現在放送中のテレビ朝日系列『魔進戦隊キラメイジャー』で押切時雨役/キラメイブルーとしても人気の水石亜飛夢が、青春音楽映画の『東京バタフライ』に出演を果たした。本作は『四月の永い夢』『わたしは光をにぎっている』『静かな雨』など映画ファンに良作を提供し続けているWIT STUDIO×Tokyo New Cinemaによる最新作で、SCOREという学生バンドの長い青春、その終わりを描くことで、過去の後悔や挫折と向き合い、必死にもがきながらも前に進んでいく同世代の共感を集めそうな作品となっている。水石はバンドメンバーで、ギタリストの仁を好演している。
水石本人には『テニスの王子様』でキャリアが本格的に始まり、現在の『魔進戦隊キラメイジャー』のキラメイブルーなど充実したキャリアを歩いているイメージがあるも、当人は「僕も実は芸歴が長くなったこともあり、高校の頃から始めて8年ちょっと、その中ではたくさんの挫折も何度か味わいつつ、その当時の悔しい思いは、役を演じていて共感できるものはありましたね」と知られざる苦悩もあったと言う。自身に重ね合わせた『東京バタフライ』について話を聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】
色濃く残ったひと夏の思い出
――今作ではギタリストの役でしたが、監督からはどういうリクエストがありましたか?
凄腕のギタリストだ、ということでした(笑)。僕自身はちょっと触った程度の経験しかなかったもので、「仁になってください!」「もっと雰囲気を!」というリクエストがありました。なので「オレは4本も掛け持ちをするほどのギタリストだ!」って強く思いながら演じましたね。
――とはいえ本当のバンドマンのようで、撮影現場ではどのように過ごしていたのでしょうか?
今回の主演で主題歌を作った白波多カミンさんの「バタフライ」を、ずっとみんなで聴いたり、歌っていましたね。休憩中もカミンさん、恥ずかしいだろうなって思うくらい流したり、歌ったりしていました(笑)。
――本当の仲間になりそうな環境ですね!
なりましたよ。一緒にいる時間が長くて、時期も時期だったので、2年前ではありますが、僕の中でも色濃く残った、ひと夏の思い出という感じです。こういう経験はやりたくてできるものではないので、本当にいいご縁をいただいたなと思っています。
知られざる過去
――本作は、若者と音楽の物語で青春のビターな味わいもあり、夏の終わりにぴったりの作風ですよね。
そのビターってすごくいい響きだなと思いましたけど(笑)、本当に情緒的な映画だなって思いましたね。今風に言うとエモい雰囲気がすごく漂っていて、最初に観たのは半年近く前なのですが、撮影時期と上映時期もちょうど同じ季節で、確かにぴったりの時期に公開になりますよね。
――夢を追うことがテーマでもありましたが、個人的にリンクする要素はありましたか?
僕も実は芸歴が長くなったこともあり、高校の頃から始めて8年ちょっと、その中ではたくさんの挫折も何度か味わいつつ、その当時の悔しい思いは、役を演じていて共感できるものはありましたね。映画では、彼ら4人がひとつの夢を追っているけれど、その夢を追っている過程にすごく感情移入はしていました。
――その8年間には、どういうことがありましたか?
僕は今戦隊のヒーローをやらせていただいていますが、ずっと仮面ライダーを目指していた時期がありました。でも10代の頃は、気持ちの入れ方があまりよくなかったんです。「これにすべてを賭ける!」みたいな、周囲がよく見渡せていなかった上に、よくわからない自信だけがあって(笑)。それって今思い出すだけでも恥ずかしいのですが、オーディションに落ちると3日間くらいドーンとなったり、映像でやっていくと決めたのに実力不足で、これではやっていけないと葛藤した時期もありました。「このままでは俳優にはなれない」と言われたこともありましたよ。
――シビアな世界ですよね。
(目の前を見て)マネージャーさんに言われて(笑)。「次、この仕事取れなかったら、考えたほうがいい」みたいな。仁とは境遇が違いますが、気持ちの断片などをリンクさせながら演じましたね。
――夢が叶った今は、どういう気分ですか?
そうですね。夢は叶いました。仮面ライダークウガ、龍騎、アギトからヒーローにあこがれていましたので、日々ヒーローの偉大さを感じています。僕がというより、ヒーローってすげえなって、自分でも思いますね。頑張んなきゃな(笑)。
――こちら側からすると、「テニスの王子様」に始まり、現在の「魔進戦隊キラメイジャー」のキラメイブルー、SNSなどでキラキラしたイメージが強いので、知られざる苦悩ですよね。
そう見えていただけているほうがいいです。そのほうがうれしいです!
こういうご時世なので自分が辛いとか言ったり、オンラインの世界が残酷になりつつあるなかで、自分がヒーローとしてやっているので、クスッとまではいかないまでも、なるべく柔らかいものを届けられたらなと思います。役がヒーローなだけじゃしょうがないので、僕もお子さんから目指したいと思われる人間であったり、親御さんにもこの人がヒーローだったら安心だって思っていただけたらいいなと思っています。
――ヒーローとしての重責を担っているような感覚?
そうですね。やっぱり入る直前に言われました。ちゃんとヒーローとして日常生活を送るというか、人間が気をつけることは気をつけていれば大丈夫だと思うけれど、ちゃんとそういう自覚を持ってやってほしいと。
寄り添う音楽
――先ほど苦しい時期もあったと言われていましたが、そういう時に聴いていた曲はありますか?
最近ではないのですが、ナイーブになった時に映画『青夏 きみに恋した30日』の主題歌でMrs. GREEN APPLEさんの「青と夏」という曲や、自分を鼓舞したい時には、「鋼の錬金術師」のオープニング曲だった「ゴールデンタイムラバー」を、気合いれるために聴いたりしていました。
――これを機に自分でもやってみようとか思いますか?
実は最近、ベースをずっと練習していました。「魔進戦隊キラメイジャー」でバンド回があり、ピンクがドラム、緑がキーボード、そのふたりは経験者で、イエローがボーカルです。彼はアーティストなので、上手いです。赤がギターで未経験だからめちゃくちゃ練習していて、僕もベースは初めてで、家でめちゃくちゃ練習しました。
――それともうひとつ、映画の話に戻りますが、あの4人には6年間の空白がありますが、その演じ分けにも注目して観ていました。
お客さんに伝わりやすいのは見た目なので、そこの精査から始まったところはありました。稔の髪を上げるのか修の髪を上げるのか、それとも仁の髪を下ろすのか(笑)。服装を含め、かなり細かく決めました。仁の僕は、ほんの少しですが、声の調整はしました。落ち着きも頑張って出すようにしていましたね。
――6年間という絶妙な時間を見事に表現していると思いました。
未来が見えているキラキラした大学生時代と、紆余曲折があった6年、そこで経験した厚みを出せればなあと思いながらやっていましたね。
――総じて、挑みがいのある作品だったのではないでしょうか?
そうですね。1か月半くらい時間があって、ロケ地も制作会社さんからほど近いところで、本当にひと夏の、今思うといい思い出なんですよね。仁という役と4人の想いを通して、僕自身も青春を味わった気がします。
今後も不器用に生きていきたい
――今後、どういう30代、40代を目指していますか?
今、念頭に目標に置いているのは、新人俳優賞を5つほしいということ。でも、今30代って言われて、そういう年齢になったのかあって思っちゃいましたが(笑)、映像の仕事にたくさんチャレンジしていきたい。そういう意味でも賞は目標として口に出せるし、明確にしておいたほうがズルズルいかなくていいのなかって。潜在意識にあれば、自分の考えも変わってくるかなって感じですかね。
――この後も『東京バタフライ』のような素敵な作品を期待しています。
作品は何かを届けるためにあるっていうことは、常に念頭にあることなので、役を演じる際は毎回考えたりしているんです。エンタメは世の中ですごく大事なことだと思うので、そのために汗をかきたいという想いはありますね。すごく演技が上手い方はたくさんいらっしゃって、僕はなりふりかまわず一生懸命やるしかないのですが、30代に入った時には気持ちで頑張りたいですね。メッセージとして何を伝えたいか、その役で何が言いたいか、そこの気持ちにフォーカスして、今後も不器用に生きていきたいと思います。年を重ねれば若い子もたくさん出てきて、その裏で回すような役回りになってきますで、そういう芝居も徐々に身についていけたらいいなと思っています。
(おわり)