GOOD ON THE REEL「聞き手との距離が近い曲を」“花歌標本”に込めた想い
INTERVIEW

GOOD ON THE REEL

「聞き手との距離が近い曲を」“花歌標本”に込めた想い


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年06月09日

読了時間:約10分

 結成15周年を迎えるGOOD ON THE REELが6月9日、4年ぶりとなるオリジナルフルアルバム『花歌標本(読み:はなうたひょうほん)』をリリース。2015年にメジャーデビューし、2019年には自主レーベルlawl recordsを設立。2021年1月にはバンド初となるライブアルバム『a LIVE』をリリースし、4月には人気作家の住野よる氏と、千野隆尋(Vo)による想像上の男女の交換日記を元に歌詞を書き上げた「交換日記」をアルバムリリースに先駆け先行配信した。インタビューでは『花歌標本』というタイトルに込めた想い、5人それぞれの今のモードが反映されていると思う楽曲など、多岐に亘り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

標本ってどこかCDみたい

『花歌標本』ジャケ写

――久しぶりのフルアルバムですが、どんな1枚になったと感じていますか。

千野隆尋 バラエティに富んだ作品になっていて、それぞれの色が濃いアルバムになったと感じています。一つの作品として纏まっているというよりは、個々の存在感が強いものになっているなと。

伊丸岡亮太 歌詞と曲のバラエティがそう感じさせてくれたんですけど、今まで以上に情景が見える1枚になったと思います。

岡崎広平(※崎は正式にはたつさき)僕らはフルアルバムを初夏に出すのは初めてなんです。冬にリリースすることがこれまでは多くて。それもあって温度の高い楽曲が多く入っているのが特徴かなと思っています。聴いてくれる人のイメージが変わるアルバムなんじゃないかなと。

宇佐美友啓 「あとさき」と「ノーゲーム」は先行配信されていて、すごく濃い2曲だったので、この後に作った曲が霞まないか不安もありました。でも、その2曲に負けない個性的な曲が揃ったアルバムになったと感じています。

高橋誠 まさに『花歌標本』といったアルバムが出来たなと思います。標本というのは色んな虫がいるじゃないですか、このアルバムも色んな曲が入っていて、タイトル通りの1枚になりました。

――『花歌標本』というタイトルになった経緯は?

千野隆尋 アルバムの最後に「標本」という曲が入っているんですけど、僕がずっと標本という言葉を使いたかったんです。もともと標本が好きで、家にもいくつかあるんですけど、標本ってどこかCDみたいだなと感じていたところがありました。

――花歌の語源は?

千野隆尋 頭につけた“花歌”というのは鼻歌のことで、それは作曲の原点みたいなものじゃないですか。そこから肉付けをしていき、素晴らしいものを作り上げる原点だと感じています。なぜ、花歌にしたかというと、「標本」という曲で<あなたが未来で口ずさむ 微笑むように咲く歌をそっと>という歌詞があって、それは誰かが口ずさんだ鼻歌が花を開くという想いを込めた歌詞だったので、そこから連想して花歌にしました。もし、音源を失くしてしまったとしても曲が標本のようにみんなの心にずっと残っていて、それが花開くみたいなイメージなんです。

高橋誠 アルバムタイトルを決める時も、沢山「◯◯標本」と案を持ってきてましたから。

千野隆尋 音楽が標本という言葉で表現出来るというのが、すごく面白くて。

――アルバムを制作するにあたり、打ち合わせはどんな感じでした?

千野隆尋 今回、いつも以上に話し合いました。これまではまず曲を作って、そこから曲を選んで1枚の作品にしていくという流れだったんですけど、今回は大きな枠を話し合って方向性を決めました。より聞き手との距離が近い、1対1で完結するような曲を作って収録したい、という話をしました。

人と繋がりたい、という思いが自然と出てしまった

――今作でそれぞれ今のモードが反映されていると感じている曲は?

伊丸岡亮太 僕はEDM要素の強い「標本」です。僕が書いた4つ打ちの曲では最高傑作になったんじゃないかなと思います。近年、テクノやハウスをよく聴いていて、その要素を上手く落とし込みたかったんです。

――4つ打ちの曲で気に入っているのは?

伊丸岡亮太 ケミカル・ブラザーズのここ何年かでリリースされた作品が好きです。彼らは生ドラムの音をサンプリングして使用していたりするんですけど、今回僕らは逆パターンで作った感覚もあります。「標本」はEDM系の楽曲ですが、その中でどれだけ生感を出すかというところで、ドラムの音色にこだわりました。

高橋誠 音はドラムテックの高田アツロウさんとエンジニアの加賀美(喬貴)さんと一緒に考えて作り上げていきました。

――岡崎さんはいかがですか。

岡崎広平 「35℃」です。僕は季節だったら夏が一番好きなんですけど、それを表現できたんじゃないかなと。最近世間で流れている曲は短い曲が多い傾向があって、それで僕も「短くしたほうが聴いてもらえるよ」とアドバイスをいただくこともあったんですけど、この曲は譲りたくない部分があって、尺に関してはわがままを聞いてもらった曲なんです。今の流行りとは逆行しましたね。

伊丸岡亮太 5分近くあるんですけど、それをあまり感じさせない曲にもなっていると思います。

――確かに長さは感じなかったです。宇佐美さんは?

宇佐美友啓 「そうだ僕らは」です。この曲はけっこう前からデモとしてあった曲で、アルバムに収録されることが最後に決まったんです。アルバム全体を見た時に「なんか暗いよね」と話しになって、他の候補曲もあったんですけど、アッパーで前向きな曲ということで選ばれた曲なんです。

伊丸岡亮太 サビだけ弾き語りで作ってあった曲なんです。

――すごくバンド感がありますよね。

宇佐美友啓 バンド感を出そう、というテーマがあったんです。そこがすごくアルバムとフィットしたのかなと思います。ベースも敢えてシンプルなフレーズにしたりしているんですけど、それが結果的に一番伝わるんじゃないかなと思いました。

――高橋さんの一曲は?

高橋誠 僕は「虹」です。今まで僕らがやってこなかった曲調です。ベースも動き回っているし、パーカッションも入っているので、新境地のような一曲だなと感じています。

――この曲のハイハットもめちゃくちゃ良いなと思いました。なぜかはわからないんですけど、僕はハイハットに耳がいってしてしまうんです。

伊丸岡亮太 僕もドラムはハイハットを聴いちゃうんですよね。

高橋誠 たぶんハイハットが一番表現力が高いパーツだと言われているので、それで惹かれる人もいるんじゃないかなと思います。オープンやクローズなどそういったハットの開き具合で色々できるんです。

――なるほど。レコーディングはいかがでした? 新境地ということもあり、大変でしたか。

高橋誠 レコーディング本番はそんなに苦戦したということはなかったです。というのも、シンプルに演奏が難しくて、アレンジは伊藤さんに作っていただいたんですけど、それを聴いた時に「これは苦戦するな…」と感じたので、いち早く準備と練習に取り掛かって(笑)。ハットも片手だと難しいから、両手にしてみたり、と叩き方は色々考えました。

――そういえば「虹」のMVを宇佐美さんが作られるんですよね。映像編集に興味を持ったきっかけは?(※取材日は4月下旬)

宇佐美友啓 昔からMVだったりライブDVDを観るのが好きで、CDを買うより映像作品をよく購入していたんです。5年くらい前に筋トレを始めて、筋トレ系のユーチューバーの方の動画を見ながらトレーニングしていたんですけど、けっこうおしゃれな編集をされている方がいて、そこから編集に興味が湧いて。これからみなさんから集めた素材を使ってMVを作るんですけど、どんな風になるのか自分でも楽しみなんです。

――楽しみにしています。千野さんが今のモードが色濃く出たと感じている曲は?

千野隆尋 「そんな君のために」です。コロナ禍というのもあり、死生観が書かれているんですけど、人との繋がりというのを意識していたのかなと思っていて。

――無意識に?

千野隆尋 僕は誰かから必要とされたいし、誰かを必要としたいなと思っていて、人と繋がりたい、という思いが自然と出てしまったのかなと思います。僕は普段から死生観を歌詞に落とし込む時は躊躇ってしまう時もあって、書くこと自体を避けることもあるんですけど、そのまま書いてしまう時もあって。それは常に生と死は身近にあるもので、避けられない時もあるからだと思っていて。谷川俊太郎さんの「生きる」という詩集があるんですけど、それは生活の一部分を切り取って書いていて、自分も今回は生きている、というのをテーマに書いてみました。

“交換日記”にたくさん爆弾が埋まってる

GOOD ON THE REEL

――そして、楽曲「交換日記」は作家の住野よるさんと実際に交換日記をして作り上げたというのは面白いですね。

千野隆尋 僕らが結成15周年ということで、親交のある作家さん達と何かやれたら面白いなと思って。そこで僕らのライブに観に来てくださっている住野さんにお願いしました。その中で僕と住野さんで何かできないかなと思い、出てきたアイデアが交換日記でした。今ってあまり紙に書いたりもしないじゃないですか。

――交換日記を知らない世代もいると思います。

千野隆尋 そうなんです。それで手触りを感じられるもので交換し合う、というのが面白いなと思って。それを最終的に曲に繋げようというのは決まっていました。

――皆さん、お二人の交換日記を読んでどうでした?

伊丸岡亮太 なんか覗き見しているみたいで、小っ恥ずかしいですね(笑)。

岡崎広平 この前、住野さんと話していたらこの交換日記の話になって、「すごく千野ちゃんが出てる」と仰っていて。

千野隆尋 人物像は考えてやっていたんですけど、自分の考えの範囲なのでカラーは出ちゃいますね。その中でキーワードはたくさん入れようと思っていました。そうしたら、住野さんからは「たくさん爆弾が埋まってる文章」と言われて(笑)。それを回収していってくれて。

――皆さん、交換日記をやったことあります?

宇佐美友啓 僕は一回もないですね。

千野隆尋 僕は小学生の頃にやったことあります。

伊丸岡亮太 僕は18歳頃にやってました。メールとかもあったんですけど、相手からの提案で交換日記をやることになったんです。改めてやりとりしたことを思い出すと、感情がちゃんと出るのは文字を書くことだなと思いました。

――書くことってすごく重要なんですよね。さて、交換日記から歌詞に落とし込むのに大変だったところは?

千野隆尋 2往復4つの日記があるんですけど、これを歌詞にするというのは大変だなと感じました。ちょっとした絶望感もあって(笑)。今回歌詞の書き方も特殊で、日記で出てきたキーワードをメモしていきながら構築していきました。

――日記で取り消し線の入った箇所もしっかり取り入れてますね。

千野隆尋 ここは絶対入れたいと思いました。これが重要なポイントになっていると思ったので。完璧に消すのではなくて、本当の気持ちを見てほしいというメッセージもあったのではないかなと思い、そこがすごく人間臭くて良いなと思いました。

――あえて残しているところに意味があるんですよね。この曲は岡崎さんが作曲されていますが、どのような流れで制作されたのでしょうか。

岡崎広平 今回、詞先で作りました。昔はメロディが先でそこに歌詞をつけてもらうことが多かったんですけど、最近は詞先で作ることも多くて。時間もそんなになかったんですけど、歌詞を見ていたら曲のイメージがすぐに出てきて、そんなに悩んだという感じはなかったです。

伊丸岡亮太 レスポンスがすごく早かったよね。一応、曲が書ける人は挑戦したんですけど、広平が一番最初に提出して、それがすごく良かったので。

――曲順はどのように考えました?

千野隆尋 僕と広平が近い感じの流れを考えていて。宇佐美はけっこう違った流れだったのを覚えています。「あとさき」を1曲目にしたのは、イントロの雰囲気が良いなと思って。「標本」はエンドロールのようなイメージがあったので最後が良いなと思いました。

宇佐美友啓 僕のはちょっとライブっぽい流れになってしまったのかなと思います。改めて考えた時にアルバムとしては少し違うかなと思って。

――最後にライブの意気込みやメッセージをお願いします。

高橋誠 ライブはなかなか出来ていないので、とにかく楽しみたいです。僕らもお客さんも安心、安全をモットーに臨みたいです。

千野隆尋 皆さんに会えるという喜びがかなり大きいです。成長した僕らを出せればと思っていて、ステージでの見せ方にもこだわりたいなと思っています。

伊丸岡亮太 心と心で踊ったり、悲しんだりというのをもっと強く出来たらいいなと思っています。一人ひとりと伝わり合えるようなライブになったら嬉しいです。

岡崎広平 全国を回れるので、シンプルに色んなところに行けるのは嬉しいですし、みんなに会えるということが楽しみなんです。ライブハウスも対策をしっかりしているので、ぜひ遊びに来て欲しいです。

宇佐美友啓 多くは語りません。まずはアルバム『花歌標本』を聴いて下さい!

(おわり)

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