北海道出身の3人組バンドsajiが23日、2nd Mini Album『花火の詩』をリリース。2019年7月にphatmans after schoolから、自分たちの人生を自分たちで掬(すく)うという意味を込めsajiに改名。新たなスタートを切った3人が届けたのは、夏の終わりの恋をコンセプトにした6曲を収録したミニアルバム。バンド色の強いサウンドから歌を軸とした方向性へとスタイルを変化させ、様々なラブソングの形を提示し、いまの彼らが感じとれる一枚となった。インタビューでは、今作の制作背景からそのサウンドの変化に迫るとともに、sajiにとってのラブソングとは何なのか、多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一】
夏の終わりがテーマの『花火の詩』
――バンド名をphatmans after schoolからsajiに変えてから約1年が経ちますが、変化を感じていますか。
ヨシダタクミ レコード会社を移籍しまして、マネージメントも事務所を離れて独立したので環境が間違いなく変わりました。それに伴って楽曲の方向性も変わりました。phatmans after schoolの時はバンド色が強かったのですが、今は歌を基軸としたスタイルに変化しているので、音はすごく変わったんじゃないかなと。
――それは自然に?
ヨシダタクミ 意図的にアプローチしているんですけど、名前を変えたことによって世間の認識として、僕らは新しいバンドになっていると思うんです。新しいお客さんはsajiがどういうバンドかは知らない。phatmans after schoolを知らずにsajiから僕らを知った方もたくさんいるので、まずは僕らのイメージを付けたいと思い、今のようなサウンドになりました。
――ユタニさんは改名されて変化はいかがですか。
ユタニシンヤ すごくシンプルなところでは、バンド名を一発で覚えてもらえるというのが大きいです。
――以前のは長かったですからね…。でも、昔のバンド名でポロっと言ってしまったりしません?
ユタニシンヤ 前にライブの時に危なかったことはありました(笑)。phatmansの「ファ」まで出ちゃったことはよくありましたけど、最近はだいぶ慣れてきたので大丈夫です。
――ヤマザキさんはいかがですか。
ヤマザキヨシミツ 欲求だけで弾いていたものが、一回リセットされて自分達の武器ってなんだろうと、考えてフレーズを作ったりするようになりました。そういったところに改名したことが活きてきているなと感じています。
――ところでステイホーム期間でみなさんどんなことを考えていたのか、お聞きしたいのですが。
ユタニシンヤ 僕はバンドの中ではパフォーマーとして前に出ていくタイプなんですけど、そこのスキルがまだまだ足りないなとこの期間に思いました。それで色んなアーティストのライブ映像を観て勉強してました。その中で特にマーティ・フリードマンさんのパフォーマンスは大変参考になりました。
ヤマザキヨシミツ プレイヤーとして、私生活のこともいろいろ考えたんですけど、いま特に変化は感じてなくて、やるべきことは変わらないな、と思いました。
ヨシダタクミ 自分が何を求められているのか、何を歌うべきかというのは考えていました。でも、この期間に限らず音楽については日々考えているので、僕も変化は特にないです。
――さて、今作『花火の詩』のコンセプトはどのように決めたのでしょうか。
ヨシダタクミ リリース日が決まっていたので、夏の終わりをテーマに書こうと、コンセプチュアルなアルバムというのは決まっていました。そこから楽曲を書き下ろしていったので、アルバムにアジャストしていくような感覚でした。以前よりも狙って作っていくようなスタンスになっています。
――制作途中で、お2人に相談されたりしますか。
ヨシダタクミ 制作途中で相談することは少ないですが、制作する前にどんな曲をやりたいかリクエストを募ります。
ユタニシンヤ 今回は僕のリクエストは通らなかったんです(笑)。僕はライブでもはっちゃけたキャラなので、お客さんと一緒に盛り上がれる曲をリクエストしたんですけど。
ヤマザキヨシミツ 僕が跳ねた感じの楽曲がやりたい、とリクエストして「真に暗き夜」がそれにあたります。この曲はベースソロがあるんですけど、これまであまりなかったので、すごく新鮮な1曲でした。ソロパートだけ音色も変えてレコーディングしたので、こだわった部分でもあって、やりがいがありました。
『花火の詩』の収録曲に迫る
――さて、リード曲にもなっている「三角の恋」はヨシダさんが歌詞の中でわたしと一人称を使ったのが初めてということですが、意外でした。
ヨシダタクミ そうなんです。僕という一人称を使うことが多いんですけど、僕というのは女性目線でも通じると思うんです。性別のボーダーをあまり感じさせない。ただ、今回の主人公というのは女の子なので、より女性という視点で表現することを考えると「僕」だと物語に入り込みづらいなと思いました。男性は好きな人がいる女性を好きになることってそんなにないと思うんです。でも、それは女性は多いんじゃないかなと思って。それもあってこの曲は女性視点で歌った方良いだろうと思いました。
――その中で気を付けたポイントは?
ヨシダタクミ 女々しくなりすぎないようにしました。女性視点で書いたとはいえ、〜だわとか〜なのねという言い回しは使いませんでした。そこは男女どちらとも取れる言い回しにしています。
「美味しんぼ」というマンガで女性の寿司職人のお話があるんですけど、その職人は女性の良いところ失くしてしまっている、男性の悪いところだけを引き継いでしまっているスタイルでした。それを見て、女性目線の曲を男性が歌う意味を考えた時に、歌詞をそういうふうにすることにしました。〜だわとか使ってしまうと女性の曲を歌っている男になってしまうんです。
――マンガからヒントを得ることも多いんですね。
ヨシダタクミ 多いですね。小説もそうなんですけど、言い回しというのはその人を決定づける、この言い回しだからこの人節なんだろうなと思うので、すごく参考にしています。
――面白いです。アレンジ面をお聞きします。こういったミディアムナンバーを演奏するときに心がけたことがあれば教えてください。
ユタニシンヤ sajiになって変わった部分でもあるんですけど、自分が気持ちいいからギターを前に出すとかではなく、全体を見た時にこの曲はどういうものが鳴っていたら、一番良いのかということを考えるようになりました。デモの段階で歌詞も送られてくるので、その世界観に寄せてみたりしています。
ヤマザキヨシミツ 新しいアルバムを作るときは毎回考えていて、今までやったことがないことに1曲はチャレンジしようと思っています。その中で今回はスロー、ミディアムテンポが多かったので、普段なら入れないところにベースをいれてみたりしています。そして、自分だけのジャッジではない、例えばディレクターなどの意見を前よりも重視するようにしています。
――続いて2曲目の「ハナビノウタ」は、アルバムタイトルと同名曲です。
ヨシダタクミ リード曲ではないんですけどね。夏の終わりというコンセプト、このアルバムを体現しているのはこの曲です。なのでわざとアルバムタイトルと被せたんです。
――この曲名はカタカナですが、皆さんのお名前も表記はカタカナで、どのような意味でカタカナを使っているんですか。
ヨシダタクミ 僕はカタカナにするとクールになると思っていて。日本人に漢字というのは馴染みがありすぎて、リアルに感じてしまう、距離が近くなるイメージがあって。それがカタカナになるとよそ行きな雰囲気になるんです。
――さて、「ハナビノウタ」は北海道でのお話になっています。歌詞にも登場するハルニレの木は北の方で見れる木なんですよね。
ヨシダタクミ 北海道出身の僕らにとっては馴染みのある木なんですけど、他の地域の方はあまり知らないと思います。僕らは道東の帯広で、ハルニレは駅前にも植えてあったりポピュラーな木なんですけど、そんなに気にしたことはなくて。
――ポピュラー過ぎて逆に気にならない(笑)。夏の終わりと花火というのは、すごく叙情的でいいですよね。
ヨシダタクミ 花火という言葉を季語としていれたいということと、花火というのは日本人の誰しもが思い出の一つとして持っているものだと思いました。夏の終わりを体現するにあたって花火に変わるものはないと思いました。誰しもが共感できるワードだと思ったのですぐに決まりました。
――ユタニさんは花火の思い出はありますか。
ユタニシンヤ いろんな思い出があります。好きな子と見にいった思い出もありますし、それこそタクミと観にいった花火大会も思い出深いです。この曲の歌詞が送られてきた時に、この曲は「帯広を題材にした歌だ」ということを聞いたんですけど、その時にタクミと花火大会に行ったなあ、とすぐに思い出しました。
――さて、続いての「You & Me」は気になっている歌詞がありまして、<雪が溶けたら何になる?だなんて 無邪気に笑うあの日の君を>なんですけど、この歌詞はどういう意味なんですか。
ヨシダタクミ これは元ネタがあるんですよ。マンガの『フルーツバスケット』で草摩はとりというキャラクターがいるんですけど、このはとりは真面目なキャラなんです。恋人になる前の佳菜に「雪が溶けたら何になると思います」と聞かれて、はとりは「水になるだろ」と答えます。でも、佳菜の答えは「春になります」と聞いて、はとりはその子に興味が湧いて心を開いていくというものなんです。
――この主人公はこんなに彼女のことを好きなのに、アタックされないんですか。
ヨシダタクミ この曲は別れた後の話で、もう終わってしまったことだから、この想いは伝えるつもりはないけれど、でもずっと好きだという話なんです。はとりと佳菜も同じようなシチュエーションがあって、愛を伝えることだけが愛ではない、という。
――深いですね。ということは、この歌ははとりの曲で。
ヨシダタクミ その通りで、はとりの歌です(笑)。
sajiにとってのラブソングとは
――4曲目は「アサガオ」ですが、これは花の朝顔と、朝起きた時の顔を掛けてますよね?
ヨシダタクミ そうなんです。朝顔って知らない間に花が開くんです。人もそういう感じがあって、寝起きの顔って人に見せられないじゃないですか。その顔を見せられるというのは、すごく親しい間柄だと思うんです。<寝惚け顔のあなたが愛しい>という歌詞にそれが表れていて。この顔を見れている僕は、君にとって特別なんだよと。
――楽器隊のお2人はどんなところにこだわって演奏しましたか。
ユタニシンヤ 「アサガオ」は、歌詞に寄り添うことを意識して演奏しました。曲を聴いて支える感じをギターで出したいなと思ったんです。逆に「真に暗き夜」はギターで前に出たいなと思って。「真に暗き夜」は久しぶりにワウを使ったので、注目して欲しいポイントです。レコーディングではレスポールやピックアップの配列がSSHのストラトも使っています。ライブではフライングVやエクスプローラーなど尖った感じのギターを使っているんですけど。
――ライブで変形ギターを使うのは、ルックス的に?
ユタニシンヤ L'Arc-en-CielのKENさんが使っているのを見て、フライングVが一番最初にカッコいいと思ったギターなんです。最初は父が持っていたストラトを使っていて、バイトやお年玉を貯めて自分で最初に購入したのギターが今も使っているフライングVでした。それもあって僕のアイコンと言いますか、ユタニシンヤ=フライングVというのを広めていきたいと思っていて。
――ヤマザキさんは「真に暗き夜」
ヤマザキヨシミツ シンプルにリフをどのくらい乗せられるか、というのをこだわりました。あまりきれいな感じは好きじゃないので、ベースとドラムだけで勢いがあるテイクを選びました。
――この曲とヤマザキさんのイメージから、もしかしたら立ってレコーディングしているのではないかなと思ったのですが、いかがですか。
ヤマザキヨシミツ 最近は座って録っていますね。座って弾いても立っているときのような荒々しさが出したいです(笑)。
――この「真に暗き夜」の歌詞はどのようなイメージで書いたのでしょうか。
ヨシダタクミ 今回全曲、恋愛がテーマになっているんですけど、これは不倫の歌で、許されざる恋を歌っています。タイトルは仰々しいですけど、この曲を書くにあたってリファレンスにしたのがEXILEの「Ti Amo」でした。この曲がすごく好きで、カラオケやソロのライブでもカバーしたことがあって。「Ti Amo」も不倫の歌で、「アサガオ」が朝方の顔を愛しいと思える真実の愛だとしたら、「真に暗き夜」は陽が明ける頃には消えなければならない。
――陰と陽の関係ですね。
ヨシダタクミ はい。この曲も女性目線で書きました。偏見かもしれないですけど「私は2番目でもいい」、という女性っているじゃないですか。最初はそう思っていてもでも、だんだん独占欲が生まれ、愛が憎しみに変わる瞬間があるんです。それを表しているのが<秘密を暴露して- バラして- しまう前に>という歌詞なんですけど。
――だから他の曲に比べて、曲調もハードな感じになって。
ヨシダタクミ この曲がリズミカルな感じになったのは、粘っこくなりすぎないようにというのがありました。聴かせる系の曲でこの歌詞だと、気持ち悪くなってしまうなと思って。
――塩梅が難しそうでうよね。ラストは「STAR LIGHT」ですが、この曲を最後に持ってきたのも深い意味がありそうですね。
ヨシダタクミ この曲はプロポーズの歌なんです。
――もしかして、ヨシダさんご結婚されるんですか。
ヨシダタクミ しないですよ(笑)。アルバムの最後の曲というのは結びになるじゃないですか。そして、恋愛の結びとなると結婚じゃないですか。なので、アルバムの最後に持ってくるとしたらこういうテーマだろうなと。これまで、好きという気持ちを歌ってきているんですけど、でもこの「STAR LIGHT」では、好きという言葉は言わないんです。思いを伝える手段は言葉だけではない、ということなんです。僕が君とずっと一緒にいる、人生をかけて一緒にいることはそういうことなんだと。
――「真に暗き夜」との対比がすごいですね。
ヨシダタクミ 「真に暗き夜」がドロドロしていたので、最後にトゥルーラブを歌っておきたかったんです(笑)。
――バランスですね。
ヨシダタクミ 僕の場合、整合性が取れていないとすごく気持ち悪く感じてしまうんです。例えば映画とかでもバッドエンドがあまり好きではなくて、「どうして救いを与えてくれないのか」と考えてしまう。マンガでも風呂敷を広げて終わるような作品も苦手です…。
――ヨシダさん、本当にマンガが好きなんですね。
ヨシダタクミ もうマンガは知識であり、価値のあるもので、僕はなんでも読みます。ヨッシー(ヤマザキ)と一緒に住んでいたときも、彼がつまらないと酷評したマンガも僕は楽しく読めます。
ヤマザキヨシミツ 僕が一生読まないようなマンガも楽しそうに読んでますから(笑)。
――(笑)。さて、最後にsajiにとってラブソングとは何でしょうか。
ヨシダタクミ まず僕にとってのラブソングというのは、通信手段の一つです。そもそも曲を書き始めたのは自分の居場所が欲しかったからなんですけど、僕の取り柄の一つであり、音楽をやっているときは人と繋がることができるんです。
高校生の時から音楽の仕事を始めて、大人になってくると昔の曲で共感しづらくなるんです。恋愛というのは普遍的なものじゃないですか。恋というのは世代を超えられる一つのワードで、今の僕が世代を超えて共感を求められるものがラブソングなんです。
そして、sajiにとってのラブソングは、バンド名を改名してからのひとつの顔になっていると思います。聴いてくれている人の中には、“恋の歌”を歌ってくれるバンドだと認識している人も多いんじゃないかなと。なのでsajiにとってのラブソングは、僕らの代名詞になっていくものなんじゃないかなと思います。
(おわり)