新元号「令和」が始まって2カ月が経とうとしている。4月1日の発表以降、様々なアーティストやバンドが新元号にちなんだ楽曲やMVを発表しているが、なかでもロックリスナーのみならず多くの人の注目を集めているのが、キュウソネコカミ(キュウソ)が発表した「ギリ昭和 ~完全版~」のユーモアあふれるMVだ。

 今作に限らず遊び心とサービス精神に溢れた表現でバンドシーンを沸かせ続けているキュウソ。その楽曲には、彼ら自身が駆け抜けてきた平成という“時代”への愛と反骨精神が現れている。

 「ギリ昭和 ~完全版~」をはじめ、過去の代表作「ビビった」「サギグラファー」「ハッピーポンコツ」を例に挙げ、キュウソのMVに詰め込まれた多彩な遊び心とそこに隠された“鋭い爪”に触れてみたい。【五十嵐 文章】

「ギリ昭和 ~完全版~」

 昨年12月にリリースされたアルバム『ギリ平成』のリードトラックとして発表されていた、キャッチーなサビとシンセサイザーのリフが楽しい楽曲。今作はアルバムがリリースされた昨年12月からメンバーが「歌詞に新元号を盛り込んで『ギリ昭和』を完成させたい」と発言したことを受けてMVを制作。新元号発表当日に「令和」を歌詞に追加して「完全版」として公開された。

 時代を象徴するモチーフが散りばめられた映像は、今までのキュウソのMVで使用された衣装や、昭和の学生風などメンバーの七変化するコミカルな姿が印象的。ワンカットでの映像を組み合わせた演出は、昭和のコメディショーを思わせる雰囲気だ。

 “ギリギリで昭和”生まれの複雑な胸の内を吐露する楽曲にはついクスッと笑ってしまうが、昭和に生まれ平成を生き抜いた自分を誇りながら、新しい時代へ歩みを進める強い意志がグッと胸に迫る。

「ビビった」

 メジャーデビューアルバム『チェンジ ザ ワールド』収録され、ライブでもキラーチューンとして高い人気を誇る定番曲。当時、“メジャーデビューを控えたキュウソネコカミのプロモーション戦略会議”といったイメージのワンシーンから始まるこのMVは、キュウソネコカミの個性とコミカルさが詰め込まれたMV群の“原点”ともいえる作品となっている。

 特に印象的なのが、ハードロックバンド風やグループサウンズ、ヒップホップグループに“被りもの”バンドなどなど、邦ロックシーンの“あるある”が詰め込まれた演出。愉快な映像とパワフルなサウンドにごまかされそうだが、その実現代の日本のロックシーン・音楽シーンを痛快な程に的確なセンスで皮肉った、恐ろしいぐらいに鋭い批評作品と言っても過言ではない。音楽好き、そしてミュージシャンには笑いながらも思わず耳が痛くなるMVだ。

「サギグラファー」

 キュウソの反骨精神の“爪”が向けられるのは、音楽シーンに留まらない。「サギグラファー」は、“自撮り加工写真”をテーマにした歌詞が印象的な、SNS世代には耳が痛い楽曲だ。

 MVの内容は、“詐欺写真”でモデル体型のイケメンに変身したキュウソのメンバーがデザイナーにスカウトされ、モデルとしてファッションショーに参加する羽目になる、というドラマ仕立て。思わず顔がほころぶラストのオチも含め、笑いながら見ているうちに惹き込まれてグッとくるエモーショナルさがあるMVだ。

 <愛してくれよ無加工の俺を>という力強いヤマサキセイヤ(Vo/Gt)のシャウトが、皮肉を越えた“ありのままの自分”の価値を思い出させてくれるに違いない。

「ハッピーポンコツ」

 エモーショナルさなら「サギグラファー」にも負けないのが、2015年発売のアルバム『ハッピーポンコツランド』のリードトラック「ハッピーポンコツ」。

 悪の組織(?)と闘うエージェントとしてメンバーが活躍する様子を切り取ったドラマ仕立てのMVでは、スーツ姿で大人っぽく決めたメンバーがカッコよくアクションに挑戦する姿も楽しめる。一方で、ズボンをはいていなかったり車から振り落とされたりと、歌詞になぞらえたポンコツぶりを披露する姿も。CGによる爆破など壮大な演出と軽快にカットの重ねられた目まぐるしいコミカルな映像で、“愛すべきポンコツ”を描いた痛快な歌詞の世界観が演出されている。

 特に印象的なのが、クライマックスの“要人救出ミッション”のシーン。畳みかけるようなポンコツぶりの応酬には、感動すら覚えるのが不思議。ポンコツのチャーミングさを、身体を張って表現するメンバーの姿を見ていると、人生賛歌にすら聞こえてくる不思議なMVだ。

コミカルな描写に隠された“鋭利な爪”

 MVや歌詞のコミカルさに注目すると、コミックバンドのような印象も強いキュウソネコカミ。しかし、その遊び心は、“時代”を鋭く切り取るための“爪”を隠す役割を果たしているようにも見える。その証拠に、今回紹介したMVには、「新元号」や「自撮り」、「現代のロックバンドのメジャーデビューを取り巻く環境」など、すべて「平成」を象徴するようなテーマが散りばめられている。

 しかし、その根本には普遍的なテーマが必ずあるようにも聴こえる。「ありのままの自分を愛すること」「時代に振り回されないこと」――。そこには、どんな時代を生きるにしても私達現代人に欠かせない、背伸びをせずカッコつけず、等身大で生きることのカッコ良さが表れている。MVメンバー5人が見せる、チャーミングでコミカルな姿もそんなメッセージのひとつにすら思えてくるようだ。キュウソネコカミが鳴らす新たな“時代”へ期待が尽きない。

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