赤い公園「集合場所に行っているような感じ」新体制で個が引き立つ音楽
INTERVIEW

赤い公園

「集合場所に行っているような感じ」新体制で個が引き立つ音楽


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年10月23日

読了時間:約12分

「私たちの共通点を歌った曲」

――確かに、今作を聴いて「3人と1人」という感じはしませんでした。楽曲制作面での変化はありましたか?

津野米咲 いままで思いつかなかったものが思いつくようになったり、できることも増えました。5曲目「Yo-Ho」もかなり面白い打ち込みサウンドになったと思います。

――完全に打ち込みのサウンドですよね? ギターも一切入っていないかと。

津野米咲 でも理子が歌ったら「これがバンドだ」ってなるなと。いっぱい勇気をくれるので、色んなところにトライしやすくなりました。

――5曲目の「Yo-Ho」は本作のキーとなる楽曲という印象があります。1曲目「消えない」は赤い公園らしさがありながらもシンプルさとストレートさが増した気がします。

津野米咲 正解です! 正に、自分の都合をよそにやっていたことを続けられなくなった3人と、アイドルが解散してしまった理子がいて…だけど、まだ見たことのないものが見たいし、音楽を続けたいという思いで4人集まってやっているので、そんな私達にしかできない曲をと思って。それが何になるかはこれから探していくけど、たぶん「情熱というものは消えないよね」という、私たちの共通点を歌った曲かもしれません。

――2曲目「Highway Cabriolet」についてですが、“cabriolet”とは?

津野米咲 オープンカーの車種です。それを知らない上で聴いてくださった印象はどうでしたか?

――なるほど。ベースラインのドライブ感が凄く耳に残る曲だと思いました。テーマは音としても伝わりますね。

津野米咲 そう。ドライブソングなんですよ。

――スタッカートなベースラインが正にそんな感じで。この曲に限らず、ベースのサウンドがこれまでよりも前に出た印象がありました。

津野米咲 音数がかなり減ったので、見えてきたのかもしれません。

藤本ひかり それはあるね。

――全体的にアンサンブルがシンプルになって、洗練された感じがあります。バンドの体制が変わると、逆に盛る方向に行くことが多いと思うのですが。

津野米咲 各々が強くなったのかな? 自然と削いでいく一方だったよね。

歌川菜穂 削いだほうが絶対歌が良いなと思って。歌が一番スッと伝わる方法を選んだ結果、削ぐ方向へと。

――3曲目「凛々爛々」もその点は表れていて、新体制前とは別種のエネルギーを感じました。

津野米咲 “せーの”で気持ちに任せて録ることも多くなって。色んな持ち物を持ち合わせていくのではなくて、手ぶらで来て「曲が呼ぶほうへ」みたいな感じにどんどんなってきました。

――そういった自然体な感じもサウンドに表れていると思います。具体的には、エディットして小綺麗に出来てしまうところでも、あえて生々しさを残すというか。

歌川菜穂 やっちゃった感じとかハプニングは大好きです。

津野米咲 「凛々爛々」は、頑張っている人達に「お疲れ様」というか、この曲を聴いて元気になってくれたらいいなと思って作りました。それを私達がガチガチにエディットしていたら元気でますかね?

――それだとちょっと赤い公園らしくないかなと個人的には思います。

津野米咲 思いのまま行って、「私は私だよ」というような曲なので。あばたもえくぼというか。「みんなのあばたもえくぼだと私は思っているよ」と伝えたいです。

石野理子 聴く人の肩の荷が降りたらいいなというか、大変な日々を過ごしている人に向けて、ちょっと背中を押せたらいいなという気持ちで歌いました。

――それこそ真っすぐに歌った?

石野理子 もう、ストレートに歌いました。

――新たに加入して自然にストレートに歌えるっていいですね。

津野米咲 私達3人のなかに突然来て自然になったというより、「1、1、1、1」で4というか。私達もかなりフォームを見直したので。しれっとバンドを続けてきたけど、ボーカルが抜けたタイミングで、続けることもやめることもできるという選択肢を目の前に置かれて、各々がバンドをやるということを自発的に選んだのは初めてのことだったんです。それで自分達が欲しいと思っていた理子が入ってきて。だから各々が変わったというか、3人ドシっといる所に入ってくるというよりは、4人が集まったという感じが近いです。

――それは意外でした。赤い公園3人という母体に石野さんが加入した、というイメージでしたが。

津野米咲 意外と、ですよね。私もこうなると思っていませんでした。私も集合場所に行っているような感じで凄く楽しいです。

――4曲目「HEISEI」はとても赤い公園らしさが出ている曲と感じました。特にドラムのサウンドが格好良いですね。こだわった点などは?

歌川菜穂 もともとライブでやっていた曲で、ジャキジャキとした骨太な感じがいいねと話してました。芯があるような音にしたかったんです。エンジニアさんの“魔法”もけっこうあるんですけど、「スパーン!」とかなり強めな音を選んでいます。こういうのも意外と初めてやったことなんです。

津野米咲 Aメロでハイハットを開いているってあまりないよね。

歌川菜穂 そう。緩急はあるんですけど、ずっとドライブがかかっている感じを出したくて、「オラオラ!」と。

――確かに、オラオラ感のあるブレイクビーツを人力で叩いているような格好良さがあるというか。

歌川菜穂 ちょっとマッチョになった気持ちで(笑)。

――「HEISEI」は、赤い公園のインディーズの頃のサウンドもいまのサウンドも入っていると感じるんです。

津野米咲 私もそう感じています。ずっとやってくださっているPAさんもこの曲を「赤い公園だ!」って言っていました。メロディラインも凄く私らしいと思っているし、ギターもそうだし。スッと入ってきました。

歌川菜穂 めちゃくちゃ腑に落ちた曲。

――津野さんのギタープレイについてですが、普通は音像的に前に出るところだけど後ろからくる、という印象がありまして。

津野米咲 めっちゃ奥から行きますよね! あれは一度音を締めて前に出してみたら何か「バッキングギターの人と、リードギターの人がいる」みたいな感じがしたんです。でも私はいつだって一人じゃないですか? 何か変だなと思って。手前じゃなくていいから誰よりも広くいようと思って。そうやってリードの音を作りました。

――そのあたりは津野さんのギタープレイのカラーだと思います。

津野米咲 エフェクターを繋ぐ順番が人と違ったりするんです。歪み系の前にディレイを置いたりするので。

――シューゲイザー・スタイルのバンドのギタリストなどはそういった並べ方をしているらしいですね。

津野米咲 そうですね! 最初は間違えてそう繋げていたのがきっかけなんですけど、デビューしてからずっとそうです。

――ちょっとマニアックな点かもしれませんが、そのへんが普通と違うのがバンドのカラーに繋がるというか。

津野米咲 私達はもう普通がわからなくなっちゃって。

藤本ひかり 正解がないよね。

――いまの話だと、リードギタープレイは普通にど真ん中で鳴るのではなく、後ろから迫り来るようにブワッと鳴り響くのが赤い公園の場合は正解なのかと。

津野米咲 まるで私達の人間関係のようで(笑)。

藤本ひかり 存在的にもそんな感じだよね(笑)。

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