甲斐翔真が主演を務めるミュージカル『October Sky-遠い空の向こうに-』が10月にシアターコクーンで日本初演される。元NASA技術者ホーマー・H・ヒッカム・Jr.の自伝小説『ロケットボーイズ』が原作に、1999年公開の青春映画をミュージカル化する。アメリカの小さな炭鉱を舞台に、厳しい現実に直面しながらもロケットに夢をかける高校生の姿を描く。その主人公・ホーマーを演じるのは甲斐。阿部顕嵐、井澤巧麻、福崎那由他はホーマーと一緒に夢を追う高校生たち“ロケットボーイズ”を演じる。MusicVoiceではビジュアル撮影を取材。この日が初の顔合わせとなった4人のロケットボーイズだが、本当の同級生のように和気あいあいとしていた。【取材・撮影=木村武雄】
ビジュアル撮影から関係性が生まれる
午前9時前、都内のスタジオ。既にシャッター音が鳴り響く。一人ひとりのソロカットを撮っていた。様々な形をしたパネルをライトの前に当てフラッシュを焚く。長く伸びる影、丸い影、楕円の影などが被写体の一部を覆う。光と影の位置や形によって、たくましく見えたり、少年っぽくも見えたりした。流れる音楽は70年代のロックを感じさせ、彼らの気持ちを高ぶらせていた。
「もっと鋭く!」「前をしっかり見て」「腕を上げて!」「ロケットを観るような感じで!」「いいね!その調子!」。ビジュアル撮影ではカメラマンが演出家だ。その要望に応じてポーズや表情を変える。4人での集合写真でも同様に行われた。上向きにこぶしを突き上げる。力強さがみなぎる。ビジュアル撮影の時からその役を演じているような雰囲気があった。
厳格な炭鉱夫の家庭に生まれながら、衛星との出会いにより夢を見出す快活な高校生のホーマー役の甲斐は、その役柄のように輪の中心にいて周囲を明るくさせた。
甲斐「ロケットが飛んで嬉しくて、幸せに満ちている表情などをカメラマンさんに求められ、かっこよく撮っていただきました。役作りはまだまだですが、この写真を見て下さった方に面白そうと思っていただく第一歩になると思います。それと、皆と素顔で最初に会えて良かったです。コロナ禍でマスクした状態で稽古するので、舞台稽古まで芝居している顔が見られないんです。だからここで顔を見て出会えたのは大きいと思います」
ホーマーと一緒にロケット制作に励む「ロケットボーイズ」のメンバーの一人で、義父から暴力を受けているロイ役の阿部。甲斐とともに周囲を盛り上げるが、撮影ではクールな表情が印象的だった。
阿部「人との出会いが好きなのでワクワクした気持ちで現場に臨みました。カメラマンさんにすごく褒めて頂いて、その言葉に乗っかってかっこつけました(笑)。役柄はクールなタイプだったので撮影中はクールに臨みました。最初はやさぐれている感じも出そうかなと思ったんですけど、そういうのも関係なく「ただかっこよくいてくれ」という事だったのでかっこよさを意識してやっていました」
ホーマーの幼馴染で、明るい性格とユーモアのセンスを持つオデル役の井澤。ロックンローラーのようにクールに決めたかと思えば、その合間に見せる笑顔が人懐っこい。
井澤「初対面で緊張していたんですけど、みなさんすごく馴染みやすかったので安心して、いいロケットボーイズが作れそうだなと思えました。キャラクター的にムードメーカーな所もありますが、撮影では割とクールな感じでしたので、役作りの時にはムードメーカー的なカラーを出してガラッと変えて行こうと思います。音楽もロックンロールがかかっていて、気持ちも当時にタイムスリップした感じでした」
学校ではいじめられているが、優れた科学的知識を持ち、ロケットボーイズに加わることになる、クエンティン役の福崎。その役柄のように控えめな印象もあった。
福崎「ビジュアルは、舞台を観る前にお客様の目に触れるもので、それを見て足を運んで下さる方がたくさんいると思いますので、しっかり気合を入れてかっこよく写れるように意識しました。カメラマンさんから分かりやすい指示をいただいたのでやりやすかったです。見た目は探求心が強そうな感じなので、ひた向きな感じでロケットを見つめました(笑)」
カメラのシャッターが休まるとき、張り詰めた緊張の糸はほどける。自然と生まれる笑顔。「背高いね」「よく言われる」そんな他愛もない話に少年の面影が浮かぶ。撮影の合間に行われる写真チェックにも加わった4人は指をさし「かっこいい!」と盛り上がる。
後の取材では声を揃えて「バンド感があって質感もかっこよかったです!」と高揚した様子で語っていた。そんな活気が現場に流れていた。この日が初顔合わせだったが、既にそのキャラクター性、関係性が出来上がっているかのようにも見え、稽古を通して迎える本番でのチームワークにさらに期待感が膨らんだ。この時すでにロケットボーイズは存在しているかのようだった。
ここからは一問一答。
共通点と小さい頃の夢
――出演が決まった心境は?
甲斐 台本がまだ上がってきていないので映画を観ましたが感動しました。仕事だから観たというのを超越していい映画に出会ったという感覚でした。夢を持つ魅力や高校生の若いパワーをどう表現していこうか、作品が持つ魅力を壊さないように頑張りたいと思いました。
阿部 映画を観ました。夢や宇宙は誰もが一度は憧れるロマン。そのロマンのキラキラしたものを感じつつも、逆境や挫折をどう乗り越えていくかという話でもあります。お仕事を忘れてのめり込むほど素敵な作品でした。
井澤 ブロードウェイに先駆けて上演しますので、作品として良い物を作りたいという責任も感じています。映画を観ましたが本当にいい作品で、現代みたいに気軽に飛行機に乗ったり、ロケットや宇宙もまだ身近に感じられるようなものではない時代に、多感な高校生が見上げたロケットってすごくキラキラしていたと思うんです。それをお客さんに感じてもらえたら嬉しいですし、お父さんと息子の家族愛も大事なテーマになっていますので、大切にみんなで描いていきたいと思います。
福崎 映画を拝見して、希望や勇気をいただける作品だと思いました。この登場人物みたいにみんなに勇気を与えられる作品にしたいと思います。
――役との共通点と小さい頃の夢は?
井澤 僕は学生時代、やんちゃな部分もありましたので思い出す部分はあります。オデルは幼馴染と一緒にお父さんが働いている鉱山の採掘場に侵入しますが、それと似たような事が身に覚えがあるので、懐かしいなと思いました。でも、ムードメーカー的な感じではなかったので、そこは役作りで作っていきたいなと思います(笑)。小さい頃の夢は、父親が警察官でしたので警察官になりたいと思っていました。その時は役者になろうと思っていなくて。でも、兄弟が演劇をやっていた影響もあって興味を持ち始めました。
――阿部さんは?
阿部 義理の父から暴力を受けているとかは一切ないのですが(笑)。規模は違えど、プラモデルが好きで熱中していた時期がありました。物を作って目標に進んでいくところはすごく共感できます。僕自身たくさん夢があるので、夢があるというところではかなり共感できます。
甲斐 ロケットなど少年心を燃やすものが昔から大好きです。そうした少年心と言いますか、大人に何を言われようと突き進んでいく意志の強さが出せるんじゃないかなと思います。僕の父はあそこまで厳格ではなくて、やりたい事をやらせていただいています(笑)。小さい頃の夢は、仮面ライダーでした。七夕に仮面ライダーと書いていて、それが叶いました!
福崎 僕は探求心というか、何かにのめり込む時に自分でも理性が効かないくらい没頭してしまうところがあるので、そこをクエンティンとしても出していけたらなと思います。
――阿部さんと福崎さは幼い頃から芸能界にいましたが、小さい頃の夢は。
阿部 スターです。有名になりたいと思っていました。
福崎 僕が芸能に入ったのは、小さい頃に子供服のモデルをやっていたのが繋がりで、物心ついたときにはやっていたので夢みたいなものは考えてなかったんですけど…小さい頃は…忍者になりたかった…。
甲斐 叶いましたか?(笑)
福崎 まだです…。
全員 (笑)
――お互いの印象は?みなさんが甲斐さんに持っている印象。
井澤 王子様感がありますね。ハニカミ笑顔が王子様みたいな。
阿部 身長と甘い顔のギャップがありますよね。フランクですよね。
福崎 事務所のイベントでご一緒した時に、ユニットのリーダーを務めてくれて、頼りがいがあって、引っ張っていってくれた印象がありました。兄貴感がありました。
――福崎さんの印象は?甲斐と福崎は「チーム・ハンサム!」に所属しています。
井澤 真面目そう。礼儀正しい感じがしました。
阿部 静かだと思いました。
甲斐 テンションに差があるよね。テンション比率でいうと9:1。明るい時はレア。ロケット飛んだら見られるかも(笑)
福崎 …。
全員 (笑)
――阿部さんの印象は。
井澤 かっこいい、シュッとしている。ビジュアル撮っているときに見ていたんですけど、めちゃくちゃかっこよかった。
阿部 男性に言われるのはめちゃめちゃ嬉しい。
甲斐 雰囲気が役のまんま。
福崎 撮影の時、佇まいだけでも雰囲気が出ていて、映えていましたね。
――井澤さんの印象は?
阿部 奥に何かいろいろ持っていそう。
甲斐 一緒にメイクしたんですけど、メイクさんと話していたら一緒に話に入ってきて、きっと話すのが好きだし、掘ればたくさん出て来るんだろうなと思いました。
福崎 フランクですし、話を掛けやすいし、場が明るくなる感じです。
――みんな人見知りもなく、和気あいあいとした感じですね。
甲斐 みんな人見知りですよ(笑)。仕事モードで頑張っています。基本みんな目合わないですよ。撮っているときはまったく合わなかったです(笑)みんなレンズ見てます(笑)
原動力
――それぞれ夢がある中で、原動力となっているものは。
井澤 憧れが一番大きいかなと思っていて、元々バンドが好きで、きっかけはミスチルのライブ。その時に衝撃を受けたんです。憧れの人がいる事でそこに頑張って近づこうというのが最初の原動力で、その次に、応援してくれるファンの方が喜んでくれると頑張ろうと思えますので、その二つは大きいです。稽古中はつらいと思う事も多いんですけど、そこでお客さんが喜んでくれる姿を観ると頑張って良かったなといつも思えるので助けられています。
阿部 僕はゴールという目標があるということが原動力です。お客さんの前で披露するというゴールがあると、そこに向かって走り続けられます。何事もゴールが見えているから頑張れるなと思います。あとは、好きだから出来るというのも原動力です。
甲斐 お客様が喜んでくださって、心が動いているのを見るだけで充実感がマックスになるといいますか、このためにこの仕事をしているんだなって。もちろん好きというのもあるんですけど、それ以上に返って来るエネルギーがまた自分の次のエネルギーになって循環している感じがあります。
――舞台は冷静に立っているんですか。
甲斐 感情的になるシーンも必要だと思うんですけど、舞台上では常に理性的にいることを心がけています。どんなに感情的なシーンでも自分がどう映っているのかというのを意識するようにしています。
福崎 充実感なのかなと思います。最後お客様に見せた瞬間の充実の為にやっていて、僕は舞台経験があまりないんですけど、映像とかでもテレビでオンエアされた後に感想やファンレターを頂いて。その時に自分が感動させることができたと実感できて、嬉しくなります。「感動したよ」という声がエネルギーになって頑張れています。
(おわり)