ具合もこだわっていました。
――桐木さんはベースのレコーディングはいかがでした?
桐木岳貢 ベースソロを演奏したのは初めてでした。そのセクションはバックにエレピしか鳴っていないので、すごく目立つんです。こんなに目立つものを毎回作っているんだと、ギターソロってすごいなと思って(笑)。なので、僕が考えたフレーズをみんなに聴いてもらう時は緊張しました。実はレコーディングの前日にボツになって、そこからまた考えたんですけど、結局、前の方が良かったとなって、レコーディング当日に元に戻って。
――デモの段階ではどんな感じだったんですか。
桐木岳貢 キタニ君がベースを入れてくれていたんですけど、それはジャズっぽい感じでした。
――歌中のベースもすごく難しそうですね。
桐木岳貢 そうなんです。めちゃくちゃ難しくて苦戦しました。特にスラップのパートは何回も録り直しましたから。
――これは指弾きですか。アタック感がピックで弾いているような感じもあるなと思ったんですけど。
桐木岳貢 指で弾いています。でも、意識としてはピックで弾いているような感じになったらいいなと思いながら弾いたので、そう感じてもらえて嬉しいです。
――この曲をコピーしたいと思っているキッズにアドバイスを送るとしたら?
桐木岳貢 ピッキングのタッチです。強めに弾くことを意識してあげると良い感じになると思います。フレーズに関しては難しいので頑張ってください(笑)。
黒川亮介 ドラムはリズムの取り方で、裏を意識してリズムを感じてみてほしいです。あと音のバランス感覚でいうとキックが7、スネアが2、ハットが1という音量バランスを意識して叩くといいと思います。
吉田喜一 ギターは先程もお話ししたようにボイシングがかなり難しいので、簡略化して弾いてみた方がいいかもしれないです。あと、ギターソロのところでダブルカッティングという速いパッセージが出てくるんですけど、そこは波形をスライスしているのではなく人力でやっているので、頑張ってやってみて欲しいです。僕の中でも奇跡に近いニュアンスの揃い方ができたので、注目してもらえると嬉しいです。
歌の個性
――さて、作詞はお二人で制作されていますが、やってみていかがでした?
柳田周作 前作は良いものをちゃんと作ろうという意識で制作していて、もちろん今回も良いものをというのはあるんですけど、今回はスタンスとして一緒に面白いものを遊びで作ろうぜみたいな感覚で作っていたところもあって。それがまた面白かったなと。友達の家に遊びに行って曲を作っていたみたいな。
歌詞の振り分けは1番のAメロBメロ、2サビとCメロが僕で、1番サビ、2番AメロBメロ、ラストのサビがキタニという振り分けで歌詞を書きました。お互いの様子を見ながら書いたんですけど、それがすごく楽しくて。歌詞はキタニが考えた竜涎香とか中国の要素を取り入れているのもポイントです。
――中国にハマってる?
柳田周作 特にハマっていたわけではなかったんですけど、他にも中国要素は色々あったんです。結果残ったのが2つの言葉だけでしたが、映像を作ることをイメージした時にこういう言葉が入っていたら面白いかなと思いました。
――今回、キタニさんと歌うことで、柳田さんとは歌のアタック感が全然違う、それぞれの個性が際立った曲になっていると感じました。
柳田周作 僕はどちらかというとレイドバックしているんですよね。これは意識してそうしているわけではなくて、自然とそうなっていて。ルーツとしては弾き語りから僕の歌は始まっているので、歌謡曲の要素、ニュアンスが強く出ているのかなと思います。カラオケで採点する機能があるじゃないですか。それをやると歌の頭にほぼ全部といっていいほど“しゃくり”のマークが入るんです(笑)。
黒川亮介 その違いは僕も感じていて、ドラムを叩いていてキタニくんの歌が入ってくると、前に引っ張られる感覚があります。
――個性ですね! ちなみにキタニさんとは歌についてディスカッションしたりも?
柳田周作 綿密にはしてないですね。もう自分が気持ちのいいように歌ってみるという感じで、お互い自分らしく歌うということを大事にしていました。
――皆さんはお二人の歌を聴いてどんな感想を持ちましたか。
吉田喜一 キタニの言葉の置き方がすごくパーカッシブだと感じました。柳田は逆に歌でグルーヴを引っ張っている感じなので、その両方の良さが、このコラボですごく出たんじゃないかなと思いました。
桐木岳貢 ミックスの時に発声の仕方がかなり違うというのが、そこで僕はわかりました。
柳田周作 立ち位置でいうとキタニは楽器に近い感じがしました。それ自体がリズムになるといいますか。僕とは概念が違うなと思いました。
――ボーカルレコーディングは同日にキタニさんも行なっていたのでしょうか。
柳田周作 別日に録りました。僕はレコーディングスタジオで録ったんですけど、キタニは自分のスタジオで歌を録っていて。なので、キタニがどういうやり方で歌を録っているのかわからないんです。めちゃくちゃ見てみたかったんですけど。ただ、面白いなと思ったのがダブリングという歌を重ねる手法があるんですけど、多くはもう一回歌って重ねるんです。でも、キタニはメインボーカルをコピペしてそこからエディットしていくんです。
――同じ歌を使用するとタイミングが合いすぎて、広がりとか出すのが難しいですよね?
柳田周作 確かにそのままだと機械的になってしまうんですけど、そういう風に聞こえないのは、ボーカルの波形を切ってタイミングを微妙にずらすという細かい作業をやっているからなんです。それが、“キタニ節”になるひとつの秘密なのかなと思ったり。
――独特な雰囲気がありますよね。さて、2021年も残り少なってきましたが、どんな意気込みで活動していきたいですか。
柳田周作 残り2ヶ月を切ってますけど、この期間が僕らにとってすごく重要になると思うので、どれだけ良いものが作れるのか、勝負の期間になると思っています。なので、皆さんに良い音楽を届けることができるように頑張っていきますので、楽しみにしていてください!
(おわり)