岩崎宏美「理解できることの強さ」長年の歌手活動経て得た表現の奥深さ
INTERVIEW

岩崎宏美「理解できることの強さ」長年の歌手活動経て得た表現の奥深さ


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年09月18日

読了時間:約11分

 歌手の岩崎宏美が8月21日、アルバム『Dear Friends VIII 筒美京平トリビュート』をリリースした。来年4月に歌手デビュー45周年を迎える。同アルバムは、ジャパニーズ・ポップスの名曲をカバーしたシリーズで、2003年からこれまでの間に7枚をリリース。8枚目となる今作では、セルフカバーを含む筒美氏作曲の10曲を収録した。インタビューでは今作を制作することになった経緯、9年ぶりとなった妹・岩崎良美とのデュエットのエピソードなどを聞くとともに、来年デビュー45周年を迎える彼女に歌手としての展望も語ってもらった。【取材=村上順一】

ターニングポイント

――今回、このアルバムを制作する経緯はどんなものだったのでしょうか。

 筒美京平さんのトリビュートは、以前からずっと作りたいと思っていて、アイデアはずっと前からあったんですが、45周年を目前としたこのタイミングで出そうということになりました。

――念願の作品なんですね。筒美京平さんの曲はすごく沢山あるので選曲は大変だったのではないでしょうか。

 大変でしたね。でも、選ぶ基準が自分が歌える歌だったので。

――岩崎さんは何でも歌いこなせるイメージでした。

 歌えない歌は沢山ありましたよ。そうそう、今回は入らなかったんですけれど、収録曲の候補として野口五郎さんの「甘い生活」がありました。でも、調べてみたら自分が昔にすでにカバーしていて(笑)。

――歌っていたことを忘れていて(笑)。

 そうなんです(笑)。歌じゃなくてもそういうのがあって、SNSで私の昔の記事が上がっていたんですけれど、それが全く見覚えのない写真だったり。撮ってもらったのに覚えてないんですよ。私は“忘れないタイプ”だと思っていたんですけれど、やはりキャパシティというのは決まっていて、人間ちゃんと忘れるように出来ているんだなと思いました(笑)。すごく小さい時のことはよく覚えているんですけれどね。

――デビュー当時のことはよく覚えていますよね?

 デビュー時のことはよく覚えています。やはり私のターニングポイントの一つなので、しっかり覚えている部分です(笑)。

――この44年の中で歌手としてのターニングポイントはどんなことがありますか。

 デビューして、2作目の「ロマンス」がヒットしたこととか、沢山あるんですが、大きなターニングポイントは「思秋期」というバラードをシングルとして出せたことです。この曲はそれまで芸能界で活動することに反対していた父が、この曲を聴いて反対しなくなったきっかけの曲でもあるんです。父には20歳までと言う約束で歌手をやらせてもらっていました。父はすごく怖かったので、それまで逆らったことはなかったんです。でも、この時だけは、言うことを聞いてしまったらすごく後悔すると思ったんです。その父がこの曲を境に何も言わなくなったというのは、歌手としての私を認めてくれたのかなと思います。

――デビュー当時は歌唱力もクローズアップされていましたよね?

 そんなことなかったですよ。16歳でしたし、歌唱力がどうこうというのは、なかったと思います。ただ、音響スタッフさんに「声が大きいですね」と言われたことはありましたけれど(笑)。当時は、浅田美代子さんと同じ事務所だったので、美代子さんの前歌をか歌っていたんですけれど、美代子さんの声にマイクのレベルを合わせていたみたいで、私が歌ったらメーターが振り切ってしまったみたいなんです(笑)。

――もともと声量があったんですね。

 小学2年生から合唱団に入っていたので、そこで鍛えられたのかもしれないですね。

――岩崎さんは最初アイドルとしてデビューされたのでしょうか。

 どうなんだろう? 自覚はありませんが、アイドル全盛の時代だから、私もそうだったのかも知れないですね。森昌子さんを見て私も歌手になりたいと思いましたし、同期には太田裕美さんがいました。岡田奈々さんや伊藤咲子さんや、ちょうど私がデビューした時代から子どもたちが芸能界に増えた時期だったんです。それが昭和48年から50年ぐらいでした。

――そして、デビュー曲が筒美京平さんの「二重唱(デュエット)」なのですが、筒美京平さんの曲でデビューすることが決まった時は、どんなお気持ちだったのでしょうか。

 私は南沙織さんのファンだったので、歌本などで筒美先生のお名前は知っていました。レコード会社が決まった時に、スタッフから「君のデビュー曲は阿久悠、そして筒美京平だよ」と聞いた時は、本当に嬉しかったですね。

――たくさん作家さんがいる中で、岩崎さんが好きな南沙織さんの楽曲を手掛ける筒美京平さんにデビュー曲を書いてもらえたというのはすごいですね。

 私はなんて運が強いんだろう、と思いました。『スター誕生!』(1971年10月から12年間に亘って放送された、日本テレビ系視聴者参加型歌手オーディション番組)の審査員の中に阿久悠さんや都倉俊一さん、三木たかしさん、中村泰二さんとかいらっしゃったんですけれど、そこに筒美先生はいらっしゃらなかったんです。『スター誕生!』で優勝した方達はその審査員だった先生方に楽曲を書いてもらうんですが、私は第11回目のグランドチャンピオンだったので、グランドチャンピオンになった人は審査員ではない先生に書いてもらっても良いという特典があったみたいなんです。当時は全然そんなシステムだったことは知らなかったんですけれど。

――さて、「二重唱(デュエット)」のレコーディングでは、筒美京平さんとどのようなお話をされたんですか。

 当時は筒美先生がどんな方なのか、お顔もわからなかったんです。初めてお会いして、私が思っていた以上にすごく穏やかで大人しい方で、その時にもらった言葉が「あなたは将来歌っていくにあたり高音を褒められると思うけど、あなたの良さは中低音にあるということだけは忘れないで」と言うことと、「少しリズムを感じ取るのが甘いところがあるので、もっとリズムのある曲を聴いて勉強なさったら良いんじゃないかな」とアドバイスを頂きました。

――その言葉を心に刻んで今も歌われているんですね。

 そうです。私も今自分の声の中低音がすごく好きなので、さすが筒美先生だなと思いました。

――今作で特に思い入れのある曲はありますか。

 どの曲も思い入れは強いんですけれど、BUZZの「センチメンタル・ブルー」という曲だけは、実は知らなかったんです。これはスタッフの方から教えて頂いて、筒美先生がご自身の作品の中でもすごく気に入っている曲だと聞いて、それなら是非収録したいと思いました。筒美先生も今回のアルバムを聴いてくださって「オリジナルアレンジのイメージをあまり変えていないので素直な気持ちで聴くことができた。歌声も素晴らしい」と褒めてくださったと伺って、すごく嬉しかったです。

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