辻美優(elfin’)が映画『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』(目黒啓太監督、9月21日公開)で自身初の映画出演にして初主演を果たした。映画は日本とフィリピンのボランティアたちによる、フィリピン・パンダン水道建設工事にまつわる実話を描く。辻は、ボランティアに参加する女子大生の明日香を演じた。アーティストや女優、モデルや声優、そして漫画家など表現者としての多彩な才能を見せる辻だが、意外にも「普通の女子大生」を演じるのは難しかったようだ。しかし、そうした役柄への挑戦や、共演者、物語のモデルとなったアジア協会アジア友の会・岩田さん(赤井英和)の姿などから得るものは大きく、彼女の根幹ともいえる「メッセージを伝える」ことへの意識が変わったという。それは今回、elfin’が歌った主題歌「アンルート」にも表れている。この映画で学んだこととは何なのか。【取材・撮影=木村武雄】
役作りが難しかった「普通の女子大生」
――現地で約2週間ロケをされたそうですが、海外への一人旅はこれまでありましたか?
elfin’のメンバーでベトナムや台湾などに行ったことはありますが、一人旅はないです。
――一人で長期海外は明日香と同じ環境ですね。
明日香もきっとそうだったんだと思うのですが、「一体どうなってしまうんだろう」というところは重なりました。私も右も左も分からないまま、映画初出演で主演という大役だったので「どうなっていくんだろう」という期待感やちょっとした不安もあって、そこは明日香とリンクしているところでもありました。
――役作りはいかがでしたか?
明日香という人物は『どこにでもいる普通の女子大生』ということで、見てくださっている皆さんに、いかに隣にいる女の子として見てもらえるかを意識しました。ただ普通の女の子を表現するのは私にとってはすごく難しくて、目黒監督とも何度も何度もお話させて頂いて。「それだとまだ普通じゃないよ」とか「そのセリフの言い回しだとまだ不自然じゃないかな」とアドバイスを頂いて、自分なりに普通の女子大生を作り上げました。
――「普通の女子大生ではない」と指摘されたとのことですが、はじめはどんな風に演じたんですか?
私の活動の一つでもある声優として演じている中で、無意識のうちに自分の声が少し高くなっていました。明日香のように普通の女子大生はそのトーンで話はしないだろうと思っていたのですが、そのトーンが自分では普通になっていたので、その部分での明日香への落とし込みがすごく難しかったです。
――例えば「好き」という言葉も声優では声で120%伝えるところを、芝居は顔の表情があるので、80%でもできる。その時の感情ののせ方はどうしていますか?
演技をするときは、例えば落ち着かせるときは、ひたすらに「落ち着け自分、落ち着け自分」と言い聞かせていました(笑)。「落ち着こう、クールダウン」と言い聞かせて「ハイ、スタート」とかかった時にスッと入れた気がします。自分のなかで大げさに表現するのは得意なのかなと感じていて、でも映像だとそれが不自然に映ってしまいますから。
――実際に出来上がった作品を観てどうでしたか?
表現はできたかなと思いました。「今普通だ、普通に見える!」と映画を観て思っていました(笑)。だけど、またまだ他にも明日香として普通に演技ができたかもしれないと思う所も正直ありました。なので目標と課題をみつけることもできました。