石川・米所の音楽的バックボーン
――音楽をやり始めたその時期、どういった音楽に親しんでいましたか?
米所裕夢 J-POPとか聴いていました。ORANGE RANGEやゴスペラーズとか聴きながら、フュージョン・バンドも好きでした。T-SQUAREとかですね。同級生に言ってもあまりわかってくれないようなものを。
――中学生でT-SQUAREは渋いセンスですよね。
米所裕夢 「それって誰が歌ってんの?」って言われても「いや、歌ってはいないんだけど…」みたいな(笑)。好きな音楽のジャンルは多かったですね。
石川直 僕は音楽を始めた頃はアメリカに引っ越したばかりだったんです。車に乗ると家族の誰かがカセットで音楽を変えて、姉はジャニーズを聴きたがったりとか…身近に聴いていったのはJ-POPでしたね。吹奏楽やマーチングに出会ってからは、徐々にマーチングのショーで使われている曲の原曲が聴きたくなって、映画のサウンド・トラックだとか吹奏楽のオリジナル版とか、ときにファンクっぽい曲とか。今自分達がやっている曲が「元々はこういう感じだったんだ」というのが面白くて。自分達が慣れ親しんでいるアレンジのものとは違うので、違和感もあるなと思ったりして。自分達の身近なバージョンの方が意外と聴き心地が良いと感じたり。そうやって色々聴いてはああだこうだと考えていました。
「ブラスト!」で重要な役割を担う各楽器の魅力
――石川さんにとって、打楽器の魅力とは?
石川直 まず何よりも叩くのが楽しいですよね。物理的にスティックを振り回して弾ませて、リズムを刻んでと、そのアクション自体が気持ち良いので。やっていることがエクササイズ的にも好きですし、そこで音楽を奏でたり、技が僕らの世界にはあるので。普通のドラムセットやクラシック・コンサートではやらないような要素が入っているのが面白さの一つですね。魅力としては、色んな打楽器に触れるというのが凄く楽しいですね。僕の専門はスネアドラムですけど、マリンバとかティンパニとか、もしくはドラムセットとか。僕は一つのことにずっと向き合うというタイプではなかったのでなおさらですね。
――パーカッショニストという、複数の打楽器を演奏するスタイルに向いている気質なのですね。数ある打楽器を演奏するなかでも、スネアドラムを演奏する際に多種多様なリズムを叩いていますね。
石川直 そうですね。強いて言えばリズムしかないので、考えられるあらゆるリズムをはじき出すというのがテーマの一つですね。
――それこそありとあらゆるリズムの知識が必要となりそうですね。
石川直 あればあるほど有利になりますね。演奏のボキャブラリーが増えるので。あとはセンスですよね。
――直感的に叩くのか、あるいは考えて組み立てたものを叩くのか、という分け方だとどちら寄りでしょうか?
石川直 両方ありますね。個人的には前者の方がいいんですけど。組み立ててやる方になると、僕らは1小節のなかに20数粒とか叩くので、例えば1分間の曲に僕らが叩く全ての音を音符化するとそれだけで1日とか2日かかっちゃうんです。だから感覚、即興で対応できる方が気持ち的にも楽ですし。即興演奏の醍醐味、究極に準備された音楽の醍醐味、それぞれ世界が違うんですけど両方とも楽しいです。オーディエンスがどういうものを求めているのか、どういう場なのか、というところでも変わってくると思います。
アンサンブルのカギを握るリズム・旋律の重要性
――スネアドラム一つだけでもとても深いのですね。
石川直 シンプルが故に深さがあると思うんです。例えば食材で言ったら“塩”だなと僕は思うんです。
――塩ですか?
石川直 塩は基本的に何にでも振ることができる。塩を振ったら不味くなる食べ物というのは非常に少ないと思うんです。甘いものにも塩を振ったら甘さが引き立つことがありますし。塩は使いようによっては素材の味を引き立てるが、振り過ぎると塩辛くなってしまうと。そのさじ加減はとても大切ですね。要素としては「全く複雑なものではない」ということですね。
――確かに、塩もスネアも単体ではいたってシンプルですね。
石川直 基本的には一つの打面を二本のスティックで叩くというのが専門なので、そういう意味だと正に塩なのかと。許されればどういう音楽にでも、どういう空間にでも入っていて、自分のテイストを混ぜるというか馴染ませるというか、同化するだけではなく、相乗効果とアップグレードされた空気感を生み出すと、そういうことはいつも考えています。リズムは音楽要素の基礎ともなるので、汎用性も高いですね。リズムという要素が最初に加わることで、骨格が生まれるという。シンプルでありながら非常に重要だし、骨格がおかしくなってしまうと全体にも大きな影響が出てきてしまうんです。
――音楽要素であるリズムに乗るのが旋律、これも大きな音楽要素ですよね。
米所裕夢 僕らは叩くわけではないですけど、ビートがないと演奏ができないので、そこに旋律の知識がどれだけあるかというところで音楽性が広がりますね。トランペットって何でも使えるんですよね。ゆったりした曲でもアップテンポの華やかな曲でも、ジャズでもクラシックでも。どこのシーンでも絶対使える楽器なんです。そこには知識がないと活きないですし。
そうなると、まだ全然自分が凄いと思えるところまで行けてないんです。まだまだ触れたことのない音楽というのはいっぱいありますし。ある程度吹ける技術はあるかもしれないけど、それはトランペットが吹ける技術があるだけで、音楽性とはまたかけ離れるものでもあるので、そういうところを研究すればするほど、色んなものが出てくるというか。それが今凄く感じている魅力です。
「ブラスト!」をやっていないときであれば、全然違うジャンルの音楽に出会うことが多いんです。例えば知らなかった韓国の音楽をステージでやるとなったときに「こういうリズムのとりかたをするんだ」と知ると、そこにトランペットを乗せると活きるというか。ビートという土台があって、その上で何でもできちゃうというのが最大の魅力かなと思います。
――確かにトランペットはさまざまなジャンルで使われますね。そういった視点があると色んな音楽のジャンルに目と耳が向かれますね。
米所裕夢 そうですね。最初は楽器が好きで始めるんですけど、音楽をどんどん好きになっていかないと続けることは難しいのではないかと思っているので、そういうところにハマっちゃってる感じです。