INTERVIEW

原 愛梨

書に命を吹き込む若き書道アーティスト


記者:木村武雄

写真:

掲載:20年08月21日

読了時間:約5分

 書道アーティストの原愛梨が自身初の作品集『書道アーティスト 原 愛梨 愛』(KADOKAWA)を出版した。2歳から書道を習い、最年少で文部科学大臣賞を受賞した。文字に加え、絵のように書いた書道アートはスポーツ界や芸能界で注目を集めた。本作には、元メジャーリーガーの上原浩治氏や鈴木奈々、須田亜香里をモデルにした作品など49作を収録。更には、自身の素顔を明かすエッセイも綴った。自身の想いを口にするのが苦手という原にとって書道は「素の自分を伝えられる」アイテム。「書道をもっと慣れ親しんでほしい」と願う彼女が筆に込める思いとは。【取材=木村武雄】

 ※メイン写真/撮影=槇野翔太

躍動と平穏、生命を宿す作品

撮影=槇野翔太

 筆跡は雲煙飛動にして力強い。今にも動き出しそうな躍動感がある。原が書く書道アートは、文字と絵を組み合わせたもの。言葉を絵に見立て、自身が感じた思いを表現する。帯を寄稿した元メジャーリーガーの上原浩治氏もモデルになった一人。「上原浩治」という名を一球投じる姿に描いた。その筆跡からはあの伸びのあるストレートが浮かんできそうだ。同氏も「鳥肌ものだった」と絶賛する。

 原は緊張感と期待感のなかで初作品集出版の実感に浸った。「書いた作品は生きていると思うんです。その作品には命が宿っていて、その息吹を感じて頂けたら嬉しいです」。筆を取るまで作品の構想と葛藤する。壁にぶち当たるときもある。そんな時はカフェなどで一息をつく。そうした舞台裏も今回初めてエッセイで明かした。

 大事にしているのは躍動感。「毛筆ならではの特徴ですので、意識しています」

 それを象徴する作品がある。本書に収録されている「福を呼ぶフクロウ」、そして、「古代の矛盾」、「蒼-蹴球」。

 「福を呼ぶフクロウ」はSNSで募ったワードから52の言葉を使用して書いた。今にも羽ばたきそうな躍動感だ。本書のテーマ「愛」に沿い、羽を広げる様子をハートに見立て「福を届ける」という思いを込めた。「私だけの想いだけではなく、52の言葉と思いが入っています」

原が書いた「福を呼ぶフクロウ」(C)HARA AIRI (C)TWIN PLANET

 そして、「古代の矛盾」。ティラノサウルスを「獰猛」、トリケラトプスは「堅牢」という言葉で表現し、「矛」と「盾」という文字を入れた。今にも重い足音を立てズシリと動き出しそうだ。サッカーのシュートシーンをイメージした「蒼-蹴球」は、日本代表のサムライブルーの青色を使って「蒼」としたためた。「蹴球」という画数が多い文字をストライカーに見立てた。弾丸シュートが飛び出しそうだ。

 「躍動感」だけではない。「静寂」も描く。「胡蝶の夢」には気品を備えた静寂感がある。花の蜜を吸う蝶の優雅な羽は風にかすかに揺れているようにも見え、ひと時の休息感が得られる。49作品の最後に手掛けた作品で「落ち着いて書きました」。その平穏な心情がそのまま蝶に宿ったようにも感じる。

素直になれる書道

 彼女が書に出会ったのは2歳の時。その頃から書道を習い始め、転機が訪れたのは大学生の時。

 「大学から一人暮らしを始めていろんな寂しさがあって…。私はもともと思ったことを口にできるタイプではありませんでした。ですので怒ることもできないですし、何かを思っても人に言えなくて。それで書で表したらそのもどかしさが消えると思いました。いざやってみたら心が洗われる感じがして。書道って最高だなと。そこから思ったことを書で表すようになりました。心の動きも表現したいと」

 書道と絵を組み合わせた。その作品をSNSに投稿した所、たちまち話題になった。これまでに多くのスポーツ選手、芸能人をモデルに書いてきた。例えば、鈴木奈々や須田亜香里。本作にも収録されているが、鈴木奈々は名前とともにバラの絵を添えた「可憐な薔薇の花」、須田亜香里はステージに立つ姿をイメージして「神対応」。須田は「『ああ、私ってこうやって頑張ってきたんだ』と自信をもらえます」と感慨に触れている。

 作品を書くときはその人、そのもののイメージを膨らませる。筆を走らせればあとは無心だ。

須田亜香里をモデルに書いた「神対応」(C)HARA AIRI (C)TWIN PLANET

 コロナ禍で閉塞感がある。そんな時だからこそ筆をとってみてほしいと語る。「綺麗に書かないといけない、ということ自体が窮屈なことだと思います。自由に書いて良いのだと思います。まず、好きなように書く、それが閉塞感から解き放してくれるきっかけになるかもしれないですね」

 彼女が目指すのは「書道の概念を覆したい」

 「自分の感性のままに書いてほしいと思っています。絵や写真、音楽と同じようにより身近なものとして書道を感じて頂きたいと思います。心を落ち着かせるのにも書道は良いと思いますし、私がオススメしているのは、朝起きてその日の目標を書道で書く。それを見て過ごすとその目標をクリアしようという力が働きます。自分を変えるのにも役立てると思います」

 性格が書に表れる。それは原自身も同じことだ。書道は「素直になれる」。彼女の書の根幹となる内面は本書にも明かされている。

 普段、人前では袴姿だが、私服姿を収めた写真も掲載している。「着飾った私しか見せてきませんでした。この本には普段過ごしている服装の姿も収めました。素の私を感じてほしいですし、どんな気持ちで書道と向き合っているのか、照れ臭いけど苦手な文章で言葉にしてみました」

ライブそのもの

撮影=槇野翔太

 本書のテーマは「愛」。

 「新型コロナウイルス禍のなかで私自身も誰とも会えずに孤独な気持ちです。作品を作るにあたってこの作品でどんな愛を表そうかと考えました。作品集を通して、家族や恋人だけでなく、友人やペットなど愛し、そして自分自身を愛するきかっけになってくれたら嬉しいです」

 作品の順番にもこだわった。「力強い作品と気が休まる作品、そうした強弱の見え方、心の動きは意識しました。色使いもそうで、普段は黒をメインにシンプルな作品が多いですが、飽きさせないように色んな色を使って。思わず手が止まる、そういうことを意識しました。最後まで読んで頂いて初めてこの作品集のストーリーは完結すると思っています」

 「誰かに見てもらって初めて作品が出来上がる、そう思っています」

 音楽にも通じる。起承転結を設ける音楽のライブやアルバムのように。彼女にとって本作、書道はライブそのものなのだろう。血の通った生命の鼓動が伝う。

 凛とした筆構え。筆に向き合う姿は勇ましい。しかし、ひとたび筆を置き、対峙すれば屈託のない笑みを見せる。人懐っこさも見える。「将来は海外で個展を開けるような書道アーティストになる」。そんな夢を語るその表情は笑顔に溢れ輝いている。

 愛を植え、やがて大木となり愛の実をつける。それを分け与え、愛は広がる。

 原愛梨――、彼女の想いが本書に詰まっている。

(おわり)

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