WONK「周りへの想像力を持つこと」情報社会に投げかける問いと新たな価値観
INTERVIEW

WONK「周りへの想像力を持つこと」情報社会に投げかける問いと新たな価値観


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年06月13日

読了時間:約13分

 4人組バンドのWONKが17日、4thフルアルバム『EYES』をリリース。本作は昨年7月リリースのEP『Moon Dance』全曲と同年11月のシングル「Signal」、新たなWONKサウンドの幕開けを感じる4月にリリースした最新シングル「HEROISM」に加えて新曲10曲を含む全22曲の大作。高度な情報社会における多様な価値観と宇宙をテーマに、今WONKが最も見せたい世界観が詰まった壮大なスケールのコンセプトアルバムとなった。本作について中心に、自粛期間中の変化や今後の展望など4人に話を聞いた。【取材=平吉賢治/撮影=村上順一】

バンドの思想を一つにした『EYES』

長塚健斗

――自粛期間という特別な時期、どのようにお過ごしでしたか。

荒田洸 制作でメロディを考える時はいつも外に出てアイディアが出て、戻ってスケッチをとるというのが多かったんです。でも、それができなくてちょっと苦労してギリギリできたというか。あとは広めの場所で制作に臨めるような環境作りをしていました。

長塚健斗 僕は料理を作っていました。

――SNSでお料理をしている姿を配信されていましたね。どんな料理でしょうか。

長塚健斗 この間はボロネーゼを作りました。制作の途中からこの時期に入ったので、狭いブースにこもったり一人でという環境でしたが、歌詞を書く作業は凄く集中できました。

井上幹 僕はギリギリまで『EYES』の制作の最後の部分をやっていて、制作の毎日という感じでした。制作に入ると僕は基本的に引きこもりになるので、個人的には特殊な時期という実感はなかったんですけど、一人の時間が増えたので今までやりたかったことをインプットしていました。

――勉強期間でもあったのですね。

井上幹 そうです。『EYES』の制作で3DのCGのアートワークを作って頂いたんですけど、それに触発されて3DのCGの勉強をしてみようと思いまして。

江崎文武 僕も基本的にずっと制作でした。WONKの作品も個人の活動でやっているのも色々と。やっぱり作り手たちはこのタイミングで新しいアルバムやEPを作ろうとか様々なので、ひたすら作る日々でした。新しい要素としてはゲームを始めました。

――どんなゲームをやるのでしょうか。

江崎文武 PlayStationとNintendo Switchが家に来たというだけなんですけど(笑)。自粛期間中に初めてPlayStationをプレイしたら「グラフィックの細部のディティールがここまでも!」という新しい体験でした。楽しむというより、今のゲームの表現の幅広さに感動する数カ月でした。

――みなさん自宅での時間を有効に使われたのですね。さて、今作についてですがコンセプトは?

荒田洸 「SFっぽい世界観を描きたい」というのが基になるコンセプトなのですが、そこにもっと思想的なものを盛り込もうと、メンバーで話し合いながら固めていきました。情報社会の中で、「自分の好きな情報しか取り入れないという、フィルターバブルやエコーチェンバーなどといった言葉で表現されるような世界はどうなんだろう?」というのをメンバーと話し合いました。

 もっと周りへの想像力を持つことや、自分の外のことに対して常に考え続けて理解しようとするという気持ちが大切なんじゃないかなというところを、SF的なストーリーの中で伝えていければなと思って、今作はコンセプトアルバムにしました。

――壮大なテーマですね。

荒田洸 一つのことを伝えるという思想的なことを音楽、作品を通して伝えるということは、たぶん一人のシンガーソングライターとかだったらやるようなことだと思うんです。でも、バンドだと各々の意見があるから、それを一つにまとめる作業がけっこう大変で。僕の勉強不足かもしれませんが、自分の周りには「バンドの一つの思想を」という作品がなかなか見られなかったので。それをバンドとしてやってみたいと。

――フィルターバブルやエコーチェンバーについてですが、自分にとって都合のよい、好きな情報しか取り入れないという場合だと閉鎖的な思考になってバランスが偏る、という考え方でしょうか。

長塚健斗 そうですね。たぶん一番わかりやすいのがSNSなどの色んなネットサービスが普及したことによって出てくる「あなたへのおすすめ」みたいのがあるじゃないですか?

――YouTubeやサブスクなどで見かけます。

長塚健斗 観ていた画像や音楽に近しいものが出てきたりすると、自分の好みばかりが集まってくるので、快適と感じるじゃないですか? そこに不便を感じることはないし。そうすると、そこからの脱却がちょっと難しくなってくるというか。それ以外の情報、真逆のものが入りづらくなってしまうと思うんです。

 そうなると、ちょっと大げさですけど今いるところが世界の全てみたいな感覚になってしまいがちなんです。自分の“好き”を発信して、それに賛同する人がたくさん出てきて、声を上げやすいから意見が集まってきやすいけど、逆に「それって微妙じゃない?」という声はなかなか上がってこなくて、「そういう人がいる」ということすらわからなくなってしまうというか。色んなものの見方が凝り固まる解釈をしていて、だから今作はそれをテーマにしてみんなで色々意見を言って作りました。

――自分が好きなもの、興味のある分野以外の情報にも向き合うことが大切なのでしょうか。

井上幹

井上幹 正にそういうのが大切だなと思います。色んな意味で、異質のものと触れ合うことの重要さは色んな観点から言えると思うんです。音楽だと、自分が好きなジャンルばかりおすすめされるとそればかり聴くじゃないですか? でも、実は自分の全然知らないところにも好きなものがあることには気づけないかもしれないんです。世の中には無数の音楽があるので、AIにカテゴライズされたジャンルだけを一生聴き続けるというのは本人にとって、もしかしたら可能性を捨てていて幸せではないことだというのが一つあるので。異質なものを取り入れた方が、偶然自分の好きなものが見つかることもありえるだろうし。

 一方でSNS、対面、ふと目に飛び込んできたニュースなどに対して、自分がいる世界とは真逆の考え方と対峙することはたまにあることで、その時の対処法をみんな忘れているというか、自分の周りが自分の好きな世界で固められていると、そうじゃない人が現れた時に過剰な防衛をとりがちなのではないかなと。

――ときには敵対するような?

井上幹 「それは全然違う」みたいな、自分の人生がそれを違うということを証明している気持ちになってくると思うんです。でも、人それぞれに自分の考え方や価値観があって、それは反対の意見だからといって、本来は敵対することではないじゃないですか? 意見を言い合って「そこはそうだけど、ここはこう」と、白黒ではなくグレーで混ざり合って、お互い「その考えはそういう人生に基づけば確かにそうかもしれない」というところに落ち着くと思うんですけど、みんなそういうことを忘れちゃうのかなって。

――意見が対立しても、意見が相手と違うだけで、意見をした自分の人格まで否定される感じ方をすることもあると思われるのですが、そうではない?

井上幹 はい。色んなことと普段から接していれば「そうじゃない」ということは簡単に気づくことだと思うんです。自分の好きなものばかりに固められた世界だと、なかなか気づけないことが多いのかもしれないです。

――自分にはない別の考え方を受け入れる際、どんなことが大切でしょうか。

江崎文武 僕は最近の世の中の潮流を見ていて、「AかBか」「善か悪か」のように、かなり偏ったというか、「その間」が許容されない世の中になってきている気がします。そもそも人は学習という行為を通して、様々な物の見方を学んでいるはずです。なにが正解かは常に分からず、曖昧で、議論し続けることが大事であると気づくことが大切だと思っていて。

 リーダー的な人物に対して「この人は絶対に早くこきおろすべきだ」という人もいれば、「いや、頑張ってくれ」という人達もいて。今のインターネットの構造上、どんどん両極端に突っ走っていく傾向になると思っているんですけど、そこで穏健派、中間層、そうした立場でいること、あるいはそうした立場を容認することは意外にも大切なのだろうなと思っています。

 物事はそうたやすく片方の方向に決められるわけじゃないということを、もうちょっとみんなが熟考するのがたぶん我々に必要なことで、それが本来、教育が成し得たかったことだと思うんです。小学校、中学校と上がっていって、最終的に大学でやっていることって、「ある事象があってこれは正しいだろうか」、「いや、こういう見方もある」という、多種多様なものが論文として蓄積されていって、「彼はこう言うけど実はこういうデータもある」というのをずっと繰り返していくというか。そうした議論を続けることこそが、人間の価値ある営みだと思っています。早急に答えを出すことは必ずしも重要ではない。

――「AかBか」と、どちらかに寄るのではなく、両方のスタンスを尊重した上で片方を非難しない中間的位置、というのはある種難しい位置でもあると思うんです。穏健派、中間層特有の「あなたはどっちなの?」と言われてしまいがちな“居づらさ”のようなものがあるというか。

江崎文武 そうなんですよね。意見を表明しないことは、その事象に関わっていないことと同義という、わりと暴論に近い雰囲気もあったりするので。意思表明は大事ですけど、「誰しもがインターネット上でなにかしらを煽る必要はないと思っている人もいる」ということに気づくことも大切だなと思っています。

――それも含め、みなさんが仰ることが表されているのが『EYES』と。壮大なテーマですね。

江崎文武 たぶん僕らの世代みんなが感じている課題だと思うんです。

一人の主人公の心理描写をそれぞれの楽曲で

荒田洸

――今作の構成面について、「Skit1」から「Skit4」と、セクションが分かれていますがこの意図は?

荒田洸 Skitは場面をわかりやすく切るというのと、ストーリーの補填です。曲の中だけでは語れていない全体のストーリーをSkitでもう少し説明して聴き手がついてきやすいようにしています。

――ということは、各Skitについて説明を頂くより聴いて感じた方がよい?

長塚健斗 Skitの内容に関しては場面の説明がメインなので、わりとそのままというか。仰る通り聴いて感じて頂いた方がよいかと思います。

――なるほど。それではタイトルトラックの新曲「EYES」について、サウンド面でキックが非常に印象的な拍と感じました。4つ打ちでもないし3連系でもないし…どういった着想でしょう。

荒田洸 変わっていますよね。文武に何かを言われたんですよ。何だっけ?

江崎文武 未来的で、電子的なアプローチかつ、3Dパンニングというかサラウンドパンニング的な音響というか。ハイハットの音もグルグル回るようにとか、そういう超テクノロジーな感じの工夫をと、荒田に発注しました。

荒田洸 そうしたらああなりました(笑)。4つ打ちが最近多いですよね? だからまだ聴いたことのないようなものをと。サウンドはテクノとかの音作りをしたんですけど、4つ打ちにしないでちょっとアフリカンな、ポリリズム的なところに持ってきてという構成をとりました。

――ライブを拝見した時も、荒田さんはドラム演奏で拍の取り方、グルーヴにとても力を入れていると感じたので、かなりこだわりがあると思いました。それでこういった宇宙的なキックの楽曲が出来たのかなと…。

荒田洸 “宇宙キック”ですね(笑)。

井上幹 その視点でも「EYES」のキックは凄い印象的ですよね(笑)。

長塚健斗 “宇宙キック”、凄く歌いにくかったけどね(笑)。

井上幹 歌は拍をとりづらいよね。

――キックという基礎的なパートからして斬新なトラックですよね。次の曲「Rollin’」も新曲ですね。シンセサイザーの音色が非常に印象的でした。着想は?

井上幹 あれは僕がシンセのベースを付けて、あの音色ありきの曲にしようとして作ったんです。そこが着想です。

――着想の部分が最も際立っている楽曲となったのですね。あの独特なシンセサウンドにボーカルが馴染むという点にも注目しました。

長塚健斗 頑張りました。最初歌は凄く苦労して。

荒田洸 全部苦労してんじゃん(笑)。

江崎文武 「Rollin’」は特に長塚さんのコーラスの重ね方のテクニックが冴え渡っていますね。

――綺麗ですよね。あらゆる成分が含まれた綺麗さというか。

長塚健斗 良かったです!

――17曲目に収録された4月のシングル「HEROISM」の次の曲「Fantasist」について、攻めた感じのアプローチが印象的です。どのように制作したのでしょうか。

井上幹 まず、笙(しょう)という和楽器があって、それがイントロのボーカルのところだけの部分で鳴っていてます。笙という和楽器は音楽的にみると西洋の音楽理論で言うとちょっと変な和音の積み方、倍音になっているんです。一聴して変なんですけど、それをうまく西洋音楽とブレンドさせたいなと思って作った曲です。笙の音に荒田にメロディを作ってもらいました。荒田のメロディはうまくキャッチーにまとめるのが得意なので、一聴して変に聴こえる笙の音でもメロディがしっかりまとめてよいバランスになっているんです。

――歌詞については、『EYES』のコンセプトに添って書いたのでしょうか。それとも各曲で世界観を表した?

長塚健斗 前作EP『Moon Dance』に含まれている楽曲なども含めて、一つの大きなストーリーがあって、どの曲をどこに当てはめようかというところから考え、「この曲ではこうしよう」というのを先に決めて歌詞を書きました。そこから楽曲のデータが上がってきて、歌詞を乗せたという感じです。

――作詞において苦労なさった部分もあったのでしょうか。

長塚健斗 制作した後半の歌詞に行くにつれて、だんだん難しくなっていったというか…というのも、一人の主人公の心理描写をそれぞれの楽曲でしっかり分けたいというのが一番あったんです。その想いみたいなのは一本の線があるんです。「Introduction #5 EYES」から家族の話とか色々あってそこから宇宙に行ってと。

 月に対する憧れ、地球の人々に思い描いている気持ち、抱えている願い、それらの表現の仕方が似通ったものにならないようにしようというところや、「この曲を象徴するような言葉を選ばないと」というのはけっこうありました。そこの作業は今回の制作で一番楽しかった部分でもあります。ともすれば、気持ちをストレートに書くだけになってしまいがちなんですけど、それをいかにして特徴的にするかという部分は意識しました。

――テーマの壮大さから作詞はかなり難しいと想像しましたが、楽しい作業でもあったのですね。

長塚健斗 そうですね。

井上幹 側から見ると凄い大変そうでした(笑)。

長塚健斗 いや、一番大変だったんですよ(笑)。

井上幹 制作中に何度も音信不通になりました。

――それは何故?

荒田洸 何故なんですかね本当に(笑)。

――一人になって集中したかった?

長塚健斗 そうなんです(笑)。

『EYES』の世界の中から配信するバーチャルライブも視野に

江崎文武

――今作にはアートブックも付いてビジュアル面でも表現がされていますね。(※編注=アートブックの発売は7月22日に変更)

荒田洸 まず、アルバムを作る時に根幹となるストーリーをつけて、場面を区切って、そこに対して曲を当てはめていく作業をしました。アートブックは、それらの場面をビジュアルでわかりやすくまとめようというものです。SFというテーマ、コンセプトでやっているので、さすがに音だけだとビジュアルがなかなか見えづらい人もいるかもしれないし、歌詞は英語なので。だからそこをもう少し、僕らが当初思い浮かべていた世界を曲毎に絵として落とし込んで、アートブックを作った方が聴く方も楽しいしわかりやすくなるかなと思いまして。

――今作をリリースして、これからの展望についてお聞かせください。

荒田洸 この先はシングルの単発リリースという、今まであまりやってきてなかったことにもっと力を注ぎたいです。そのシングルも、今まで絡んできた方々、僕らと一緒に作ってみたいなと思っている海外のアーティストの人達と一緒に物作りをしてと、今後はそういう活動にちょっとずつ行けたらなと思います。

――時期的に難しいのですが、ライブについてのビジョンはありますか。

荒田洸 ツアーもやりたいんですけど、それは時期をみてやりたいなと思っています。それとは別に、最近色んなアーティストがやっていますけど、配信ライブという形を僕らもとりたいと思っています。普通に家からじゃなくて、せっかくこのアルバムを作ったので『EYES』の世界の中から配信するというバーチャル的な、3D、CG的なことをライブでやってみたいと思っていて、それを絶賛開発中です。

(おわり)

※江崎文武の「崎」は立に可の異体字が正式表記

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