向井太一「“無色”の自分を思い出して」葛藤からの回答
INTERVIEW

向井太一

「無色の自分を思い出して」葛藤からの回答


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年04月22日

読了時間:約11分

 シンガーソングライターの向井太一が4月21日、4枚目となるフルアルバム『COLORLESS』をリリース。2017年11月に1stアルバム「BLUE」でメジャーデビュー。音楽活動をメインにファッションやアートなどマルチな才能を見せている。2020年には香取慎吾のアルバム収録曲への参加やGENERATIONS from EXILE TRIBE片寄涼太の初ソロ名義作品、NEWSへの楽曲提供、m-floの”Loves”プロジェクト作品への参加など幅広い活動を展開。そんな向井太一のニューアルバムは自身の軸にあるミュージシャンというアイデンティティを打ち出した作品になっている。インタビューでは『COLORLESS』という言葉に込められた真意や、いま向井が考えていることなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

『SAVAGE』と『COLORLESS』の関係性

『COLORLESS』通常盤ジャケ写

――幼少期はどんな性格でしたか。

 親から「表に立つ人間になると思わなかった」と言われるくらい凄く大人しかったらしいです。小学校に上がってからは逆に自信家だったと思います。当時から海外のHIPHOPや日本のR&Bなどを聴いていたので、周りと違う自分に酔っていた時期がありまして(笑)。中学生の後半くらいから歌手を目指し始めて、その時は漠然と自分はデビューできるという自信がありました。色々考えたり悩んだりするようになったのはデビューしてからなんです。

――何かきっかけがあったのでしょうか。

 いざデビューして何年か歌い続けてきて、目標に向かって走っているんですけどそれに届かなかったり、何を作っていいかわからなかったり、そういうスタートラインに立ったからこそ感じるようになった悩みが大きかったです。自分で作詞作曲するようになってから、悔しかったり落ち込んだり、感情が揺れ動いた時に歌詞を書くことが多いというのもありました。

――自問自答をして「なぜ自分は歌っているのか」というようなことも考えたり。

 ありました。僕がデビューした時期は良いアーティストがたくさんいました。それでどうしても人と比べてしまって自分が凡人に感じた時期もあって、「自分の強み、自分自身とは何か」というような時期や、「自分自身でいいんだ」という時期が交互に来ていて。一生自分自身と戦い続けていかなければいけない感覚はありました。

 子供の頃から器用な方だとは思っていて、色んなことに対してある程度のことはできていて、なんとなく凄く苦労したという感じはなかったんです。今も音楽以外のことでもアートワークのディレクションだったり、自分のビジュアルを含めてセルフプロデュースでやってきたから、色々やっていく中で「どれが本当に才能があるのだろうか」という悩みもありました。特に3rdアルバム『SAVAGE』の時などは、ダウナーなマインドになってしまい、今の感情を吐き出すようなものを作りたいと事務所に相談して作ったアルバムでした。

――そういった作品を出すことに難色を示される可能性もあるのではと思いました。

 事務所はそういう作品は絶対に必要になるからと、今までずっと同じチームでやってきたのもあり理解してもらえました。そして僕が悩んでいたこともわかってくれていたと思います。それが自分の中で凄く大きな転機になっていて、『COLORLESS』も『SAVAGE』から繋がっている感覚です。

――ボーナストラック含め13曲ありますが、曲順についてはどのように考えましたか。

 曲順はそんなに苦労はしなかったです。1曲目「僕のままで」と本編最後の「Colorless」は自分の中で決まっていて、その間を色々とスタッフと話しながら決めました。自問自答している曲が今回のアルバムの軸になっていて、映画のオープニングとエンドロールを観て、という感覚になりたいなと思いまして。

 あと、今まではシングル曲を1曲目にしないというこだわりがありました。というのも、僕は日本のR&Bを聴いていたので、だいたいイントロダクションの要素が入っているイメージでした。自分もそういうのに憧れというか、ちょっと裏切ることをやりたいなと。でも今回はサウンド面もコンセプトにも思い入れが強くあるし、百田留衣さんと作った「僕のままで」と「Colorless」は凄く自分の中でまた新しい要素、新鮮な気持ちで作れた感じがあったので今回は王道的にシングルを1曲目、最後にアルバムを象徴するタイトル曲を入れたいと考えていました。

葛藤と自己愛を描いた「Colorless」

――楽曲「Colorless」の世界観はどのように生まれたんですか。

 百田さんにコンセプトを最初に伝えました。百田さんの場合は「僕のままで」を作った時もそうだったんですけど、歌詞の世界観をより深いものにしてくれるんです。今までは曲によっては歌詞とトラックを切り離して作っていたものもあったんですけど、百田さんと制作する時は、より歌詞の世界観が伝わるようなものにしたい、と思ったので最初にコンセプトを伝えました。

――歌詞の情景は具体的なイメージが?

 自分自身の葛藤と自己愛です。自分自身を大切にすること、自分が何かを捨てて進むより、それを抱きしめながら未来へ行こうよ、というテーマで書きたかったんです。『SAVAGE』を作ってツアーをして、ファンの方々の表情や声をもらった時にこの作品を作って良かったと思えました。コロナ禍に入ってから自分自身と向き合って、良い意味で落ち込んでいたものがリセットされ、それを受け入れられるようになったことがきっかけでした。この先にもこういうことは絶対あると思うんですけど、悩んでいることすら自分の作品にできる、それを聴いてくれる人達がしっかりいるんだとポジティブに捉え方が変わりました。その想いは『COLORLESS』の曲たちに表れていると思います。

――「Colorless」というタイトルに辿り着いたのは?

 アルバムコンセプトにも繋がるんですけど、今までの音楽以外の仕事、アートワークやセルフプロデュースをやっていく上で、自分にいろんな色が付いているのが今の自分だと思っていました。デビューした時も、ミュージシャンというより他の業種の人が音楽をやっている、というように捉える人もいるんです。でもそれが自分の強みでもあるし、ある意味コンプレックスでもあったんですけど、自分の中では音楽以外の仕事をする時も、そこから知ってもらって音楽に辿り着いてもらえればいいなという気持ちでやっていました。

 なぜ「Colorless」というタイトルにしたかというと、今、様々な色を纏っている状態であっても、最初の無色だった頃の音楽をしたい、ピュアな自分を持っていればブレないでやっていけるなと思いました。もしかしたら今作で「向井太一、変わったな」と思う人もいると思うんです。でも、自分の中ではやっていることは何も変わっていない、それは“COLORLESS”の自分がいるからというのがありました。この曲に込めたストーリーみたいに、自分の中で迷いが生じてしまったり、自信がなくなったり、そういう時でも無色の自分を思い出していこうというメッセージが込められています。なので今「自分は何か」と問われたら「ミュージシャン」と胸を張って言えると思います。

――「Colorless」のMVでは演技への挑戦もありますが、やってみた手応えは?

 僕の2021年の抱負が「挑戦」なんです。自分がMVに役者として出る案についても、最初は難しいんじゃないかと話していました。でも、監督さんとお話をする中で「演技をやってみようよ」と言ってもらえて。撮影はメチャクチャ緊張したんですけど。

――演技と歌というと、この先の話としてミュージカルもできそうな感じがしますが、興味はある?

 ミュージカルは凄く好きです。ただ、僕は日本語の発音が凄く曖昧なので難しいなと(笑)。直さなきゃいけないなと感じていて。でも、いずれ挑戦してみたいです。

――向井さんの歌を聴いていて声質的にグルーヴがあるのかなと思っていたのですが、もしかしたら発音がこのグルーヴ感を生んでいるのかもと、いまお話を聞いていて思いました。

 僕は最初にトップラインを決めてから歌詞を書き始めることがほとんどで、最初は適当な英語を入れたりしているので、それもちょっと影響しているかもしれないです。そこから日本語をはめていくのは最初の英語が持っていたグルーヴがなくなってしまったりするので、なんとか最初のグルーヴ感を残しつつ、日本語をはめたいというのも影響していると思います。

――向井さんは日本語にこだわりがある?

 どちらかというと自分の想い先行で歌詞を書くことが多いので、自分が喋っている言葉が一番自分の気持ちも乗るというのもあります。英語も好きなんですけど、歌謡曲も凄く好きなので、日本語の歌詞の良さを追求したいと思っています。昔の作詞家の先生と呼ばれる方々のような歌詞は自分には書けないので憧れがあります。

「BABY CAKES」での挑戦

『COLORLESS』初回盤ジャケ写

――今作で、チャレンジだった曲は?

 今までは作詞作曲どちらも自分が関わっていることがほとんどでした。今作の「BABY CAKES」は作曲はちょっと関わっていますけど、作詞は全部T.Kuraさんとmichicoさんにお願いさせていただきました。完全に他者が作ったものを歌うというのは挑戦でもあり、やりたかったことでもあります。

――「BABY CAKES」の作曲にはどのように関わったのでしょうか。

 T.Kuraさんと最初にスタジオに入って、2人で考えつつちょっとずつ構成していった感じでした。トラックはT.Kuraさんに作っていただいて。お二人の大ファンだったので、とにかく制作は楽しかったです。T.Kuraさんの音楽を僕が小学生くらいからずっと聴いていて、日本のR&BといえばT.Kuraさんとmichicoさんのペアというイメージがあったのでお願いしました。それから僕が好きだった2000年代のジャパニーズR&Bの要素と、現代の要素をバランス良くミックスしたいというのがありました。

――レコーディングはいかがでしたか。

 T.Kuraさんのスタジオで録ったんですけど、michicoさんは今アトランタにいらっしゃるのでリモートでディレクションして頂きました。

――ディレクションを受けて、新たに気づいた点はありましたか。

 ハモりの重ね方は凄く参考になりました。洋楽の独特のグルーヴ感を日本語で出すのは難しかったんですけど、「こうすればいいんだよ」と色々説明していただいたんです。今までは感覚的にやっていたことなので、目から鱗でした。
 
――「悲しまない」「Get Loud」「Don't Lie」のような曲は、実体験ですか。

 実体験です(笑)。特にラブソングなどはそうなんですけど、爆発的にハッピーな曲というよりちょっとメンヘラ気質なので、例えば悲しかったり、フラれた時などに、めちゃくちゃ歌詞を書くんです。曲がなくても思いついたことを一気に箇条書きでも何でも書いてストックしておくというのはあります。

――<愛の病>という歌詞もありますし、そういったところが前面に出た曲でもあると。音楽において恋愛は重要な要素ではあると思いますが、その書き方が面白いなと思いました。

 ありがとうございます。でも最初「悲しまない」は全然方向性が違う歌詞だったんです。恋愛の曲ですらなくて。でも何かちょっと違うなと思いながら、「悲しまない」というタイトルを思いついて「これでいこう」と一気に書きました。この曲はどちらかというとサウンド先行で聴かせたいと思っていたところがありました。これは今までみたいな、色んな方向から聴けるというのと、歌詞とサウンド面にギャップを持たせたい、凄い悲しい曲というよりは、トラックとしても格好いい曲にしたいというのはありました。

必要としてくれる人にしっかりと応えてあげたい

――「Get Loud」はどんな気持ちを落とし込んだ曲でしょうか。

 「Get Loud」は、命について、メンタルヘルスや自己愛などを考えながら作っていました。それは世の中で自殺する人が増えたり、みんなが何もわからない状態でただ漠然と不安になっていて、僕自身も仕事やプライベートでも揺れている時にずっと制作をしていたので、命について考えることが多かったんです。もしファンの人が生きることに疲れていたらそれはすごく怖いなと思いましたし、自分の音楽で人が死ぬのを止めることができたら自分は歌いたい、と思いました。去年はたくさんのミュージシャンやアーティストが自分に何ができるのかと考える時期だったと思うんですけど、自分はそれを音楽で表現することだと、その想いを作品に落とし込めました。

――音楽の力を信じているというのもあるのですね。

 2020年は特に音楽や芸術作品の価値が問われた年だったと思うんです。必ず必要なものでもないと思うし、でも何で必要とするかというと、そういう力があるからだろうなと。必要としない人はいいと思うんですけど、必要としてくれる人にはしっかりと応えてあげたい、求めている人には絶対的に手を差し伸べられるようなものを作っていきたいと思いました。

――例えば、音楽をそこまで好きではないという人に好きになってもらいたいというのも?

 自分のアーティストとしての目標は、音楽に興味がそんなにない人たちにも「向井太一、あの曲の人ね」と思ってもらえるところまで行きたいというのはデビュー前からありました。

――ボーナストラックの「We Are」はシングルでもいけるのでは? と思えるほど完成度が高い曲だと思いました。なぜボーナストラックに?

 今回のアルバムのコンセプト、アルバムの並びの中というよりは、これは前回の『Supplement』の配信ワンマンのために作った音ですし、コロナ禍で人と会えない状況で会えない中でもある繋がりなど、自分のファンの人でちょっと孤独を感じている人が聴いて救われればいいなという、別のことにフォーカスをあてて作った曲だったので、これはちょっと外して入れたかったんです。ボーナストラックとして入れることすら最初は考えていないくらいだったので。

 『COLORLESS』はコロナ禍などたくさんの世の中のことから影響を受けて作っていたので、「We Are」もその一つとして、ボーナストラックとして入れようと話し合って入れました。あとは、「僕のままで」と「Colorless」の、映画的な始まりと終わりの中で、エンドロールで帰った人は観られないというような特別感みたいなもの、シークレットトラックみたいな扱いとしてあるといいなというのもありました。

――6月からワンマンライブ『COLORLESS TOUR 2021』も開催されますが、これまで観た中で最も感動したライブは?

 これまで観た中で一番感動したのは宇多田ヒカルさんのライブです。全曲知っているライブは初めてだったので、1曲目から号泣しちゃって…演出もシンプルだったし、ファンも納得する素晴らしいセットリストで。キャリアを重ねていくとアレンジを加えたりしたくなると思うんですけど、凄くオリジナルに近い形でやってくださって、かつ新しい要素もあったんです。改めて尊敬するアーティストだと思いました。洋楽だとエリカ・バドゥです。凄くお茶目で笑わせにくるんですけどそれもメチャクチャ格好いいんです。あと、アンダーソン・パークは僕の声が枯れるほど叫んだのは良い思い出です(笑)。

――最後にツアーへの意気込みをお願いします。

 1年以上ぶりの有観客でのワンマンライブなんですけど、とにかく楽しみです。是非アルバムを聴いて遊びに来てくれると嬉しいです。

(おわり)

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