城 南海(きずきみなみ)が8日、東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで『ウタアシビ 10周年記念ツアー』の東京公演をおこなった。城の集大成とも言える10周年記念ツアーは東京、名古屋、大阪、札幌、仙台、福岡の全国6カ所で開催され、本公演はツアー初日。この日はスペシャルゲストに川村結花、古謝美佐子、山下洋輔を迎え、2部構成で展開され、城のオリジナル曲に様々なカバーを含む全20曲を披露。10年の集大成と共に、“ニュー南海”というこれからの新たな城の表情も魅せた。【取材=平吉賢治】(※ネタバレあり)

「10年間ぶんの感謝の気持ちを、そして新しい“ニュー南海”を」

城 南海(撮影=古溪一道)

 城の圧倒的歌唱力を体験するには絶好のセットリストと演出を感じられた本公演。オリジナル曲にカバー曲と、様々な表情と共に城の新たな一面も魅せてくれた。1曲目「アイツムギ」から弦楽四重奏にグランドピアノ、ドラム、ベース、ギター、そして城と、スペシャルなアンサンブルがBunkamuraオーチャードホールの抜群の音響で美麗かつ荘厳に鳴り渡る。

 黒のドレスに身を包んだ城は、どこまでも伸びやかな、抑揚豊かな、数値化は不可能であろう心地よい波動を歌に乗せ、チャーミングな笑顔で軽いステップ混じりにパフォーマンス。息がピッタリ合ったバンドメンバーとの呼吸、間も、非の打ちようのない仕上がりに、ライブ開始3曲で会場は歓喜の渦に包まれるようだった。

 MCで城は「Bunkamuraオーチャードホールでは、このツアーのなかでもスペシャルな編成で城 南海の10年間ぶんの感謝の気持ちを、そして新しい“ニュー南海”をお届けしてまいりたいと思います」と、にこやかにオーディエンスへ伝えた。

 奄美三味線を弾きながらの「月下美人」では、グィン(独特のコブシとファルセットを多用して歌う奄美に伝わる歌唱法)含みの城の歌声が会場いっぱいに広がった。続くABBAのカバー「Dancing Queen」ではアコースティックギターの伴奏で1番を、2番からはバンドインという、城の歌唱と原曲の良質さを存分に味わえる見事なバージョンを披露。そして「友達の詩」では、迫力満点のボーカルダイナミズム、圧倒的な声量を胸いっぱいに感じさせてくれた。

 城は、「上京して初めてコンサートを観に来たのがこのオーチャードホール」と、この日の会場に対する思い入れを言葉にし、「私もいつかこのホールで歌いたいなと思っていたんですけど、10周年という記念の日にここで歌えて本当に嬉しいです」と、改めてオーディエンスへ感謝の意を伝えると、10周年を祝う温かい拍手に包まれた。そしてここで「大好きな大好きな大先輩」と、1人目のゲスト古謝美佐子を招き入れる。MCで城は「歌手になるためのオーディションで『童神』を歌わせてもらったんです」と、次曲で披露する古謝美佐子の「童神」のエピソードを明かした。

古謝美佐子と城 南海(撮影=古溪一道)

 城は三味線を、古謝は三線を演奏しながら「童神~私の宝物~」を披露すると、独特な弦の音の重なりが2人の歌唱の存在感をより一層際立たせた。東京にいながら南国の陽に抱擁されるような、そんな曲中の2人の歌のハーモニーは魂が震えるような感覚すら抱かせてくれた――。

オフマイクのアカペラで生声を

 第2部、城はエレガントな赤の華やかなドレスで登場し、長渕剛の「乾杯」のカバーから入った。“聴き入る”という表現がしっくりくる深い歌唱、そして最後の<君に幸せあれ>という一節のアカペラは、城が会場に向けて放った言霊がオーディエンスの心を包み込むようだった。その後も中島みゆきカバーの「糸」をじっくりと、シルキーかつ力強いボーカルで披露し、倍音豊かな美声のゆらぎがホールにあふれた。

 城は「ここからはちょっと新曲を歌いたいと思います」と伝え、4つ打ちロックナンバーの「ONE」を披露すると“ニュー南海”の新しい歌の表情に会場から大歓声が上がる。

 そしてゲスト2人目の川村結花が登場。しばし和やかにトークを楽しんだあと、川村はピアノの演奏で「行かないで」をジャジーに披露。スウィングビートのグルーヴと共に、大人っぽく、艶っぽく、色気たっぷりの城の表情も見せてくれた。演奏が終わると川村は「アイツムギ」について「一生懸命書かせて頂いた曲。こんなに作者冥利につきることはない」と、感慨深く城に伝えた。そして再びストリングスを含めた編成で「アカツキ」を披露すると、会場は一斉に手を左右に揺らし、会場のムードは最高潮に達した。

川村結花と城 南海(撮影=古溪一道)

 第2部最終曲ではチェロにビオラ、バイオリン、ガットギターが花開くように音色を重ねる。ラストセクションで城はオフマイクのアカペラで生声をホール中に響き渡らせ、情念深い城の歌唱がオーディエンスの心をいっぱいに満たすようにして、本編は終了した。

涙ながらに思い出す奄美、父への想い

 アンコールに応えた城は清楚な白のドレスで華麗に再登壇。ここで3人目のゲスト山下洋輔が登場。「やりますか?」と、紳士的に演奏開始を促す山下とのコラボは「西郷どん紀行 ~奄美大島・沖永良部島編~」。ピアノと城の歌唱というスタイルで演奏された、この日限りであろうと思われるライブテイクは生々しく、あまりにも深くジャジーで、2人の魂の共鳴とも感じられるエネルギーを発していた。

山下洋輔と城 南海(撮影=古溪一道)

 最後のMCで城は、16歳の頃、奄美で当時のマネージャーと父親とこんなやりとりがあったことをオーディエンスへ伝えた。

 城の父親は、城を東京に連れて行くことを奄美に伝えに来たマネージャーに「南海はこの景色のなかで育ちました。この奄美で育ちました。よろしくお願いします」と、それだけ言ったという。城は、「それをあとから聞いて、父らしいなと思いました。そういう素敵な家族に支えられて…」と、話をしながら涙した。

 「みなさんに奄美の素晴らしさを伝えたいと思って歌を歌い始めたので、ちょっとでもこの10年でそれができていたなら嬉しいなと思うし、私をきっかけに奄美に遊びに来てくれる人もいるし、本当にありがたいと思います。父がその方に見せてくれた奄美の風景を私もみなさんに伝えていきたいと思います」

 そう、オーディエンスへ伝えると、その想い、そして歌手としての10年ぶんの想いが、この日のライブで大いに表現されていたことを示すような大拍手に包まれた。

 そして、「初めて奄美大島の方言で作詞作曲した」という「祈りうた ~トウトガナシ~」を演奏し幕閉じとなった。この日のアンコール後はプレミアムシート限定のプレミアムアンコールもおこなった。10年ぶんの城南海、そして“ニュー南海”を体験できた本公演は、城の歌唱とバンドの演奏、そしてゲストとのコラボにより、奄美の風景が温かくきらびやかに東京に映し出されたようだった――。

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