シンガーソングライターの果歩が10月28日、弾き語りEP『女の子の憂鬱』をリリース。6月から3カ月連続で配信リリースされた「きみは美しい」「街と花束」「ロマンスと休日」の3曲と、新たに「楽園」や「朝が来るまで、夢の中」など新曲4曲を加えた全7曲を収録。インタビューでは、果歩の原点である弾き語りで全曲をレコーディングしたEP『女の子の憂鬱』の制作背景から、いま果歩が目指すシンガーソングライターとしての姿勢など、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
漢字の美しさに惹かれている
――果歩さんは以前からライブハウスがお好きだと、お話ししていましたが、コロナ禍で多くのライブハウスが閉店に追い込まれてしまいました。先日は老舗の四谷天窓も閉店を発表されて...。
一番身近で、お世話になっていたのが四谷天窓さんでした。系列店の方々も私のことを気にかけてもらっていて、よくライブなど声をかけていただいてました。上京する前、高校生の頃からお世話になっていて、まだ閉店してしまうことに実感がないというのが正直なところです。ライブハウスは大好きな場所なので、私が出来ることがあればやりたいという気持ちもあります。
――ホームだったライブハウスが閉店しまうのは母校がなくなるような感覚もあり、すごく切ないですよね。さて、6月から8月に掛けて3曲をデジタルリリースされてました。
もともとライブをする予定だったのがコロナ禍で流れてしまったので、3カ月連続で配信リリースしたんですけど、やりたかったことはしっかり出来ていなかったと感じていて...。新曲を弾き語りでリリースさせていただいて、聴いていただいた方からの反応が良かったので、3曲録り終わったあたりからEPにしたいなと考えていました。
――先行配信された「きみは美しい」「街と花束」「ロマンスと休日」3曲はコンセプトは繋がっているんですか。
コンセプトという意味では繋がってはいないんです。でも、登場人物でモデルになっている人は一人います。その人が軸となって自分自身が考えたことなどが、曲に反映されているといった感じなんです。
――その人を取り巻く群像劇のような感じですね。では、タイトルの『女の子の憂鬱』とは?
私はいつも曲名とかタイトルはすごく迷うんですよ。「女の子は夢を見る」、「朝が来て夜が来る」、「憂鬱と退屈」とかタイトルは色々考えたんですけど、最終的にはこれしかないなと思いました。最近はタイトルをすごくキレイにしたい、漢字の美しさに惹かれているんです。
――漢字に惹かれたきっかけは何かあったんですか。
シンプルに大人になったんだと思います。歌詞を書くなかで、小説など以前よりも読むようになったんです。それで日本語の綺麗さを日々感じていて。その中で憂鬱という漢字も大好きなんです。
――先程、弾き語りで全曲収録したとのことですが、完成して今どんな心境ですか。
すごく楽しかったんです。言葉を大事にしたいと思っているので、弾き語りはシンプルで伝わりやすさがあると思っています。これまでも弾き語りでライブもやってきたので、個性も出すことができた気がしています。
――レコーディングはどんな感じで録ったんですか。
ギターと歌は別々で録ったので、ライブとは違う感覚がありました。改めて、自分の粗さに気づいて、ギターを弾くということは大変だなと思いました。歌とアコギの立ち位置みたいなものは、ミックスダウンの時にすごくこだわった部分なんです。
生きるって何だろう?
――1曲目の「楽園」はいつ頃書かれた曲なんですか。
この曲はコロナ禍で書いた曲でした。ここ最近、すごく悲しいニュースが多くて、それを見て「生きるって何だろう?」と思ってしまって。例えば有名な方が亡くなると追悼番組とか過去のことを振り返る、その人の事で溢れる瞬間があります。この亡くなられた方が思っていることは、本人にしかわからないけど、他人が装飾できてしまうことに違和感を覚えて。
――良くも悪くも美化されますよね。
歌詞にある<見てはいけないものを見てしまったような 秘密を共有した時の高まり だめなこと 隠しごと ひとり、ふたりでしよう>というように、秘密を共有した時の高まりは、本当に大事な人には言っていたかもしれないなとか。
――現時点での生きるとはどういうことか答えは出ました?
それが全然出なかったんです。どうにかして生きていくしかない、といった感じです。自分から命を落としてしまった人も、それは勇気のいる決断だったと思うんです。誰もがそんなに苦しみたくないじゃないですか。そこには私は行き着けないと思うので、嫌な思いをしてでも結局生きていくんだろうなとは思いました。
――「楽園」は希望なんですね。
はい。でも、人それぞれ楽園に対する認識は違うと思うんです。限定しないそれぞれの楽園を、この曲で描きました。
――4曲目に収録された「揺れるドレス」はどんな心境の時に書かれた曲ですか。
私は寝る前によく考え事をします。私は高速道路沿いの部屋に住んでいるんですけど、外が高速道路のライトでオレンジ色なんです。それで私はその窓のカーテンを開けてオレンジ色の光を浴びながら寝るんです。
――うるさくないですか?
高速道路からの音も入ってくるんですけど、その音を聴いていると落ち着くんです。生活音や環境音が好きなんです。
――その中で生まれた歌詞なんですね。
歌詞の<花柄のベッドで 死んだように眠る美しい人に 私はなりたい>、というフレーズがすごく気に入っています。亡くなって棺に入れられた時、お花でキレイに飾ってもらえるじゃないですか。そんな風に美しくいきていたいなと、そんなことを考えていた中で生まれた曲なんです。
でも、この曲の主人公はなるべく美しく生きていきたいとは思っているけど、自分のことはあまり愛してあげられていなくて...。好きな人を小悪魔的な感じで誘う強さ、妖艶な感じを求めているんです。マイナスな部分と理想を詰め込んだ曲になっていて、特に女の子に共感してもらえる歌詞になったんじゃないかなと思います。
――ドレスは女性の憧れですよね。
はい。私もいずれドレスは着たいなと思っていて。近いところだと成人式は着るチャンスだったと思うんですけど、出席しなかったんですよ。私はちょっと捻くれているんですけど、勝手に楽しくなさそうだから行かないって決めて(笑)。でも、2次会でみんなドレスを着ていて、羨ましいなと後悔しました。
「いいね」ともっと言ってもらえるように
――「ヨルニ」はタイトルがカタカナですね。<孤独や寂しさが美しいと思っていたの こんな夜に音楽を聴けばほんと死にたくなるな>という歌詞がインパクトがあって。
この曲が出来た時に、漢字ではなくカタカナのイメージがあったんです。歌詞に関しては本当に死にたい、という感じではないんですけど、そういう感覚は割とあるんです。でも、それは一瞬で消えるんですけど。そういう時にいい曲が書けるんです。その感覚が原動力になっている部分もあります。弱さのなかに美しさを感じることがあるんです。それは孤独や寂しさを知っている人でないと出せないと思っていて。
――その中で<きっと退屈を育てる>という表現もすごく良いですよね。さて、最後をEPの締め括るのは「朝が来るまで、夢の中」ですが、この曲を最後に持ってきたのは?
今作の中でも特に気に入っている楽曲で、完成した時の手応えもありました。それもあって、最後を締めるのはこの曲だなって。この曲を聴きながら眠りについて欲しいなと思いました。
――確かにEPの時間も25分くらいなので、頭から聴いてちょうど眠りに入りやすいですよね。
良い夢を見てもらえたらなって。この曲を書いてた時は、毎日アルバイトに行って帰ってくるみたいな生活だったんです。そのルーティンが退屈でもっと楽しい事がしたいなと思って。
――<「おやすみ」と送ってから こうやって起きてる深夜2時 ログイン画像できっと知ってる>というのは?
SNSって誰が今起きてる、活動しているとかがわかってしまうじゃないですか。その人の事が丸見えの世界で、それも情緒がなくてつまらないなって。よく友達とも話すんですけど、LINEの既読は付かないのにインスタのストーリーは見ていたり、理不尽なことへの苛立ちみたいなことに近い感覚を書きました。サビは日常なんですけど、夢の中で楽しいことを探しているんです。あと、歌詞にある<ABCみたいなトキメキは>の部分が特に気に入っています。
――若い世代の方はこの言葉、ポピュラーではないですよね?
そうなんです。私も知らなかったんですけど、テレビで観て知って調べて、その表現って素敵だなと思いました。直接的な愛情表現ではなくABCと順番に進んで行こうよ、というときめきがあっていいなと思いました。
――奥ゆかしさがある表現ですよね。
そうなんです。現代ももっと奥ゆかしさがあった方がいいなと思いました。なのでみんな、もっと考えてキレイに生きていければいいなと思って。私はマッチングアプリで出会うような感じは苦手で、マンガやドラマのように街角でバーンとぶつかって育むような素敵な出会いを求めていて(笑)。
――ロマンがありますよね(笑)。「ロマンスと休日」にも繋がるような感覚もあり、「楽園」にたどり着くための“How To”みたいなものが、このEPから感じられました。
それいいですね! 嬉しいです。
――最後にシンガーソングライターとして、今どんなことを考えて活動していますか。
曲を書くことがすごく好きなので、それに対して「いいね」と言ってくれる人がいることがすごく嬉しいんです。なので、「いいね」ともっと言ってもらえるように自分を大事にしつつ、視野をもっと広く持って活動していきたいです。私は多くの人に届けたいというよりは、自分と感覚が似ている人に共感してもらいたい、その輪を広げたいと思っています。そのためには自分がもっと大きくなって、そういう方達に見つけてもらえるように頑張っていきたいです。
(おわり)