4人組ロックバンドのLAMP IN TERRENが14日、5枚目となるニューアルバム『FRAGILE』をリリース。ありのままという言葉に向かっていた前作『The Naked Blues』から約1年10カ月ぶりとなったフルアルバムは、このコロナ禍という現状があったからこそ出来上がったアルバムだろう。目で見えたものを素直に落とし込んだ、今のLAMP IN TERRENの思考が大きく反映されている。インタビューでは今作の制作背景から、10月24日から始まるツアーでどのような姿を届けていくのか、4人に話を聞いた。【取材=村上順一】
自分がなりたかったミュージシャンになれてきている
――今作の制作背景にも繋がるとも思うんですけど、ステイホーム中はどんなことを考えましたか。
川口大喜 自宅でドラムの練習は難しいので、スタジオに入れなかったことがつらかったです。普段僕は音楽をめちゃくちゃ聴き込むタイプではないんですけど、今回はアルバムに向けて、ゆっくりと音楽を聴いて、ドラムのレパートリーを増やすことができたと思っています。インプット期間として時間を有効に使えました。
――自粛開けでスタジオで叩いた時はいかがでした?
川口大喜 腕はやっぱり鈍っていましたね。それまでは練習用の音があまり響かないパッドで練習していたんですけど、実際のドラムセットとは全然違うんです。それで久しぶりに生ドラムを叩いたら、ドラムってこんなにうるさいのか、という気づきがあって。でも、原点回帰といいますか、めちゃくちゃ楽しかったです。
――中原さんはいかがでした?
中原健仁 アルバム制作の話は進んでいたので、期間中はその制作に没頭していました。これまでアルバム制作時はけっこうバタバタしていたことが多いんですけど、ステイホームで家にいたので1曲に対していろんなパターンを作ってみたり、今まで以上に考えることができたと思います。しっかりとアルバム制作に向き合えました。
その中で自分としてはショックなことがあって、自粛中はみんな音楽とか聴くのかなと疑問に思って調べたら、みんなあまり聴かないみたいなんです。けっこう移動中に音楽を聴く人が多いみたいで、個人的にはショックでした。割と自分目線で考えていたところがあったので、実際周りはそんなことないんだなと。
――確かに自宅で腰を据えて音楽を聴く人は少数派かもしれないです…。ベースに関して、新たな気づきはありました?
中原健仁 家にいる時はベースを座って弾いていたので、久しぶりにスタジオに入って立って弾いたらめちゃくちゃベースが重いことに気づいて(笑)。今まで何も考えずにこんな重いものを振り回していたのか、と思いました。それもあって家にいる時も立って弾かないとダメだなと反省しました。
――ツアーも始まりますし、リハビリが必要ですね。大屋さんはこの期間はいかがでしたか。
大屋真太郎 時間があったので、家で作業するための音楽機材、アンプを繋いで録音できるようなシステムを構築していました。これまで打ち込みは(松本)大の負担が大きかったので、僕自身もアレンジもしっかりできるようになりたいなと思っていたんです。なので、自粛期間はそこを勉強する時間になりましたし、スキルアップにも繋がったかなと。いろいろ試したいことができたのですごく楽しかったです。
でも、ストレスがなかったかといったらそんなことはなくて、今まではライブがそれを解消してくれていたんだなと改めて気づきました。精神的にも肉体的にも発散できていたんですよね。アルバム制作はグッと曲作りに集中するので発散するという感じではないんです。その辺は少し窮屈ではあったんですけど、時間はすごく有意義に使えたと思います。
――ギターに関しての気づきはありましたか。
大屋真太郎 僕は普通にギターも弾いていたので、2人のような感覚はなかったです(笑)。逆にギタリストという肩書を一旦置いて、楽曲全体のアレンジとして考えたいと思っていたので、俯瞰してみることが以前よりできるようになってきたのではと思います。
――松本さんはいかがですか。
松本大 僕は逆に自分を見つめ直す、という世の中の風潮を感じていたので、あえて自分の目に見えているものの話しかしない、ということに注視していた期間でした。前作『The Naked Blues』をリリースした瞬間から自分がやるべきことは、「自分を見つめない」ということをテーマとして活動していくことだと決めていました。自分を大切にしたいから自分と向き合うことをやめるべきだと思って。
内側というよりは外側に興味を持って動いてきたと思いますし、そういうアルバムを作ったつもりです。僕は街の景色に合うような曲を作った感覚もあって、みんなが移動中に音楽を聴いているというのは感じていたことでもあったので、ぜひ街の中で聴いてほしいなという気持ちもあります。
――松本さんはこれまでずっと内側を見てきた感覚もありますから、世間一般とは重ならない部分も多いと思うんです。
松本大 たぶん天邪鬼なんでしょうね。ずっと世間に対して反骨心があったりするのかなって。みんながそっちにいくんだったら、俺はこっちに行きたいみたいな。
――このお話からすると「EYE」は今の松本さんの考え方が大きく反映されている曲なんですね。
松本大 わかりすぎるものってアートではなくなってしまう節はあるけど、もう「水は水です」といったような歌詞を書いた感覚があります。聴いてほしいという気持ちはあるんですけど、語りかけたいわけでもない、それを音楽として成立させたいなと思いました。自分がありすぎることはすごく邪魔だなと思いました。すごく素直に書いたんですけど、わからない部分もあるとは思うのですが、それを修正するかしないか、ということに関してはバランスを考えて書いたつもりです。『FRAGILE』というタイトルもパッと思いついて、つけてしまったタイトルで、素直に思ったことで今作は進めていった感覚があります。外側に意識が入っていたので、その風景から読み解ける心情だったりを意識して曲を作りました。いまは自分がなりたかったミュージシャンになれてきているんじゃないかなと思いますし、すごく自由なんです。
――昔と比べるとわかりやすい歌詞になっていると思いました。コロナ禍という共通テーマがあるのも大きいと思いますが。
松本大 それはある程度わかりやすく伝えなければいけない、共通言語にしていかないといけないと思ったところと、自分の感性として残して置かなければいけないところがあって、そこは柔軟に使い分けました。例えば「EYE」は当初仮タイトルが「チャイルド・プレイ」でした。
――映画を彷彿とさせますけど。
松本大 そうなんです。だから僕らの中ではチャッキーと呼んでいて(笑)。さすがにそれはちょっとと思い「マーブル」に一旦なったんですけど、結果「EYE」に落ち着きました。どんどんわかりやすくなっていっていきました。
思うがままに描いてみようと思ったジャケ写
――ジャケットのアートワークは、松本さんが描いていますが、自分で描こうと思ったのは?
松本大 実はこれ3回描き直しているんです。わかりすぎないもの、でも目を引くものを作りたいなと思って。もっと上手く描こうと思えば描けるんですけど、ただただ下手くそな絵で、自分の部屋の中と外の世界を、思うがままに描いてみようと思いました。ちょっと酔っぱらった感覚ぐらいで描きたいなと、頭のネジを2〜3本外した結果こうなりました。
――赤と青のシューズは動脈と静脈のイメージですか。
松本大 あ〜そうかもしれないです(笑)。自分はただコンバースのスニーカーをイメージしただけなんですけど。
――そうだったんですね。でも、見れば見るほど味がある絵になっていて面白いです。りんごが置いてありますけど、それは松本さんがコンピューターにMacを使っているからですか。
松本大 そうです。あと、この作業している時、たいして栄養がないものばかり食べていて、イメージ的にりんごしか食べていないような気持ちだったので、それが反映されている部分もあります。
――インパクトがあります。今回10曲収録されていますが、皆さんがそれぞれ感銘を受けた曲などあれば教えてください。
川口大喜 僕は「チョコレート」という曲が特に好きで、その理由はものすごく手に取りやすい曲だからなんです。本当にお菓子のチョコを食べるような感覚があります。タイトルも僕らにあまりなかったタイトルで新鮮さもあって。
松本大 でも、ドラムは打ち込みというね。
川口大喜 その辺りはもう柔軟に対応しています。曲が求めていれば生ドラムじゃなくても全然良くて。もちろんリズムを組むときに関わりますけど。刺さった曲、プレイヤー視点だと気に入っている曲は「EYE」です。これは大にも言ったんですけど、歌詞に登場する<全てぎゅっと抱きしめるよ>という言葉はよく出てきたなと。
――確かに松本さんはそういう歌詞、めずらしいです。前作『The Naked Blues』あたりから変わってきましたよね。
松本大 そうですね。特に「オーバーフロー」という曲で抜けた感じがあったので。でもこういう表現が一番伝わるんですよ。
川口大喜 「ぎゅっと」という表現は子どもでも伝わると思うんです。大がすごくわかりやすい言葉を使ってきたのは驚きました。それもあってか「EYE」のドラムはけっこうはちゃめちゃな感じなんです。フレーズをこうしてとか細かいことは考えずに叩いていて。思ったように勢いでレコーディングしたので、CDと同じことはできないんですけど…。自分が何を叩いたのかも覚えていないんです。
――一期一会なドラムになっていると。
川口大喜 派手目で上手く叩きすぎないようにと、そういったオーダーもあったんです。この曲に限らずアルバム全体を通してマインドは一緒でした。その中でも「EYE」が一番そのマインドが強く出ていると思います。
松本大 ちゃんとやろうとするなと。
――良い意味での荒さが必要だったんですね。中原さんはどの曲が印象的でした?
中原健仁 僕も「EYE」です。というのも個人的な性格の話なんですけど、僕は自分自身にばかり向いてしまっている傾向がありました。それが歌詞にある<僕らは鏡ばかり気にしているから>というフレーズは、すごく刺さりました。その後に出てくる<見つめるべきはきっと僕じゃなくていい>という歌詞に、もっと視野を広げなければいけないなと思いました。いつまでも自分ばかり見ていてはダメだと気づかせてくれた曲なんです。
――ベースは今回どのような意識でプレイされたんですか。
中原健仁 隙間を大切にしようと思いました。これまでそういうプレイができなかったんです。隙間を作ることが怖かったと言いますか…。このアルバムを通してメンバーと相談しながら隙間を大事にしたプレイができるようになってきたと感じています。でも、「EYE」に関しては弾かない美学というよりは、ボーカルメロディがある後ろで、ベースもメロディがあるといったプレイになっていて、歌っているけどボーカルを邪魔をしないプレイができたんじゃないかなと思います。そういうのができるようになってきたことは大きかったです。ベースがシンプルな音楽を聴いていても気持ちいいなと思えるようになったので、またベースが面白くなってきました。
――大屋さんは?
大屋真太郎 僕は「ワーカホリック」です。自分は繰り返しの日常というのが苦手なタイプなのか、すぐにどこか遠いところに行きたい、と思ってしまうタイプで…。青春18切符で遠くへ行ってみたり、自転車で京都に行ったり。
――大屋さん、そういう趣味があったんですね。
大屋真太郎 趣味ではないんですよ。自転車で京都に行ったのは大学生の時なんですけど、自転車を買って3日後くらいに衝動に駆られて行ってしまって。けっこう無謀なことをしがちな性格でして。でも、日常というものは必要なんですけど、僕の中では敵の部分というのも若干感じていて。「ワーカホリック」はその日常と仕事、その際どいところを上手く曲に落とし込んでいるなと思って。
<つまらない今日の先にもきっと 思い描いていた日々が待っているから>という歌詞があるんですけど、それは信じていなければできないことで、日常と変化というテーマがすごく刺さりました。でも、曲はリズミカルで楽しげ、いい意味で淡々と進んでいくんですけど、サビが毎回アレンジが違っていたりして変化を持たせているのも特徴で、上手くアレンジできたなと思っています。
――ギターで聴いてほしいポイントはありますか。
大屋真太郎 「風と船」はアコギで演奏したんですけど、こういう編成の曲はあまり僕らにはなかったと思うんです。僕の中では新鮮なアレンジになっていて、ソロもアコギで弾きましたし、チャレンジングな1曲でもありました。あと、この曲は大が実機のウーリッツァー(エレクトリックピアノ)を生で入れています。メロトロンのフルートはソフトシンセなんですけど、ほぼ生音で構成した楽曲になっているので、注目してほしいポイントです。
松本大 ウーリッツァーはエンジニアさんに譲っていただいて、いま家にあるんです。
――実機ならではのリアリティがありますよね。
松本大 それもあるんですけど、僕の中では修正が効かないというのが一番大きいです。実機だと録り直した際に、ノイズが走ってしまったり、前のテイクと上手くつながらないこともあるんです。あとパソコン上でやるのとではタッチが変わってくるんです。僕はピアノ経験者ではないので、拙い部分があるんですけど逆にそれがよかったりして。
――でも、ライブとかで弾いている姿を見てますけど、相当上手くなってきていると思います。
松本大 練習をしているわけではないんですけど、最近は作曲も鍵盤でやっているので、自然と上達しているのかもしれないです。なので、自分の曲以外は弾けないんですよ。
クラシックに僕らは近いと感じている
――鍵盤繋がりでお聞きしたいことがあったんですけど、ライブの開演前のBGMにクラシックが流れていますが、それは松本さんが鍵盤を弾くようになったことが関係しています?
松本大 僕はショパンがもともと好きなんですけど、LAMP IN TERRENと空気感が似ている、フォークやロックというより、クラシックに僕らは近いと感じているんです。脳がクラシックに近い感じでやっているところがあって、僕は肌の馴染みがいいなと思っていて。そのクラシカルな雰囲気は大事にしたいなと思っています。アルバムが当初と方向性が変わったので、今作には入らなかったんですけど「ほむらの果て」はクラシックっぽさはすごくあると感じていて。
――確かにこのアルバムに「ほむらの果て」は浮くかもしれない。
松本大 この曲は、僕らはこういう曲を、バンドになっていきます、という布石だったんです。コロナ禍になって、今はこういうアルバムは出せないなとなって、方向転換して作ったのが『FRAGILE』なんです。最初の構想のアルバムになっていたとしたら逆に「Enchante」(eはアキュート・アクセント付きが正式)と「いつものこと」は入っていなかったので。
――ところで、アルバムのラストを飾る「Fragile」のピアノは「蛍の光」を彷彿とさせる終末感がありますけど、もしかして意識しました?
松本大 いえ、それは全然考えていなくて、ショパンの「ノクターン」と同じキーでこの曲は作ったんです。おそらく「蛍の光」もそういう要素が入っているのかもしれないです。
――さて、10月24日からワンマンツアー『Progress Report』が始まりますが、タイトルに込めた想いは?
松本大 このアルバム『FRAGILE』はコロナ期間にできた曲を打ち出すことは決まっていました。なので、コロナ期間で自分たちが思ったことの“調査報告書”という意味で、『Progress Report』とタイトルを付けました。ライブというスタンスをとりつつ、しっかりとショーに出来たらいいなと思っています。
――最後にツアーへの意気込みをそれぞれお聞かせください。
川口大喜 久しぶりの有観客でのライブということで、普通のライブのように盛り上がったりすることもできない中で、どのように聴かせるか、というのが課題になってくると思うんです。以前だったら勢いで行ける所もあったと思うんですけど、今回は自分たちの音楽家としての技術だったり表現力が問われてくると感じています。より一層緊張感があって良いライブになるんじゃないかなと思います。音楽と演出を楽しみにしていてほしいです。
中原健仁 今まで以上に細かい音が聴こえてくるんじゃないかなと思います。ツアーに向けて頑張ることは変わりないんですけど、今ライブハウスがちょっと世間体が良くないじゃないですか。それを拭いたいとも思っています。来てくれたみんながすごく楽しかったよ、と周りに広めてくれるようなライブにして、ライブハウスへの見方が変わってくれたらいいなと思います。
大屋真太郎 僕らはもう心の準備は出来ていますし、迷いのあるライブではないので、お客さんも安心して聴きに来てほしいです。曲のレパートリーも増えてきたので、自分自身もすごく楽しみです。
松本大 僕らは挑戦的なバンドだと思っていますし、そもそも既存のライブのやり方をこの期間中にやるつもりはないんです。この期間だからこそのツアーをやりたい。もしかしたらみんなはライブではないのかも、と思うかもしれないという懸念も少しあります。ライブというより体感してもらう、魅せるライブにしようと思っていて、僕らは確かにそこにいるんですけど、作品や映像を見せるという感覚に近いもになるんじゃないかなと。なので全然盛り上がらなくてもいいし、そこにいるだけで成立するものを120%作り込んで、みなさんに見せたいです。
(おわり)
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