ウォルピスカーター「文字一つひとつに理論的に向き合う」歌う姿勢に迫る
INTERVIEW

ウォルピスカーター

「文字一つひとつに理論的に向き合う」歌う姿勢に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年05月27日

読了時間:約9分

 “高音出したい系男子”の異名を持ち、トレードマークのハイトーンボイスを武器にリスナーを魅了するウォルピスカーターが26日、1st EP『Overseas Highway』をリリース。2012年から動画配信サイトで活動を開始し、2019年3月20日に1stシングル『1%』をリリース。昨年3月にはフルアルバム『40果実の木』をリリースするなど、これまでに4枚のフルアルバムを発表している。インタビューでは1st EP 『Overseas Highway』の制作背景や、自宅での録音について、これからの展望など多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

「ここで上がるのか!」と驚いた「オーバーシーズ・ハイウェイ」

『Overseas Highway』ジャケ写

――このコロナ禍で変化されたことはありましたか。

 コロナ禍前から常に家に引き篭もって制作をしていたので、私生活に関してはほとんど変化はありませんでした。よく「外出しないと人の心は鬱になります」と言われたりしますが、僕の場合その心配はなかったですね。

――孤独に強いタイプだったんですね(笑)。

 あと、音楽制作が捗りました。作家さんやエンジニアさんとの連絡もすごく取りやすくなって、いつデータを送ってもすぐに返事が返ってくるんです。そこは家にいることでのメリットの一つでしたね。

――社会的にはどんな変化を感じましたか。

 宅録への意識が皆さん変わったような気がしています。僕はスタジオでレコーディングするのではなく、いつも自宅で録るんですけど、高いキーを録るので1日では終わらないこともあるんです。長時間喉に負担をかけられないというのもあって。「スタジオのしっかりとした環境でレコーディングした方が良いよね」という空気がこれまではあったんですけど、コロナ禍の影響もあって、改めて自宅録音の地位が向上したような気はします。

――聞いた話によるとマイクやオーディオインターフェースが以前よりも売れたみたいなんです。それも世間が宅録への意識が高まっていることへの証拠かもしれないですね。

 確かにマイクは品薄だったみたいですね。僕は今、BLUEのKiwiというマイクを使っているんですけど、友人の歌い手さんが同じマイクが欲しいと、お店で注文したら、届くまでに4ヵ月も掛かったとか。

――ちなみにウォルピスカーターさんがこのマイクを選んだ決め手は?

 以前はオーディオテクニカのマイクを使っていて、そこからノイマンのマイクなども試したんです。でも良いマイクだったんですけど、僕の声には合わなくて...。たまたまレコーディングエンジニアさんとお話しする機会があって、女性キーで歌うにあたってミドルクラスのマイクでおすすめを聞いたら、「Kiwiは女性ボーカルにいいですよ」と教えていただいて。あと、色もすごく気に入ったので、このマイクを選んだという経緯がありました。実際、歌ってみたら高音域が綺麗に録れて、僕好みでしたね。

――さて、1st EPがリリースされましたが、EPというところで、これまでと作品作りに臨む意識に変化はありましたか。

 EPだから特に意識したところはなかったです。ただ、知り合いのアーティストさんや歌い手さんがEPをリリースしているのを見てサイズ的にも今の時代に合っているなと思ってました。もともとは「オーバーシーズ・ハイウェイ」でシングルとしてリリースする予定だったんですけど、EPにしてみようという案が出てきて、未発表の曲と新たに書き下ろした曲を入れました。

――その「オーバーシーズ・ハイウェイ」はアニメ『デジモンアドベンチャー:』 のED曲ですが、アニメを意識された部分も?

 もちろんTVアニメの楽曲として流れるというのは意識しました。今回、Orangestarさんと歌詞は共作なんですけど、まず僕が草案を書いて、Orangestarさんの言葉で歌詞を再構築していただくという流れでした。原作と執筆という感覚でしょうか。

――Orangestarさんらしいなと思ったところはありますか。

 Orangestarさんは「未完成」という言葉をよく使うイメージが僕にはあります。自分は草案の段階ではその言葉はあえて入れなかったんですけど、しっかり入れていただいて。「不完全」や「成熟していない」というニュアンスの言葉が登場するのはOrangestarさんらしさだと感じています。

――タイトルにはどんな想いを込めているんですか?

 これはOrangestarさんが付けてくれたのですが、僕がこの曲の歌詞の草案と一緒に400字くらいの短編小説を書いて送りました。そこに情報を箇条書きにしたものも添えていたので、そこもアイデアのもとになったのかもしれないです。

――「オーバーシーズ・ハイウェイ」のレコーディングはいかがでした?

 ずっと音域が高いので大変でした。最初にアニメ放送用の短めのバージョンをいただいた時は何とかなる高さだなと思ってレコーディングしたんですけど、フル尺をもらったら2番のAメロがサビよりも高くて(笑)。「ここで上がるのか!」と驚きましたから。

AIが分析して歌うイメージ

――今回収録されている5曲の中で一番制作に難航したのは?

 「シオン」です。この曲のボーカルレコーディングが一番大変でした。まずイントロがアカペラで始まるというのが難しく、バラードなので一つひとつの発音が大事になってくるんです。アカペラだとバックに音がないのでリップノイズが乗ってしまうと目立ってしまうんですけど、僕はそのリップノイズが嫌なので、それを除外しながらOKテイクを出さなければいけないというのは精神的にも大変でした。

――歌詞はご自身ではなく郡陽介さんが書かれていますが、これはなぜですか。

 郡さんとは何度かご一緒させていただいているのですが、この楽曲に関しては、最初に楽曲の世界観と歌詞がほとんど固まっていて。

――この歌詞を見てどんな気持ちで歌おうと思いました?

 僕はいただいた歌詞に対して、どんな気持ちで歌おうとか、そのための情報の汲み取りというのはほとんどしないんです。発声の一つとして歌詞を捉えているので、バックでこういう音が流れているからこういう歌い方にしようとか、子音がこうだからこういう風に歌おうという感じなんです。特にバラードは歌詞に寄せて歌うと泣きの歌になり過ぎてしまうという懸念もあって...。あくまで僕は楽曲と言葉に対してドライに歌って、聴いてくれた方が自由に感情を受け取ってもらえたらと思っています。文字一つひとつに良い意味で理論的に向き合っていきたいと思っていて、イメージで言うとAIが人間の喜びというのは、「こういうものだよね」と分析して歌っている感覚なんです。

――面白いですね。2曲目の「口なしの黒百合」はどんなイメージで曲をリクエストされたんですか。

 僕が楽曲の中で一番重視しているのはメロディで、今回作曲してもらった神谷志龍とは付き合いも長いんですけど、「歌い手としてこれ以上ないと思えるくらいのメロディを作って欲しい」とリクエストさせていただきました。

――歌詞の世界観は?

 歪んだ恋愛感情がテーマです。曲を聴いた時にかなりダークな世界観だと感じたので、そこからダークなものを連想していき、それらを箇条書きにしていきました。ストーカーが登場するライトノベルなどを参考にして、ストーリーを構築していきました。

「シ・シ・シ」とは?

――ファンキーな「シ・シ・シ」は大胆なタイトルだなと思ったのですが、どんな意味があるんですか。

 最初タイトルは「し!」にしようと思っていたんですけど、スタッフに相談したら却下されまして(笑)。それでスタッフとアイデアを出し合って、せめて3つにしようとなり、この「シ・シ・シ」というタイトルになったという経緯があります。

――なぜ、最初「し!」にしようと?

 サビから歌詞を書き始めたんですけど、メロディがすごく詰まっていて、まずそこに<八方獅子身中の虫>という言葉を置いてみたんです。そうしたら「し」がいっぱいあるなと思って、「し」をテーマにした曲にしようと思い、「し」に関する言葉を沢山検索しました。今作は全体的に言葉遊びの面がすごく多かったと感じています。

――ということは歌詞の内容としてあまり深い意味はない?

 ないですね(笑)。ただ深い意味に聞こえたらいいなというのはありました。ケレン味(ハッタリやごまかしを効かせた演出のこと)というんですけど、それは結構意識した部分はあります。歌詞の区切りの良いところで意味ありげな言葉を使うことで、他の言葉が哲学的に聞こえるというギミックがあって。

――自然と考察要素が生まれてくる、と思いました。そして、「止まないねって言わないで」は爽やかですね。

 この曲は青春CMソングにしたいなと思いました。昨年からウソCMのウソタイアップ曲というのを作って、自給自足をしていて(笑)。映像も作っているんですけど、それは社員旅行で夏にキャンプに行くというもので、そこでにわか雨が降ってきて、雨宿りをするというイメージなんです。

――言葉の響きを重視しているウォルピスカーターさんですが、韻を踏むことに関してはこだわりはありますか。

 押韻している歌詞は好きです。韻を踏みながらも意味が通っている歌詞はやっぱりカッコ良いですし、それを自分でも作りたいんです。

――ヒップホップもよく聴くんですか。

 僕はメロディ至上主義なので、メロディがある中でのラップは聴くんですけど、ヒップホップやラップだけの曲というのはあまり普段聴いていないかもしれません。でも、すごくメロディアスなフロウをするラッパーの方の曲は聴いてしまいますね。

――さて、「オーバーシーズ・ハイウェイ」のインストが収録されていますけど、ウォルピスカーターさんは他の方のインストやカラオケ音源って聴きますか。

 聴きます。カラオケ音源ってメインボーカルを抜いたマイナス1で収録されていることが多いので、ハモりがどんな風に入っているのか構成をみたり、「このコードにこんなハモりを入れるんだ」とか分析したり。あと、僕が趣味でやっているアニソンやゲームソングをカバーしている「成人男性三人組」というユニットがあるんですけど、カバーするにあたって、やはりオリジナルのカラオケ音源などはすごく聴きこんだりするので。

――すごく実用的なんですね(笑)。最後に活動への展望をお願いします。

 歌に関してはゆっくりと自分が納得のいく歌が録れたらいいなと思っていて、今は歌詞をどんどん書いていきたいというベクトルかもしれません。いろんな人に提供したいという思いもありますし、作詞家としての活動につながれば良いなと考えています。

(おわり)

【Profile】

ウォルピスカーター(Wolpis Carter)

男性歌い手。"高音出したい系男子"の異名を持ち、トレードマークのハイトーンボイスを武器にリスナーを魅了し続けている。実直な"高音"へのこだわりを掲げる「ウォルピス社」社長でもある。

 2012年動画投稿サイトで活動を開始。2015年に投稿した「アスノヨゾラ哨戒班」(Orangestar)の歌唱動画は再生数1500万超え、2018年に投稿した「泥中に咲く」MUSIC VIDEOは4000万回再生を突破。歌唱動画の累計総再生数は2億5千万回を越える(いずれも現在)。2017年には初のワンマン公演『ウォルピス社 株主総会』を下北沢GARDENで、追加公演を新木場STUDIO COASTで開催し、いずれも即日SOLDOUT。2019年3月にはTVアニメ「不機嫌なモノノケ庵 續」のエンディングテーマ「1%」をシングルリリース。その年に東京・豊洲PITで開催された2度目のワンマン公演『2019年度 ウォルピス社 ”大”株主総会』も即日完売、追加公演あわせ2日間で約5,500人を動員。

 2020年3月25日にはNewアルバム『40果実の木』をリリース。2021年には、TVアニメ『デジモンアドベンチャー:』のエンディング主題歌(3月〜)を担当し、5月26日に1st EP「Overseas Highway」をリリース。同年にはキャリア初となる<東京・大阪ワンマン公演TOUR>を8月27日に東京・Zepp Haneda、10月24日に大阪・Zepp Osaka Baysideで開催予定。

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