SASUKE、なぜN高に進学?「新しい地図」への楽曲提供で広がった「夢」
INTERVIEW

SASUKE、なぜN高に進学?「新しい地図」への楽曲提供で広がった「夢」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年04月18日

読了時間:約6分

 「新しい地図 join ミュージック」への楽曲提供でも話題を集めた、アーティストのSASUKEこと原口沙輔くんがこの春、高校に進学した。選んだのは、学校法人角川ドワンゴ学園が経営するN高等学校。N高は通信制高校でネットコースと通学コースが選べる。74単位以上の取得と高等学校在籍3年間などの条件を満たせば高卒資格を取得でき、自分の自由な時間を確保しやすいことから「やりたいこと」を明確に持って入学する人も多い。原口くんもその中の一人。「大好きな音楽に充てる時間が増えるから楽しみ」と期待を膨らませている。先般おこなわれた「バーチャル入学式」で新入生を代表して挨拶に立った原口くんに話を聞いた。【取材・撮影=木村陽仁】

やりたいことをやる、学業との両立

 「バーチャル入学式」と銘を打って執りおこなわれた入学式。記者向けの体験会もこの日、実施された。着座してVRゴーグルをつける。目の前に広がるのは会場と同じ空間。そのなかで入学式に進む。その空間では席を自由に行き来できる。開式の辞を終え、舞台は同校の所在地・沖縄に移った。沖縄の美しい海が広がる浜でバーチャルの奥平博一校長が式辞を述べる。そのなかである言葉が印象に残った。

 「今から30年前はまだまだ“情報”が貴重でした。たくさんの知識があったり、たくさんのことを覚えている人間が、重宝される時代だったのです。しかし、現在はインターネットのおかげで、“情報へのアクセス”が誰でも、手軽におこなえます。つまり、たくさんの知識があることは、もう価値が薄れてきてしまっているのです。学校で教えられたことを、たくさん記憶して、偏差値が高ければいい。そんな時代は終わりを迎えたのです。これからは、言われたことをできるだけではなくて、自分で考える力が必要なのです。またこれからは、自分から何かを発信したりできることが大切です」

 「自主性を求める」のではなく「自主性を持った人」が学ぶ。それをサポートするのが同校であり、その時代に則した教育をおこなっていく考えがその言葉からも伝わってくる。会の冒頭で紹介された新入生のインタビューでも目的意識を持った人が多くみられた。

 同校には「アドバンストプログラム」という豊富な課外授業も用意されている。そのなかで教育に励むものもいれば、作家や音楽家を志すものもいる。高卒資格で必要な課程をこなす中で、夢を追及する。その両立を実現させている。

 今年、入学したSASUKEこと原口沙輔くん。音楽活動の時間を確保したいという理由から、同校への進学を決めた。

 「いままで普通に小・中学校と上がってきて、やっぱり音楽との両立は難しくて。辛いところだったんですけど、ここから音楽を優先できる。まだ想像はつかないけど、どういう風に自由になるのかがワクワクしています」

 表情に幼さは残るが、語り口は落ち着きがあった。

SASUKE誕生物語、「新しい地図 join ミュージック」への楽曲提供

 音楽好きの両親のもとで育った。家では和洋楽あらゆる音楽が流れていた。6歳の頃には父親のパソコンを使って作曲を始めた。「音楽のスキルを磨いている意識はないです。好きだから音楽をやって、結果的に磨かれて…」。好きこそ物の上手なれ――そのことわざが彼にはぴたりとはまる。

 音楽の始まりはダンスだった。「ダンスに合う音楽を選んでいたのが始まりです」。10歳で、米ニューヨークのアポロシアターで開かれるショービズ界の登竜門『アマチュアナイト』で優勝した。その後、演奏にも興味がいき12歳のときには、フィンガードラムの日本一を決める大会で初出場ながら準優勝を果たした。

 好きなミュージシャンは「何百といます」。強いて挙げれば、ジェームス・ブラウン、テオ・カッツマン、ルイス・コール、アノマリー、ジェイコブ・コーリアーなど。「ヒップホップが好きで、文化的には僕の好きなことが全部入っている。DJとダンス、MC、グラフィティー。僕、全部やっているんですよ。だから自分に合っているというか、好きなカルチャーです」。

 作品発表の場は主にSNSだ。願いは「多くの人に聴いてほしい」。そんなとき、「新しい地図 join ミュージック」から楽曲提供の依頼を受けた。作曲だけでなく、作詞も手掛けた。出来上がったのは「#SINGING」だ。疾走感を持ったリズミカルなナンバー。辛いことがあっても楽しく前向きに――そんな歌詞を、稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾が持ち前の明るさで歌う。背中を押されるような気分だ。

 「驚きました。『曲が作れる!』と喜びました」と笑みをこぼしそう語る。作曲については「『みんなで歌えるような歌を』というお話でしたので、それをもとに、自由に作らせて頂きました」

 音楽好きの彼の思いがのった歌詞は、“希望の光”でもある「新しい地図 join ミュージック」の歌声によってパワーは増し、そして全国に届けられた。その反響の大きさに驚いたという。「『曲が出来たから聴いて』と言えるのが両親しかいませんでした。身近な人に聴いてもらっていたものが、一気にドンと増えて。嬉しいのとびっくり」。多くの人に聴いてもらいたいという夢は、「新しい地図 join ミュージック」を通じて実現した。

 それを機に、テレビ番組のテーマ曲などの依頼が増えた。彼のいるステージは以前よりも大きくなった。しかし、いたってマイペースだ。「プレッシャーはあまりないですね。自分の好きなことをただやっているだけなので」。

学校で曲のアイデアが思いつくことも…

 彼の創作は例えるなら湧き水のようだ。どんどん曲が湧いて出てくる。普段の生活のなかからも、ふと曲が思いつくのだという。「曲として完成されて浮かぶことが多いです」。そのなかで生まれた曲のうち「平成終わるってよ」や令和を題材にした「新元号覚え歌」「インフルエンザー」などがある。

 「インフルエンザー」のアイデアが浮かんだのは平日の朝だったという。「あの時期、学校のホームルームで『インフルエンザに気を付けて予防しましょう』ということをひたすら聞かされていたから曲にしようと。大変でしたね。朝思いついちゃったので学校が終わるまでずっと覚えてないといけなかったので…」

 「新元号覚え歌」は、新元号「令和」発表から2時間で作り上げた。「オケを作っておいて、発表されてから歌詞とレコーディングをして。遊び感覚ですね」

 「新元号覚え歌」のように2時間で作り上げたものもあれば、制作に半年以上を要した曲もある。「平成終わるってよ」だ。

 「『平成が終わります』というニュースを見て、ネットでも盛り上がっていたので、曲を作ろうかなと。アイデアが浮かんだのは歌詞とメロディでした。思い浮かんだメロディが自分としては良くて、今までマニアックな曲を作ってきたので、色んな人に共感してもらえる良い曲になるかもしれないと手ごたえを感じました。それで、それに見合うオケを作るのに試行錯誤して。6曲ぐらい作りましたけど、全部ボツにして。7曲目でようやくできました」

 アイデア自体はすぐに浮かんだというが、音作りに時間をかけた。去年の夏頃から始め、リリース直前の今年2月に完成した。「思いつかなかったら別の曲を作ったりして、思いつくまで放っておいてというのをやっていたらこれぐらいかかりました。でもN高に入っていたら1日で出来ていたかもしれないですね」

 N高への進学は「思いついたアイデアをその場で形にしたい」という理由もあるという。「学校にいるときに思いついたら、帰るまでずっと覚えていないといけない。それがしんどくて。そのおかげで授業を聴けていないこともあったり、当初のアイデアと異なったり、制作が遅れたり…」。

 N高は、レポートをネット上でおこなうため、郵送の手間もなく、自分の好きなペースで手軽に学習を進めることができる。“SASUKE”にとっても自由な時間が増えれば、活動の幅は更に広がる。

 「僕にとって音楽は、ゲームをやる感覚と一緒なんです。学校生活は自分の好きな事をやっていけたらいいですね。変わらずたくさんの人に聴いてもらいたいですし、世界に向けても発信していきたい。ライブも大きなステージに立ちたいです。SNSが普及していますけど、リアルで大人数と会うのも好きですし、お客さんが増えれば増えるほどテンションがあがるので。自分が演奏して、自分が踊って歌って、自分の好きなことをやって楽しみたいです」

 新たな“キャンパスライフ”によって生まれる曲はどういうものなのか、彼の活躍と同時に、新曲が楽しみだ。

(おわり)

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