saji「背中を押すくらいの応援歌に」アニメ『かげきしょうじょ!!』OPテーマに込めた想い
INTERVIEW

saji

「背中を押すくらいの応援歌に」アニメ『かげきしょうじょ!!』OPテーマに込めた想い


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年07月21日

読了時間:約12分

 北海道出身の3人組バンドsajiが7月21日、シングル「星のオーケストラ」をリリース。2019年7月にバンド名をphatmans after schoolから、自分たちの人生を自分たちで掬(すく)うという意味を込めsajiに改名。この2年間で配信を含むシングル3枚、デジタルシングル1枚、ミニアルバム2枚、フルアルバム1枚をリリースしているsaji。今作「星のオーケストラ」はsaji初のアニメオープニングテーマに抜てき。白泉社『メロディ』連載中の漫画、斉木久美子原作のアニメ『かげきしょうじょ!!』のオープニングテーマとしてOA中。インタビューではオープニングテーマを制作する上での意識の違い、3人の夢について、カップリング曲「アンチロックミー」に込められた想いなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

根拠なき自信みたいなもので進んで行ってもいい

――今回、オープニングテーマということですが、今までと意識が変わったところはありましたか。

ヨシダタクミ オープニングとエンディングでは役割が違うなと思いました。sajiはエンディング曲でも敢えてオープニングっぽいものを書いてみたりしていましたが、読後感を得られるものという意味では違うなと。なので、原作も全部読ませていただいて、爽やかで前向き、明るい曲を歌えたらと考えながら、今作はトライしてみました。

ユタニシンヤ アニメの放送前にオープニングを観させていただいた時に、ばっちりハマったなと思いました。放映されたものも観たんですけど、改めて嬉しかったです。

ヤマザキヨシミツ 10代の頃はアニメをよく見ていたのですが、途中ちょっと離れてしまいました。でも、このTVアニメ「かげきしょうじょ!!」を観て10代の頃アニメにハマっていた感覚が蘇ってきて。ストーリーに没頭出来るアニメで改めてアニメは面白いなと思いました。

――皆さん、漫画やアニメの趣味は合うんですか。

ヨシダタクミ 王道の作品なら僕とヨッシー(ヤマザキヨシミツ)は合いますね。ただ僕は原作派でヨッシーはアニメ派という違いはあるんですけど。ユタニは王道の漫画を読まないんです。そもそも読んだことあるのかという疑問もあって。

ユタニシンヤ 「るろうに剣心」は読んでたよ。他は確かにわからないかも。

――さて、オープニングを意識して作られた「星のオーケストラ」ですが、特にこだわったポイントは?

ヨシダタクミ イントロです。歌劇がテーマということで、まず歌劇関連の学校のドキュメントを観てみました。学校ではあるんですけど教育の場という感じではなくすごく独特なんです。入学の時点で一生この職業でやっていくという気概がない人は入れない。その中で興味深かったのが入学初日からみんな校歌が歌えるというのもすごいなと思いました。

 あと、学校で起立、着席、礼というのがありますが、それを曲に取り入れてみたいと思いました。校歌を聴いて、そのインスパイアで一曲作りたいと思い、イントロは3拍子なんですけど、バンドサウンドが入るところから4拍子になるんですけど、それはメリハリをつけたかったからなんです。歌劇団の方たちも号令がかかるとピシッとするじゃないですか。その世界観の切り替わりを表現してみました。

――イントロはバンドサウンドに切り替わる瞬間に面白い音が入ってますけど、これは?

ユタニシンヤ これはギターでビブラートをかけて、スライドした音です。

ヨシダタクミ 最初は授業中のガヤをサンプリングした音を入れていたんですけど、その音は僕しか持っていなかったので、その間を埋めるためにアレンジャーの河合(英嗣)さんがギターで入れて下さって。これはライブを想定してユタニのために入れてくれたんじゃないかなと思います。

――謎が解けました(笑)。歌詞のテーマはズバリ夢ですね。

ヨシダタクミ 僕がバンドでプロを目指したのも高校生の時で、このくらいの時期というのは多少無鉄砲なくらいの方がちょうどいい、誰かに言われてやるのではなく、根拠なき自信みたいなもので進んで行ってもいいんじゃないかなと。なので、彼女たちの背中を押すくらいの応援歌にしたいと思い、皆さんの前途が明るくなることを祈るような曲調で制作を進めていきました。

――ちなみに今の皆さんの夢は?

ヨシダタクミ 今年に入ってからは改めて音楽が楽しいと思えてきています。高校生ぐらいの時は“何者かになりたい”と思っていたんですけど、今はより長く音楽をみんなと続けるためにはどうすればよいか、と考えていて。プロの世界で10年続けるというのは大変なことで、一緒にキャリアをスタートした人たちもほとんど残っていなくて...。なので、ここから10年続けていくことがひとつの夢になっています。

ユタニシンヤ 僕は好きなギターを買って、好きな車に乗るというのが夢です。もちろん今使っているギターも気に入っているものですし、叶えられている部分もありますけど、まだまだ欲しいギターは沢山あります。あと車もポルシェとか高級外車に乗ってみたいと思っていて。

ヨシダタクミ 以前から言っているんですけど、ユタニにはステレオタイプのミュージシャンを目指してほしいです。僕らの世代でこういうことを話す人も減ったなと思っていて。今ならユーチューバーとか景気が良いところには夢を追いかける人が増えていますが、音楽も昔はそういったメインストリームにあったと思うんです。でも、今は印税生活などわかりやすい夢を見せてくれる人が減ってしまったなと思います。ちなみに車だったらフライングVの形をした車とかいいんじゃない?

ユタニシンヤ ちょっとギターと車は分けたいな(笑)。

――パンチがありますね(笑)。ヤマザキさんの夢は?

ヤマザキヨシミツ バンドを始めた時から夢は変わっていなくて、ベーシストであり続けること、バンドをやり続けることが夢なんです。言葉にできない感覚もあるんですけど、何となくその気持ちを音楽で表現している気がしています。

――先ほどヨシダさんがお話していた「何者かになりたい」といったものもありましたが、ヤマザキさんはそういう感覚はありましたか。

ヤマザキヨシミツ 何者かになりたいと思ったことはないです。もし、そう思っていたら僕の場合はコピーバンドでも良いんじゃないかなと思うので。オリジナルをやっていても自然と影響されたものは出ていると思うんですけど、僕が憧れている人にも不完全な部分はあると思っていて、こうしたらもっと自分の理想に近づくんじゃないかと思えているから、自分は今も続けて来れているのかなと。

――常に理想があって。さて、「星のオーケストラ」のレコーディングはいかがでしたか。

ヨシダタクミ これまで僕らはタイトなスケジュールで作品を完成させることが多かったのですが、今回プリプロに時間をかけることができました。事前にアンサンブルを組み立てることができたので、スムーズにレコーディングすることができました。それで僕とヨッシーとサポートドラムの生田目(勇司)さんでベーシックとなるリズムを同録しました。最近このスタイルが多いんです。たぶん二回ぐらいしか僕はギターを弾いていないんじゃないかなと。

――その時ユタニさんは一緒には弾かないんですか。

ユタニシンヤ 僕は後録りなので、河合さんと客観的に演奏を判断するような感覚で見ています。

――ヤマザキさんのベースも存在感があって聞き応えありますね。

ヤマザキヨシミツ ありがとうございます。ベースや機材はいつも通りなんですけど、他の楽器との兼ね合いでよりよく聞こえているのかもしれないです。カップリングの2曲はベースを変えています。

――ユタニさんが聴いてほしいポイントは?

ユタニシンヤ アレンジャーの河合さんのアドバイスが反映されていて、Aメロでギターカッティング、Bメロで音を伸ばす感じのフレーズ、サビでキラキラしたイメージのアレンジになっているんですけど、そのメリハリに注目してもらえると嬉しいです。僕もレコーディングしながらその切り替わりが面白いなと感じていて楽しかったです。

――タイトルが「星のオーケストラ」になったのはどんな経緯があったのでしょうか。

ヨシダタクミ 僕は漢字とカタカナの組み合わせが好きなんですけど、最初は「星の○○」と、違う言葉で仮タイトルをつけていました。でもそれだと他の作品を想起させてしまう感じがしたので、ハマる言葉を探していて、その中で出てきたのがオーケストラでした。

――歌詞はアレグロなど音楽用語を散りばめているのもポイントですよね。

ヨシダタクミ 宝塚などの歌劇の学校ではバレエをやっている人も多いみたいで、音楽用語やバレエ用語をいれたいとアニメの制作サイドからリクエストをいただきまして。それで<アレグロステップ>とかいれてみました。

――Dメロの<諦めかけた その先にきっと まだ希望の鍵がある>という歌詞にグッときました。

ヨシダタクミ 僕が割とそういう感じなんです。根拠のない自信で始めてみてある段階で「俺なんかよりすごいやついっぱいいるな」と気づくんですよ。そういう人たちの集まりの中で篩(ふるい)にかけられた時に自分は生き残れるのかと思う時期がありました。でも一度凹んでから冷静になって自分がやりたいことを考えて進んでみると、覚悟が変わるんですよね。バンドはそのタイミングで続けるか、辞めるかという選択をすることもあると思うんですけど、でもそこで続けることを選んだ人は長く続けていく何かを持っていると思います。

人生で一度もロックバンドとして見られたことがない

「星のオーケストラ」ジャケ写

――カップリングの「アンチロックミー」の歌詞で<秒速 34 センチ 7 ミリメートル>と出てくるんですけど、何の数字なんですか。

ヨシダタクミ 語呂がすごく良かったのと、人が歩くスピードより遅い、ということを伝えたかったんです。そんなスピードだったら永遠に夢なんか叶わないという。

――テーマとして「星のオーケストラ」と繋がっている部分もあるんですか。

ヨシダタクミ “夢”という点では繋がっている部分もあるんですけど、「星のオーケストラ」が明るい光だとしたら、「アンチロックミー」は僕の本質的な部分を投影した曲になっています。やりたいことに向かって努力することが嫌な人間、僕はどちらかというとそっち側ですし、そういう人は世の中に多いと思います。でも、なりたくてそういう人になったわけではなくて、前向きに生きていた時期があったんですよね。いまさらその時に戻れるのかと思ってしまっているからその状態で。なので、どんな状態でも諦めるんじゃないという歌なんです。

――「アンチロックミー」のアンチロックとは?

ヨシダタクミ これは僕の音楽人生にも関わってくるんですけど、バンドを始めたのが高校生の時で人生の多くをバンドとともに過ごしてきています。でも僕らをロックバンドとして見てもらえていることがあまりなくて。歌い手とかボカロPのようなクリエイター側の人間だと思われてることが多くて、それが忸怩(じくじ)たる思いで悔しかったりもします。それでどうやったらロックバンドになれるのかと悩んだ時期もありました。でも色んな人と話している中で、そういえば自分は人生で一度もロックバンドとして見られたことがなかったと、この1〜2年で気づいてしまって(笑)。

 色々悩んできたんですけど、僕の本質とは違うものがロックだとしたら、もうロックじゃなくてもいいと思ったんです。それで「アンチロックミー」というタイトルになって。僕みたいな人間も沢山いて不満があってもぶつけるところがない、代弁者が欲しいと思っていて。ロックバンドを聴いている人の多くはそういう人だと思うんです。でも僕はそことは違う輪を作って共感してもらえたら嬉しいですし、その人たちにとって生きる理由になってくれたらそれでいいと思えるようになりました。

 タイトルはロックと相反するものなんですけど、この曲の構成はギター2本とベースとドラムという完全にロックサウンドなんです。もともとピアノの音などデモでは入っていたんですけど、アレンジャーに「ピアノの音を外してほしい」と相談して。せっかくアレンジして頂いたのに申し訳ないなと思いながらも、最低限の楽器で構成しました。

――この歌詞を読んだ時にお2人はどんなふうに感じましたか。

ユタニシンヤ 昔はこういった歌詞の曲はちょくちょく書いていたんですけど、ここ最近はなかったんです。久々にこういう尖った感じの歌詞が来たなと思いました。

ヤマザキヨシミツ この歌詞を読んでそんなふうに考えているんだ、と思いました。僕らがロックバンドと思われていないといった感じを受けることはあるんですけど、無理にロックを表現しなければいけないとも思っていないですから。

――そもそもロックというのは概念の話でもありますよね。

ヨシダタクミ ロックバンドになるというのを目指して始めている人もいないと思いますし、勝手にロックバンドになっていくんですよ。ただ僕は、ロック的な考え方として気持ちだけで音楽をやる、下手でも良いという考えはあまり好きではないです。スキルがある程度あってこそのものだと思いますし、想いだけは誰にも負けないと思っていたら、その時間に練習した方がいいと思っていますし、楽器が初めから上手い人なんていませんから。僕に関して言えばもともと歌は上手くもなくて高い声も全然出なかったんですけど、歌っているうちにキーも上がっていきました。僕は楽器も歌も全部自分を肯定してもらうために努力すればいいと思っています。上手いよね、と言ってもらえるだけでアイデンティティを保てることは、プロでも絶対あると思っていて、自分の居場所を確保するためにプロはなおさら練習するべきだと思っています。

ライブを経て書く曲も変わってくる

――3曲目には「ネモフィラ」が収録されています。どんなテーマで書かれた曲なんですか。

ヨシダタクミ シングルを制作するにあたって自己表現をするフリースタイル曲、もう一曲は季節感がある曲というのをコンセプトにしています。前作の「瞬間ドラマチック」の3曲目はクリスマスソングにしました。今回は夏の曲ということで「ネモフィラ」という季語的なものを選んでつけたタイトルなんです。

――歌詞にある<君は Chelsea>というのは?

ヨシダタクミ GOING STEADYさんの「BABY BABY」という曲があるんですけど、Aメロで<甘いシュークリーム 君はシュープリーム>と歌っていて、これはなんだろうと思っていた歌詞でした。昔から不思議に思っていたんですけど、すごく歌いやすくて好きな歌詞で。それで僕もこんな感じのことをやってみたいと思って生まれた歌詞です。

――レコーディングはどんな意識で臨みましたか。

ユタニシンヤ この曲を始めて聴いた時、すごく気持ちの良い曲だなと思い、その感じで気持ちの良いギターを弾きたいと思いました。ギターソロは歌うことを意識して弾いたんですけど、自分の中ではすごく良いギターが弾けたんじゃないかなと思っています。逆に「アンチロックミー」は勢いで弾けた部分が大きくて、久しぶりに勢いで行ける曲が来たのでテンションが上がりました。ギターソロもワウを使用して勢いで弾けたので、2曲の対比を楽しんでもらいたいです。

ヤマザキヨシミツ 「ネモフィラ」はレコーディング中にテンポをデモより7くらい上げたんです。そうするとサンバっぽい感じにベースがなってしまって。僕の中ではお祭りが終わった後の静かな夜のイメージだったので、調整しつつレコーディングに臨みました。

――なぜそんなにテンポが上がったんですか。

ヨシダタクミ デモは打ち込みで作っていたので、リズムがジャストなんです。どうしてもオンタイムの方が早く聴こえるので、生で演奏した時に2〜3はテンポが落ちることは想定していたんですけど、実際やってみたら思っていたよりも遅く感じてしまって。それでデモの感覚に近づける、曲のイメージを保つために行った結果なんです。

――面白いですね。最後に8月15日にライブ『saji Live 2021〜夜の兎は眠らない〜』も控えていますが意気込みをお願いします。

ユタニシンヤ 1年8カ月ぶりのライブなので、ここまで溜めていたフラストレーションとかみんなの期待、それら全てをぶつけるようなライブにしたいです。

ヤマザキヨシミツ アルバムを制作する時にこういうコンセプトで弾こうと思っていたものをライブでどう感じてもらえるのかという、考えていたことを試して実感できる場所なので、ライブはすごく楽しみです。是非みなさんも楽しみにしていてください。

ヨシダタクミ sajiとしてライブをするのがまだ2回目で、1回目はsajiとして作った曲が3曲くらいしかなかったので、本当の意味でのsajiとしての初ライブになると思っています。僕らにどういうことを期待して観に来てくれるのか、というのを見てみたいです。僕個人としては、ライブを経て書く曲も変わってくるんじゃないかと感じています。そこから年末に向けて新曲も作っていくので、少なからず変化していくんじゃないかなと思っています。それも含めてライブは楽しみなので、これからのsajiにも期待して下さい。

(おわり)

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