ギラ・ジルカ、50歳でメジャーデビュー ジャズシンガーのルーツに迫る
INTERVIEW

ギラ・ジルカ、50歳でメジャーデビュー ジャズシンガーのルーツに迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年12月11日

読了時間:約16分

運命的なばんばひろふみとの出会い

ギラ・ジルカ

――バークリーを卒業してからはどんな活動を?

 大学を卒業して、21歳の時に神戸に戻ったんですけど、途方にくれてました。みんなはニューヨークに行くのに、私は日本でやりたいと思っていたので帰ることに決めました。でも、それはどこかビビッていたんでしょうね。その何ヶ月か後に、神戸の知り合いが、ソネという神戸のジャズクラブを紹介してくれて、その場で歌ったんです。それがオーディション的なもので、「君だったらブッキングしてもいいよ」という話になって、初めてのギャラを頂く仕事にたどり着くんです。

 でも、それだけじゃ仕事にならないし、また途方にくれて。それで当時、ビデオジョッキーが流行っていたので、神戸のサンテレビで先輩達が出ている番組のオーディションの話を頂いて、ビデオジョッキーに受かりまして。

――ビデオジョッキーですか。

 音楽に関わることは何でもやらなきゃ始まらないと思いました。ビデオジョッキーで、タレントのように明るく楽しく原稿を失敗しながらもやっていました。1992年くらいの時、もうちょっと音楽を頑張りたかったので、アルバムを作れないかと思って、デモテープも自分の資料も名刺も作ってパッケージして、誰かに渡したくてしょうがなかったんです。

――良い出会いがあったんですよね?

 そんな時に東京の博報堂のとある方がジャズ評論家で、その方にお会い出来るチャンスが来ました。それで早速アポを取って東京に着いたら、その方は昨日入院したと言われて結局会えなかったんです。父や色んな人にアドバイスをもらって、その父の計らいでグリーン車で東京に来て、神戸の日本酒も持ってきていたのに。もう飲むしかないじゃないですか(笑)。それで友人の家に1泊して東京駅から新幹線に乗ったんですけど、窓際に座っていたら、隣に来たのがばんばひろふみさんだったんです。

――運命を感じますね。

 それで私が持ってきていた紙袋から譜面がチラチラ見えていたみたいで、ばんばさんは私の顔を見て外国人だと思ったようで「Excuse me, are you musician?」と声をかけてくれました。私は「あっ! バンバン!」と言ってしまって(笑)。ばんばさんは「何で俺のこと知ってるの?」とびっくりして。

――外国人の方が何で自分を知っているのかと(笑)。

 『MBSヤングタウン』をずっと聴いてましたと話したら、ばんばさんも凄く喜んで。それで「ジャズを歌っています」と話したら「俺、ジャズ大好きだよ!」と仰ってくれて、私のデモテープや資料がばんばさんの手に渡って。新幹線では2時間半くらいずっと音楽の話で盛り上がって、紹介したい人がいると、TV局に行って紹介して頂いたのがマネージャーさんでした。

――トントン拍子で進んだのですね。

 そのマネージャーさんから「ちょっと痩せようか」と言われて、その時は何でもやらなきゃと思っていたので、その年に10kg減量しました。タレント業から始まると同時にFMラジオの仕事も頂いてディスクジョッキーの仕事を始めました。その時はタレント業のほうが多かったので、まだミュージシャンとは言えなかったんです。唯一そういう番組に出させて頂いたのは、ルイ・アームストロングを特集したジャズの番組で加山雄三さんとその時共演させていただきました。私は高校の時にサックスでルイ・アームストロング賞というのをもらったんですけど、それをプロフィールに書いていたので、そこで繋がったお仕事でした。

――お父様がグリーン車を進めてくれなかったらその出会いはなかったですね。

 本当にそうなんです。グリーン車のチケットを父が用意してくれたのは「気を引き締めて行け」という意味だったんでしょうね。たった一つしか空いてなかったグリーン車でばんばさんと出会ったわけですから、この出会いは大きかったです。のちに事務所に入って「ジャズのアルバムを出そう」と言ってくれたのも、ばんばさんたった一人ですから。

――ジャズと言えばCM曲で「Fly Me to the Moon」を歌った反響が凄かったとお聞きしました。そのCMはどのように決まったのでしょうか。

 それが初めてのCMではなかったんですけど、外国人のタレントを集める事務所が都内にいくつかあって、そこに自分の声を預けていて、クライアントさんから指名があったんです。「Fly Me to the Moon」を歌った全日空のCMは、「どこで売っているんですか?」「誰が歌っているんですか?」という問い合わせが沢山ありました。最初はギラ・ジルカだと明かせなかったんです。それはみんなにニューヨークに行ってほしいCMなのに、私は日本、東京にいるじゃないですか(笑)。

――外国の方だと思わせたいと(笑)。

 そうなんです(笑)。でも、問い合わせが多すぎて広報の人も大変になっちゃったみたいで最終的には明かしてくれるんですけど、そこまでに1年くらい掛かっています。そのおかげもあってか、ライブにお客さんが突然増えたんです。

――TVでの反響は凄いですね。

 あのCMのアレンジは、昔ペギー・リーが歌ったバージョンのリメイクで、オリジナルではないんです。素晴らしいジャズのビッグバンドで歌わせて頂きました。ピアノは佐山雅弘さんで。佐山さんは昨年亡くなっちゃったけど、一緒に共演した最後だったかもしれません…。

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