さかいゆう「これぞ東京サウンド」ジャンル超越、全て閉じ込め精根尽きた新作
INTERVIEW

さかいゆう

「これぞ東京サウンド」ジャンル超越、全て閉じ込め精根尽きた新作


記者:小池直也

撮影:

掲載:19年01月22日

読了時間:約13分

 シンガーソングライターのさかいゆうが1月23日に3年ぶりのアルバム『Yu Are Something』をリリースする。このアルバムはさかいが、自身のルーツであるヒップホップやファンクなどのブラックミュージックに再び向き合った意欲作。東京、LA、NYでのレコーディングを経て生み出された、日本でもLAでもNYでもない音楽。これを“東京サウンド”と呼ぶさかいは、国籍や年齢、ジャンルも越えた数々のミュージシャンと、こだわりを持って取り組むエンジニアに敬意を表した。「仕事ではなく人生で音楽をやっている」。『Yu Are Something』に秘められた彼の音楽哲学とは何か。【取材=小池直也/撮影=冨田味我】

さかいゆう

黒人でも白人でもJポップでもない音楽

――今作はルーツに再び向き合った作品だとうかがいました。

 僕は影響を受けてきた音楽が素直に出る方だと思うんですが、今回はルーツに帰るというか「自分が聴いてきた音楽の本物が出てきちゃった」みたいな感じです(笑)。でも前から日本にいるのか、海外にいるのかわからなくなるポップスが面白いなと考えていました。海外のソウルミュージックとかヒップホップに影響を受けた自分がJポップを作っていて、そのフィルタを通した曲を海外のミュージシャンがやる、というのはとても面白かったです。「Get it together」「Magic Waltz」とかは特にそうですね。

――影響を受けたアーティストに自分の曲を聴かせるのは緊張しませんか?

 それはないです。ただ、自信は生まれてこの方一回も持ったことがありませんよ。自信なんて大層なものじゃないですけど、音楽を作る上でのピュアさは自分でも持っているんじゃないかと感じるんです。なかなか自分のことをピュアだと言う人もいないか(笑)。でもむしろ、ジョンスコ(ジョン・スコフィールド)本人の方がむしろ恐縮しないですよ。僕がピアノで彼の曲を弾いたりしても「それ俺の曲じゃないか」って喜んでくれましたから。

 このあいだマッキー(槇原敬之)さんと話した時もそうでした。マッキーさんは、僕のこと好きなんですけど(笑)。それは当然だと思うんです。だって、僕はマッキーさんにめちゃくちゃ影響受けてますから。僕も自分のなかにマッキーさんの影響を感じてますし。だから自分に影響を受けた若いやつらが出てきたら嬉しいと思うんですよ。それはジョンスコも一緒で「あなたを尊敬していて、こういう曲をあなたとやりたいんだ」と言って、OKしてくれているから、それ以上にやりやすいことはない。あとはいい音楽を作るだけですから。その感覚は先輩後輩の関係とは違うかもしれないですね。もっと上に音楽の神様がいるので。それに向かって純粋なセッションができたと思っています。

――槇原さんとの交流は意外でした。

 マッキーさんは本当の意味で謙虚な方です。「自分は色々なものの寄せ集めで、オリジナルではない」と思える人ですから。それは僕から話したんですよ。マッキーさんがあまりに僕のことを褒めてくれるので「槇原さん、僕はね、いくつかの人の寄せ集めと、最近聴いた音楽に感化された寄せ集めですよ」と。そうしたら「才能ある人はみんなそう。音楽を吸収して自分のフィルタで出せる人は限られた人だから」と返してくれました。

 ただ、それが多くの人に受け入れられるかどうかは時代や流れも関係してきますよね。ゴッホだったら、ちょっと時代が違っていたから生前は売れなかったんでしょうし。ピカソだったら時代のちょっと先に彼がいたから注目された。でもだからといって、ゴッホがピカソより駄目なわけじゃない。言葉で説明しなければいけない、評論家は、作品とは違うところで絵を説明しがちだけど、作品は厳然たる価値を持っていると思います。

 でもポップミュージックは「人に評価される」ということも大事。大衆音楽で人に聴かれるために作っているわけですから。だからセールスからは逃げられないし、逃げちゃだめな部分だとは思います。しっかり人に伝えるためにツアーをするわけですし。だから「売れなくていい」とすると矛盾が生じます。芸術とエンターテインメントの絶妙なバランスで僕らは成り立っているので、人に受け入れられる部分は必要。でも受け入れられない部分も絶対ある。だから僕はマッキーさんの話を「作品を出せるだけでハッピーだし、才能があるんだ」ということだと受け取りました。

――この『Yu Are Something』はLA、NY、東京と移動して録音されています。まずLAに行こうと思った理由はなんでしょうか?

 LAは昔住んでいたので単純に行きたかったというのと、ドラムのジェームス・ギャドソン、ギターのレイ・パーカーJr.の家が近いからというのが理由です。帰ってきてから聴いて「めっちゃLAファンクになったな」と思いましたよ。そこで、「カリフォルニアの作詞家はいないかな」と考えた時にマイケル・カネコが思い浮かびました。彼とは飲み友で(笑)、飲みの延長でお願いしたんです。マイケルらしい、根明な歌詞になりましたね。

 「煙のLADY」は土岐(麻子)ちゃんに歌詞を書いてもらいました。彼女こそ東京シティガールズ代表ですよ。生まれも育ちも東京だし。東京の人ってハメを外さない美しさがありますね。奥ゆかしさというか。大体渋谷で騒いでいる人たちは東京生まれじゃない、と思ってます。僕も高知生まれだけど(笑)。東京の人は騒ぐ必要がないんですよね、そこに住んでいるから。自己証明する必要がない。土岐ちゃんもすごい冷静で、本当に東京シティガールズ。話していて心地いいんですよ。「土岐ちゃんのなかで泳いでいるさかい」みたいな(笑)。

――土岐さんを起用したのはなぜでしょうか?

 2019年版のシティポップスにしたかったので、絶対絶妙な歌詞を書いてくれるだろうなと思ったんです。2人で話しているうちに「煙のLADY」という言葉が出てきて、面白いねと。その後も僕から散文をめっちゃ送って「このなかで使える要素あったら使って」という様なやりとりをしました。結果、土岐ちゃんのフィルタを通してできた歌詞になりましたね。このメロディは絶対黒人が書かないものなのに、グルーヴはソウルミュージックな感じ。目を閉じると、国籍がわからない。でもこれが「東京」なのかなと。東京って雑多で、黒人でも白人でもJポップでもない音楽が今面白いですよね。SuchmosとかNulbarichもそういう意味でもカッコいいと思う。

 それにしても「東京サウンド」って何なんでしょうね。「NYサウンド」ってあるじゃないですか。「LAサウンド」もあるし。東京もあるはずなんですよ。ただ、今僕のなかで「東京サウンド」だと言えるのが、この『Yu Are Something』。LAやNYでレコーディングをしているんですけど、なぜか246(国道)を感じるんです。ミックスも246沿いのスタジオでやりましたし。東京で生まれた音楽だなと感じますね。

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