サザン新曲、“スローにちょっとずつ”という深い愛のかたち
サザンオールスターズ
「サザンオールスターズの新曲」。そう聞いただけで、心躍る気持ちにさせてくれる。デビュー40周年を迎えたサザンが8月12日に発表した「愛はスローにちょっとずつ」は、前作「壮年JUMP」から約1年ぶりとなる新曲だ。本作は先行配信シングルと、40周年記念本『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』にCDを封入した2形態でのリリースとなる。しかしなぜサザンは40年もの間、いつだってリスナーをワクワクさせてくれるのだろうか。“スローにちょっとずつ”という、本作タイトルの言葉の視点からサザンの音楽・時代背景などを考察すると、改めて“サザン愛”の深さに気づかされる。【平吉賢治】
ちょっとずつ、たっぷりと、いつだって貰えるサザンの愛
耳に飛び込んでくるのは、いつもの“我々のサザンの音楽”。デビューから40年、サザンは昭和から平成、そして令和と、いつだってカッコよくて楽しくて、ちょっぴりエロくてたっぷりと面白くて、ワクワクから憂いと憤り、切なさや悲しみと、ありとあらゆる情念を膨らませてくれる。
8月12日、“ファンの皆さんとともに作り上げていった新曲”という、「愛はスローにちょっとずつ」がリリースされた。
サザンは、活動休止時期こそあったものの、活動する全ての各時代で“その時々の想い”を音楽へと昇華させ、文化を広げてくれる。それは、先の40周年ツアー千秋楽・東京ドーム公演でも大いに感じることができた。
この日のセットリストは、デビュー時から現在に至るまでの各年代(1970年代〜2010年代)の楽曲がバランス良く、ほぼ均等に振り分けられているというものだった。狙ってか否かというのはサザンのみぞ知る領域だが、老若男女が集まる公演に対する想い、40周年という節目に対する狙いとあれば、とびきり粋なおはからいだ。
新曲「愛はスローにちょっとずつ」は、優しく気持ちを撫でてくれるようなラブ・バラード。捉え方は人それぞれだから、「泣ける」と感じる人もいれば、「どこかなつかしい」と感じる人もいるかもしれない。
1978年の「勝手にシンドバッド」からサザンに慣れ親しんでいるリスナーは、本作を「我々が待っているいつものサザンの良曲」と感じるかもしれない。10代、20代の若者は、この曲で初めてサザンを知り、「大御所のバンドで良い曲だな」と感じるのかもしれない。現代だったらまずはネットやYouTubeで検索するのだろうか、きっと「いとしのエリー」、「希望の轍」、「マンピーのG★SPOT」、「TSUNAMI」らの、各時代に放たれた名曲にたどり着き、ちょっとずつ遡りながら、様々なカラーのサザンを堪能することができる。
サザンは40年間、“ちょっとずつ”走り続けてきた。特大メガヒット曲数多の国民的グループに対して「ちょっとずつ」というのは適切な表現ではないかもしれないが、「どの時代でもコンスタントに作品を発表し続けてきた」という意味の「ちょっとずつ」だと、それは、あまりにも偉大な功績に至るまでの“積み重ね”とも解釈できるのではないだろうか。
節々から感じられるサザンの永続的な愛情
「我々サザンオールスターズ、これで全力疾走であります!」
桑田佳祐は、40周年ツアー千秋楽・東京ドーム公演のフィナーレで、ステージの端から端までメンバー総員でゆっくり走りながらそう言った。「全力にしちゃあ、若干遅いかな(笑)」という感じで会場を和ませてくれたほっこりシーンなのだが、ある角度からすると、たいへん感動を覚える場面だった。
それは、いまはスローでありながらも、40年間、ちょっとずつ新作を発表し続け、各時代でステージに姿を現し、“現在のサザン”を常に見せてくれるという姿勢そのものの表れであるようにも感じられたからだ。それを具現化させるかのように、その日の公演では、発表前の「愛はスローにちょっとずつ(仮)」というセットリスト曲目として、新曲を披露してくれた。最新のサザンの姿と音だった。
<とりとめのない夢>
<いつまでもそばにいて>
<さよならも云えず>
“愛はスローにちょっとずつ”というタイトル、歌詞の節々から感じられる永続的な愛情。それは、まぎれもない“サザンらしさ”だと胸に深く染み渡る。確固たるスタイルと機能・魂が備わった存在が、時代の変化を先読みしながら常にアップデートし続け、常に最適化されたスピリットで我々と結合する。
でも、一世代、二世代前のバージョンだって、いつでもライブで最新化できるし、決して古くささは感じさせない。
極端な話、仮に「勝手にシンドバッド」が2019年の新曲として発表されたとしても、「なんか古い感じの曲だな」と感じるリスナーはまず少ないと思われる。逆に、「愛はスローにちょっとずつ」がサザンのデビュー曲だったとしても、それはそれで違和感は感じられないかもしれない。そういう風に考えさせ、感じさせてくれるグループというのは、サザン以外にはなかなかすぐには思いつかない。
サザンの新曲「愛はスローにちょっとずつ」は、もちろんそれ単体でも音楽を堪能することができる作品だが、ちょっとずつ散りばめられているサザンの音楽愛が、過去にも未来にも繋がれるような想いを感じることができる。それは、サザンが40年間積み重ねてきた偉大なもので、なかなか言葉にすることできない素敵なかたちをしている。
そのかたちは、例えばいまでは当たり前のようになった歌い回しや、歌詞の日本語と英語の混ぜ加減や、ポップスならではの楽曲構成、アンサンブルやコーラスのバランス――。掘れば枚挙にいとまがないが、サザンが生み出した普遍的アプローチ、確立させた要素は、過去にも現在にも生きている。
最新曲でサザンは<愛はスローにちょっとずつ 黄昏(セピア)に染まるんだ>と歌う。
サザンの音楽には愛がある。尖った形や優しい形、エロい形におどけた形、あらゆる種類の愛がある。それも40年分の愛である。今作では“スローにちょっとずつ”、愛を受け取れる。
そこから更に、40年ぶんの愛を掘り下げることもできる。41周年以降の、サザンの未来への期待感という愛をつくり出すこともできる。
サザンは、存在する限り、いつだって深い愛で、我々をワクワクさせ続けてくれる――。