4人組ロックバンドのLAMP IN TERRENが9日、ニューシングル「心身二元論」をデジタルリリース。昨年発売されたアルバム『FRAGILE』以来、 約8カ月ぶりのリリースとなった本作は、これまでの制作のセオリーを取っ払い、バンドが次のフェーズに突入していることを感じさせる楽曲に仕上がった。インタビューでは、定期公演『SEARCH』についてや、「心身二元論」の制作背景、今のバンドが向かう方向性や姿勢など4人に話を聞いた。【取材=村上順一】
『SEARCH』で気づいたこととは
――5月26日に28回目の定期公演『SEARCH』が行われましたが、松本さん踊ったんですか。
松本大 その日は楽器の使用を僕は禁じられていたので、もう踊るしか選択肢がなかったんです。小道具としてステージに置かれていたイルカのぬいぐるみを抱えて「Water Lily」を踊る自分は二度と見れないと思いますし、二度とやりたくないですね(笑)。
中原健仁 ちょっとこれやって良かったのかな、と思いましたから(笑)。
――やってみて何か気づきはありました?
松本大 特に気付きはないんですけど、ダンスは苦手分野だということはわかりました。まあ、練習すればある程度はできると思うんですけど。
――28回展開されていますがここまでで見えたものはありますか。
中原健仁 往年の名曲をカバーして、そこから自分たちの曲に繋げていくというのを真ちゃん(Gt)の企画としてやったんです。イベントでもやってみたんですけど、改めてこれは良いなと思いましたし、手応えがありました。
大屋真太郎 毎月ワンマンをやるということで、体力と集中力を途切らせないというテーマもこの『SEARCH』にはあるんです。去年から新型コロナの影響でイベントも中止や延期が多いなかで、ワンマンが出来ているというのもすごいことだと思いました。お客さんに楽しんでもらうというのもありますけど、僕らもこの企画に助けられていたんだと気づきました。
松本大 この期間でこんなにワンマンが出来ているのは自分たちしかいないんじゃないか、という自負はあります。
川口大喜 バンドで出来ること、出来ないこと、それぞれが好きなことや得意なことがわかってきました。そして、ワンマンという尺のライブを繰り返すことで見えて来たものもあります。ワンマンを定期的にやれることで色んなことを試せるんですよ。それも続けて来なければわからないことだったりするので、すごくありがたい環境だなと思います。
松本大 今回楽器なしでやってみて、自分の歌はギターやピアノ、楽器と連動している部分が大きかったんだなと感じました。だからこの前の『SEARCH』では歌詞をけっこう飛ばしちゃって...。あと僕はライブよりも音源制作の方が優先順位は高いんですけど、バンドという形態だから外に出れている感覚もあるんです。きっと自分がソロアーティストだったらライブはほとんどやっていないと思うんです。でも、周りがセッティングしてくれるので、健全な状態を保てているような気がして。流動し続けられるのはメンバーやスタッフのおかげだなと思います。
歌詞と曲が別軸で進行していった「心身二元論」
――さて、新曲「心身二元論」がリリースされますが、制作の経緯は?
松本大 アイデア、空気感が先に出て来ました。このタイトルはデモの段階から付いていたので歌詞の方向性も何となく決まっていて。実は一度レコーディングしたんですけど、暗さを強調する仕上がりでした。でもそれってなんか面白くないなと。
――面白くない?
松本大 どの曲でもそうなんですけど、歌詞の世界観をわかりやすくするための曲やアレンジというのは結局独りよがりのものになってしまうなと思いました。特にこの曲は最初から独りよがりで作っていたので。結果作り直したんですけど歌詞はより暗くなったし、でもアレンジはキラキラしているという、全く別軸で進行していった感じなんです。これは珍しいんですけど、アンサンブルのことは考えず言葉を作り、言葉を気にせずにアンサンブルを作ったんです。それが「心身二元論」という言葉にもハマったんじゃないかなと。
――この「心身二元論」はルネ・デカルト(フランス生まれの哲学者)が説いたものだと思うのですが、この説に興味が?
松本大 この言葉は高校生の頃に知るんですけど、当時の自分は人付き合いが苦手で誰に対しても斜に構えて学校にも行ってなくて。今になってそれは後悔してるんですけど。もうテストの苦しみは味わえないのか、みたいな。でも学校に行かなかったのは周りの人間との価値観が合わない、話が合わないとかあって学校に行ってなくて、そうすると陰口とか耳に入って来るんです。
――それは嫌ですね...。
松本大 その処世術として俺のことをよく知らない人間が言ってることで、これは自分のことではないのではと思って、そこで心と身体が切り離されていく感覚があったんです。心が俯瞰して身体という器を見ていると思えた事でどんどん自分の中で面白くなっていって。同じような悩みを持っている人はたくさんいるだろうと思ったし、「心身二元論」という言葉自体について最初は書いていて、“帰り道”というシチュエーションだけ決まっていたので、教室というワードを出してみたり、10代の頃の自分に向けて書いていた感覚もあります。
――メンバーは学生時代からの付き合いということもあって、松本さんと思考は合うんですよね?
松本大 どうですかね? 学校が違ったからわからないんですけど、僕は学校に行ったふりをして親が仕事に出た後に帰っているような人間だということは、みんな知っていると思うんですけど。
大屋真太郎 僕も大と同じようなタイプで、学校に行かず家に戻ってました。自分の場合は受験に病んでいたんですけど。
――けっこう共感できる人は多いと思います。さて、そんな歌詞と曲を切り離して考えていた「心身二元論」のレコーディングについてお聞きしたいのですが、まずスネアドラムの音がすごく気持ち良かったです。
川口大喜 ありがとうございます。音色はかなりこだわりました。スネアはかなりミュートしています。普通はティッシュをガムテープとかスネアに貼るんですけど、大のアイデアでサイフを置いてみたんですけど、それがすごくハマって。あと、この曲のリズムはドランクビートと呼ばれる、ちょっと酔っ払ったイメージのビートに挑戦しました。歌もその要素があったのでかなりボーカルに寄り添ったドラムになったと思います。R&Bの要素もあって自分は通ってないので、レコーディングはかなり気合いをいれて臨みました。
松本大 人力でトラックを作ってもらっているような感覚がありました。シンバルも2カ所くらいしか入っていないというのも特色かもしれないですね。この曲はロックバンド的な拍の頭があっていれば良いというわけではなく、楽器で会話してほしいというのもありました。そういう方向にバンドがシフトして来ている感じもあって。
――参考にした曲とかあったんですか。
川口大喜 The 1975の「Sincerity Is Scary」を聴いてました。前に大からこれ叩いて欲しいと言われたことがあって、そこから気に入っている曲なんです。あと、フィルは新しい事に挑戦したいなと思っていたので、あえて自分の身体にないフレーズを考えて練習しました。
――中原さんはベースの特色としてゴーストノートの美しさをSNSで発言されてましたね。
中原健仁 ゴーストノートというのは鳴っているんですけど、ほとんど聞こえない音のことで、それをこの曲では多用しています。僕はドランクビートを詳しく知らなかったので、正解がよくわからなかったんです。これまではクリックに合わせてピタッとハマれば正解というのもあったんですけど、今回はそれが正解ではなく、どちらかというと不正解なので、練習の仕方もわからなくて...。
――どのように正解にたどり着いたんですか。
中原健仁 大喜にドラムをレコーディングしてもらってそれに合わせて練習してました。それでわかったのが音符をはめるのではなく“落としていく”というニュアンスだなと思いました。楽しいんですけど、めちゃくちゃしんどいという不思議な感覚でした。5月の『SEARCH』で演奏したんですけど、これがまだ上手く出来ていなくて、色んな音が合わさってやっと落ち着いて来る感じなので、ライブで完成度を高めていきたいです。
――ギターはいかがでした?
大屋真太郎 デモの段階から新しいものが出来ると感じていたので、僕の中ではありがちなソウル、ファンクみたいなフレーズは入れたくないなと思い、ギリギリまで模索してました。トム・ミッシュなどで有名なネオソウルギターが流行ってますけど、そういうのも除外して考えていました。ハマるんでしょうけど、なんか反骨精神が出てしまって。
松本大 真ちゃんはこの曲、大変そうでしたね。
大屋真太郎 あれもダメ、これもダメともう消去法で構築していった感じです。でも結果的に絶妙なバランスになったのかなと思います。
今が一番尖っている
――コーラスもこの曲のポイントになってますよね。どこか不安定な感じもあるのですが、どういった重ね方を?
松本大 これは感覚で重ねていったので自分でもよくわかっていないんです。デモの段階からこのアイデアはあったんですけど、あえて入れてなくて。なので、このコーラスが入ることはメンバーもミックスまで知らなかった。だからみんな最終段階までシンプルすぎて「これでいいのか」と不安を覚えていたみたいで。
大屋真太郎 音が少ないので隙間が目立つし、ミックスの最終段階まで不安でしたね。
松本大 それでコーラスを入れて完成したものをみんなに聞いてもらったら驚いていたので、自分のなかでこういった楽しみ方もあるなと思いました(笑)。
――このコーラスがあるかないかでかなり楽曲のイメージは変わるなと思いました。松本さんがこだわったところは?
松本大 ミックスダウンです。一度、エンジニアさんが方向性を打ち出してくれたんですけど、ちょっと自分の中でしっくりこなくて、ドラムから見直させてもらいました。音の配置は全部僕が決めさせていただいたんですけど、今作はここが一番こだわったポイントでした。
――ミックスまで踏み込んだのには何か変化があったんですか。
松本大 これまではデッドラインギリギリまで歌詞を考えていたので、ここまで曲というものに向き合えたのは初めてでした。今回は制作に余裕があったので、他のところに頭が回ったんですけど、楽器の配置とかで決まる雰囲気もあるなと改めて感じて、そこが自分の中でも大事だった部分だったんだなと。なので、もうレコーディングギリギリに歌詞をあげるのはやめようと思っています。
――制作スタイルも変化しそうですね。
松本大 そうですね。これまで大切なのはアイデアと気持ちだと思っていたんですけど、それがそうではないなと思えてきていて。気持ちに付随しない音楽作り、歌詞と曲で脳を分けていたというのは自分のなかでは大事なことで、歌詞がどれだけ良くてもメロディが良くなければ意味がないじゃないですか? 今回、別々の脳で作って行ったんですけど、言葉は自分から出てきているものだし、なんだかんだで寄り添っていると思うんです。音楽として当たり前のことなんですけど、今までは曲作りに変に制約を課して固執している部分があったと感じています。
――解放された感覚もあるんですね。そして、楽曲を視覚的に表現しているジャケットのアートワークなんですけど、これモデルは中原さんですか。
中原健仁 違います(笑)。
松本大 健仁ではないんですけど、ちゃんとモデルはいて、とある俳優さんなんです。この曲はMVは制作しないんですけど、もし作ったとしたら誰に主役を演じてもらいたいかなと考えたんです。それで思いついたのがこのジャケ写に描いた俳優さんで、雰囲気がこの曲にすごく合うなと思ったんです。
――誰かはみなさんに当てていただくとして、最後にショートツアー『Ivy to Fraudulent Game×LAMP IN TERREN SHORT TOUR -メランコリア-』への意気込みをお願いします。
大屋真太郎 幾度となく延期してきたツアーなんですけど、なんとかやり切りたいなと思っています。「心身二元論」をライブでやるのも楽しみです。今までの僕らを知ってくれている人から見たらこんな曲もやるんだと意外性もあると思いますし、セットリストの流れの中でこの曲がどう変わるかというのも楽しみなんです。チャレンジしている姿を見せたいと思っています。
中原健仁 「心身二元論」は僕らの中で新しいグルーヴの曲で、新しいテクニックも必要になってくるんですけど、それは今までの曲に対しても影響するものだと思っています。ツアーでは過去曲も今までと違った聴こえ方をさせることができたらいいなと思っています。進化した姿をお見せできると思うので楽しんでもらえたら嬉しいです。
川口大喜 この「心身二元論」はこれから教育されていく曲、育っていく曲だと感じています。世の中も変化しつつあるところで今回Ivy to Fraudulent Gameと2マンライブをしていくので、今までとは違うことが起こると思うんです。それは目に見えないものかもしれないですけど、その変化を一つの楽しみとしてツアーを回って行けたらと思っています。
松本大 誤解されるかもしれないですけど、今が一番尖っている感覚があります。今まではお客さんに対して伝えたいことをちゃんと伝えるべきだ、支えてもらうためにもそれ以上のものを返さないといけないという気持ちでやっていたはずなんですけど、今はそれが一切ないんです。評価が絶対になってくると思うんですけど、結果も含めて納得のいくものを作りたい。そのために良い人間であることをやめようと思って。
たとえばライブのMCで良いことを言うというのもそうなんですけど、それによって自分に制限をかけてしまう部分もあって、それがバランスというのかもしれないんですけど、そのバランスの向こう側にいきたいんです。中途半端で終わらせたくないという想いがあって、これが世の中的には尖っていると思われることになると思うんですけど、僕は純粋に素晴らしいものを作りたいだけなんです。
――ライブの見せ方も変わる?
松本大 ちょっと今はどうなるのか、やってみないとわからない部分が多いです。自分は今作っている曲が全てなので。この曲が一番美しく見える方法、この曲をリリースしたことで新しい僕らのフェーズというものが他の曲も影響されていくだろうなとは感じています。ただ絶対に「良い」と言わせてみせる、という気持ちはあります。
(おわり)
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