若い人にも聴いてもらいたい、Aoi Mizuno クラシック界のイノベイターに迫る
INTERVIEW

若い人にも聴いてもらいたい、Aoi Mizuno クラシック界のイノベイターに迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年10月11日

読了時間:約18分

裏付けの強さで今日までクラシックが残ってきた

Aoi Mizuno(撮影=冨田味我)

――気が遠くなるような作業ですね…。組み合わせた楽曲には「NOT SO LONG TIME AGO」のように個々にタイトルが付けられていますが、これは楽曲をミックスされる前からテーマとしてつけられていたのでしょうか。

 曲をミックスしてからです。コンセプトアルバムというものが僕は大好きで、今作にもコンセプトを持たせています。そういったストーリー展開も含めてタイトルは考えました。

――そのストーリーとはどのようなものなのでしょうか。

 「NOT SO LONG TIME AGO 」はクラシックってめちゃくちゃ古いものだと思われているけど、みんなが思っているほど古臭いものではないという意味を込めています。ここは単純に自分が伝えたいメッセージですね。オープニングを意識した華やかなミックスを最初に作って、そこから拍手がなり、自分が歩いていきちょっと喋ってドアを閉めるところまでがオープニングみたいな感じです。ここで言っていることは、歴史的作曲家であり指揮者でもあるレナード・バーンスタインのリハーサル映像があって、その中で彼が言っている言葉で「これは音楽なんだ。ビートじゃないんだ」ということなんです。現代に溢れた音楽はビートありきだと思われやすいんですけど、そうではなく音楽なんだというバーンスタインの言葉が響きました。

 2曲目の「THE LATEST ROMANTICS 」に行く前に拍手が鳴っているんですけど、その拍手ってコンサートホールならではの音だと思っていて、そこから一度出てみようという意味で僕が扉を締めるというものを入れました。

――まずはそこから飛び出したイメージなんですね。

 「THE LATEST ROMANTICS」は最初に出来たデモなんですけど、タイトルは直球で、19世紀末から20世紀初頭の後期ロマン派の音楽を集めて作りました。2曲目に持ってきたというのはわかりやすいということと、自分のアイデンティティを出せたのはここかなと。ミックスをしながら様々なSEやエフェクトを満遍なく使えて、コンサートホールとは違う世界観をまず見せれたのがこの曲ということもあり2曲目になりました。

――確かにエフェクトが掛かっていたり、従来のクラシックとは聴かせ方が違いますよね。

 はい。当時の作曲家が今生きていたら、間違いなくこういった音を使っていたと思うんです。当時は電子音楽の技術がなかっただけで、もし当時の作曲家たちが生きていたらシンセサイザーなど使っていたと思います。作曲家というのは常に新しいサウンドを求め続けてきている生き物なので。

――Mizunoさんはその作曲家たちの代弁者みたいな感覚もあるわけですね。

 その気持ちもあります。あと今作を聴いていただいてからオリジナルを聴いていただくと、まるでエフェクトがかかっているように聴こえる曲もあったりするんです。それは作曲家が当時の技術の中でどうやって特殊な音響効果をアンプラグドのなかで生み出すかという努力の賜物であり、それと馴染むように僕もやエフェクトをかけすぎないようにバランスを取りました。

――もしかしたら僕がMizunoさんが掛けたエフェクトだと思っていたところは、実はオリジナルの可能性もあるわけですね。

 かもしれないですね。僕も後から気づいたものもありましたから。そして、3曲目の「RESURRECTION…?」から長めのストーリーが始まりまして、グスタフ・マーラーの交響曲2番の「復活」をベースに作りました。最後の楽章にベートーヴェンの交響曲第9番のような合唱があってドイツ語の歌詞があるんですけど、ちゃんと読んでみると死を克服する、打ち勝つといったことが書かれているんです。でも、一番盛り上がる部分では「生まれ変わるために自分は死ぬんだ」と言っていて、「結局死ぬんかい(笑)」と、そこは前々から引っかかっていたんです。それもあってそれって本当に復活なの? というところでタイトルにもクエスチョンマークを入れました。

――疑問が生まれて(笑)。

 そうなんです。エクトル・ベルリオーズの幻想交響曲の中から第四楽章「断頭台への行進」という曲があり、そのストーリーの中では妄想ですが、主人公が断頭台で処刑されるという場面を現した曲なんです。あと、ストラヴィンスキーの「春の祭典」から最終場面「生贄の踊り」のような死に向かっていく曲を復活というテーマの中に入れて、次の「DANCE PARTY IN THE HELL」に行きます。

 幻想交響曲の第四楽章に続いての第五楽章では主人公が生前片思いを寄せていた女性が地獄で悪魔の姿となって出てきて踊るという内容なんです。それはそのまま意味を汲んで制作しました。次の「FORGIVENESS」はマーラーの交響曲第5番から第4楽章をベースに作りました。それもあって、この曲を入れることで地獄からの開放みたいな意味を持たせました。

 そして、「MELODY WITH YOUR DNA」で誰もが遺伝子レベルで知っているであろう歌、ベートーヴェンの第九を高らかに歌って復活するという、ここまでが本編なんです。最後の「REACH OUT TO UNIVERSE」は映画のエンドロール的な立ち位置です。映画を一本観終えたような、余韻を与えたいと思って入れました。

――確かに「MELODY WITH YOUR DNA」はクライマックスといった感じがありました。
 
 この曲がハイライトですね。

――このお話を聴いてしまうと他の方がやらなかった理由がわかりますね。このレベルの作品にするハードルの高さがわかりました。

 今までは自分のイベントでDJをやってきたわけなんですけど、それはピアニストとピアニストの転換中にノリノリの曲を爆音で掛けて、お客さんを楽しませるみたいなところで終わっていました。いざアルバムを作るというお話を頂いて、ただそれだけのミックスは作れないと思い、そこに作品としての価値を見出したいと思いました。自分のアイデンティティをちゃんと盛り込みたいというこだわりです。曲の背景や意図を壊さずに付加価値的なストーリーやコンセプトをもたせることで、オリジナルに敬意を払いつつ芸術的価値を高められるんじゃないかなと。

――それが今作からすごく滲み出ていると思います。

 僕がやってきている指揮というのも、そういった曲の背景や奏法など様々なことを文献など調べて形にしていくので、裏付けがないと成立しないようなところがありますから。その裏付けの強さで今日までクラシックが残ってきたというところも絶対あると思います。作品を長く残らせるためにも骨組みをしっかりと作るのは重要です。構造物に例えると大黒柱がしっかりしてなければ長くは持たないのと同じです。この作品が100年保つのかはわかりませんけど、コンセプトは必須でした。

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