ゲーム実況者わくわくバンド「超越して自然なものとなった時」彼らが目指す“高み”に迫る
INTERVIEW

ゲーム実況者わくわくバンド

「超越して自然なものとなった時」彼らが目指す“高み”に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年01月26日

読了時間:約11分

 ネットで人気のゲーム実況というカテゴリで活動をしているメンバーで結成されたバンド、ゲーム実況者わくわくバンド(以下わくバン)が1月27日、3rdシングル「心誰にも」をリリース。前作2ndシングル「シグナル」から約2年半ぶりとなるシングルで、「心誰にも」はこの先に待ち受ける更なる試練を乗り越えられるような強い心を持つことをテーマに制作された。同曲はテレビアニメ『シャドウバース』(テレビ東京系)のエンディングテーマに起用され現在O.A中。インタビューでは、2020年はどのような音楽のインプットがあったのか、3rdシングルの制作背景、そして、今わくバンが目指す高みについてなど、湯毛(Vo、Gt)、フジ(Ba)、せらみかる(Key)の3人に話を聞いた。【取材=村上順一】

3人の音楽感に迫る

ゲーム実況者わくわくバンド

――2020年はインプットの1年だったと思うんですけど、いかがでしたか。

フジ 僕は普段と変わらずCDを沢山買いました。

――CD購入派なんですね!

フジ はい。音楽もそうなんですけど、ジャケット写真もすごく好きなんです。あるタイミングでわくバンのスタッフさんとロックBARに行ったんです。そのお店のマスターと音楽のお話をしたんですけど、それがすごく面白くてThe Jam(英・ロックバンド)を聴くようになって今お気に入りで、アルバムも全部揃えました。鳴ってる楽器少ないんですけど、飽きさせないグルーヴ感、いい意味でかっちりしすぎていない、音に感情が乗っているのが、いいなと思って。ずっと聴いていられるんです。

――それがインプットになって。

フジ これを自分たちに落とし込むのはまだ難しいと思うんですけど、それを知れたことは大きな収穫でした。

湯毛 確かにそれは大きいと思います。昔の音楽を知ることで、今の音楽を聴いて、そのルーツや愛のあるオマージュにも気づけたりしますから。

湯毛

――より深く音楽を楽しめますよね。みかるさんはいかがですか。

せらみかる 僕はずっとゲーム音楽で育ってきて、これまでも音ゲーからバンドサウンドに出会ってきました。去年もその流れは変わらず、そこから新しい音楽を知ることが多かったです。インストゥルメンタルの部分を深く知る、楽しめた感覚もありました。

湯毛 すごくみかる君の音楽の幅が広がって来ているのを感じています。昔はバンドサウンドというものも、感覚で作っていた感じがあったんです。だからこそ面白いものが出来るところもあったんですけど、楽器隊は苦しむところもあって(笑)。

せらみかる 昔はベースの役割もちゃんと認識出来てなくて(笑)。それを湯毛君がバンドサウンドとして仕上げてくれていて。

――そこに編曲に携わっている黒沢ダイスケさんが加わって、より楽曲がブラッシュアップされるんですね。

せらみかる そうなんです。黒沢さんはゲーム音楽畑ということもあり、シンパシーを感じるところがあります。例えば「心誰にも」のオルガンのパートひとつとっても、自分には出てこないコード感で、それがすごくて。ちょっとした違いでこんなにもドラマチックさが全然違うんだなと思いました。

湯毛 黒沢さんの引き出しがすごいんです。今回のレコーディングでも、ギターのフレーズとかすごく勉強になりました。

――湯毛さんのインプットは?

湯毛 プロレスに関してはめちゃくちゃインプットしたんですけど、特にそこからのアウトプットはないんですよね...(笑)。去年はプロレスのベルトを13時間ぐらいかけて自作しましたけど。いつかわくバンのライブで、そのベルト抱えてステージに出たいなと思っていて。

せらみかる すごいちゃんとしたベルトができたよね(笑)。

湯毛 次に作るときはもっと良いのを作れると思います(笑)。音楽的には昔の歌謡曲とかを改めて聴いたりはしていました。最近のバンドで言うとマカロニえんぴつはすごいなと思いました。音楽もそうなんですけど、ボーカルがすごくかっこいいなと。青春を描いたような歌詞なんですけど、その表現方法がすごく良かったり、音大生ということもありすごく知識もある感じですが、エモーショナルなところもしっかりあって、そのバランス感覚が素晴らしいなと。

――最近、衝撃を受けた音楽はありましたか。

せらみかる 僕はZAZEN BOYSも聴いていて、どうやって合わせているのかわからない感じなんですけど、それが気持ち良くて。こういうのができるようになったらすごい気持ちいいだろうな、と感じさせるテクニカルなことをたくさんやっていて。

湯毛 ちょうど僕も一昨年再結成したナンバーガールの無観客ライブを見たりしていたので、すごいなと思いました。最近テレキャスターを買ったんですけど、もしかしたらナンバーガールの影響があったのかもしれません。

フジ 最近のバンドで衝撃を受けたのは、「そこに鳴る」という3ピースのバンドなんですけど、キャッチーなプログレで鬼のように“キメ”がすごいんです。それを3ピースで歌いながらやっているというのに衝撃を受けて。それでこれを本当にライブで再現できるのかと疑問を持ったので、ライブを観させてもらいに行ったんですけどライブでもしっかり再現されていて(笑)。

湯毛 UNISON SQUARE GARDENとかもそうですけど、超人3ピースはやばいですよね。

フジ 3ピースだと首振りDollsも凄かった。

湯毛 フジの音楽の振り幅が凄すぎてそれもやばい(笑)。

ずっと温めていた「心誰にも」

「心誰にも」通常盤ジャケ写

――今作「心誰にも」はテレビアニメ『シャドウバース』のエンディングテーマですが、作品のどんなところをフォーカスしようと思いましたか。

フジ この曲自体は2〜3年前からあったんです。

湯毛 いろいろ作ってきた曲の中でも、ずっと温めていた曲なんです。すごく気に入っていた曲の一つです。

せらみかる 「ここぞ!」という時に出したいなと思っていて。

湯毛 みかる君が軸となって作っていったんですけど、ちょうどバトルもの、ストーリー的にもシリアスなシーンも掛かってくることもあり、この曲を選んでいただけたのかなと思いました。それで、歌詞はアニメの世界観に合うように書いていったんです。

せらみかる すごく立ち向かっていくというイメージが『シャドウバース』にあって、強大な敵に打ち勝つというのが、この後のアニメの展開にありそうなので、そういう歌詞にしたいなと思って書きました。とっておきの曲だったこともあって、自然と馴染む言葉を大事にしたところもあります。

せらみかる

湯毛 僕も当時詞を書いていたんですけど、その時の言葉も混ざっていたりしています。言葉の響きに関しては、いつも重要視しています。

――タイトルも渋いですね。

湯毛 これは僕がつけていて、ちょっと演歌っぽくなるかなと思ったんですけど(笑)。僕らは基本的にタイトルから曲は作らなくて、完成した後にタイトルをどうするか考えるんですけど、曲の中で印象的に飛び込んでくる言葉はこれかなと思ったんです。

フジ 他の候補も特に出なくて、すぐにこのタイトルに決まったんです。

――サビにある<最終稿はタイトだから>というフレーズも面白いですね。

フジ これはみかる君が絵も描くので、それが出てるよね。

せらみかる 自分のライフスタイルが出てしまいました(笑)。あと言葉のハマりもすごく良かったんです。

湯毛 タイトという言葉は出たとしても最終稿は自分には出ないですね。締め切りに追われる作家たる文章なのかなと思いました。

――リアルが入っているんですね。頭の歌詞に<天才・秀才・凡才なんて>とありますけど、皆さんは天才に会ったことはありますか。

湯毛 実は身近にいまして、みかる君は天才です。なぜそう思うのかと言うと、いろんな作品を創り出すひらめきがすごいんです。でもそれ以外が疎か、欠けているというところが天才っぽいなと(笑)。なのでパラメーターにすると、すごく尖っていると思うんです。

せらみかる 朝がなかなか起きられないとかね(笑)。

――多くの人は努力する秀才型の人が多いですよね。

湯毛 そうですね。僕の持論なんですけど、0を1にできる人が天才なのかなと思っていて。僕は、ゼロから何かを生み出すことは難しいんです。どちらかというと、1を10にする方が僕は得意で。

――「心誰にも」で新しい試みや気に入っているポイントは?

フジ 今回、初めて5弦ベースを導入しました。Ibanezのすごく気に入っているベースを購入して、初めてのレコーディングでした。でも、この曲で5弦ベースだからこそ出せる音というのは実はないんです(笑)。4弦でも弾けますから。でも、レコーディングしていてわかったんですけど、4弦で出せる音を敢えて5弦で出す音の太さがあるんです。そして、何より5弦ベースを使っていると上手く見えるというのもポイントです(笑)。

湯毛 バンドに見た目や形は大事ですからね。僕のテレキャスも見た目が気に入って購入したので。フェルナンデスのJUDY AND MARYのTAKUYAさんモデルのギターなんです。

――新しい楽器を手に入れるとテンションも上がりますよね。

フジ それはあります。そして、それをどう使いこなしていくのか、音作りにめちゃくちゃ苦悩した1年でもありました。メインで使用しているベースの音はすごく良くて、それに寄せるということもできるかもしれないんですけど、やっぱり楽器が違うので基本的には無理なんです。それで「この楽器の良いところってどこだろう?」というのを考えて機材を揃えて行いきました。

――みかるさんはいかがですか。

せらみかる 楽曲制作のこだわりとして、毎回どこかに遊びを入れたいなと思っているんです。2番を1番とは全く違うアプローチにしていて、イントロのニュアンスをAメロに入れてみたりしています。そして、2番でサビに行かずにギターソロに行くという構成も気に入っています。早めにソロが来るのが最近のマイブームなんです。

――面白い構成ですよね。歌はどのような意識で臨みましたか。

湯毛 熱量のある曲だったのでパワフルに歌おうと心がけました。最初はライブでもちゃんと歌えるように熱量を調整しようと思ったんですけど、結果、熱唱してしまいました。それもあって、1曲通してちゃんと歌えるかどうかいまだに不安なんですけど(笑)。

――MVのメイキングを拝見したんですけど、そこでも熱唱されていましたよね。

フジ 撮影場所と僕らが休憩している場所までけっこう離れていたんですけど、湯毛君の歌声が聞こえて来るんですよ。

湯毛 MVは基本リップシンク(音声と同期させて口元を動かすこと)なので、確かに歌わなくても良いんでしょうし、喉が厳しかったら歌わないんですけど、やっぱり表情に出てしまうと思うので、極力歌うようにしています。あと、ライブに向けての練習も兼ねて歌っているところもあるんです。まだ暑い日だったので、かなりしんどかったんですけど(笑)。

わくバンが目指すあの高みとは?

――さて、カップリングの「毎分毎秒」は書き下ろしですか。

湯毛 このシングルのカップリングに入れるために、みかる君がいろんな曲を提案してくれた中の1曲でした。みかる君は曲が必要なときに、“曲のかけら”をたくさん出してくれるんです。その中でシングルに合いそうな曲を選んだという感じなんです。

せらみかる 曲には僕が好きな要素を詰め込んだ感じなんですけど、今までは行ったことないパターンを試したいなというのがこの曲にはありました。表題曲が『シャドウバース』のタイアップだったので、この曲も普段よりも冒険感のある楽曲にしたいなと思いました。その一つとして普段はあまりストリングスとかは使わないんですけど、ファンタジー的な世界観を意識して使用したというのもポイントです。

湯毛 歌詞はみかる君がワンコーラスを先に作ってくれて、それ以降は僕が引き継いで書きました。近年はみかる君が歌詞の雛形を作って、後半を僕が引き継ぐパターンも多くて。

フジ 僕はこの曲の頭がすごく気に入っていて、ゆったりしつつも安心して聴いていられるパワーがある曲だと思いました。今までの僕らにはないアプローチの仕方なんです。ミドルテンポで力強さを感じさせる曲で、出だしのアプローチに戻ってくる構成がいいなって。

フジ

――この曲で締めるというのもすごくあってるなと思いました。この曲の歌詞には<あの高みへ>とあるんですけど、皆さんそれぞれどんな高みを目指していますか。

湯毛 今、僕らの音楽はゲーム実況が好きな人に聴いてもらいやすいんですけど、まだ僕らの事を知らない人たち、音楽好きな方たちに広がってくれたら嬉しいという思いがあります。バンド名だけ見るとイロモノのように見られてしまうと思うんですけど、音楽性的にはすごく聴きやすいロックだと自負しているので、いろんな人に聴いていただきたいなという思いは強いです。

せらみかる 僕らのバンド名の中にゲーム実況者という言葉が入っているのは、ある意味“壁”になることでもあると思うんです。でも、それを超越して自然なものとなった時に 一つの高みに到達したと思えるんじゃないかなと思っています。

湯毛 「壁」と「高み」を掛けた綺麗な答えですね(笑)。

フジ わかりやすい高みといったらやっぱり日本武道館でのワンマンです。どうしたら武道館に行けるのかという話になるんですけど、そのためには先ほど2人の話にもリンクしますが、いろんな層の人が偏見なく聴いてもらえるバンドにならなきゃいけないと思うんです。ゲーム実況ファンもそうですし、バンドが好きな人だったりいろんな層の人を巻き込んで聴いてもらえるようになったら、それが目指す高みなのかなと今は思っています。

湯毛 あとはフジ君が冒頭で話していたロックBARのマスターが、「わくわくバンドって知ってる?」と、話してくれる時がきたら、それは一つの高みに到達した瞬間かもしれないですね(笑)。

(おわり)

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