Crystal Kay「オリジナルを超える」カバー曲に臨むアティチュード
INTERVIEW

Crystal Kay

「オリジナルを超える」カバー曲に臨むアティチュード


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年12月12日

読了時間:約8分

 デビュー20周年を迎えたシンガーのCrystal Kayが11日、カバーアルバムからの先行配信第三弾としてOfficial髭男dismの「I LOVE...」をリリース。今年、3月にレミオロメンの「3月9日」、8月に斉藤和義の「歌うたいのバラッド」に続く第三弾で、カバーアルバムをリリースすることも発表されている。インタビューでは、2020年を振り返り、自身にとっての歌の在り方についてや、カバー曲に取り組む姿勢、久しぶりのワンマンライブを控えるCrystal Kayに、印象的だった自身が観たライブについて、話を聞いた。【取材=村上順一】

なぜ歌うというギフトをもらったんだろう

「I LOVE...」ジャケ写

――2020年を振り返るとどのような年だったと思いますか。

 自粛期間もあったので、自分にとって何が大切なのか、みんなが時間とか命の儚さとかすごく考えた年、見つめ直す時間だったんじゃないかなと思います。その中で私はこの世の中で「なぜ歌うというギフトをもらったんだろう」という事を考えさせられました。

――2011年の震災の時も、音楽やエンタメの在り方を問われた部分もあったと思うのですが、その時とはまた感覚は違いますか。

 もちろん今とは状況が違うんですけど、東日本大震災の時も考えたと思います。

――ちなみにKayさんは震災の時はどこにいらしたんですか。

 ちょうどその時、車に乗っていて高速に入るところで、「もう人生終わった」と思いました。道路もビルも波打ってましたから…。当時も歌で支える、支えたいという気持ちはありましたけど、今回みたいなケースは一生ないんじゃないかな…。きっと何百年に一回ぐらいしか起きない事態だと思うので、パワーがいつもとはまた違うものになっていると感じています。

――その中で歌うということはKayさんにとってどのようなものだと思われましたか。

 5年前にニューヨークから帰ってきた時は自分のために歌うのではなくて、人のために歌う、というものでした。今もそのメッセージは変わらないのですが、その時よりもスケールは大きくなったなと思っていて。再確認じゃないですけど、歌は本当にいま必要とされているもの、本当にパワフルなものなんだなと感じています。

――歌で救われる方も沢山いると思うのですが、Kayさんが救われた曲はありますか。

 私はどちらかというと歌よりも結構インストを聴いていて、その中でも結構悲しい曲とか選んでいます。一つに絞るのは難しいかな。

――さて、カバーアルバムのリリースが控える中、今年3曲目の先行配信曲としてOfficial髭男dismの「I LOVE...」がリリースされますが、今年に入るまでカバー曲をリリースしてこなかったのはなぜですか。

 アコースティックで「クリカフェ」というライブをやっていて、そこではカバーをやっています。アニソンメドレーとか邦楽メドレーとか。来てるお客さんのこと、これだったらみんな楽しんでくれるだろうなとか考えて。サプライズと言いますか、みんなが「えっー!」と思う選曲をするからお客さんがいつもめちゃくちゃ楽しそうなんです。それで「もっとカバーが聴きたい」とリクエストも多かったので、カバーを作品化しても面白いなとは思っていました。

 でも、作品としては特別な事でもないとリリースはしないと決めていたんです。そう考えていた時にデビュー20周年が訪れて、ミュージカル『PIPPIN/ピピン』で初のブロードウェイに出演、というのもあって新しいチャレンジ、スタートの年でもあったのでリリースを決めました。でもミュージカルや今回のコロナ禍があって予定がずれてしまったんですけど、じっくり制作することができました。

――どんなカバー作品にしたいと考えていましたか。

 作品としては初めてのカバーですし、ありがちなカバー作品にはしたくなかったんです。オリジナルを超える、それぐらいの意気込みでやらないとカバーをやる意味がないなと思っていたので。やっぱりオリジナルが一番いいじゃないですか。オリジナルを歌っているご本人が「Crystal Kayのバージョンいいじゃない」、もしくは聴いてくれた方がCrystal Kayのオリジナル曲だと思ってもらえるくらいの作品にしたいと思いました。

――取り組む意気込みが違いますね。

 なので、アレンジャーと何度もトライ&エラーして…。こだわりが年々増してるんですよ。今回特にはじめてのカバーですし、オリジナルの楽曲に失礼がないようにというのも強くて。今回アルバムですごく大切にしたいなと思っていたのが、その曲が持ってる世界観とか歌詞とメロディー、私の歌の要素がしっかり際立つようにしたいなと。それをみんなに伝えてアレンジしていただきました。

――まだアルバムの詳細は出ていませんが、選曲はどのように決めたんですか。

 まず私が好きな曲をリストしつつ、やっぱり曲を聴いてもらう人に聞いたほうが早いなと思って。ファンのみんなに「もし私がカバーアルバムを作るとしたら何が聴きたい?」とTwitterでフワッと聞いたんですけど、すごい返ってきて(笑)。

――フワッと聞いたのに(笑)。

 カバーアルバムをやるときに誰に届けたいか、というのは意識しました。私のファン層は30代から50代が多いんですけど、その年代に刺さる曲達って10代、20代くらいの子たちは知らない曲が多いというか。みんなに楽しく聴いてもらいたいから幅広い年代から選ぶというのも大事だったので、私も最近の曲を聴いたりしながらも、事務所やレーベルの若い社員にも聞いたり。

――しっかりリサーチされて。

 やっぱり素直な声って聞かないとわからないですから。

オリジナルが持つ世界観は崩したくなかった

――今回リリースされるOfficial髭男dismの「I LOVE...」をカバーされてみていかがでした?

 オリジナルのインパクトがイントロから強いので、そのルートではなくてガラッと世界観を変えて違うアングルから聴かせた方がいいんじゃないかと思いました。最初デモはオリジナルなると同じテンポ感でピアノと歌だけで録ったんですけど、テンポを落とした方が私の場合は伝わるかもと思って。ただ、オリジナルが持つハッとするような世界観は崩したくなかったんです。歌詞とメロディがストレートに伝わるように、というのはこだわりました。

 藤原(聡)さんの歌い方はストレートで、歌が素晴らしいからこの曲のすごくいい要素になっていて、ここは伸ばすけど、ここはビブラートなんだみたいな。なので、自分なり歌うんですけど、その要素も壊さないように歌の譜割も大切にしました。

――色々分析されて。歌詞はどのような解釈ですか。

 すごくクレバーな歌詞だなと思いました。恋愛観とか誰もが感じたことがある出会いの始まり、その人が気づかせてくれた新しい世界、ワクワク感もありつつピュアな感じもある、誰もが共感できる歌詞だなと思いました。この曲の歌詞は、タイアップのドラマ『恋はつづくよどこまでも』に寄せて書いていると聞いたので、そのドラマを知って腑に落ちました。

――実際にレコーディングで歌われてみていかがでしたか。

 今回この曲を分析してみて、自分なりに飲み込んで、理解して歌うと全然違うんだなと思いました。作品として残るのでいつも以上に分析して、そうすることによって自分らしさにも繋がっていくと思いました。ライブでカバー曲を披露していた時は、ここまではやってはいなかったので。

――Kayさんはご自身の歌のどの部分にアイデンティティのようなものを感じますか。

 なかなか自分では客観視出来ないんですけど、おそらく声なんじゃないかなと思います。意外とメインを歌うよりもコーラスを積んでいる時にそう感じることも多くて。コーラスを積んでいくことが好きで、声なんだけど楽器みたいに聴こえてくるんです。重ねていくことで、より声のベーシックみたいなものが見えてきて、そういう時に歌に向いてるんだなと感じます(笑)。私は4歳の頃にCMソングを歌うところから始まっているので、スタジオワークはすごく得意なんです。なので、そういう作業に歌手としてのアイデンティティを感じるのかもしれないです。

――今回もコーラスは入ってますよね。

 楽器みたいな感じで入ってますね。エンディングの方はストリングスのような、ウーアー系のコーラスも入っています。自分でコーラスワークはアレンジするのですごく楽しかったです。

――コーラスを録るのは難しいイメージがありますが、良いテイクを録るコツはありますか。

 私が上手くハマらないなと思った時は、その小節をずっと繰り返すんです。そうすると良いのが出てきます。意識し過ぎずに入れるので、良いテイクが録れるんです。

一番印象に残っているライブとは

――さて、12月は『Crystal Xmas 2020』が行われますが、どんなライブになりそうですか。

 1年ぶりのワンマンなので、久しぶりにファンの皆さんの前で歌える、この時期にライブが出来る、クリスマスを一緒に過ごせるありがたさを感じています。とにかく生きてて良かったなと分かち合える場だから、みんなと楽しむというのもあるんですけど、みんなに元気を与える、そして感謝の気持ちを歌で返すライブに出来たらと思っています。カバーもやる予定ですし、クリスマスが近いのでそういった雰囲気にもなると思います。

――Kayさんが今まで観たライブで一番印象に残っているのは?

 マドンナの『コンフェツションズ ツアー』です。東京ドームで観たんですけど、全てにおいて素晴らしかったです。アルバム自体もめちゃくちゃ好きだったんですけど、衣装もダンスも映像も全てがすごく計算されていて、ストーリーやメッセージがすごく強かったんです。社会的なことも自分のアートを通して伝えていく、全てがプロフェッショナルで観ていて楽しくて。もう完璧でした。あと、ジャネット・ジャクソンとアッシャーのライブもすごくて感動しました。

――ちなみに初めて観たライブは覚えていますか。

 4歳の頃だったから鮮明に覚えていないんだけど、横浜スタジアムでのマイケル・ジャクソンでした。席がすごく後ろの方だったから、マイケルがめちゃくちゃ小さかったのは覚えています(笑)。でも、マイケルも環境問題をテーマに歌ったりしているけど、それが音楽とtoo muchにならないのは本当にすごいなと思います。説得力が違うと言いますか。

――Kayさんも過去のインタビューで「素直に歌ってメッセージや歌詞を届けられたら最強」とお話ししていたので、その人から滲み出る説得力、といったところに繋がりますね。

 本当にそうです。だから詞も自分で書き始めて、どこでメッセージを繋げられるかと言ったら歌詞なんですよね。自分から出てきた言葉で、聴いている人が共感してもらえたら、本当に嬉しいです。

(おわり)

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