かしわ「未来もいつか過去になる」大人になっての気づきと音楽の変化
INTERVIEW

かしわ「未来もいつか過去になる」大人になっての気づきと音楽の変化


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年10月18日

読了時間:約7分

 3人組ラップユニットのかしわが9月18日、配信限定アルバム『3人でかしわ』をリリースした。『BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』で注目を集めたラッパーのかしわを中心に、シンガーのマーリーとDJのトムが加わり2018年に結成。今作は、ヒップホップやレゲエなどを基軸にしながら、フォークやニューウェーブなど多彩な音楽を取り入れ、どこかノスタルジックで郷愁感を誘う作品になった。かしわが自身のルーツと今作について語った。【取材=榑林史章】

岸和田の人間が全員やんちゃというわけではない

『3人でかしわ』ジャケ写

――かしわさんは、16歳からラップの活動を始められている。『3人でかしわ』は、10代の気持ちのまま生きていきたいのに、大人になるとそうもいかず、それでも日々は過ぎていくから生きるために頑張らないといけない。といった、大人になる過程で誰もが感じる葛藤のようなものを感じました。10代から活動しているかしわさんだからこそ歌える気持ちが、にじみ出ていますね。

 ありがとうございます。10代の頃は「高校生なのにすごいね」と言ってもらえたり、何をやっても若いから許してもらえたけど、23歳にもなると、そういうことがなくなって。前は、大人に反発するみたいな尖ったこともやったけど、大人になるとどこか丸くなっていって。気持ちが落ち着いて、ものごとに対する考え方も、何でもかんでも「なんでやねん!」って、疑問を持つことがなくなったんです。

――社会に疑問を感じたり怒ったりすることが減った?

 減りました。高校を卒業してから会社で働いていて、後から入って来た若手社員の面倒も見なければいけない立場になったこともあって、自然と歌詞にもそういう状況が表れるようになったと思います。実際に後輩を指導するときの言い方や考え方も、だんだん変わってきているなって自分でも思いますね。

――でも高校生ラップ選手権などのラップバトルに出ていたときは、相手をディスったりしていたわけですよね。

 当時は、それが流行っていたというのもあったし。もともと人とケンカをするようなタイプではなかったのに、ラッパーはこうしなくちゃいけないみたいな先入観から無理をして、自分で意識して強い言葉を乗せたり、尖ったトラックを作ったりしていたんです。だから高校生ラップ選手権に出た時も、むりやりケンカをさせられているみたいに感じていました。

――地元は大阪の岸和田だそうですね。岸和田と言うと、ナインティナインが主演した映画『岸和田少年愚連隊』が有名で、やんちゃな人が多そうなイメージですけど。

 あの映画のおかげで、一気に柄の悪いイメージが定着してしまって。それに“だんじり祭”が有名だから、乱暴なイメージがあるんだと思います。確かにやんちゃな人もいますけど、全員がそうじゃなくて。僕なんかはすごくおとなしくて、いつもクラスの端っこで地味に過ごしていたタイプでしたから。

――そんなかしわさんが、ラップをやるようになったきっかけは何だったんですか?

 中学時代は、BUMP OF CHICKENさんやくるりさんなどのバンドものを聴いていて、自分でもバンドを組んでいたんです。でも高校に入ったら練習が面倒くさくなってしまって。それに当時はケツメイシさん、RIP SLYMEさん、nobodyknows+さんなどにハマっていて。たまたま姉が持っていたキーボードにリズムパターンが入っていたので、それを鳴らしながらやれば練習しなくてもいいから楽だし、バンドよりも格好いいんじゃないかと思って(笑)。

――リード曲「みりん」は、まるでフォークソングのようで、ラップが出てきませんね。ラップとかヒップホップに、特別こだわりを持っているわけではないんですか?

 そんなにないです。オケを作っているときには、どこかヒップホップを意識することはあっても、ラップを必ず入れなくちゃいけないという考えはないですね。だから「みりん」はギターの弾き語りで作って、リズムだけヒップホップを意識したものになっていて。

――曲はアコギで作っているんですか?

 アコギで作ることが多いです。そこからアコギを抜いたり、アコギを活かしたり。だいたいアコギを弾きながら、メロディと歌詞をほぼ同時進行で作っています。

――シンガーソングライターですね。

 ラッパーじゃないですね(笑)。

――「みりん」は恋人へのメッセージが込められていて、さらに「みりん」というタイトルは日常感があって、庶民派という感じがします。

 自分で料理をしようと思って、調味料を出していたときに、ふと「みりんの存在ってなんやねん?」と思ったんです。彼女が旅行に行っているときで、もし、このまま彼女が帰ってこなくて一人になったら生活が大変なことになると思って、パニックになって作った曲です(笑)。一人暮らしだと、カップ麺ばかり食べているから。

――みりんの存在で、彼女のありがたさや一緒にいることの幸せを表現しているわけですね。昔のフォークソングだと「神田川」とか、そういう路線ですよね。

 フォークを意識したわけではないけど、こういうテイストはくるりさんを聴いていた経験が、生きているんだと思います。もちろん「神田川」は聴いたことありますよ。小学校のときの音楽の先生が、ピアノではなくアコギを弾く先生だったので。そのときに「神田川」とか「なごり雪」などを教わった記憶があります。だいぶ癖が強い先生で、ライブのMCみたいにギターをジャラ~ンって鳴らしながらしゃべっていましたね。そういう思い出も、音楽活動に活きているのかもしれないです。

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