INTERVIEW

中村倫也

「変わらないでいたい」という美学、楽しみは「音楽で時代を旅する」


記者:鴇田 崇

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掲載:20年09月04日

読了時間:約7分

 ゴールデン・プライム帯連続ドラマで初主演して話題を集めた「美食探偵 明智五郎」(20/NTV)の好演も記憶に新しい中村倫也の主演映画最新作『人数の町』が公開となった。これまで多くのCM・MVを手掛けてきた荒木伸二による長編初監督作品でもある本作は、もしかしたら日本のどこかに本当に存在するかもしれない、ある「町」を舞台に、そこに流れ着いた中村演じる主人公・蒼山の運命を描く新感覚のディストピア・ミステリーだ。

 その卓越した演技力で幅広いファン層を獲得し続ける中村は、2005年の俳優デビュー以来、さまざまな表情でファンを魅了し続け、とりわけ最近の出演映画では、『孤狼の血』(18)、『長いお別れ』(19)、『アラジン』(19)(主人公アラジンの日本語吹き替え)、『水曜日が消えた』(20)など、枚挙に暇がないほどその才能を開花させている。しかし当の本人は、「生き方として褒められすぎるとむずがゆいものがあるんですけど、それは受け入れて、人前に立つこともありましたし、これからもそうだと思う」と冷静だった。主演した『人数の町』について赤裸々に本心を語る中村倫也のインタビューをお届けする。【取材=鴇田崇】

『人数の町』場面写真。主人公・蒼山を演じた

感覚の誤差、その答え合わせ

――独特な世界観の町の映像が広がっていましたが、印象的なシーンはありますか?

 最初の地下駐車場から始まっていますよね。あの町に着いて、最初の風景からもう異質。撮影現場でもヘンな電飾を立てていたりしていたんで(笑)。それこそ現場で撮りながらも台本には書いていない美術ひとつひとつを見ながら、こんな感じなんだって思いました。それが完成してひとつの映像でつながったものを観た時に、面白いなあって思いました。

――まるで海外の映画のような印象も受けました。

 ヨーロッパのミニシアター系の感覚はありました。そもそも、わからせる作品ではないんですよね。これだけのテーマがあるので監督のやりたいことは社会派でありつつ、でもそれをカタルシスで押し付けることもなく、なんだかこう観察させるような作風。そういう作品は、あまり邦画ではなかったですよね。それは異質ではありますし、斬新でオリジナリティーはあると思います。台本の一ページ目をめくって主人公が町に入っていく段階と、読み終わった後では物語の印象が、もちろん変わると思うのですが、これって映画を観た人がどういう感想を抱くのかなとは思いました。それは最初から気になるところでした。

――それは世界観が特殊だから観客の反応が楽しみ、という意味ですか?

 どういう風に今の人たちが、この映画の感想を抱くのかなと気になった理由は、僕がある種こういう仕事をしていて、世間一般の方たちと微妙に物差しが違うと思うんですよね。その誤差というものは怖いというか気をつけていることでもあるのですが、そこの答え合わせじゃないですが、知りたいなっていう気持ちになりました。

――誤差とは、どういうことですか?

 たとえばスーパーに行って長ねぎ、高いなあとか(笑)。今年は野菜が高騰しているじゃないですか。あとはJRの初乗りいくらかなとか、どうしたって気を使ってもらえる立場で、自由にあんまり出歩けないということもありますし。ちょっと特殊な環境じゃないですか。

 でも、特殊のままで片付けてはいけないと思うんですよね。なぜなら観てくれるお客さんは、普通の生活をしているから。台本を全体でとらえた時にそういうズレがあった場合、仕事にならないかなと思っているので、自分の作品が世に出る時もそうですし、言動も。世の中で起こっていること、そういうことはつねづね気にはしています。

中村倫也

中村倫也

音楽とか、当時の自分が一瞬でよみがえる

――演じられた主人公の蒼山は流されやすい性格でしたが、どう役作りしましたか?

 自分の中にはさぼりたい気持ちもありますし、年がら年中24時間、考えているわけではないので、自分の中のラクしたい気持ちを膨らませて作り上げました。そこをまずフックにして、蒼山という人物を演じる。そうすれば自分とは遠いけれど、理解はできます。

――映画『水曜日が消えた』に続いて新しい才能の監督と仕事する機会が続いていますね。座長として心がけたことは?

 ないですね(笑)。主演でもそうじゃなくても僕はあまり変わらないですね。いつもどおりです。

――監督とディスカッションなどは?

 していないです(笑)。普段から仕事の話は、共演者の方々とも撮影現場ではしないほうですね。監督とはCM業界の、今言えないような話をしていました。雑談が多いですかね。もちろん、気になることは質問しますよ。構成段階の確認とか。でもそれ以上でも以下でもないですかね。

中村倫也

――ところで、音楽を聴いてリラックスする時はありますか?

 僕はプレイリストを何個も作っていて、自分の青春時代を年代ごとに作っているんですよ。それは95年~2004年くらいの間なんですけど、小学校3~4年生くらいから一年刻み。あの当時、ヒット曲が無数にありましたよね。それを入れています。そのリストの曲を聴くと、当時の自分が一瞬でよみがえるんですよね。それが95年であれば、実家のリビングで母親が夕飯作っているのを待っている時間、そういうものがフラッシュバックする。当時の気温や匂いまでね。そういう旅を、楽しんだりしています。

――それは、楽しむためだけにやっているんですか?

 そうです(笑)。センチメンタルな気持ちになりたいんですよ。あの頃は良かったって思いたい。音楽っていろいろな力があるけれど、何回聴いてもフワッとすぐあの頃に戻れる。その往来は、すごく楽しいですよ。

――よく戻る年代はあるのですか?

 だいたい、中学か高一くらいですかね。中学の頃はサッカーをやっていて、その試合の行き帰りで聴いていた曲とかですね。毎週、東京近郊のいろいろなところに行っていたんですよ。当時はMDウォークマンでね。中学の頃のプレイリストを聴くと、初恋の頃を思い出しますよ。高校に入るとバイトで夜のシフトの時に有線でずっとヒットソングが流れていたので、細かいところまで思い出したりしますね。なんだろう、多感な時期のあの感覚はもう持てないので、そこにフワッと戻れると、どうにも心地がよいんですよね。

――その旅は、仕事にもプラスに作用しそうじゃないですか?

 そうですね。まったく関係ない別のことを思い出すわけで、頭のストレッチになっている感じはしますよね。時計の針が変わる、逆回転するので、いいストレッチですよね。

――2020年は後半になりましたが、入れる曲は決めていますか?

 それが最近の曲はわからないんですよ(笑)。自分がかかわった作品や、世の中でよっぽど流行っている曲くらいですかね。最近ではNiziUをよく耳にしますけど、でもそれに付随する思い出がないと、別に作らないんですよね。あえて挙げるとすれば、宇多田ヒカルさんの「Time」じゃないですかね。2005年くらいから仕事も始まっているので、リアルタイムで音楽を聴く生活ではなくなった、ということなんでしょうね。ただ、思い出が音楽に付随するって、すごく楽しいですよ。みんなそうかもしれないけれど、僕は忘れていっちゃうので、整理していてよかったです。

中村倫也

変わらないでいたい

――さて、役者という仕事ですが、どういうイメージで捉えていますか?

 お恥ずかしい、ですね。こんな不要不急のわたしたち、それはいつも思います。ただ、信念というかコアみたいなところは固まっているんですよね。自分はこの仕事は楽しくて好きで、豊かな仕事だなと思います。なぜなら想像力をもって作って、想像力をもって見るって、人間にしかできないことなので。そしてその受け取り方も自由、それって豊かだなと思う。いろいろな人と芝居をすることも、お話をすることも好き。でも今言ったようなことを、人に期待はしないですかね。中村倫也をこう思ってほしいということもない。好き勝手に楽しんでもらえたらと思う。どこかこんな仕事をしていて、という想いが根底にあるからなんだと思いますが。

 でもそれがどこかで、誰かの人生で役に立っているかも知れない。ある映画がたびたび思い返す一本になっていることが僕の場合はあります。どこかの誰かの、そういう作品を作れたらいいなあと思う。それが僕のスタンスです。この先はわからないですけど、僕の中には何本かの柱があり、だからあまりブレないのかなと思っています。

中村倫也

――今、仕事は楽しいですか?

 若い頃は腐っていることもありましたけど、いまや年とともに現場では自分よりも年下の子が増えたりしていて、そういう時期もあるよねって思い出してみたり。楽しまなきゃ損じゃないかという気持ちもあるので、そういう意味では率先して楽しむようにはしています。

――今日は中村さんが人気を集める理由がわかったような気がします。

 でも僕だって、ふわふわしそうになる時はありますよ。来年の今頃、またこのメンツでインタビューを受けている時、酒飲みながら話しているかも知れない(笑)。

 生き方として褒められすぎるとむずがゆいものがあるんですけど、それは受け入れて、人前に立つこともありましたし、これからもそうだと思う。そもそも役者っていう仕事もお恥ずかしいと思っているタイプなので、僕は変わらないかな。変わらないでいたいなという美学はありますけどね(笑)。

(おわり)

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