さかいゆう「これぞ東京サウンド」ジャンル超越、全て閉じ込め精根尽きた新作
INTERVIEW

さかいゆう

「これぞ東京サウンド」ジャンル超越、全て閉じ込め精根尽きた新作


記者:小池直也

撮影:

掲載:19年01月22日

読了時間:約13分

絶対曲げられない部分を持て

――アルバムを通して「SoDaRaw」にサイプレス上野さん(サ上)、「Tokyo Loves」にはZeebraさんとラッパーを客演に招いています。これについては?

 サ上には終わりたくない思春期、みたいなピュアさがあるとずっと思っていて、一緒にやりたかったんです。それを本人に伝えて、後はしばりなくお願いしました。日々の仕事があったり、色々な矛盾も全部受け入れて、自分をピュアに保つというのは音楽に必要なことだと思うんですよ。彼との出会いは12年くらい前からありましたが、やる機会はありませんでした。うちはテレビもないので『フリースタイルダンジョン』を観たこともありませんでした。どうやらジブさん(Zeebra)とサ上が司会をやっているそうで(笑)。超偶然だなと。

 ジブさんはジョンスコがもう一人いる、みたいな感じ。彼のラップって楽器を感じるんですよね。ファンキー。逆にサ上には楽器を感じない。楽器を感じない人ってあまり好みじゃないんですけど、サ上はそんなの関係なく好きなんです(笑)。僕は韻フェチ、リズムフェチなので。ジブさんには「わかりやすい韻を踏んでください」とお願いしました。奇をてらったこととかじゃなくて、簡単で口ずさみたくなる様なラップでもいいと思っていたら、すげえいいのが来ました。序盤からいきなりやられましたね。

――Zeebraさんも東京生まれのアーティストですよね。

 土岐ちゃんは同じ東京でも渋谷からちょっと離れた田舎を感じさせるんですけど、ジブさんは六本木。ギラギラした西麻布とか。すごい表れてますよね。2人に共通するのは、奥ゆかしさというか。どこか一歩引いた、都会の人の謙譲の美徳じゃないですけど、品がある感じ。田舎者としては憧れますね。

――「確信MAYBE」はおかもとえみ(フレンズ)とのコラボとなっています。

 彼女とは今回初めてお会いしました。フレンズではなくて、ソロ活動の楽曲を聴いていました。素直なボーカルだから、とても好きですね。しかも演奏しているのはLAのミュージシャンじゃないですか。神泉ミーツLAのディスコサウンドで、独自の空気感にはなったなと思っています。参加したLAのミュージシャンにできあがった音源を送ったんですけど「いやあ感動したよ」「レコーディング楽しかったね」「アルバムの出来やべえじゃん」とか個人的なメールが来ました。本当に目を閉じて聴くと日本でもLAでもNYでもない。どこかわからないけど、シティポップスという感じ。

 音楽玄人はみんなぶったまげてますよ。卓也もBIGYUKI(アメリカ在住キーボード奏者)も「ぜってえ作れねえ」と言っていましたから(笑)。それがどう評価されるのかは、ここからの僕の頑張りですね。

――「Fight & Kiss(Something Mix)」での若手ユニット、Kyotaro&Rikuoさん(京陸)の抜擢も意外でした。

 “拾って”きました。某バーでセッションしたら面白くて。そこから3、4年距離が開いていたんですけど、この曲ができあがった時に彼らを思い出したんです。彼らはマネージャーもいないので、ツイッターを通じて直接やりとりしました。僕は比較的年上の人とやることが多いんですけど、ただやりたい人と一緒にやっている、という感じです。年齢は関係ないですし、15歳とも一緒にできますよ。ベースのスティーブ・スワローは78歳ですから。彼は一番最初に「よかったよ」とメールくれました(笑)。

 気が付いたらそうなっていただけで、年齢差は全然意識していません。音楽という軸があるから全然難しくないです。怒られるんですけど、僕ってあまり上下関係を意識することがないんですよ。ないものをある風にとりつくろっても音楽に表れてしまうと思いますから。度胸があるんじゃなくて、意識がないだけなんです(笑)。謙虚でもないんですけど、それは多分一生治らないことだと思います。自分に自信があるわけでもないし、自慢をしたこともないですね。

――自身による楽曲解説ではミックスについて、かなり言及されていたのも気になりました。

 今回はエンジニアさんにかなり支えられたレコーディングでしたね。佐藤molmol宏明も空間を作る天才でしたし、ブルックリンのジェイク・ラモスも作業のスピード感や奥行きの作り方が天才的。檜谷瞬六さんはヒップホップを感じるファンキーさも感じました。いい音でレコーディングできたのは現地の人たちの腕のおかげ。こればかりは運ですね。その日の空気もありますし。彼らは本当にすごい。その時その場所で一番いい音を録れるのはその人たちだけですから。そういう想いでいっぱい。結局音楽ってただの音の振動です。ただの音の振動に命をかけて、1ミリ単位でマイキングを変えるんですよ。

 それだけでわかる人にはわかりますから。彼らがプライドを持ってやっている姿がよかった。僕、そういう人が好きなんですよ。一般的に辛口でこだわりのある人の方が信用できます。ただ仕事をしてくれる人にはあまり興味ないですね。僕は仕事で音楽やってないですから。事務所を辞めようが、レーベルを辞めようが、全く同じことを僕はひとりでやります(笑)。エンジニアさんは仕事でやりつつも、こだわりだしたらキリがないんです。いい意味でクレイジー。

――なるほど。まさに職人ですね。

 彼は自分の作品に対して「これならプライドを持ってミキシングしたと言える感じですね」と言っていたので、自分と近い気持ちを持っている人たちなんだなと。

 そういう偏屈さってなくしちゃいけないんですよ。人になんて言われても。絶対曲げられない部分ってひとつでいいから持っておくといいと思います。そうしないと流れ作業になっちゃうじゃないですか。ライターだってそうですよね。「この文章は自分が出していい文章じゃない」と思ったら偽名を使ってもいい。自分のブランドを持ち続けるのはすごい大事なことです。そういうプライドを持つ人と関われるのは奇跡だと思いますね。

――では最後に読者へメッセージを。

 このアルバムを作った後、4日間くらい寝込みました(笑)。精根尽きた、さかいの最高傑作です。これを聴いて好きだったら、いつか会えるかもしれませんね。

(おわり)

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