iriが9日、無観客生配信ライブ「iri Presents “ONLINE SHOW”」を行った。昨年秋の東名阪ツアー「iri Presents “Wonderland”」以来、約1年ぶりとなるワンマンライブ。

 今年3月に4作目となるアルバム『Sparkle』をリリース。その後、予定していた全国11会場を回る春のツアー「Spring Tour 2020」が新型コロナウィルスの感染拡大の影響で公演中止となったiri。悩みや不安を抱えながらも、作品を重ねるごとに広がる支持を力に変え、ポジティブなマインドを輝かせるように解き放ったアルバムにおける進化が彼女のキャリアにおいて大きな転機となっただけに、その成果の発表の場であったツアーの中止はあまりに残念だった。

 しかし、未曾有の事態が起ころうとも、その逆境さえ糧にし、日々をクリエイティブに生きる音楽家のパッションは誰にも止めることはできない。やり場のないフラストレーションを明日の創造に変えるべく、再び歩き始めたiriが、9月9日に昨年秋の東名阪ツアー「iri Presents “Wonderland”」以来、約1年ぶりとなるワンマンライブにして、自身初となる無観客配信ライブ「iri Presents “ONLINE SHOW”」を行った。

 ノックされた楽屋からバンドメンバーと画面越しのオーディエンスが待つステージへ。ゆっくり歩いていくiriの意気込みと緊張が入り交じった面持ちは、新作のオープニングナンバーでもある1曲目「Clear color」のしなやかなグルーヴのなかで解きほぐれ、その歌声は闇に瞬く光となった。

撮影=渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

 バックを固めたのは、これまで彼女の作品やライブをサポートし続けてきたDJ、マニュピレーターのTARR以下、新たにバンドに加わったベースの三浦淳悟(ペトロールズ)、ドラムの松下マサナオ(Yasei Collective)、キーボードの村岡夏彦からなる4人。ベースのドライブ感が牽引する2曲目の「Runaway」は、夜から朝、静から動へと移ろいながら、トラックにおける生楽器の比重を高めた新作を象徴する楽曲だ。バンドの放つエネルギーと共鳴するように、歌とラップを巧みに使い分け、そのボーカルを躍動させた彼女は、葛藤しながら生み出してきた作品が描く心の軌跡を巡るように、4枚のアルバムから厳選した楽曲を披露した。

撮影=田中聖太郎

 オントレンドなヒップホップ、R&B経由のモダンなファンクネスを確立した2ndアルバム『Juice』収録の「Corner」と「Slowly Drive」を経て、90'sヒップホップソウルやダンストラックのオーセンティックなマナーをフレッシュに蘇らせた1stアルバム『Groove it』からアコースティックギターを手にして歌った「ナイトグルーヴ」と「半端じゃない」へ。そのシームレスな流れがスリリングな高揚感を放つ新作タイトル曲「Sparkle」でピークを迎えると、チルでメロウなタッチとボーカル、ラップのクールさが際立つ「SUMMER END」と「無理相反」を挟み、後半は代表曲、人気曲が続いた。

撮影=渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

 未来に向けた歩みを後押しするエモーショナルなメッセージソング「Only One」に、周囲とのズレをものともせず、ゴスペルの高揚感と共に抜ける「24-25」、初期の代表曲である「rhythm」、ソニーhear.×ウォークマンCMソングとなりヒットした「Wonderland」。多くのリスナーに愛されている曲の数々は卓越したプレイヤーたちの演奏によって、彼女の歌声が内包している豊かな情感や熱を解き放ち、そのライブ表現も作品同様に進化していることを印象づけた。

 そして、ライブの締めくくりは、何気ない日常の幸せが描き出された「Best Life」と、TikTokがきっかけとなりバイラルヒットを記録、アコースティックギターの弾き語りで歌われた「会いたいわ」の2曲。一時は、音楽と向き合い、葛藤するなかで、知らず知らずにに力が入ってしまっていたという彼女の歌声は、再び自然体を取り戻した最新アルバムを経て、その内面を飾ることなく、ありのままに伝える純度の高い表現に結実。これまでの軌跡を振り返りながら、アーティストとして、その眼差しが未来に向いていることを強く実感させられた一夜だった。

撮影=渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

 この日のライブで、「オンライン上だけど、久しぶりこうやってみんなに会えることを楽しみにしていました」と語り、12月にZeppツアー『iri Presents “Five Zepp Tour”』の開催を発表したiri。彼女が踏み出した新たな一歩と歩調を合わせて、ヴァーチャルからリアルな音楽の現場へ。困難な時だからこそ、痛みや悩みに寄り添い、心地いい空間を生み出す、そのパフォーマンスを肌で感じていただきたい。【小野田雄】

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