ACIDMAN大木伸夫「この瞬間に存在し続ける」闇から光探す「灰色の街」
INTERVIEW

ACIDMAN


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年06月03日

読了時間:約11分

 “静”と”動”を行き来する幅広いサウンドで3ピースの可能性を広げ続けるロックバンドのACIDMANが6月3日、約3年ぶりとなる29枚目のシングル「灰色の街」をリリース。同曲は昨年行われたツアー『創、再現』の初日に初披露され、「#灰色の街」がTwitterでトレンド入りするなど、発売前からファンの間で話題となった1曲。シングルのカップリングにはライブ音源として『創、再現』のセットリスト丸ごと収録し2枚組全21曲というボリューミーな1枚となった。インタビューでは、「灰色の街」の制作背景から、このコロナ禍の現状についてや、“生きる”ということなど多岐にわたり、ACIDMANのフロントマンである大木伸夫に話を聞いた。【取材=村上順一】

運命的なものを感じた「灰色の街」

「灰色の街」ジャケ写

――コロナの影響で、活動の制限がされていると思いますが、現在どのようなことをされていますか。

 決まっていたライブが全て無くなってしまったので、現在はスタジオでアルバム制作の作業をしています。自宅から車でドアtoドアで誰にも会わずに一人でやっているんですけど、やっていることはコロナが流行る前とあまり変わっていなくて、週末にライブが無くなってしまったので、ただただ曲を作り続ける毎日です。

――その中で希望も見えていますか。

 そうですね。今は耐えることも大事ですし、その分次のライブも楽しみにしています。今できることは色々やっていきたいと思っています。

――曲作りは自宅よりもスタジオでやった方がいいですか。

 作詞は家でもどこでもできるんですけど、楽器を使った作曲は12〜3年このスタジオでやっているので、自宅だとなかなか上手くできないんです。おそらく気持ちのオンオフもあると思うんですけど、やっぱりスタジオが一番はかどります。

――場所は重要ですよね。ちなみに新しいことを始めたりされましたか。

 それが、意外とやることが多くて、新しいことは何も始めてないんです(笑)。会議したり、こういった取材を受けさせていただいたり、ありがたいことに忙しくさせていただいてます。

――この現在の状況で音楽、エンタメなど様々なジャンルの在り方が変わっていくと思うのですが、大木さんはどのように今考えていますか。

 世間も僕自身も日に日に状況が変わっています。コロナの状況も毎日変わっているので、僕の考え方もどんどん変わっていって。ちょっと前までは1〜2年先までライブができないんじゃないかと思っていました。

 だけど、コロナはこの先、そんなに怖いものではなくなっていくんじゃないかなと思う部分もあります。僕の考えもどんどん変わっていくので、その時に起きたことに柔軟性を持った行動をしていきたいと考えています。

――刻々と変化していきますから。さて、7月に予定されていたツアーは中止となってしまいましたが、代わりに7月11日に配信ライブを行うことになりました。どのような気持ちでライブに臨もうと思われていますか。

 ツアーを中止にしたくないと思っていたので、延期も考えたんです。でも、延期にしてしまうと「灰色の街」のリリース記念ツアーだったのに、リリースされてからいつできるのかもわからないので、延期にもしづらい。なので、配信を選んだんです。でも、通常のライブができなかったから、代わりの配信ライブというものにはしたくなくて、配信でしかできないようなトライアルは考えています。ひとつの映像作品を作るような気持ちで臨んでいます。

 先日も配信させていただくライブハウスに内見にいきまして、そこでイメージもすごく湧いて。僕の中ではライブをやるというより、演劇と言いますか舞台を作るような感じの、普段のライブとは違うワクワク感があります。

――当日がすごく楽しみですね。さて、今回リリースされる「灰色の街」は昨年のツアー『創、再現』で披露され、リリースが待たれていた楽曲です。

 リリース日を決めていなかったのはライブで育てていきたいと考えていたのと、ライブで披露してみんなの反応が良くなかったらリリースしないつもりで歌っていました。僕はもちろん自信はあったんですけど、お客さんの反応が良ければ、というのが前提にあって。幸いなことにみんなが良い反応を示してくれたし、SNSのトレンドにもなったことが僕の背中を押してくれました。その流れのまま発売日を決めたら6月3日になりました。

――この曲を書かれていた当時は、今の現状はわからなかったと思うんですけど、幸か不幸かより意味のある1曲になったのではないかと感じました。

 それは僕も感じていて、この「灰色の街」はこの瞬間に発表されるべきだったんだなと思います。運命的なものを感じています。

歌詞表現の変化

大木伸夫

――アレンジなのですが、ツアーで演奏されていた時はバンドサウンドのみでしたが、音源はストリングスも入って、より明るいイメージの曲になりました。これは作っている時から考えられていたんですか。

 ツアーでやっていた時は悩んでいる最中で、ストリングスがなくても曲として成立してるしなあ、とか考えたり。「華やかにしたい」というイメージだけを四家さんに伝えさせていただいて、「灰色の街」というタイトルですが、彩のある音にしていただきました。

――この曲はどのような心境の時に生まれたのでしょうか。

 もう3年前ぐらいになるんですけど、スタジオでギターを爪弾きながらメロディと言葉を作っていきました。「灰色の街」という言葉が無意識にメロディと一緒に出てきて、この言葉がテーマになるんだろうなと感じていました。そこからスタートして広げていきました。

――自然と出てきた言葉だったんですね。そこから大木さんの中で「灰色の街」はどんなイメージが広がっていったのでしょうか。

 無意識に出てきた言葉でしたが、そこから紐解いていくと東京のビルディングの街並みです。それをネガティブに捉えることはこれまで僕もやってきましたし、いろんな方が歌ってきているんですけど、今回はそれをネガティブにしなかった。資本主義の発展というのは人間が目指してきた一つの美しい形であり、弊害も生まれているんですけど、そこで僕らは生きていくんだよ、というのを歌にしたかったんです。いずれは若い子たちがこれを不健全じゃないかと気づいて、自然と共に生きていく世界を感じていくんだろうな、というのを落とし込みたかったんです。

――今のお話を聞いて、手塚治虫さんの作品にも通じるようなメッセージを感じました。「火の鳥」とか。

 僕は小さい頃から手塚治虫さんの作品が大好きで、その世界観は僕の根元にあります。僕のアイデンティティと言ってもいいくらいで。「火の鳥」は大好きで、どのお話もすきなんですけど、「未来編」や「宇宙編」は特に好きですね。

――歌詞はライブで披露されていた時と少し変わりましたが、<そしてまだ今でも星を探して>の<今でも>は<僕ら>でしたが、<今でも>に変えたのは何故ですか。

 これはシンプルに<僕ら>という言葉を使いすぎていたので、それに代わる切ないワードが欲しいなと思って。都会の鮮やかな光によって星空は見えなくなってしまう、歌詞に登場する<何もない夜空に>というのは星が見えない夜空のことなんです。星が見えない夜空だけど、僕らは昔からずっと探していていて、そのなかでひとつでも星が見えたら、嬉しい気持ちになりますし、闇から光を探しているというのをワードにしました。

――大木さんはこのキャリアの中で、どのようにご自身の歌詞は変化されてきていると感じていますか。

 大枠では変わっていないと思います。僕の考え方は小学校の時からほとんど変わっていなくて。ただ、表現の仕方が変わってきていますし、変えていこうと思っています。抽象的な表現が好きだった20代、すごく大きなものを表現したかった30代、40代は個に届けるための歌詞に変化してきていると思っていて。思想は変わってないんですけど。

――確かに過去の作品よりも近年は抽象的な表現は少なくなってきていると感じました。

 今でも、シュルレアリスムやダダイズムのような抽象的な表現は好きなんですけど、伝えたいのは根本的なものですし、決してシュールなものを伝えたいわけではないんです。なので今はあえてシンプルな形を選んでいます。また、昔のようなスタイルに戻る可能性もありますし、自分が良いなと思ったものを日々トライしていきたいです。

――その中で「灰色の街」を歌唱するにあたって心がけたことはどんなことでしょうか。

 日々のことを歌っているので、ドラマチックになりすぎないようにすることでした。感情は入れなければいけないんですけど、いつものように宇宙に向かって解き放つような感じだと、この曲では過剰すぎるんです。なので、冷静に地に足をつけて歌おうと意識しました。なかなかそれが難しくて、世界観が見つかるまでトライしました。

――CDのアートワークはキングコングの西野亮廣さんの絵本「えんとつ町のプペル」の未発表カットを使用されていますが、どのような経緯からですか。

 今回のジャケットを悩んでいる時に、マネジャーから「大木さんは西野さんのファンだからお願いしてみるのはどうですか」と提案があって、それで「灰色の街」を西野さんに聴いていただいたら運命的なものを感じてもらえたみたいで、未使用のカットを提供していただきました。

――大木さんは西野さんの作品のどんなところを気に入っていますか。

 初期の作品に『Dr.インクの星空キネマ』と『オルゴールワールド』いう絵本があるんですけど、その時から西野さんの世界観がすごく好きなんです。話もオムニバスになっていて最後に一つにつながるんですけど、その展開も僕の好みで、そこからずっと好きなんです。

――さて、今作には『創、再現』のライブ音源もフル収録されているわけですが、DVDもリリースされる中で、なぜライブ音源を収録されたのでしょうか。

 最初、DVDの音のチェックで映像無しで確認していたんです。その音源のクオリティがすごく良くて、映像無しでも成立するなと思ったんです。それでどこかで出せないかなと思っていたんですけど、今回おまけという形で2枚組にさせていただきました。あと、音源だったら街中でも楽しんでもらえると思ったんです。

――ライブ音源は大木さんはよく聴かれるんですか。

 ジャズピアニストのキース・ジャレットの音源はよく聴いていますけど、そこまで多くはないです。そもそもライブ音源をリリースするというのも、実はそんなに賛成派ではなかったんですけど、最近はライブ音源も良いなと思います。

生きるということとは

――ACIDMANはプロデューサー不在でセルフプロデュースです。ご自身のことを客観視しなければいけないと思うのですが、客観視するコツみたいなものはありますか。

 どうですかね…。僕自身も客観視するのはあまり得意じゃないと思っていて。でも、プロデューサーをいれたことにより客観視してもらえているのか、といえば必ずしもそうでもない気がしています。ACIDMANでやる以上、全て自分でやっていきたいというのがあるので、いまのところ必要性は感じていないんです。

 でも、もし僕がソロでやることがあったとしたら、それはプロデューサーを入れてやってもらいたいと思っています。もう僕は曲だけ作って、あとはプロデューサー色に染めてほしいという願望はあります。

――ソロ活動もすでに考えられているんですか。

 いえ、スケジュールとしては全然考えてはいないんですけど、ACIDMANでやるにはシュールすぎるな、と思っている曲はたくさんあるんです。それがたくさん集まったら、いずれ趣味でやるかもしれないですね。昭和歌謡みたいな曲もあってそういうのをごちゃ混ぜにして出すのも面白いかなと。

――昭和歌謡は大木さんのバックボーンにあるんですか。

 昭和歌謡、大好きなんですよ。

――メタルもお好きでしたよね?

 メタルも大好きです。ちなみにメタル好きは昭和歌謡は大好きだと思いますよ(笑)。どちらもワビサビがあって切ないメロディというのは共通していて。

――昭和歌謡とは少し違うかもしれませんが、昨年11月リリースされた井上陽水さんのトリビュートアルバムの参加も自然なことだったんですね。

 陽水さんの「傘がない」は大好きな曲だったのですごく嬉しかった。本当にありがたかったです。

――曲はご自身で決められたんですか。

 声が掛かった時に「この中から選んでもらえたら嬉しいです」と4曲ほど候補をいただいて、その中に「傘がない」があったので、「是非やらせてください」とお返事させていただきました。それで、曲も大好きな曲だったので既にメロディも頭に入っているし、もう興奮していたので、アレンジは10分ぐらいで一気に出来てしまったんです。

――早いですね! 陽水さんの曲、歌詞の世界観はすごく個性が強烈だと思うのですが、大木さんはどのように捉えていました? 

 僕の中ではおそらく陽水さんは答えが出てない主人公を描いていて、歌詞に出てくる“君”にも会えていないような気がしています。この世界の現状を嘆いているんだけど、傘がないことを心配している、大きな矛盾とともにある世界観だと思っています。なので、冒頭に出てくるセンシティブなワードに寄り添って、悲しい歌にしたいと思いました。でも、最後に主人公は君に会えた、というポジティブなストーリーに決めました。

――そのスタンスは「灰色の街」にも通じるところがありますね。

 人は今の時間しか感じられないんです。人は必ず老いていき、いろんなものを失っていく人生で、そもそもがネガティブでせっかく発信するのであれば、それが綺麗事だとしてポジティブなものじゃないと嫌だなと思っていて。

――ちなみに大木さんは生きることとは何なのか、答えみたいなものはありますか。

 生きるということは目標のために生きるとか、何かを手に入れるためではないんです。この瞬間に存在し続けるというのが、僕らが生まれた答えだと思っています。何かを残そうとしても難しくて、今を生きることしかできない切ない生き物だと思います。生まれては消えていく、諦めにも近いんですけど、そう思って僕は生きています。

 昔からそういう考え方なので、クール(冷たい)だと思われている節もありました。小学生の時から、先生に怒られている友達に対しても、「先生にも人生があって、俺も先生もいずれ死んでしまうんだから、ここは従っておこう」とか言って友達を諭したりしてましたから(笑)。

――すごい小学生ですね(笑)。さて、最後にACIDMANとしてこれからの展望は?

 今、ファンコミュニティアプリでラジオ配信を毎週やっているんですけど、週に一回そのラジオがあるだけで、逆に僕がみんなに支えられている感じがしています。自分が何かをやっていくということよりも、みんなと手を取り合ってやっていくことが一番楽しく感じています。僕は孤独を感じやすいタイプですし、もともと人間は孤独だということを知ってしまっているので、だからこそ繋がっているということに憧れがあるんだと思います。それが僕にとってすごく崇高なものに見えてきて。なので、みんなと繋がっているのを感じながら、何かを作っていきたいです。

(おわり)

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