音楽イベントにおいてライブ配信が主流となっている昨今、配信側であるプラットフォームはどのような想いを持つのか、電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」を提供するZAIKO株式会社にメールインタビューをおこなった。コロナ禍により、フィジカルな生ライブは2019年以前のような形式での開催が困難となり、以降は各プラットフォームが様々なスタイルで配信ライブを展開している。音楽ライブという文化が変化を遂げている今、電子チケット制ライブ配信のパイオニア/エンタメ界に次々と革新的なサービスを生み出すZAIKOはどのようなビジョン、理念を持っているのか。デジタルイベントの強みやこれからの課題、新たな施策などについて、様々な角度から聞いた。【平吉賢治】

「デジタルイベント」の様々なメリット

――配信ライブのメリットとして、どのような点が挙げられますか。

 私たちは配信ライブを「デジタルイベント」という言葉で呼んでいます。デジタルイベントのメリットには、全世界の人が同時に参加できる点や、ファンにステージ上のパフォーマンスだけでなく、舞台裏やリハーサルの様子を見せることができる点です。

――配信ライブではスマートフォンやデスクトップ、スピーカーやイヤホンなど、デバイスによって視覚的にも聴覚的にも環境がそれぞれであることにより、ライブの印象に差が生じるという点について、どのようにお考えでしょうか。

 デジタルイベントに限ったことではなく、音楽を絶対にハイレゾで聞くという人もいれば、iPhoneでそのまま聞く人もいて、そこはファンの皆様ご自身の選択になってきます。ZAIKOでは「+HDオーディオ」という高音質の配信を追加料金を支払うことで視聴できる機能をスタートしていますが、ファンが自分のスタイルや楽しみ方にあった自由な選択ができるように、新たな機能を開発したり、より多くのブラウザ、デバイスでも見れるような環境を整えていくことが私たちができることだと考えています。

――生ライブでは、コール&レスポンスや一緒に踊ったり歌ったりして一体感を得るという楽しみ方もありますが、配信ライブならではの醍醐味としてはどのようなものが挙げられますか。

 デジタルイベントならではの楽しみ方としては、チャット機能を活用することが一つ挙げられます。ライブ中に他のファンとコミュニケーションを図ったり、一瞬一瞬の出来事を参加者同士で共有していくことで、新しい発見が生まれると思います。リアルイベントではコンサート中に、話したり、感想を言い合ったりすることは、ほとんどないと思うので、チャットはオンラインだからこそできる、特別な楽しみ方であると考えています。

多角的視点のサービスを開発、強みは「グローバル対応力」

ZAIKO

――1つのイベント内で行われる複数のライブ配信を1つのチケットからそれぞれアクセスすることが可能となる「マルチ配信機能」に対してのユーザーの反応はいかがでしょうか。

 ユーザーからの反応はものすごく良いです。最近だと、人気RPGゲームシリーズで使われている楽曲をオーケストラでの演奏を聞きながら、ゲームをプレイしている画面も観ることができるようにしたオンラインイベントが行われ、とても好評でした。いわゆるマルチデバイスといいますか、ながら視聴のような楽しみ方がライブ・エンタメ業界にも適用される時代が来たと感じています。
今後は、複数のモニターで一つのイベントを様々な角度で体験できること次世代のエンターテインメントの基本になってくるでしょう。

――ZAIKOは、アーカイブ視聴期間選択制の「+Archive(プラス・アーカイブ)」、アーティスト・イベント主催者が、素早く簡単にライブ配信付き電子チケットの販売が可能になるサービス「ZAIKO ZERO」など、様々なサービスを展開されていますが、これらが生まれた背景について教えてください。

 弊社は、起業してからまだ3年も経っていないスタートアップ企業で、提供しているサービスは自社開発です。そのため、スピード感を持った開発と実験的なことにチャレンジしていく姿勢を大切にしています。今の時代に必要であると感じるものは、早期段階から開発し、世の中に提供し続けることを目標にしています。新しいシステムを業界に先駆けて提供し続けていくことは、リスクのあることでもありますが、アーティストや主催者の皆様にとって役に立つサービスを開発し続けていきたいと考えています。

――海外でのマーケティングに必要なデータを活用したコンサルティングをおこなう新サービス「ボーダーレスリサーチ」を開始したいきさつは?

 「ZAIKOボーダレス」というサービスでは、全世界のファンにむけて、多言語対応・多通貨対応だけでなく、現地の人気があるメディアやSNS、PR会社を通じてプロモーションを図るなど、現地のプロモーションパートナーを活用したマーケティングツールを提供しています。
今まで、世界進出にご興味を持たれている様々なアーティストの方とお話する機会がありましたが、何から始めたらいいか、各国の音楽ビジネスの特徴がわからないなどといった声を多く聞きました。
限られたリソースの中でグローバルなマーケティングを行っていく上では適切な分析やターゲティングが必要なため、この国には特にファンがいるといったリサーチをしたうえで、ソリューションをご提案できるようになるサービスが必要と感じ、「ボーダレスリサーチ」の開始に踏み切りました。

――他の配信プラットフォームに比べ、ZAIKOの強みと感じられるところは?

 ZAIKOの1番の強みは、「グローバル対応力」です。ZAIKOには現在100名近くのスタッフが在籍しておりますが、その半分程度が海外の出身です。様々な国のバックグラウンドを持つスタッフがいることで、全世界のお客様のサポートすることができています。また、グローバルなスタッフが在籍している為、多角的な視点からサービスを開発できており、それが全世界で活用できるようなプラットフォームの提供に繋がっていると思っています。今までのビジネスモデルがコロナウィルスの感染拡大により、崩れてしまいましたが、アフターコロナの時代で、元のビジネスモデルに戻ることだけに注力するのではなく、将来のことを見据え、より良い方向へ柔軟に動いていくことができるのも強みの1つです。時代に先駆けたサービスを提供し続けていることはもちろん、常に前向きな姿勢で事業を展開しています。

今後直面するかもしれない問題、新たな施策とは

――配信ライブのチケット料金の価格設定についてどのように思われていますか。

 2020年3月に業界で初めて電子チケット制ライブ配信サービスでceroのライブを開催しましたが、当初の配信チケットの価格は1000円でした。今では、配信チケットの平均単価は3000円を超えています。
平均価格が高騰している理由としては、「デジタルイベント」として様々な価値提供ができるようになったためです。開始当初は、リアルイベントの代替えとした見方しかされていませんでしたが、今ではオンライン上でしかできないことを考慮した付加価値を提供し、例えばチケットの種類にしても、配信ライブチケットのみ、配信ライブチケット+アーカイブ、配信ライブチケット+アーカイブ+グッズ、などカジュアルユーザーから、コアユーザーまで多くのファンが満足できるような試みが一般化してきました。

――配信ライブというイベント開催がますます進化することにより、アーティストのマネタイズにポジティブな変化をもたらすと想像しておりますが、配信ライブに特化した具体的な収益の形などもあるのでしょうか。

 マネタイズの方法は「デジタルイベント」が確立されたことで多様化したと考えています。楽曲作成から、レコーディング、マスターリング、アップロードまでは、1人でもできますが、ライブイベントだけはどうしても1人で開催することは難しかった。しかし配信ライブだと、少人数のチームでもライブイベントを開催することができます。リアルイベントよりも人件費や諸経費をかけずにライブを開催し、チケッティング収益を得ることができます。ライブ後も今まではDVD化することが一般的でしたがライブ映像をアーカイブ配信しマネタイズするという選択肢をとることも可能になりました。

 一方で、今まで、ライブの企画や運営をしたりして、アーティストとファンの間で仕事をしていた人などが困っているのも理解しています。コロナ禍で、アーティストとファンの関係性や、ライブの形が変化を見せる中で、誰の視点から物事を捉えるかということによってメリットとデメリットは変わってきますが、いずれにせよアーティストが自分1人でできることが増えているということは良いことだと考えています。

――アーティスト側からの「こういった配信ライブがやりたい」という声も集まったりするのでしょうか。

 自分が作る映像作品を有料化することで、ファンにすごく特別な体験を提供したいと考えているアーティストが非常に多いと感じます。今までに見たことのないARやVRだったり、とてもゴージャスなロケーションで撮影をしたり、ファンに特別な体験だったと感じてもらえるような映像ならではのアイデアが増えていると感じます。

――現在、配信をしていて懸念している部分もあるのでしょうか。

 今後、業界が直面するかもしれない問題は、著作権、権利問題です。去年1年間は、配信ライブが、全員にとって新しいことだったため、大きく問題になることはあまりなかったかもしれません。ZAIKOは有料配信プラットフォームを提供している会社として著作権の管理団体と契約を結んでいますが、そうでない企業もいくつか見受けられます。去年は新しいものだから仕方がないと見逃されていたことも、今後はテレビなどの放送ベースの権利・ポリシーが、オンラインでの配信でも適用されてくるのではないかと考えています。

 コロナ禍で海外でも配信プラットフォームが増えている中で、国によって著作権のルールが異なるため、海外での権利トラブルも発生するでしょう。これから配信ライブがグローバルを視野にずっと続いていくことになった場合、今の著作権システムやポリシーを整備する必要があると思います。

――今後、今までにない全く新たなアプローチも視野にあるのでしょうか。

 昨年、NFTのサービスが、海外で話題になりました。その動向を受け、自社開発のスタートアップ企業、アーティストのためのデジタルツールを制作している会社として、ZAIKOでも日本の音楽業界の中で、いち早く開発に乗り出し、NFTが発行できるマーケットプレイスサービスの「Digitama」を今年立ち上げました。

 日本ではまだ注目され始めたばかりのNFTですが、今後、チケットと絡めた施策ができないかと考えております。今後も、NFTや配信ライブの有料コンテンツ化に代表されるように、ZAIKOは新たなシステムを開発し、アーティストやイベント主催者ファーストのサービス提供を目指してまいります。

(おわり)

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