INTERVIEW

岡田 晋
 ×
菊池久志

STAY HOMEからSTAND STRONGへ スケーターのリアル描く


記者:小池直也

写真:

掲載:20年07月24日

読了時間:約8分

 スケートボードをテーマにした映画『STAND STRONG』が7月24日に公開。キャッチコピー「これは、俺たちスケーターの物語」が示す通り、スケボーに魅せられた主人公たちのリアルな生き様が描かれていく。キャストはスケボーチーム・CRASHERのメンバーを演じる中田海斗、佐川涼、松本崇、日高大作レイをはじめ、ほとんどが実際のスケーターたちだ。さらに撮影も東京を中心にした数々のスケートスポットでおこなわれた。監督と脚本を務めたのは、国内外のCMやミュージックビデオなどの演出を手掛けてきた菊池久志、原作とプロデュースはプロスケーターの岡田晋。とことんリアルにこだわった今作はどの様に着想され、どの様に生み出されたのだろうか。菊池と岡田の両氏に話を聞いた。【取材・撮影=小池直也】

スケートはスケーターが撮る

――今作の制作に至った経緯を教えてください。

岡田晋 菊ちゃん(菊池)とは中学の時、一緒にスケートボードをやっていたんです。その後、彼は演出家の道に進んで、僕はプロスケーターになりました。それから約20年越しに現場で一緒になり「スケボーの映画を撮りたい!」という話で盛り上がって、そこから6年が経ち制作に至りました。原作は、僕が10年ほど前にスケートボードのウェブ媒体で連載していた自伝と、1話読み切りで書いていたスケーターの物語です。それを菊ちゃんが現代的な脚本にアレンジして。そこから早かったよね。

菊池久志 ああだこうだと言いながら作ったよね。

岡田晋 動き出すまでには時間がかかりましたけど、スケボーが東京五輪の正式種目になったのもスイッチとしてあったかもしれません。

菊池久志 あとは個人的には人生の転機もあって、そこで火が付いたのもありました。一気に吹っ切れて「今やるしかない」という気持ちになったんです。

岡田晋 資金を出してくれる方を探すのをやめたのも大きかった。僕らふたりで半分ずつ出して作っちゃおうって。「ここまで来たら撮るしかないっしょ」と6年間のなかで一気に沸点が超えたのがそこですね。

――菊池さんが本格的な映画の監督を担当されるのが今作で初となります。

菊池久志 初監督作が、予算が潤沢にある映画ではなく、今回だったことは本望です。スケートボードは自分の人生のなかのひとつですから。それに以前から「今のヒップホップシーンの音楽も当てられる映画を作りたい」とも思ってました。中高の友人も「久志がスケボーの映画を撮った、ということが泣ける」と言ってくれて、それも嬉しいです。僕は3秒のCIも作れば、15秒から30秒、60秒も作る広告家・映像ディレクターです。『STAND STRONG』ではロゴもデザインもステッカーも全部自分でデザインしました。作品を作った後の、ポスターなどは広告屋として考えています。自分の作品を自分で広告するのは当たり前だと思っているし、他人に予告を作らせることもありえない。それが僕のなかで重要なことなんです。

岡田晋 制作のなかでは色々な話がありました。その中には「お金を出すから、この俳優を起用してほしい」というのもあったり。

菊池久志 主人公が男なのに「ガールズスケーターにできないの?」という話もありました(笑)。

岡田晋 そうなると僕らが作りたいものと違ってきてしまう。僕もスケーターだし、そこから離れたり裏切ったりしたくないという気持ちがあるんです。スケーターを代弁したいというか、彼らが見て「これだよ!俺らってこういう生き物だぜ!」と思ってほしい。そういうものを作らないと僕が作る意味も無くなってしまいますから。俳優を起用してスケートシーンになった瞬間、足元だけスケーターの人になるのって1番ダサいじゃないですか。スケーターやシーン、パーク、ショップとかすべてが本物のスケーターが演じています。企業に参入してもらえなければ、自分たちで作った方が早いと思ったんです。

――劇中は迫力のあるスケートボードの映像が印象的でした。映像についてのこだわりなどがあれば教えてください。

菊池久志 「スケートはスケーターが撮る」というのは大前提でした。スケート業界って「フィルマー」と呼ばれる専門のカメラマンがいるのも特徴なんです。うちの撮影部がフィルマーの方とある意味コラボするのは新鮮でしたね。カメラの露出やレンズはうちが見てあげたりして。試写会でフィルマーの方とも話しましたが、とても楽しんで撮影できた様です。大会のシーンはうちで撮りましたね。

岡田晋 僕がみんなに声をかけて、パークを借りて、MCやプロのスケーターも呼んで「スケートの大会っぽくやってください」というのは違和感があったんです。予算を何百万もかけて撮るにはコスパが低いので、本当の大会を撮らせてもらうことになりました。実際に撮影した『MURASAKI SHONAN OPEN 2019』という大会では本当に(佐川)涼が「BEST TRICK」を獲ってくれて、してやったりでした。獲れなかった場合はプレートだけ借りて、獲ったっぽい絵を撮影する予定でしたから(笑)。本当に業界のみなさんの協力のおかげですね。

岡田晋

スケボーには多様性がある

――キャストのみなさんの印象はいかがでしたか。

菊池久志 今まで自分が撮ってきた方法は捨てました。芝居と演技を付けず、ある程度だけ指示して「あとは自分の言葉でいいよ」と。ただ、それをやると会話のやりとりが毎回変わるので編集に苦しむだろうなと思っていて。ある意味で彼らは新しい被写体なので、覚悟が必要だったんですよ。セリフも覚えてこないですから(笑)。「覚えてくるのが当たり前だぞ」と言ったら負けですし。

岡田晋 そういう概念がないですからね。あまりに自由なので僕がキレそうになったくらいです(笑)。もはや菊ちゃんは父親かおじいちゃんみたいな感じでしたね。絶対に怒らないで、役者がそういう気持ちになる様に外側から寄せていくんです。撮影から帰る時、途中で疲れて車の後ろで寝てしまったりしていましたし。

――主人公の父親役としてラッパー・サイプレス上野さんを起用されたのが異色だと感じました。彼をキャスティングされた理由は?

岡田晋 父親もスケーターか、それに近しい人から選ぼうと思っていたんです。そこでスチャダラパーのBOSEくんにも相談したら、上野くんを提案してくれました。僕は初対面でしたが、彼の地元の先輩にスケーターがいたり、シーンに近い存在だったんです。オファーも快く引き受けてくれて「俺もついに親父役かあ」と言ってましたね(笑)。

――また主題歌「STAND STRONG feat. LIBRO, ポチョムキン, Bose & CHOZEN LEE」をはじめ、劇中の音楽は日本語ラップ色が強いと感じました。劇中の音楽についてはどの様に選択していったのでしょうか。

岡田晋 主題歌に誰を起用するか迷っていたんですが、20代にウケるアーティストにオファーして情熱を伝えることには疑問があったんです。それが映画の密度を高めることなのかな、と悩んだ結果「菊ちゃん、俺の好きな人だけ呼んでやってもいい?」って聞いて、結果的に僕が以前から好きだった人たちにお願いしたんです。4人ともやりそうでやらないメンツだったから、お互いにびっくりしながらも楽しそうにやってくれました。

菊池久志 アコギやピアノのエモーショナル系の曲はGOING UNDER GROUNDの松本素生くんにお願いしています。映像を引き立てる劇中曲は素生くん、ビートがあるものはLIBROくんという感じで。あとはスケボーの音もそうだし、めちゃくちゃSEにはこだわりましたね。

――個人的な感覚ですと、スケボーの後ろで流れる音楽はメロコアなイメージもありました。

岡田晋 80年代から90年代までパンクやロックが多かったですね。

菊池久志 混ざってましたよ。ヒップホップも入っていた。

岡田晋 90年代初頭からヒップホップ色が強くなっていく時代があるんです。僕はそこからA Tribe Called QuestやJungle Brothers、De La Soulとかヒップホップしか聞いていませんでした。でもスケートのスタイルがハードコアな人はメロコアとかHi-STANDARDを聴いてましたね。スケートのスタイルでファッションも様々なんです。みんな自分が好きなものを格好とか滑りとかでそれぞれ表現していました。

――ファッションの傾向が違う人も同じ空間にいるんですか?

岡田晋 そういうことも全然ありますよ。みんなスケボーが好き、というところで共通していることがスケートボードの面白いところ。同じクルーなんだけど、ヒップホップな奴もガンガンにパンクな奴もいたり(笑)。スケボーでつながっているから違和感なく多様性があって、いろんな人とも遊べます。

菊池久志

コロナ禍を経た公開に至るまで

――クランクアップから公開に至る過程でコロナ禍が起きてしまったと思いますが、その期間についてのこともお聞きしたいです。

菊池久志 いきなり始まりましたよね。

岡田晋 本当は東京オリンピックの開会式の前に公開予定で、劇場を仮押さえするところまで進んでいたのですが、コロナ騒ぎになってしまいました。公開を調整できるか問い合わせたら、他のメジャー映画も公開延期していて。先伸ばしにしたら来年の冬になってしまうということで、予定通り7月末の公開に踏み切りました。

菊池久志 作品の鮮度を考えると悩ましかったですが、やっぱりタイトルですよ。

岡田晋 『STAND STRONG』というタイトルこそ今だし「来年になるくらいなら7月で行くっしょ」みたいな気持ちでした。たまたま公開されるのが本来、東京五輪の開会式がおこなわれるはずだった日なんです。

菊池久志 とても良いタイトルだと思いますよ。今コロナの影響で「#STANDSTORONG」というハッシュタグが海外でもよく使われています。チームでも「“STAY HOMEからSTAND STRONGへ”って謳っていこう」と話してました。

岡田晋 これは好きな言葉なんです。スケート用語ではありませんが、外国のスケーターは結構この言葉を使うんです。ボードに「強く立つ」という意味もあるし、スケーターとして「スタンド・ストロングしてこうぜ」と言う人もいます。自分で運営しているアパレルのブランドでもメッセージとして使ったりもしていて。その言葉を菊ちゃんに提案したんですよ。

岡田晋と菊池久志

――最後に今作の展開や活動についての展望などあれば教えてください。

岡田晋 この映画でいえば、海外の人にも観てもらいたいので、アクションしていこうと思ってます。どの国にもスケーターってたくさんいて、チーム作ってインスタやって「いつかプロになろうぜ」という子がたくさんいる。そういう人が観て「日本ってカルチャー違うけど、ここは同じだな」と気付いてもらえるんじゃないかと。飛行機のなかでも流してもらいたいですね。

菊池久志 コロナ前も後も演出家としてはまったく変わりません。もうリスクゼロはあり得ないですし、ずっとリスクを背負って何かをやってきましたから。そして、もともと「暗い映画は撮りたくない」と思ってきました。悲劇を描いたり問題提起したりするのは簡単なので、やりたくなくて。だから明るい作品というか、ポジティブな映画をこれからも作っていくつもりです。

(おわり)

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)