城田優がディズニー&ピクサー最新作『2分の1の魔法』(8月21日公開)で日本語版声優を務める。城田が弟と慕う志尊淳が声を担当する主人公・イアンの兄、バーリー役を演じる。自身は5人兄弟の賑やかな家で育った。弟思いのバーリーには共感があり、公私ともに仲が良い志尊の存在は今回演じる上で大きかったという。人生のモットーは「Love & Peace」とも掲げる城田の明るさの源とは何か。※取材は今年2月に実施。【取材・撮影=木村武雄】
モットーは「Love & Peace」、その源
撮影の準備などで時間が出来れば口ずさむ。太く伸びやかな歌声はミュージカルのステージと変わらない。取材部屋に贅沢な時間が流れる。そうした雰囲気のもとでインタビューは始まった。陽気な彼に周りがどんどん明るくなっていく。一緒にいるだけでハッピーになれそうだ。
自身の20周年を記念して発売した写真集『Sonador Yu Shirota 20th Anniversary Book』。その取材会で城田は人生のモットーは「Love & Peace」と明かし、「『夢みたいなことを言っているんじゃないよ』と言われるようなことも僕はためらわずに言いますし、想像もします」と語った。
日本人の父とスペイン人の母のもとに生まれた。兄2人、姉1人、妹1人の5兄弟で、城田は4番目。あるテレビ番組で紹介された、家族揃っての食事会では笑いが絶えず賑やかな光景があった。「母や兄、姉から愛情を注いでもらって育ってきました。『Love & Peace』はそれが根源にあります」。
明るさの源は家族にある。
バーリーは自分自身
家族と同じく、彼を形成するのに大きな役割を果たしたものの一つに「ディズニー」がある。幼いころから触れてきたディズニー作品から「愛や友情、助け合う精神と良いなって子供ながらに思っていました」。強く記憶に残っているのは『アラジン』、そして何度も観返したのは『トイ・ストーリー』だ。
「ディズニーがずっと持ち続けている夢、希望、愛などといったテーマを作品から感じてきましたし、感情移入すればするほど、そのキャラクターの痛みや切なさが自分の事のように伝わってくる。そして物語を見終わった後に『愛って素晴らしいよね』や『思い合う事って大切だよね』という事を気付ける。そうした作品が多く、僕も少なからず影響を受けました」
ディズニー作品への出演は憧れでもある。城田自身がディズニー映画で日本語版声優を担当するのは2014年公開の実写映画『シンデレラ』(王子/キット)以来2度目。アニメーション作品では初めてだ。
そんな待望の作品となる『2分の1の魔法』では、志尊淳が声を演じる主人公・イアンの兄、バーリーの声を担当した。物語の舞台は魔法が消えかけた世界。亡くなった父と再会を果たすために「24時間だけ蘇らせる魔法」を使うが、失敗して半分だけ蘇ってしまう。そんな父を全て復活させようと旅に出る兄弟の奮闘が描かれる。
バーリーは、陽気で好奇心旺盛な魔法オタクだ。
「最初は空気が読めなくて破天荒なキャラクターに見られると思いますが、それは魔法の世界や冒険に対しての憧れが強いからこそ、現実の世界にも持ち込んでしまう、そうした少年心の表れだと思います。僕自身も人形とかと一人で遊べるタイプ。バーリーとすごく似ているから彼の気持ちはわかる」
そんなバーリーにも、自身と一つだけ異なる点があるという。
「僕は人目を若干気にするところがあります。エンターティナーとして盛り上げますが、これ以上やったらまずいなというところでは引きます。皆が喜んでもらえるようにわざとやる部分もありますが、バーリーの場合は本質的に楽しんでしまっている。だけど、そんなバーリーに愛おしさも感じます。弟・イアンに対しての愛の深さや懐の深さが、感情を揺さぶられるというか、最後涙なしでは見られない映画なので僕はすごく好きです」
弟のような存在、志尊淳
公私ともに仲がいい志尊淳からは「本当に優くんそのまんま」と言われるほど共通点があったという今回の役どころ。兄弟愛を知る城田だからこそ、バーリーの心情をより深く理解することができる。そして、実の弟のように慕っている志尊淳が弟役だったことも演じる上では大きく影響している。
「淳ちゃんとはもう5、6年の仲になりますが、今一番プライベートで会っています。世代は少し下ですが、タメ口で楽しく語っているし、どちらが年上か分からないくらい。僕はバーリーのような性格ですし、バーリーとイアンの関係性がまさに僕と淳ちゃんの関係性と似ています。彼が弟役だったことは、僕がバーリーを演じる上で良いエッセンスになったと思います」
出演が決まった時は2人して「奇跡だ!」と喜んだといい「お仕事とも言えないようなご褒美で、すごくハッピーです」と表情を緩めながらそう振り返った。
アフレコは、志尊から行った。「僕は彼の声が入った状態で演じさせて頂いたのでやりやすい部分がありました。その反面、淳ちゃんは大変だったと思います。彼は僕がどんな演技をするのかを想像して、英語の言葉を聴きながらやっていたと思うので…」
難しかったアフレコ
アニメーションの吹き替えは「いつかやってみたい」と思っていた城田。念願の声優の仕事は「夢が叶った瞬間でもあったので楽しみながら演じていました」。しかし、アニメーションの吹き替えは「非常に難しかった」と振り返る。
「もともと英語で作られていますので、口の動きは英文に合わせて細かいニュアンスまで再現されています。なるべく日本語でも合うように工夫をしていました。例えばバーリーが眉毛をあげたり、強く言っている瞬間の感情部分は日本語とリンクしないと観ていて矛盾が生じてしまいます。そこの調節が難しかったです」
そのなかで監督からは「あまり作り込まなくていい、普段の声を活かしてやりたい」と要望があった。バーリーの声が自然体に感じるのはそうした工夫と努力があった。
喉のケアにも配慮
城田と言えば抜群の歌唱力も魅力だ。伸びやかで太い歌声と圧倒的な声量をもってミュージカルのステージを華やかにさせる。ただ、声量のバランスも今回のアフレコでは気を付けた部分でもあった。
「出そうと思えばいくらでも出せます。だからこそ、そのバランスは難しくて、小さい声で喋る事もできれば、わざと大きな声を出すこともできる。それによって捉え方も変わってきますので、求められたものに対して応えていくというスタイルでやってきました」
声帯は「強い」という城田だが、声を張りあげるシーンや、口の動きが1秒でもずれたら録り直しということもあり、10回以上テイクを重ねたシーンもあった。そうしたこともあってか、喉のケアには気を使った。
「1回収録した後に出来る3分ほどの空き時間にずっと飴を舐めていていましたし、加湿器もありました。乾燥はずっと気を付けていました。叫ぶシーンもたくさんあって、体が小さくなったところで大きな声で叫ぶシーンや妖精と戦うシーンは、結構喉にきて…。でも、舞台やミュージカルもたくさん経験しているので、そんなに困らなかったですけど、淳ちゃんは結構大変そうでした(笑)」
そうした過程を経て完成した作品。改めてどう思うのか。
「愛、夢、希望というメッセージがたくさん込められています。兄弟や姉妹がいる方はもちろんですが、間違いなくこの作品で家族や兄弟の良さを感じると思います。イアンとバーリーの役はどんな関係にも置き換えて見られると思います。明日からの勇気や生きる希望がもらえると思います」
取材を終えた城田は記者に挨拶を済ませると、再び歌いはじめ、そのまま退出した。部屋に残ったのは爽やかな空気だった。
(おわり)